ちょっと見づらい画像ですが、中ほど中央の葉裏にしっかりとしがみ付いている蝉の抜け殻があります。
少し位置をずらせて撮った2枚の写真は、同じ蝉の抜け殻です。
この寒い真冬になっても、抜け殻はしっかり葉の裏に着いたままです。
ここには背の高い金木犀の木があったのですが、他の木と一緒に伐ってしまっていたのが、残った木が命を繋いで何本か細い幹を伸ばしてきています。
大きいしっかりした葉の裏で、地中で7年過ごした蝉の幼虫が、大きい樹が無くなってきているとも知らずに、この場所までせっせと上って来て、夏の暑い日に成虫になってどこかへ飛び去ったのでしょう。
中がうつろになったこの蝉の抜け殻のことを、古語では「空蝉(うつせみ)というそうです。
源氏物語第1巻3帖「空蝉」を思い出しました。
私の愛読書・瀬戸内寂聴訳の源氏物語から、「空蝉」に描かれている口絵の「垣間見」です。
空蝉と紀伊の守の妹と碁を打っている所を垣間見る源氏の姿が描かれています。
下に大きくしたのを写しました。
空蝉の 身をかへてける 木の下に なほ人がらの なつかしきかな (光源氏)
寂聴訳の源氏物語には、上のように口語訳が書かれています。
空蝉の 羽におく露の 木がくれて しのびしのびに ぬるる袖かな (空蝉)
人妻である空蝉が、衣だけ残して源氏の前から姿を消してしまった、心のうちを詠んだ和歌の口語訳です。
裏道歩きに出る時に、出口のすぐ右の植え込みの中に、セミの抜け殻を見つけて、撮影してから何日が経ちますが、
今日もまだ葉裏に空蝉がしっかり掴まっています。
いつかこの蝉の抜け殻のことを、綴ってみようと思っていました。
紫式部をえがいたNHKテレビの「光る君へ」もあと少しになってきました。
平安時代に、紫式部もどこかでこのような空蝉を目にしたのかしらと、いろいろ思いを馳せるのは愉しいものです。