タルト・トロペジェンヌ
タルト・トロペジェンヌ (Tarte Tropézienne ) を創ったのはアレクサンドル・ミッカ ( Alexandre Micka ) である。第二次大戦 後、ポーランドからプロバンスにやってきた。1955 年にサントロペ ( Saint-Tropez ) でベイカーを開き、クロワッサン、ピ ッザ、ブレッド、その他に祖母のレシピで作る 「クリームケー キ」 を売っていた。
ある日サントロペ近くのラマチュエル(Ramatuelle)で、『 Et Dieu... créa la femme、そして神は …女を創造された 』( 1956 年作 )の映画製作で働いていた映画スタッフ※( その頃はまだ知られていなかった無名の女優、ブリジット・バルドー、Brigitte Bardot、9/28/1934 - )からケーキ の配達を依頼された。
彼のクリームケーキは気に入られ、連日注文を受けた。バルドーはタルト の名前を 「サントロペのタルト」 に変えてはどうかとミッカに提案。「タルト・トロペジェンヌ」 が生まれた。 コート・ダジュールは 1950 年にはフランスを代表するアーティストたちが好んで夏を過すリゾート地となり、プロバンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏にあるヴァール県内のサント ロペ ( Saint-Tropez ) はバルドーよって広く知られるようになった。
※ ブリジット・バルドーは、1956 年製作のヴァディムの監督作品、邦名『素直な悪女』で男達 を翻弄する小悪魔を演じ、名を馳せた。タルト・トロペジェンヌは祖母の代から続く秘伝のレシピとバルドーの話で広く知られることとなった。ミッカは 1985 年にリタイアし、後をアルベー ル・デュフレンヌ ( Albert Dufrêne ) に引き継ぎ現在に至っている。
タルト・トロペジェンヌにはキルシュとオレンジフラワーウオーターで香りを付けたきめ細か いクリームと蜂蜜で甘みをつけたホイップクリームがサンドされている。ブリオッシュの表面 はパールシュガー( 別名ニブシュガー、ヘイルシュガー、あられ糖 )で飾られている。ナイフ を入れるとサントロペの甘い香りのする柔らかなクリームが流れ出すのが特徴だ。
作り方; ブリオッシュはバターをふんだんに使うのでドウを前日に作って、冷蔵庫に入れて発酵を抑えると扱いやすくする。ペイストリィクリームも前日に作り、冷蔵庫で保存しておくときれいに仕 上がるしサーブすることも容易である。 少し多めに作ってブリオッシュ・ア・テット ( Brioche à tête ) や、多めに残ったらブリオッシュ・ ナンテール( Brioche Nanterre ) を作っても良い。ドウは冷凍保存することもできる。
タルト・トロペジェンヌ Tarte Tropézienne 8-10 人分生地:
小麦粉 250g
塩 3/4 ts
砂糖 30g
イースト 1 1/2 ts
暖めたミルク 45g
卵 3 個
バター 140g
塗り卵に卵1個と水 1/2ts
塗り卵: 卵 1 個
水 30g
あられ糖 適量
クリームフィリング:
ミルク 225g
砂糖 45g
卵黄 3 個
コーンスターチ 8g
小麦粉 8g
キルシュ 1 1/2ts
オレンジフラワーウオーター 1 1/2ts
バター 60g
生クリーム 160g
蜂蜜 30g
ブリオッシュのドウはドウフックをつけたスタンドミキサーのボールの中で作る。 暖かいミルクとイーストを混ぜ、3-4 分間置いてイーストを完全に溶かす。 小麦粉、砂糖、塩の中に卵と入れて 1 分間ロースピードで混ぜる。溶かしたイーストを入れて更 にロースピードで 5 分間混ぜる。手で 5 分間混ぜる。 バターを少しずつ入れる。入れる度に 1 分間混ぜる。合計 10 分間混ぜる。 ドウを大きなボールに入れてプラスティックで覆う。2 倍の大きさになるまで約 2-3 時間置く。 ドウの空気をゆっくりと抜く。ボールの周りにオイルを軽く塗って冷蔵庫に 8-12hrs 入れる。
ドウができたら 2/3 を切ってベーキングシートにのせる。22.5cm の円形に、高さ 1.8cm に形 作る。暖かい場所に置いて覆いをせずに約 1 時間置く。 オーブンを 204℃に加熱する。 ブリオッシュの表面に塗り卵を塗る。あられ糖を振る。約 20 分間、きつね色になるまで焼く。 キツネ色になったら直ぐにブリオッシュをオーブンから出してベーキングシートからワイヤーラックへ移して冷ます。 ペイストリィクリームは、白っぽくなるまで砂糖と卵黄を混ぜる。小麦粉、コーンスターチを加 え、滑らかになるまで錬る。ミルクを弱火にかける。卵黄の中に 1/2 入れて烈しくまぜる。これ をソースパンに入れて弱火でクックする。ボイルするまで混ぜる。火から下ろして少し冷ます。 漉してからバター、オレンジウオーター、キルシュを加える。ボールに戻して冷ます。ラップを のせて冷蔵庫でしっかりと冷ます。 クリームを蜂蜜と一緒にソフトピークまでホイップする。ホイップクリームを半分ペイストリ ィクリームの中に入れて混ぜる。残りのクリームを入れて滑らかになるまで混ぜる。 ブリオッシュを半分に水平に切ってクリームを挟む。
タルト・トロペジエンヌの名前、「タルト」 について; 1979 年に出版のジュリアチャイルドらによる Mastering the Art of French Cooking ではブリオッ シュはブレッド、クロワッサン、ペイストリィと一緒に分類されている。ブリオッシュはブレッ ドの一種であるとの認識だ。 しかし、1903 年に Le Guide Cuinaire を出したエスコフィエは、ブリオッシュをショートペイス ト、ドレッシングペイスト、シュガードペイスト、ガレットペイスト、パフペイスト、サバラン ペイストと同列のペイスト ( pastry, pâte:生地 ) として分類している。
バルドーがブリオッシュにはブレッドとペイストリィとしての二つの姿があるとはっきりと認 識していたか否かは明らかではないが、タルト・トロペジエンヌを食べてみて、ブリオッシュで できていることは判ったのだろう。当時ブリオッシュ生地を使ったお菓子がたくさん作られて いた。ブリオッシュがブレッドとしてではなく、主にお菓子の生地(ペイスト)としてコンフェ クショナリィで扱われていたことは知識としてではなく、社会の風潮の中でそれとなく判って いたのだろう。空焼きをしたブリオッシュ生地にクリームを挟んだお菓子をみてタルトと言っ たのは、当時のヨーロッパ人であればごく自然なことだと思われる。
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