不機嫌な果実

　僕はね、あなたのことが大好きなんだ。
　それはいついかなる時でも変わらないし、それこそが僕にとってのすべてといってもいい。

　でね、そんな大好きなあなたと話すときは、楽しい話しがしたいのさ。笑える話、じゃなくてもいいよ。興味深い話、ためになる話、なんでもいいよ。
　そりゃあ、あなたの嫌いな奴の話でもいいさ。むかついた話でもね。
　でも、ほんと云うと、そういう話は好きじゃないんだ。いや、腹のたった話は構わないんだけど、なんていうのかな。それだけで終わる話は苦手なんだ。先に進まないからね。
　僕は前進する形なんだよ。どんだけつまづいても、どれほどの壁が立ち塞ごうとも、必ず前進する形。
　だから、あなたの機嫌をよくするのは得意なんだけど、一緒に不機嫌を共有するのは苦手なんだ。

　僕の云っていることわかる？

　ツンケンしているあなたももちろんチャーミングで、そんなあなたが大好きだけど、でも出来ることならあなたには笑っていて欲しい。
　年がら年中笑っているなんて馬鹿みたい、ってあなたは思うかもしれないけどさ、僕はそうであって欲しいと思っている。

　とはいえね、先に述べた通り、僕はあなたが大好きで、あなたの望みはぼくの望みで、あなたのしたいことが僕のしたいことなんだよ。
　だからいいさ。一緒に腹を立てよう。だってその話しひどいもんね。あなたはちっとも悪くないのにさ、そんな心無い奴のせいであなたが不快になるなんて世の中間違っているよ。そう、その通り。ほんとあいつはどうかしている。

　まったく、腹の立つことだらけだね。















　でもね。ほんと云うとちょっと不安。
　楽しい話がないのは僕のせいかな。
　僕との会話がつまらないってことじゃないのかな。
　あなたの機嫌をよくするのが得意だなんて、とんでもない思い上がりかな。
　そう思うと、ちょっとね……。