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感想です。

本「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある」/ゆるやかにつながる社会を

2015-04-13 | 

「どうせ自分なんて」と思わないことからはじめよう。
ちょっと弱音を吐ければ、楽になる。

私は「自殺した人を責めない」
そう思っていても
なかなか口に出すことはできなかった。

「残されたもののことを考えたら死ねないよね」
「生きたいのに生きられない人だっているんだから」
「死ぬ気で生きたらなんでもできる」
もっともだからだ。

もっともな意見を理解できても、心の奥まで響いてこない。
なぜだろう。
私は自殺をしようとしたことはないので、
自殺した人の気持ちはわからない。
自殺をした人が身近にいて、苦しみを知っているわけでもない。
最近、私は「生きていていいのかな」と弱音をこぼした。
すると、こう言われた。
あなたの命はあなただけのものではない。
たくさんの人から大切に思われていることを思いだしてほしい。

私を心配してくれての言葉だからありがたい。
でも「そんなことわかってる」と心で叫び、
口を閉ざした。

「命を大切」にという言葉は、正しい。
しかし、心が弱った時にかぎって、心に響いてこない。
命の大切さをよくわかっているから、
私は生きてこられたのだろうか。
そうではない気がする。
だから、自殺をした人が
命の大切さをわかっていない人だとは思えない。

本書がひとつの答えをくれた。

「命を大切に」という教育は、重要である。
しかし、それだけで、
大層なメッセージを伝えたような気になっていないだろうかと、
問題提起されている。
そこで、思考が停止ししてしまっていないかと。

これまで、私は「命を大切に」という言葉の前で、
自分の想いを封じ込めてしまっていた。
「そうだ。命は大切にしなくては」と、
自分を納得させようとした。
けれど気持ちはいっこうに楽にならなかった。
むしろ苦しくなった。

想いを封じ込められたことが、
苦しい大きな原因なのだと知った。

同じように過酷な経験をしても
心が癒されるものとますます辛く苛まれるものがいるのは、
個人の資質だけではないという。
その人が属するコミュニティが、
どう受け入れるかによって変わるらしい。

著者は、地域のコミュニティが
住民の心にどのような影響を与えるか、極めて自殺率が低い 徳島県海部町で、
住民の方たちと丁寧な話し合いを重ね、
国内各地のデータと比較・分析していく中で、
自殺率が低い理由を明らかにしていく。

自殺の危険を高めるのが自殺危険因子。
自殺の防ぐ方が自殺予防因子。
本書は自殺予防因子を探す。

ちょっとおかしいなと思ったとき、
症状が軽いうちに、外へ出してしまうこと。
痩せ我慢はせずに、できないことはできないと早く言う。
取り返しがつかなくなる前に、
お金のことでも病気のことでも人間関係でも悩みがあれば、
はやく開示したほうがよい。
はやく助けを求めることで、重症化せず、
自殺へ傾いていくのを阻止できるというのである。

相当深刻になって、「死にたい」といわれても
助けてあげるのは難しいだろう。
深刻になる前に予防するのが重要なのである。

深刻になってから助けてくれる友だちを持つことが
必要なのではない。
それよりも
普段、挨拶や立ち話をする程度の
地域コミュニティのゆるやかさが、人を楽にさせるのだそうだ。

そう言われても
これまで話す相手ががいなかった人は、
なかなか心を開示できないと思う。
私もそうだからだ。

人に話すのは難しいとしても
肩の力を自分でちょっと抜くことはできる。

話せない人は、こう思っているところがあるのではないだろうか。
簡単に人に頼ってはいけない。
自分のことは自分で解決しなくてはいけない。
他人に迷惑をかけてはいけない。
「どうせ自分なんて」と、遠慮する。
それが、心を疲弊させているのかもしれないと、
わかるだけでも
悪い方へ傾いていく気持ちを予防できるかもしれない。

本書であげられている自殺予防因子。
1、いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい。
2、人物本位主義をつらぬく、
3、どうせ自分なんて、と考えない。
4、「病」市に出せ
5、ゆるやかにつながる。

自殺率の低い社会は、きっと生き心地の良い町。

情けはひとのためならず。

周りの人を気にかけて、声をかけようと思う。
そしてゆるやかにつながりたい。

 

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『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』(岡 檀) 製品詳細 講談社BOOK倶楽部

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