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斎藤道三との会見 2
しばらくして、屏風を押し退けて道三が出てきた。
それでも信長は柱に寄りかかったまま、知らん顔をしていたので、堀田道空が近づき、【こちらが山城守殿でございます。】と言うと、信長は【 お出でになったか 】と小さく言って敷居の内に入り、道三に挨拶して、座敷に座った。
誠に折り目正しき礼を尽くした。
さぞかし無礼な振る舞いでもあれば、大笑いしてやる気でいた道三の家臣達も目を丸くした。
そのうち、道空が湯漬けを給仕した。
互いに盃を交わし、世間話を交わし道三との体面は滞りなくお開きとなった。
道三は苦虫を噛み潰したような様子で、 【 また、近いうちにお目にかかろう】と言って席を立った。
道三が帰るのを、信長は二十町ほど見送った。
その時、斎藤勢の槍は短く、信長勢の槍は長く、それを揚げ立てて行列して行ったのを道三は見て!面白くなさそうな顔で、ものを言わずに立ち去って行った。
途中、道三の臣、猪子高就が、【どう見ても、信長殿は阿呆でございますな 】と言うと、道三は、
【 だから無念だ。この道三の息子共が、必ずあの阿呆の門前に馬をつなぐことになろう。】とだけ言った。
この時以降、道三の前で、信長を馬鹿者呼ばわりする者は誰一人いなくなった。
富田 愛知県一宮市
正徳寺 現、聖徳寺 愛知県一宮市
門前に馬をつなぐ 家来になること。