国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が慰安婦を表わす少女像を展示したことで激しい抗議を受け、テロ予告や脅迫も相次いで中止に追い込まれたことは前回書いた。
これに対し、中止に反対する抗議集会が相次いだという(朝日新聞2019-8-5)。だが怒りをぶつけるべきは、展示を中止した主催者ではなく、テロ予告や脅迫ともとれる抗議をした人々だ。もちろん「テロリストとは交渉しない」というのは鉄則で、譲歩すればテロリストはまた同じことをする。だが今回の場合「ガソリン携行缶をもってお邪魔する」などのあからさまな脅迫があり、京都アニメーションのいたましい事件があった直後となると、主催者が慎重な判断をしたのはやむをえない。
もちろん抗議そのものは言論の自由として認めるべきではあるのだが、前回も引用したように、非政治的な文脈でも職員・従業員に対して、高圧的だったり、しつこかったりする悪質クレームはパワハラだとして問題になっている。ちょっと過激な言動くらいだと難しいが、少なくともテロ予告や脅迫については警察に通報してメール、ファクス、電話の記録を調べて、違法な行為については厳正に取り締まるべきだ。菅義偉官房長官も「一般論として」と限定しながらも、「刑事事件として取り上げるものがあれば、捜査機関で適切に対応するものだと思う」と述べている(朝日新聞2019-8-5夕刊)。
そして政治家の言動も問題だ。河村たかし・名古屋市長が公に抗議したことが問題を大きくしたような印象を受ける。作品の選定はこれまで芸術監督に一任されており、これまで政治家が口をはさむことはなかった。だが河村氏は「どういうプロセスで展示がああなったのか、市民に公開しなければならない」として、展示物が選ばれた過程を調べるよう市幹部に指示したという。だがこれでは「今後、俺の気に入らない展示はするな」と圧力をかけているようなものではないか。
それに対し、大村秀章・愛知県知事は「行政や役所など公的セクターこそ表現の自由を守らなければいけないのではないか。自分の気に入らない表現でも表現は表現として受け入れるべきだ」と述べた。
検閲だという大村知事の批判に対し、河村氏は「ああいう展示は良いんだと県が堂々と言ってください」と言っているという。だが問題は展示内容の是非ではない。
私だって慰安婦像は苦々しく思っている。アメリカのあちこちで慰安婦像が建ったと聞くと、日本の外交は何をやってるんだとなさけなくなる。だが、今回のように政治家が先頭に立って、展示会場内での展示まで中止に追い込んだのはやりすぎだ。
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「少女像:職員への過剰な抗議はパワハラだ」
追記:脅迫ファクスを送った男(59)が逮捕された(朝日新聞2019-8-8)。「大至急撤去しろや、さもなくばガソリン携行缶持って館へおじゃますんで」などと書いたファクスを送ったことで、威力業務妨害容疑とされた。コンビニから送られたことがわかったので防犯カメラを調べて容疑者が特定されたのだという。
一方、大村県知事によれば企画展中止後に「ガソリンを散布して着火させます」というメールが届いており、また河村市長によれば名古屋市役所にも「ガソリン携行缶を持って貴様のところに明日行く」というメールが届いたという(朝日新聞2019-8-6)。いずれも警察と相談していると報道されていたが、被害届を出したとはまだ聞かない。抗議電話にも脅迫に該当する件が多数あったのではないかと想像する。それらについても、きちんと捜査してほしい。
また、繰り返しになるが、脅迫まではいかなくても、職員への暴言は悪質クレームとして問題になっている。表現の自由と悪質クレームの兼ね合いについての議論もほしい。
追記2:「ガソリン」云々のファクスだけでなく抗議の電話にも脅迫に相当するものがあるとは思っていたが、その一端が朝日新聞2019-8-19にあった。津田監督のインタビューによると「恫喝と呼ぶべき電話も多く、家族に危害を加えると脅されたすたっふや、実名をネットでさらすと言われたスタッフもいました」とのこと。また、インタビュアーによると、幼稚園や小学校などにガソリンをまくと予告するメールも届いているという。「家族に危害」、「幼稚園や小学校にガソリン」は初めて聞いた。明らかに犯罪だと思う。
これに対し、中止に反対する抗議集会が相次いだという(朝日新聞2019-8-5)。だが怒りをぶつけるべきは、展示を中止した主催者ではなく、テロ予告や脅迫ともとれる抗議をした人々だ。もちろん「テロリストとは交渉しない」というのは鉄則で、譲歩すればテロリストはまた同じことをする。だが今回の場合「ガソリン携行缶をもってお邪魔する」などのあからさまな脅迫があり、京都アニメーションのいたましい事件があった直後となると、主催者が慎重な判断をしたのはやむをえない。
もちろん抗議そのものは言論の自由として認めるべきではあるのだが、前回も引用したように、非政治的な文脈でも職員・従業員に対して、高圧的だったり、しつこかったりする悪質クレームはパワハラだとして問題になっている。ちょっと過激な言動くらいだと難しいが、少なくともテロ予告や脅迫については警察に通報してメール、ファクス、電話の記録を調べて、違法な行為については厳正に取り締まるべきだ。菅義偉官房長官も「一般論として」と限定しながらも、「刑事事件として取り上げるものがあれば、捜査機関で適切に対応するものだと思う」と述べている(朝日新聞2019-8-5夕刊)。
そして政治家の言動も問題だ。河村たかし・名古屋市長が公に抗議したことが問題を大きくしたような印象を受ける。作品の選定はこれまで芸術監督に一任されており、これまで政治家が口をはさむことはなかった。だが河村氏は「どういうプロセスで展示がああなったのか、市民に公開しなければならない」として、展示物が選ばれた過程を調べるよう市幹部に指示したという。だがこれでは「今後、俺の気に入らない展示はするな」と圧力をかけているようなものではないか。
それに対し、大村秀章・愛知県知事は「行政や役所など公的セクターこそ表現の自由を守らなければいけないのではないか。自分の気に入らない表現でも表現は表現として受け入れるべきだ」と述べた。
検閲だという大村知事の批判に対し、河村氏は「ああいう展示は良いんだと県が堂々と言ってください」と言っているという。だが問題は展示内容の是非ではない。
私だって慰安婦像は苦々しく思っている。アメリカのあちこちで慰安婦像が建ったと聞くと、日本の外交は何をやってるんだとなさけなくなる。だが、今回のように政治家が先頭に立って、展示会場内での展示まで中止に追い込んだのはやりすぎだ。
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追記:脅迫ファクスを送った男(59)が逮捕された(朝日新聞2019-8-8)。「大至急撤去しろや、さもなくばガソリン携行缶持って館へおじゃますんで」などと書いたファクスを送ったことで、威力業務妨害容疑とされた。コンビニから送られたことがわかったので防犯カメラを調べて容疑者が特定されたのだという。
一方、大村県知事によれば企画展中止後に「ガソリンを散布して着火させます」というメールが届いており、また河村市長によれば名古屋市役所にも「ガソリン携行缶を持って貴様のところに明日行く」というメールが届いたという(朝日新聞2019-8-6)。いずれも警察と相談していると報道されていたが、被害届を出したとはまだ聞かない。抗議電話にも脅迫に該当する件が多数あったのではないかと想像する。それらについても、きちんと捜査してほしい。
また、繰り返しになるが、脅迫まではいかなくても、職員への暴言は悪質クレームとして問題になっている。表現の自由と悪質クレームの兼ね合いについての議論もほしい。
追記2:「ガソリン」云々のファクスだけでなく抗議の電話にも脅迫に相当するものがあるとは思っていたが、その一端が朝日新聞2019-8-19にあった。津田監督のインタビューによると「恫喝と呼ぶべき電話も多く、家族に危害を加えると脅されたすたっふや、実名をネットでさらすと言われたスタッフもいました」とのこと。また、インタビュアーによると、幼稚園や小学校などにガソリンをまくと予告するメールも届いているという。「家族に危害」、「幼稚園や小学校にガソリン」は初めて聞いた。明らかに犯罪だと思う。