ソーシャルメディアで批判が殺到して収拾がつかなくなる「炎上」をはじめ,過激な発言が飛び交うネット空間だが,実際に炎上に加わっている人はネット利用者の1%にも満たないということがかねてから報道されている.データとしてそう聞いてもなかなかぴんとこなかったのだが,デジタルリスク総研で山口真一氏が具体例を紹介していた.
●2ちゃんねるでのほとんどの炎上は5人以内の人が起こしており,1人のこともめずらしくない.
●ニコニコ動画で誹謗中傷のコメントが飛び交っているときに,数人のコメントを消すと平穏な普通の画面になる.
●靖国問題について書いたブログに700以上のコメントが殺到したが,IPアドレスを調べたらコメントしているのはたった4人だった.
これらの具体例を見ると,「ネット上で批判が殺到」といったことは,ほとんど意味がないことがよくわかる.逆にいえば,ごく少人数でもネット上に多数派であるかのような見せかけの「ネット世論」を作ることができるのだ.だが少人数による工作であったとしても,過激な言葉を投げつけられた当人の内心にも評判にも傷がつく.そして言論を萎縮させるという効果をもってしまう.
今日わざわざこの問題を取り上げたのは,トランプ氏が大統領に選出された2016年の大統領選挙に関し,ロシア人13人が選挙介入容疑で起訴されたとの報道があったからだ.起訴状によると,ツイッターやフェイスブックなどでアメリカ人になりすまして多数の架空アカウントを作成して,ライバルのヒラリー・クリントン氏を中傷するなど,トランプ氏に有利なコメントを組織的に流したという.(asahi.com)
まだ起訴容疑が認定されたわけではないが,このような組織的な世論操作は,規模の大小はあれ,おそらく広く行われているだろう.ネット世論とは違うが,「つくる会」系の教科書を支持するアンケート回答(2017年11月29日)や教科書での従軍慰安婦問題の記述を批判する投書(2017年8月19日)に関する組織的な動きについて昨年書いた.
世論は大切だが,過激な「世論」を額面通りに受け取ると,一部の煽動家の思うつぼにはまってしまう.
追記:ツイッターではボットによる自動的な大量投稿があふれているという(朝日新聞2018-2-22夕刊).つまり,「ネットで話題」というのも信用できないということだ.ただ,記事によればツイッター社は対策を講じるようだ.どうなるだろうか.
追記2:SNS大手のフェイスブックが,2016年の米大統領選での偽ニュース拡散の舞台になったことや違法コンテンツが蔓延したことで,既存メディアが記事配信を停止したり,大手企業が広告を取りやめを検討したりして苦境に立たされているという(朝日新聞2018-2-24).本来は問題活動をしたのはユーザーであってフェイスブックではないのだが,影響力が大きくなったことでもはや投稿されるコンテンツの内容には関知しないではすまされなくなっているようだ.信頼回復のための取り組みを進めているようだ.ユーザーが自由に投稿できることで普及したSNSだけに,ユーザーの投稿で成り立つコンテンツの信頼性をどのような技術で担保するのか,今後の展開が興味深い.
関連記事:
「ボットによる自動拡散が選挙で使われていた」
関連リンク:
小林啓倫「SNSで「フェイク世論」を生み出す人工知能」(WEBRONZA)
追記3:SNSで過激な言動をするのはネトウヨだという事例があった(朝日新聞2019-6-14)。川崎市で引きこもりの男が登校中の児童らを襲って自殺した殺傷事件後、「他人を巻き込まずに一人で死ね」という声が広まったのだが、その風潮を危惧した人が「『1人で死ね』と言わないで」と呼びかけたところ猛反発を呼んだ。呼びかけを擁護するツイートをしたコラムニストにも「ほぼ罵倒だけの直接返信」が600件近くあったという。プロファイルやタイムラインを確認したところ、罵倒を送った人の大半は「ネトウヨ」だったそうだ。
追記4:16万ものフォロワーをもつツイッターアカウントで与党を擁護して野党を批判するのが、自民党を主な取引先とするウェブ制作・広告会社のものだった事例が明らかになって、「ネットが沸いている」という(朝日新聞2021-10-16夕刊)。
そのアカウントはDappiといい、プロフィール欄で「日本が大好きです。偏向報道をするマスコミは嫌いです」と宣言しているという。立件民主党の議員らが名誉棄損で訴えたのに伴う発信者情報開示請求に対し、裁判所が開示命令を出したことで判明した。記事の筆者は「政府与党が、一個人に見せかけながらプロパガンダをしていた可能性を疑わせる」と控えめな書き方をしているが、自民党の意向と関係なしにやっているなどということがあるだろうか。
これについては朝日新聞2021-10-28で関連記事が挙げられていた。
「ツイッターの有名右派アカウントは「自民党」取引企業? 立民・小西議員が名誉毀損で提訴」(弁護士ドットコムニュース)
「野党攻撃ツイッター「Dappi」が自民党と取引⁉ 正体はIT企業 ネット工作まん延か 」(東京新聞TOKYO Web)
鳥海不二夫「法人運営型右派アカウントDappiのツイートは不自然な拡散をしていたか」(Yahoo!ニュース)
追記5:吉野ヒロ子准教授の研究によれば、ネット炎上をツイッターで知った人が23.2%だったのに対し、テレビのバラエティー番組で知った人は58.8%に上った。1118人を対象としたアンケートの結果だ。自然発生にせよ、少人数の作為にせよ、ネット炎上を広めているのは既存メディアだという側面もある(朝日新聞2021-12-10)。
●2ちゃんねるでのほとんどの炎上は5人以内の人が起こしており,1人のこともめずらしくない.
●ニコニコ動画で誹謗中傷のコメントが飛び交っているときに,数人のコメントを消すと平穏な普通の画面になる.
●靖国問題について書いたブログに700以上のコメントが殺到したが,IPアドレスを調べたらコメントしているのはたった4人だった.
これらの具体例を見ると,「ネット上で批判が殺到」といったことは,ほとんど意味がないことがよくわかる.逆にいえば,ごく少人数でもネット上に多数派であるかのような見せかけの「ネット世論」を作ることができるのだ.だが少人数による工作であったとしても,過激な言葉を投げつけられた当人の内心にも評判にも傷がつく.そして言論を萎縮させるという効果をもってしまう.
今日わざわざこの問題を取り上げたのは,トランプ氏が大統領に選出された2016年の大統領選挙に関し,ロシア人13人が選挙介入容疑で起訴されたとの報道があったからだ.起訴状によると,ツイッターやフェイスブックなどでアメリカ人になりすまして多数の架空アカウントを作成して,ライバルのヒラリー・クリントン氏を中傷するなど,トランプ氏に有利なコメントを組織的に流したという.(asahi.com)
まだ起訴容疑が認定されたわけではないが,このような組織的な世論操作は,規模の大小はあれ,おそらく広く行われているだろう.ネット世論とは違うが,「つくる会」系の教科書を支持するアンケート回答(2017年11月29日)や教科書での従軍慰安婦問題の記述を批判する投書(2017年8月19日)に関する組織的な動きについて昨年書いた.
世論は大切だが,過激な「世論」を額面通りに受け取ると,一部の煽動家の思うつぼにはまってしまう.
追記:ツイッターではボットによる自動的な大量投稿があふれているという(朝日新聞2018-2-22夕刊).つまり,「ネットで話題」というのも信用できないということだ.ただ,記事によればツイッター社は対策を講じるようだ.どうなるだろうか.
追記2:SNS大手のフェイスブックが,2016年の米大統領選での偽ニュース拡散の舞台になったことや違法コンテンツが蔓延したことで,既存メディアが記事配信を停止したり,大手企業が広告を取りやめを検討したりして苦境に立たされているという(朝日新聞2018-2-24).本来は問題活動をしたのはユーザーであってフェイスブックではないのだが,影響力が大きくなったことでもはや投稿されるコンテンツの内容には関知しないではすまされなくなっているようだ.信頼回復のための取り組みを進めているようだ.ユーザーが自由に投稿できることで普及したSNSだけに,ユーザーの投稿で成り立つコンテンツの信頼性をどのような技術で担保するのか,今後の展開が興味深い.
関連記事:
「ボットによる自動拡散が選挙で使われていた」
関連リンク:
小林啓倫「SNSで「フェイク世論」を生み出す人工知能」(WEBRONZA)
追記3:SNSで過激な言動をするのはネトウヨだという事例があった(朝日新聞2019-6-14)。川崎市で引きこもりの男が登校中の児童らを襲って自殺した殺傷事件後、「他人を巻き込まずに一人で死ね」という声が広まったのだが、その風潮を危惧した人が「『1人で死ね』と言わないで」と呼びかけたところ猛反発を呼んだ。呼びかけを擁護するツイートをしたコラムニストにも「ほぼ罵倒だけの直接返信」が600件近くあったという。プロファイルやタイムラインを確認したところ、罵倒を送った人の大半は「ネトウヨ」だったそうだ。
追記4:16万ものフォロワーをもつツイッターアカウントで与党を擁護して野党を批判するのが、自民党を主な取引先とするウェブ制作・広告会社のものだった事例が明らかになって、「ネットが沸いている」という(朝日新聞2021-10-16夕刊)。
そのアカウントはDappiといい、プロフィール欄で「日本が大好きです。偏向報道をするマスコミは嫌いです」と宣言しているという。立件民主党の議員らが名誉棄損で訴えたのに伴う発信者情報開示請求に対し、裁判所が開示命令を出したことで判明した。記事の筆者は「政府与党が、一個人に見せかけながらプロパガンダをしていた可能性を疑わせる」と控えめな書き方をしているが、自民党の意向と関係なしにやっているなどということがあるだろうか。
これについては朝日新聞2021-10-28で関連記事が挙げられていた。
「ツイッターの有名右派アカウントは「自民党」取引企業? 立民・小西議員が名誉毀損で提訴」(弁護士ドットコムニュース)
「野党攻撃ツイッター「Dappi」が自民党と取引⁉ 正体はIT企業 ネット工作まん延か 」(東京新聞TOKYO Web)
鳥海不二夫「法人運営型右派アカウントDappiのツイートは不自然な拡散をしていたか」(Yahoo!ニュース)
追記5:吉野ヒロ子准教授の研究によれば、ネット炎上をツイッターで知った人が23.2%だったのに対し、テレビのバラエティー番組で知った人は58.8%に上った。1118人を対象としたアンケートの結果だ。自然発生にせよ、少人数の作為にせよ、ネット炎上を広めているのは既存メディアだという側面もある(朝日新聞2021-12-10)。