論理的な言い方ではないが,日本人には改憲はそぐわないと思う.
かねてから改憲が悲願の安倍首相が,選挙を前にした今,憲法に自衛隊を明記する改憲を明言している.北朝鮮情勢が緊迫するなか,安倍首相は解散・総選挙に向けて「国難」を掲げ,その一方,「リベラル」勢の「9条守れ」のスローガンは空虚に響く.少し前,たまたまつけたテレビでタレント(?)が護憲派(?)に「お前は憲法守って死ね」と毒づいているのを見てしまったが,ことほどさように北朝鮮情勢の緊迫は改憲勢力を勢いづかせている.
10月6日などにも書いたように,「リベラルくずれ」の私は軍隊をもつ普通の国になることは認める用意があり憲法9条堅持にこだわっていはいないのだが,それでも今の日本で改憲すべきではないと思う.
改憲の中身も言う前から改憲を否定するのはおかしいという声が聞こえてきそうだが,逆に,安倍首相は改憲のポイントについて,改憲要件をゆるめる96条改正とか,教育無償化とか,緊急事態条項とか,自衛隊の明記とか,ころころ言うことを変えており,「改憲の中身はなんでもいいからとにかく改憲したい」という意図が見え見えだ.一時期はまずは合意を得やすい「お試し改憲」という姿勢だったが,ここへきてちょうど北朝鮮情勢が緊迫しているので「自衛隊明記」に支持が集まりやすいと踏んだだけのことだろう.
「憲法9条」にこだわらないのなら改憲に反対する理由はないと思われるかもしれない.だが自民党の改憲草案はいろいろな意味で「国民」よりも「お国のため」を重視する内容で,看過できない.そもそも現行憲法のもとでさえ,安倍政権は人事権を盾に官僚を締め付け(8月2日),テレビ局の停波をちらつかせて「政治的公平性」を迫るなどの威嚇を平気で繰り返してきた(7月6日).威嚇効果抜群の「共謀罪」の趣旨を含むテロ等準備罪法(6月23日)をはじめ議論の分かれる法案の数々を,アリバイ作りのように審議時間だけを積み上げて強行採決してきた.そのような政権に改憲を許せば,日本の民主主義は取り返しのつかない打撃を受けることになる.
ならば改憲項目を精査して内容ごとに賛否を論じればいいというのが筋ではあるが,少なくとも今の日本ではそのような正論は通用しない.一時の風で投票結果が大きく変わることは周知のとおり.国政選挙と憲法改正の国民投票を同時に行うという戦略も検討(危惧?)されているが,そのようなやり方は争点を埋没させて「風」頼みで一気に改憲を実現しようとするものだと思われる.憲法学者の多くが自衛隊を違憲だと言っているから憲法を変えねばならないとまで言った(asahi.com)安倍首相には憲法を守る気持ちのかけらも見られない.最高裁によって一票の格差が「違憲状態」だとされたから憲法のほうを変えてしまおうという議論(法学館憲法研究所)も同様に本末転倒だ.
もともと憲法96条で改憲のハードルを高く設定しているのは,十分な議論を尽くして主だった与野党から異論が出ない状況ではじめて改憲,という趣旨だったはず.それだけの重みが憲法にはある.選挙で自民党+補完勢力で3分の2を取ったら強行採決で改憲を発議し,国民投票に持ち込んでいいというものではないはずだ.
それに,少なくとも国民投票にかけられる段階では,改憲項目ごとの賛否を示す機会は与えられないのではないか.先ごろ,与党は「高プロ」=「残業代ゼロ法案」(連合が一時賛成したが内部の批判にあって取り下げたもの)を「労働時間抑制」と1本の法案にまとめて処理しようとした.都合の悪い点は十分な議論をさせずに押し切ろうとする与党の姿勢は明らかだ.
このような与党の姿勢を見る限り,やはり「どんな中身であっても改憲は許さない」と言わざるを得ない.
そんなことで北朝鮮情勢に対処できるのかと言われるかもしれないが,自衛隊の存在と憲法との関係については議論はあるものの,国民の多くは自衛隊の存在は肯定していると思う.(「リベラル」と呼ばれる政党も,旧態依然の「9条守れ」では「リベラル支持層」以外の支持が広がらない可能性を認識してほしい.)憲法の条文がありながらも大勢としては自衛隊の存在は認めてきた.それが日本人なのだ.
憲法は本来変えてはならない「不磨の大典」ではないはずなのだが,風に流されやすい投票動向や何が何でも改憲という与党の姿勢を考えると,今の日本では「憲法は変えないもの」としておくのが一番だ.
追記:小熊英二「(論壇時評)この国のかたち タブーなき議論で再確定を」(朝日新聞2019-2-28)で紹介されている政治学者の堺家史郎氏の見立てが私の感覚に近い。国民の多くは「9条は、『存在しても国防上の実害がない』」から支持したのであって、法的な整合性に関心はなかった。それは自民党政権の方針とも合致していたという。たしかに私も昔は曖昧なのはよくないと思っていたが、今では曖昧なままにしておくのが日本人には向いていると思う。
憲法について議論を深める必要性は立場を超えて指摘されているというが、根強い反対のある法案をろくに議論もせずに次々に成立させる安倍政権のやり方を見ていると、議論を盛り上げることは、安倍カラーの改憲の口実を与えることになりかねない。不本意だが、改憲は議論せずに放置しておくのが一番安全だ。
かねてから改憲が悲願の安倍首相が,選挙を前にした今,憲法に自衛隊を明記する改憲を明言している.北朝鮮情勢が緊迫するなか,安倍首相は解散・総選挙に向けて「国難」を掲げ,その一方,「リベラル」勢の「9条守れ」のスローガンは空虚に響く.少し前,たまたまつけたテレビでタレント(?)が護憲派(?)に「お前は憲法守って死ね」と毒づいているのを見てしまったが,ことほどさように北朝鮮情勢の緊迫は改憲勢力を勢いづかせている.
10月6日などにも書いたように,「リベラルくずれ」の私は軍隊をもつ普通の国になることは認める用意があり憲法9条堅持にこだわっていはいないのだが,それでも今の日本で改憲すべきではないと思う.
改憲の中身も言う前から改憲を否定するのはおかしいという声が聞こえてきそうだが,逆に,安倍首相は改憲のポイントについて,改憲要件をゆるめる96条改正とか,教育無償化とか,緊急事態条項とか,自衛隊の明記とか,ころころ言うことを変えており,「改憲の中身はなんでもいいからとにかく改憲したい」という意図が見え見えだ.一時期はまずは合意を得やすい「お試し改憲」という姿勢だったが,ここへきてちょうど北朝鮮情勢が緊迫しているので「自衛隊明記」に支持が集まりやすいと踏んだだけのことだろう.
「憲法9条」にこだわらないのなら改憲に反対する理由はないと思われるかもしれない.だが自民党の改憲草案はいろいろな意味で「国民」よりも「お国のため」を重視する内容で,看過できない.そもそも現行憲法のもとでさえ,安倍政権は人事権を盾に官僚を締め付け(8月2日),テレビ局の停波をちらつかせて「政治的公平性」を迫るなどの威嚇を平気で繰り返してきた(7月6日).威嚇効果抜群の「共謀罪」の趣旨を含むテロ等準備罪法(6月23日)をはじめ議論の分かれる法案の数々を,アリバイ作りのように審議時間だけを積み上げて強行採決してきた.そのような政権に改憲を許せば,日本の民主主義は取り返しのつかない打撃を受けることになる.
ならば改憲項目を精査して内容ごとに賛否を論じればいいというのが筋ではあるが,少なくとも今の日本ではそのような正論は通用しない.一時の風で投票結果が大きく変わることは周知のとおり.国政選挙と憲法改正の国民投票を同時に行うという戦略も検討(危惧?)されているが,そのようなやり方は争点を埋没させて「風」頼みで一気に改憲を実現しようとするものだと思われる.憲法学者の多くが自衛隊を違憲だと言っているから憲法を変えねばならないとまで言った(asahi.com)安倍首相には憲法を守る気持ちのかけらも見られない.最高裁によって一票の格差が「違憲状態」だとされたから憲法のほうを変えてしまおうという議論(法学館憲法研究所)も同様に本末転倒だ.
もともと憲法96条で改憲のハードルを高く設定しているのは,十分な議論を尽くして主だった与野党から異論が出ない状況ではじめて改憲,という趣旨だったはず.それだけの重みが憲法にはある.選挙で自民党+補完勢力で3分の2を取ったら強行採決で改憲を発議し,国民投票に持ち込んでいいというものではないはずだ.
それに,少なくとも国民投票にかけられる段階では,改憲項目ごとの賛否を示す機会は与えられないのではないか.先ごろ,与党は「高プロ」=「残業代ゼロ法案」(連合が一時賛成したが内部の批判にあって取り下げたもの)を「労働時間抑制」と1本の法案にまとめて処理しようとした.都合の悪い点は十分な議論をさせずに押し切ろうとする与党の姿勢は明らかだ.
このような与党の姿勢を見る限り,やはり「どんな中身であっても改憲は許さない」と言わざるを得ない.
そんなことで北朝鮮情勢に対処できるのかと言われるかもしれないが,自衛隊の存在と憲法との関係については議論はあるものの,国民の多くは自衛隊の存在は肯定していると思う.(「リベラル」と呼ばれる政党も,旧態依然の「9条守れ」では「リベラル支持層」以外の支持が広がらない可能性を認識してほしい.)憲法の条文がありながらも大勢としては自衛隊の存在は認めてきた.それが日本人なのだ.
憲法は本来変えてはならない「不磨の大典」ではないはずなのだが,風に流されやすい投票動向や何が何でも改憲という与党の姿勢を考えると,今の日本では「憲法は変えないもの」としておくのが一番だ.
追記:小熊英二「(論壇時評)この国のかたち タブーなき議論で再確定を」(朝日新聞2019-2-28)で紹介されている政治学者の堺家史郎氏の見立てが私の感覚に近い。国民の多くは「9条は、『存在しても国防上の実害がない』」から支持したのであって、法的な整合性に関心はなかった。それは自民党政権の方針とも合致していたという。たしかに私も昔は曖昧なのはよくないと思っていたが、今では曖昧なままにしておくのが日本人には向いていると思う。
憲法について議論を深める必要性は立場を超えて指摘されているというが、根強い反対のある法案をろくに議論もせずに次々に成立させる安倍政権のやり方を見ていると、議論を盛り上げることは、安倍カラーの改憲の口実を与えることになりかねない。不本意だが、改憲は議論せずに放置しておくのが一番安全だ。