カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

百物語・その4

2007-08-13 13:38:50 | 百物語
 其の四・堀内夫人の話

あんまり若い人には恐くない話じゃないかしら。
わたしの田舎は東北の小さな村でね、子供の頃はたくさん茅葺き屋根の家が残っているような場所だったわ。ああ、茅葺き屋根って言うのは植物の茎を使って作る屋根のことよ、今では殆ど見なくなったわね。

それで、わたしの家は違ったけど少し離れた村落にある父方の実家が茅葺きの大きな家で、夏休みになると両親に連れられてよく遊びに行ったわ。祖父は気難しい人だったけど祖母は優しくて、わたしたち家族が来るとニコニコ笑って麦茶や西瓜を出してくれたっけ。
その村は田んぼと畑以外には本当に何もないような所だったけど、友達がいたんで毎年行くのが楽しみだったわね。

友達と言っても名前は最後まで教えて貰えなかったけど、あの当時でも珍しい赤い着物姿で、切りそろえたおかっぱ頭の可愛い子だったわ。縁側で何となく庭を眺めてたら、『遊ぶべぇ』って笑って近付いてきたの。
で、袂に入れていた綺麗な模様のお手玉を取り出してやってみせてくれたんだけど、凄く上手で五つも六つも一度に操れるのよ。わたしもやってみたくて女の子に貸してもらったんだけど、二つがせいぜいで、三つだとすぐ落としちゃったわね。だからその子にどうやったら上手になるのか聞いたんだけど、『ずっどやってりゃ上手ぐなるがらぁ』としか言ってくれなかったわ。

悔しかったから私も祖母におねだりしてお手玉を作ってもらうことにしたの。祖母は昔から裁縫が達者な人で私の浴衣を縫ってくれたりもしていたから、すぐに余り布と小豆で五つも六つも可愛いのを作ってくれたわ。
その時、『祖母ちゃんも小っちぇえ頃ば良ぐこれで遊んだがぁ』なんて懐かしそうに言ってたわね。
ちなみに、お手玉のほうはどんなに練習しても二つが限界だったわ。

ただ、私が十歳の時に父親の転勤があって遠くに引っ越してからは滅多に行かなくなって、わたしもまあ、学校行事や新しい友達関係で忙しくなったから何となく疎遠になって、良くある話なんだけど次に祖父母の家に行くことになったのはお葬式だったの。しかも、祖父母揃ってのよ。
たまの旅行に出かけた時にツアーのバスが崖に転落したの。本当に世の中って何があるか判らないと思ったわ。

親戚は多かったんだけど、結局は長男だった私の父が喪主やら何やら引き受けて目が回るような忙しさだったわね。私も高校生になったばかりだったけど訳も判らないまま色々手伝ったわよ。

その後、誰も住まなくなった祖父母の家を取り壊すことになって家財道具や遺品を整理していたんだけど、その中に一つだけ奇妙な物があったの。
クッキー缶くらいの大きさの桐の箱にね、『今日子』と書かれた半紙と束ねた髪の毛が一房、それにお手玉が六つ入っていたのよ。
察するに『今日子』と言う名前の女の子の持ち物なんでしょうけど、親戚中誰もその子に心当たりがないって言うのよ。もちろん、養子縁組の記録もなかったわ。まあ、昔の戸籍なんてかなりいい加減だから記録漏れもあったかも知れないけど、それにしたって誰も知らないの。で、結局はお寺に預けて供養してもらう事になったわ、今日子ちゃんが生きてるか死んでるかも判らないのに乱暴だという意見もあったけど、しないよりはしたほうが良いだろうって事で。

私?私は何も口出ししなかったわ。まだそんな歳じゃなかったし、子どもの頃に遊んだあの子が今日子ちゃんだって証明できなかったし。
ただ、桐箱に入っていたお手玉が、一緒に遊んだあの子の着物に良く似た赤い色だった事だけは今でも忘れられないわね。
それとね、偶然だとは思うけど私の祖母の名前、『明日香』っていうのよ。 
   
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百物語・その3

2007-08-12 17:20:36 | 百物語
其の参 橋本氏の話 

私は幽霊なんて信じていませんが、人間、疲れがたまるとへんなモノが見えるようになるんですよ。

何年前かは忘れましたがね、その頃、会社のプロジェクトの関係で地獄のような忙しさが続いたことがあったんです。もう夜討ち朝駆けなんて生易しいモノじゃなくて、数日は家に帰れないまま会社に泊まり込むような感じでした。

で、やっとの思いで家に帰れるんですが、朝よりはましと言え混み合っていて座れないまま電車の席に一時間です。仕方ないんで、吊り革に掴まったまま薄く目を閉じた状態で休んでたんですよ。うつらうつらとね。
そうしていたら、目の端にちらちらと何かが見えるんです。どうも気になったんで薄目のまま視線をそちらに向けたんです。
私の右斜め向かいに座っていた派手な身なりをした若い女性の肩に、髪を金色に染めた若い男性の首だけが乗っていました。

もちろん、隣に座っていた男性が女性の肩に自分の顎を乗せていたなんて状態ではありません。
どちらかというと、女性の肩から男の首が生えているように見えましたね。
その首は、女性に向かってぶつぶつと何事かを呟き続けていました。多分、雰囲気からすると愚痴か恨み言を繰り返していたんでしょうね。女性の方は全く気付いていない様子でしたが。

まあ、私も疲れていたし、へんなモノが見える程度にしか頭が働かなかったのですが、不意に男の首が私の視線に気付いたようにこっちを向いて、言ったんです。

「見てんじゃねーよ、オッサン」

その後ですか?なるべく刺激しないようにゆっくり離れて、別の車両に移りました。
幸いそちらの車両では席が空いていたので降りる駅まで座って仮眠を取れましたが、やっぱり疲労が溜まりすぎると人間というのはどこかでおかしくなるものだと思いました。

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百物語・その2

2007-08-06 20:10:18 | 百物語
 其の弐 八重子さんの話

恐いと言うより気持ち悪い話かな。
大学に受かって一人暮らしをはじめたんだけど、はじめはお金が無かったからすっごいボロアパートにしか入れなかったの。もう柱とか床の隅とかの虫食い穴からアリやらナメクジやら入ってきて大変だったわ。それでもまあ住めば都って言うのか、すぐに慣れたけどね。

でもね、一つだけ迷惑なことがあったの。
アパートのキッチンは板張りの上にタイルシートって言うの?裏に糊が付いてる厚手のビニールみたいな敷物が貼ってあって、掃除が楽だからそのまま何も敷かないで使ってたんだけど、ちょうど流しの脇、トイレのドアのちょっと手前くらいの場所に、たまに赤黒い水みたいなのが落ちてることがあったの。

天井を見ると後塗りしたみたいな白いペンキに一カ所だけ大きめにヒビが入っていて、そこがうっすらと茶色かったから、多分あそこから落ちてくるんだろうなと思ったけど、天井のヒビなんて自分じゃ直せないし、大家さんに頼むとオオゴトになりそうだったから黙ってたのよ。結局はそこにいる間、掃除のたびに赤黒いシミを拭き取ってたことになるけどね。
で、大学を卒業して就職したから、そこを出てもっと立派なアパートに引っ越したんだけど、あれがなんだったのかは今でも謎のまま。

友達は面白がって『天井裏に死体でも隠してあったんじゃない?』とか言ってたけど、だとしたらもっと凄い匂いとかしそうなものだし……たまにゴミを片付けても生臭い匂いが消えなかったことはあるけど台所に三つくらい消臭剤を置いたら匂わなくなったし、入居した当初に大量発生していた大きなハエもバルサン焚いたり電池式の除虫剤を年中付けっぱなしにしていたら殆どいなくなったし……きっと雨漏りだったのよ、確証はないけど。

え?どうして本格的に調べなかったって?
当たり前じゃない!もし何か出てきたとしても経済的に引っ越しは不可能だったし、知ってしまったら住めなくなるようなモノを見付けるよりは、シミを見付けるたびに床を拭いていた方がはるかにマシでしょうが。それが生活の知恵ってものよ。

そう言えば生活の知恵と言えば、お隣さんって玄関先にいつも盛り塩をしてたわね。まあ、いきなり夜中に大声を上げて怒鳴り散らすような人だったから詮索はしなかったけどさ。
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百物語・その1

2007-08-05 18:04:29 | 百物語
 その壱 浩二君の話

え、と。ボクから話すの?
でも、ボクお化けに会ったことないよ。へんなひとなら会ったことあるけど、それでいい?

んとね、ちょっとまえに学校から帰るとちゅう、道でにんぎょうを売っていたおじさんがいたの。
にんぎょうといっても白い紙に仮面ライダーとかウルトラマンとかの絵がかいてあって、手と足だけ紙でつくったばねみたいにぐにゃにゃなの。んと、紙のほそいテープを二つじゅんばんにたたんでつくるばね、知ってる?あ、よかった。

それでね、おじさんのまえにはしらない子だけどボクのほかに三にんいて、おじさんは『これはまほうのにんぎょうだよ』っていうの。じぶんで立ってうごくんだって。
みんなで『うそだー』っていったんだけど、おじさんは仮面ライダーを一つとってボクたちのまえで手をはなしたの。
そうしたらほんとうにキックとかのポーズをとりはじめたから、みんなすごいってびっくりしてた。

でもね、そんなのあたりまえだったよ。だっておじさんの横にいたおばあさんがうごかしてたんだもん。
こうにんぎょうをもってさ、手とか足とかうごかすの。

それでもほしがった子がねだんをきいたら一こ五百円だっていうから、お金がたりなくてがっかりしてたらおじさん、『なら、明日坊やのオトモダチを連れてきたらまけてあげるよ。一人連れてきたら百円、五人連れてきたらただにしてあげる』っていったの。その子、ものすごくよろこんでたんだけど、ボクいっちゃったの。
『でも、にんぎょうをうごかしてるの、おばあちゃんでしょ』って。

そしたらおじさん、いきなりおどろいた顔してにんぎょうをおいてたビニールシートをにんぎょうといっしょにまるめて走ってもっていっちゃったの。それでボク、ほしがってた子におこられたんだけど、その子、あのおばあちゃんが動かしているにんぎょうでもほしかったのかな?

人形を動かしてたおばあちゃん?ふつうのおばあちゃんだったよ。あのおじさん、まだどこかであのにんぎょうを売ってるのかなあ。 
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