カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

今日のお題は『書簡』『ムカデ』『通信』です。

2014-07-07 19:01:35 | ついのべ三題ったーより
 腹を下してのたうち回るムカデのような字で書かれた奴からの手紙には、ただ一言「あのことがバレた」だけあった。
 全く心当たりがなかったので久し振りに連絡を入れてみると、ひどく慌てた様子で宛先違いなので忘れてくれと言われた。訳が判らないままに承知すると早々に通話を打ち切られ、さらに訳が判らなくなった。

 数日後、奴の友人が数人まとめて失踪した。
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今日のお題は『ご飯』『タルト』『せんべい』です。

2014-07-06 18:16:15 | ついのべ三題ったーより
 仕事から帰って棚を開けたら煎餅が消えていた。まさかと思って冷蔵庫を開けるとタルトもない。仕方なく晩ご飯を用意していると、奴がテレビの前で寝転がりながら「ご飯まだー」などとぬかすので思わず蹴りに行ったら金茶色の瞳で正面から見据えられ、いつものように陥落してしまう。猫又と暮らす猫奴隷の身としては最高のご褒美であり、何よりダイエットになると己に言い聞かせながら状況に甘んじることにした。
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今日のお題は『筋肉痛』『スキップ』『サイト』です。

2014-07-05 21:13:47 | ついのべ三題ったーより
 一般人には判りにくいかもしれないが、所謂「腐った」サイトをこっそり運営していたら有難くも常連の閲覧者からメールを頂き、ネット上とはいえ親しい付き合いが始まった。そのうち実際会おうという話になって、スキップせんばかりの足取りで待ち合わせ場所に向かうと、そこには妻がめかし込んで立っていた。
 取りあえず、その場からダッシュで逃亡して筋肉痛になった。
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今日のお題は『トランク』『黄』『アイコン』です。

2014-07-04 21:12:05 | ついのべ三題ったーより
 俺と言えばコレと、もはや友人間では連想ゲーム的にイメージを関連付けられている愛用の黄色いトランクが、ある日いきなり人間の姿に変わって、今までの恩返しをしたいと迫って来た。だから俺は少しの問考えてから言った。

「以前の姿のほうが明らかに俺の役に立ちそうだから、悪いが元に戻ってくれ」
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今日のお題は『留守』『ゆとり』『緑』です。

2014-07-03 18:55:01 | ついのべ三題ったーより
 仕事で疲れ果てたと言う友人が、少しだけでも癒やしが欲しいと言って都内にある大き目の公園を散歩しに行ったら、余計に疲弊して戻って来た。
 理由を聞くと、何でも街の規模や人間の数が公園に植えられている緑の浄化作用を遥かに上回り、本来癒やしを行うべき緑そのものが疲弊しまくっていたのだそうだ。結局、何処も同じか。
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今日のお題は『白昼夢』『マグカップ』『雪』です。

2014-07-02 22:22:40 | ついのべ三題ったーより
 その光景は突然白昼夢のように僕の感覚を侵略した。見渡す限りの雪原、投げ付け、投げ付けられる雪玉。誰かの泣き声、そして悲鳴。
 訪れたときと同じくらい唐突に去って行った光景を振り払うように手元のコーヒーカップを口元にやると、先ほどまで湯気を立てていた筈のコーヒーは雪塊に変わっていた。
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今日のお題は『雪』『プール』『絆創膏』です。

2014-07-01 19:55:27 | ついのべ三題ったーより
 お城を囲んだ堀の水面に雪のように降り積もった、薄紅の毛氈を思わせる桜の花弁を見ながら、何だか本当に歩けそうだと彼女は笑った。
 もしも本当にあの上を歩けるのなら、きっと今の此処とは全く違う何処かに行けそうだと。
 それなら、今年も同じように水面に降り積もった桜花の薄紅毛氈の上を歩いて行けば、今はもういない彼女の元に辿り着けるのだろうか。
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今日のお題は『ノイズ』『白鳥』『予測』です。

2014-06-30 19:08:17 | ついのべ三題ったーより
 贈賄事件に巻き込まれて自殺した友人から手紙が届いた。
「おまえから借りた白鳥を社に置いた」とだけあった文面から、異境の地で故郷を思いながら死んでいった悲劇の皇子を思い起こして心当たりの神社を訪ねると、境内の片隅にひっそりと、だが厳重に包装された荷物を発見した。中に入っていたのは貸した本とデータファイル。こんなもののせいで奴は死んだのかと、耳鳴りが響く中で視界が赤く染まった。
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今日のお題は『青』『老婆』『舞台』です。

2014-06-29 21:04:09 | ついのべ三題ったーより
 はるか保育園そら組のお遊戯発表会で、舞台の端に一生懸命踊る園児を見守るような姿で立っていたお婆ちゃんの存在に気付いたのは僕だけだったらしい。嬉しそうに笑っているから園児の血縁かと思ったら、少し前に病院で亡くなった先代園長とあとで知った。
 今月限りで保育園が無くなるので、園児たちの晴れ舞台が最期の心残りだったのだろう。
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今日のお題は『白鳥』『農業』『連絡』です。

2014-06-28 14:22:11 | ついのべ三題ったーより
 田舎で農業をやっている実家から祖母が亡くなったと連絡が入った。
 祖母は若い頃、戦争に行った彼女の弟が亡くなった際、青い蝶になって家族の元に帰ってきたと信じており、だから自分はきっと白い鳥になって皆の元に挨拶に訪れるから宜しくと言っていた。そして結局、祖母の訃報に際しては誰の元にも白い鳥が訪れることはなかったのだが、私を含めた彼女の親戚や友人は皆、「きっと先に逝ってしまった祖父の元に一刻も早く飛んでいこうと焦ったのだろう」と納得する。
 祖父母は、それほど仲の良い夫婦だったのだ。
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