今日のお題は『保護色』『名刺』『頭痛』です。

　眼前を掠めて壁に突き立った名刺は、どう見てもただの紙製だった。周囲を見回すが今回の取引相手らしい姿は見当たらない。
『振り向かないでください、保護色と死角を駆使しています』
　どこからともなく声が響き、気付くとテーブル上の書類が消えている。お互いが属している世界常識の違いから発生する頭痛に額を押さえながらも商談は進み、忍者相手の打ち合わせは何とか無事終わった。

今日のお題は『風邪』『自己暗示』『英語』です。

　風邪の発熱が治まり、二日振りに寝台から起きて窓を見たら空が藻草色になっていた。どうやら試験に備えて英語の暗唱をしていたつもりが、空間転移の呪文をかなり適当に唱えてしまったらしい。幸いそれ程に空間のズレはなかったので強引に使った帰還呪文だけで時空が戻り、空はいつもの玉虫色になった。

今日のお題は『年齢』『情報』『牛乳瓶』です。

　骨董市で外国製の牛乳瓶を入手した。年代物に思えたのでネットで調べようと思い、瓶を拭きながら印刷された文字を読む。

「えーと、我を助けよ、光よ甦れ…？」
　どこかで聞いた台詞だなと思った直後、牛乳瓶が淒まじい光を放ち、目前に牛乳瓶の精霊が現れた。
「ご主人様、お呼びですか」

　確かに年代物だ。

今日のお題は『液晶』『ご飯』『マグカップ』です。

　魔術的な融解手段で液体にした水晶を愛用のマグカップに注いだ彼は、いつものように注意深い仕草でカップを傾ける。有機生命体には触れる事も出来ない液体は、彼の躰に入ると信じられないくらい澄んだ音を立てて弾け、その躰に無数の細かい罅を入れ、やがて罅が消えるまで彼を柔らかく彩りを変える虹色に輝かせるのだ。

今日のお題は『女』『包丁』『かさぶた』です。

　夢の中で女に包丁で切り付けられると、必ず目覚めた時には同じ場所にかさぶたが出来ている。
　女は昔、かなり酷い別れ方をした末に自殺した彼女で、一応祟られても仕方がないという自覚はあった。とにかく友人に相談すると夜通し見張ってやると言われたので頼んだが、次の日難しい顔をして「お前が自分の体を切り付けていた」と教えてくれた。

今日のお題は『目玉焼き』『銃弾』『ムカデ』です。

　百足の通り名を持つ奴が撃ち込んできた銃弾は、目玉焼きのような模様を我が家のガラスに残してくれた。例え頭を潰しても狂い回る百足そのままの激しさで向こうが狙ってくる以上、こちらとしても色々と覚悟せねばならない。
　しかし、よもやリカちゃんよりジェニーが可愛いと言ったくらいで戦争とは。

今日のお題は『流行』『老婆』『お茶』です。

　癒やしを求める現代人のニーズに応える為、新形式のサービスが誕生した。
　その名も「お婆ちゃんカフェ」。
　様々に設定された状況下で、イチゴのように可愛らしいお婆ちゃんがじっくりと話を聞いてくれるのが人気で、既に現在予約待ち状態だ。
　ちなみに一番人気は「縁側で猫と戯れるおハナさん」だとか。

今日のお題は『濃厚』『頭痛』『サイト』です。

　昔よくアクセスしていた怪談サイトを覗いた直後、激しい頭痛に見舞われ一瞬意識を失った。
　気が付くとサイトの更新履歴が増えていたので閲覧して、トップに戻ると更に増える更新履歴。内容は今まで読んだ事もないような濃密な内容の怪談で、夜を徹して読み明かした翌日、仕事に遅刻した。

　それだけの話。

今日のお題は『黄』『責任』『幼児』です。

　妖稚園に就職して1年、筋が良いと言われて萌黄組の担任を任された。この組の園児は今まで担任していた紅葉組の園児と違って生粋の妖怪が多く、故に責任も重くなる。そして遂に、今の時代に小豆を洗う意味が判らないと園児に相談された僕は、実話怪談集で読んだ現代社会に生きる小豆洗いの話をした。
　夜更けのオフィスビルで発生する怪音を実に事も無げに『小豆洗いだ』と言ってのける登場人物を示して「妖怪は人間がいればどこでも仕事が出来るんだよ」と諭すと、まだ頑張ってみると微笑んでくれた。
　やはり、こう言うときには心底からこの仕事を選んで良かったと思う。

今日のお題は『タバコ』『支え』『チョコケーキ』です。

　その煙草1カートン分くらいの値段がするチョコケーキを食べるのは、日々を仕事で追われる俺の数少ない楽しみだったので、彼女が勝手にそれを食べてしまった時に頭に血が昇って怒鳴り散らした。どうしても我慢がならなかった。
　そんなわけで、刑期を終えた俺が彼女の墓参りに行く際の供え物は、いつだってそのチョコケーキだ。