作品その６５・崩れ去る命

たかあきは『水銀』と『恋人の爪』を材料に『災禍の小鬼』を錬成しました。用途は不明です。

　ごくたまにだが、師匠は擬似生命体を錬成することがある。大概は三日も姿を保てずに崩れ去ってしまうし師匠もそれは良く解っているはずなのだが、それでも錬成する。ある日、残骸を片付ける師匠にどうしてそんなことをするのか尋ねたところ、悲しそうな表情で安心したいんだという答えが返ってきた。

作品その６４・甘くない綿菓子

たかあきは『土塊』と『雑草』を材料に『大地の金羊雲』を錬成しました。用途は食用です。

　ところでコレは何だ枝に付いているのは綿埃かと根切り屋が指さしたのは、僕が管理している鉢植えの一つだった。師匠が羊雲草と呼んでいる綿毛は口に含むと甘く溶ける筈なのだが、何故か僕が栽培したものは土埃の味しかしないと教えた時には既に遅く、己が口にした物の余りの不味さに悶絶する根切り屋。

骨董品に関する物語・日本の神カンノンが描かれた銅版画

　ホームステイ先で日本の神らしきものが描かれている銅版画の説明を求められたので衣装はカンノンの証、腕が四本あるのは人々を救う数を増やす為で手に持つのは神罰と祝福の象徴、魚に食われているのはキリスト教のヨナと同じ意味と答えた。翌日僕は日本に戻り、ホームステイ先との連絡も途絶えて久しいが、あの絵はどうなっただろうかとたまに思うことがある。

作品その６３・お医者様でも草津の湯でも

たかあきは『紫水晶』と『月光』を材料に『恋人の為の闇外套』を錬成しました。用途は薬用です。

　ところで、お前の師匠には男とかいないのかと尋ねてくる根切り屋に、どうせ自分が満足できる答えが返ってくるまではずっと煩いままだろうと判断して、昔なら好きだった相手はいたみたいですよ、とても綺麗な方でしたと答えると、あれだけワイルドな態度のわりに面食いだったのかと少しだけ意外そうな顔をされた。僕は嘘は言っていない。確かにかつて師匠の意識とシンクロした際に、名前を呼ばれてときめく師匠を笑顔で見つめていた幻影は、とても綺麗な女性の姿をしていた。

作品その６２・アフター・フェスティバル

たかあきは『星屑』と『左人差し指から流れ出た血』を材料に『静止した極意秘伝書』を錬成しました。用途は飲用です。

　どうやって師匠を丸め込んだのですかと僕が訊ねると、根切り屋は本気で厭そうな表情を浮かべて契約させられたんだよと答えた。どうやら師匠の育てている希少植物目当てで誓約書に血判を捺してしまったらしい。結果として悪魔と契約するより質の悪い相手と取引した事については本人が一番思い知っているようなので僕は何も言わなかった。

作品その６１・菓子泥棒に制裁を

たかあきは『偽賢者の石』と『飛魚の翼』を材料に『果てしない炭焼き菓子』を錬成しました。用途は観賞用です。

　師匠から出入り業者のお墨付きを頂いて以来、根切り屋は平然とお茶の時間に突撃してくるようになった。流石に絡繰り犬のおやつに手を出すことはなくなったが、当然のように親を要求しながら視界の範囲内で菓子器に入っているものは遠慮なしに手を出してくるので調味料を入れずに焼いた見せ菓子を置いてあるが、それでも懲りずに食べるので今度は芥子でも混ぜてみようかと考えている。

骨董品に関する物語・光透過式の天文図版

　十五までは生きられないと医者に言われ、ろくに部屋の外に出ることも出来なかった虚弱な弟が、それでも星空を見たがったので俺は有り金はたいて光透過式の天文図版を買ってやった。それから十年後、熊さえ怯む様な山男に成長した弟は暇さえあれば登山を繰り返しているが、あの日、俺が弟に贈った星空以上に美しい星空を見たことはないという。

骨董品に関する物語・星座カード

　我が家の壁には額装した星座のカードを飾っているが、これは幼馴染だった夫が子どもの頃にクラスで女の子たちに大人気だったのを記憶していて、だから紙婚式記念にとプレゼントしてくれた。そんな風に我が家には夫からの記念品がいくつも飾ってあるが、いずれ好奇心の強い娘に品物の由来を教えなければいけないのかと思うと怖い。

骨董品に関する物語・鉱石カード

　僕が一時期集めていたおまけの鉱石カードを甥が酷く欲しがった。高価なものではないので甥の父親である兄貴の了承の下に譲ったところ、すっかり夢中になった甥は自作の鉱石カードを作り始めた。だから甥の鉱石カードコレクションには精霊石や魔法結晶や賢者の石も含まれているそうだ。

骨董品に関する物語・ボンボニエール・その４

　蚤の市で見つけた、騒々しいからという訳の分からない理由で格安だった古い菓子器にボンボンを入れた途端、一斉にピンクが最高青が究極白が至高中身は何といってもウイスキー何を言うチョコに決まっているなどとボンボンたちが騒ぎ出した。あまりに鬱陶しいので中身を団栗と入れ替えたら更に騒々しくなった。