家を出て遠くの学校に通うことが決まった時、叔父は僕に小さい麻袋の包みを渡して中を見るように促してから、方位磁針は世界の方角を、展開した双眼鏡は身近な光景を、そして裏に付いた鏡は己自身の身嗜みを確認する為に使えば、あらかた進む道に迷う事は無い筈だと教えてくれた。
家を出て遠くの学校に通うことが決まった時、叔父は僕に小さい麻袋の包みを渡して中を見るように促してから、方位磁針は世界の方角を、展開した双眼鏡は身近な光景を、そして裏に付いた鏡は己自身の身嗜みを確認する為に使えば、あらかた進む道に迷う事は無い筈だと教えてくれた。
古来の化粧が戦いに赴く変身の儀式であったように、女は紅を引いて戦う、少なくとも私はそんな風に戦ってきたと母は言った。今の時代を生きる貴女に強制は出来ないけれど、美しくある事と戦う事が出来ない時は自分の生活を振り返ってみなさい、そんな母の忠告は何度も私を救った。
「シガレットケースを手に入れたんだが」
「地球儀にしか見えんな。第一お前に喫煙習慣は無いだろう」
「確かに煙草は吸わんが煙草盆も煙管も根付もパイプも灰皿も水煙草の容器も複数持ってるぞ」
「お前の人生に口出しをする気は欠片もないがな」
これが最後の手紙だと言って彫刻の入った華奢で小振りの筒を渡してきた彼は、この中に君の知りたい事と知りたくない事が書かれている、読むか読まないかは君次第だと言い残して私の前から去った。だから私は真実から目を背け続け、記憶にある彼との光景は凍り付いたように美しいままだ。
たかあきは雪月の廃墟に辿り着きました。名所は王立図書館、名物は饅頭だそうです。
紙の無い時代には竹を薄く削いで作った板を紐で連ねて文書を書き記したそうだが、昔、国が亡びる前に大量の文書を安全な場所に隠したという伝説が残る地で実際に膨大な量の竹簡が発見され、もし望むのなら、今でもその国が存在した頃から既に存在している肉饅頭を食らいながら文書の写しを閲覧できる。
紙の無い時代には竹を薄く削いで作った板を紐で連ねて文書を書き記したそうだが、昔、国が亡びる前に大量の文書を安全な場所に隠したという伝説が残る地で実際に膨大な量の竹簡が発見され、もし望むのなら、今でもその国が存在した頃から既に存在している肉饅頭を食らいながら文書の写しを閲覧できる。
たかあきは風月の廃墟に辿り着きました。名所は石碑、名物は砂糖菓子だそうです。
お前は廃墟にしか興味がないのかと言いながらも同行してくれた付き合いの良い友人と共に詣でた石碑は、この地にかつて豊かな商業都市が存在したことを証明していた。打ち捨てられた石造りの街並みはいずれ砂となって消えるのだろうと思いながら、満天の星空の下で焚火を囲みつつ、星屑のような金平糖を二人で齧る。
お前は廃墟にしか興味がないのかと言いながらも同行してくれた付き合いの良い友人と共に詣でた石碑は、この地にかつて豊かな商業都市が存在したことを証明していた。打ち捨てられた石造りの街並みはいずれ砂となって消えるのだろうと思いながら、満天の星空の下で焚火を囲みつつ、星屑のような金平糖を二人で齧る。
たかあきは孤島のド辺境に辿り着きました。名所は駅、名物は海鮮鍋だそうです。
航路からも空路からも大きく外れた辺境の島には、それでもたまに観光客が訪れる。大概はこの辺の海でしか採れない魚の味が忘れられず、一応は特製という触れ込みの海鮮鍋目当てにやって来た食通と呼ばれる物好きだが、中には周囲の海域もしくは空域で事故に遭い、運良く島に流れ着いて生き延びたという遭難者もいる。
航路からも空路からも大きく外れた辺境の島には、それでもたまに観光客が訪れる。大概はこの辺の海でしか採れない魚の味が忘れられず、一応は特製という触れ込みの海鮮鍋目当てにやって来た食通と呼ばれる物好きだが、中には周囲の海域もしくは空域で事故に遭い、運良く島に流れ着いて生き延びたという遭難者もいる。
たかあきは晩秋のかつての故郷に辿り着きました。名所は名刹、名物は煎餅だそうです。
故郷と言っても産まれた地であると言うだけで具体的な思い出は何一つない。そんな田舎町に歴史ある有名な仏閣があったので訪れてみた。馴染みのない生まれ故郷はかつて悲劇の英雄が討ち果たされ、伝説となった物語は多くの人々の紅涙を絞ることになった。ちなみに土産は白くて硬い胡麻煎餅を買った。
故郷と言っても産まれた地であると言うだけで具体的な思い出は何一つない。そんな田舎町に歴史ある有名な仏閣があったので訪れてみた。馴染みのない生まれ故郷はかつて悲劇の英雄が討ち果たされ、伝説となった物語は多くの人々の紅涙を絞ることになった。ちなみに土産は白くて硬い胡麻煎餅を買った。
夕焼け色のペンダントブローチ
良く解らんが魔王が復活するらしいので一応は勇者の血を引く妾腹王子の俺が魔王討伐に不可欠の聖剣を探す羽目に陥った。先の戦いで砕かれたという聖剣の欠片で最初に見付けたのは柄の飾り石で、ブローチ仕立てにされて骨董品屋の棚に並んでいるのを見た時は脱力するしかなかった。
羊の頭骨
頑固な犬族の老人が所有していた聖剣の欠片を譲って欲しいと頼むと、代わりに古くて乾いた羊の頭骨を寄越せと言われた。肉屋で手に入れたものは突っ返されたが、骨董品屋で見付けたものを見せるとコレだと喜んで欠片を渡してくれた。一体何に使うのだろうと尋ねたら好物だそうだ。
義眼
聖剣の欠片は要するに力の結晶で、たまに信じ難い外見に変わるらしいが、三人の年老いた魔女が代わる代わる使っている魔法仕込みの義眼がそれだった。仕方なしに代わりの義眼を必要分だけ用意して渡したが、誰がどの義眼を使うかの争いで凄まじい騒ぎになったので早々に退散した。
毒薬瓶
自害用に作った毒薬に相応しい瓶を用意してくれと言われても既にああそうですかとしか思わなくなった俺だが、同行していた幼馴染の騎士が自殺は大罪だと叫ぶ。しかし神の摂理から外れたモノにもそう言えるのか、何より聖剣の欠片は儂が喰らい死なねば取り出せぬと老人は嗤った。
古文書
ようやく聖剣の欠片を集め終えて帰還することになった晩、幼馴染の騎士は骨董品屋の片隅にあった古文書を購入して読み終えた後、本当に城に帰るのかと訊ねてきた。他にどうするんだと訊ね返すと黙り込んだが、意外に楽しかった旅が終わるのが残念なのだろうと深くは聞かなかった。
追記
この後、復活した聖剣を帯びた妾腹王子は幾つかの選択を迫られ、その結果のマルチエンディングとして国王になったり魔王になったり幼馴染と殺し合ったり共に逐電したりするわけです(無責任)
たかあきは西域の僻地に辿り着きました。名所は城址公園、名物は飴菓子だそうです。
あらかじめ聞かされてはいたが目的地は見渡す限りの草原が広がるばかりで、少し前まで沢山の天幕が並んでいたとは思えない。山羊の乳で作られたという飴を口に含んだまま案内人が轡を取る小柄で逞しい馬に跨って思うのは、季節によって王都を含む居住地を移動する草原の民の厳しい生活についてだった。
あらかじめ聞かされてはいたが目的地は見渡す限りの草原が広がるばかりで、少し前まで沢山の天幕が並んでいたとは思えない。山羊の乳で作られたという飴を口に含んだまま案内人が轡を取る小柄で逞しい馬に跨って思うのは、季節によって王都を含む居住地を移動する草原の民の厳しい生活についてだった。