カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

鉱石・スネークスキンアゲート

2019-05-19 12:48:23 | 突発お題


 満月ばかりが輝く夜空の下で、俺は親父の遺言通りに禁忌を冒して家宝の石を月光に晒した。石造りの白い蛇は身を捩りながら徐々に自由を取り戻し、やがてこの屋敷から姿を消すだろう。それが一族に人生の殆ど全てを奪われながら生き続けた親父の望みだと言うのなら、お前はもう何処にでも好きな場所に行くがいい。
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旅路その5・砂と岩の廃墟にて

2019-05-17 18:52:28 | 旅人の記録
たかあきは南国の廃墟に辿り着きました。名所は駅、名物は飴菓子だそうです。

 お目当てだった古代都市の遺跡は岩砂漠に半ば埋もれていて、結局は汽車で砂漠横断の旅をしに来たようなものだった。終点の駅では周囲から集まってきた地元民が開いたバザールで様々な珍しい品物が並んでいて、この地方特産の樹液を煮詰めたという飴菓子をコレはいい夢が見られるよと売り付けられたが、食べても本当に大丈夫なのか不安だ。
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旅路その4・雪のふる里

2019-05-16 16:57:49 | 旅人の記録
たかあきは厳冬のかつての故郷に辿り着きました。名所は個人の邸宅、名物は焼き菓子だそうです。

 故郷は冬の祭りが終わると雪に埋もれたまま春を待つ。だから恋人を連れて祭りに参加することにした。久し振りに訪れた故郷の雪に恋人は目を丸くしたが、話好きの母と気が合ったのか祭りを楽しんだ後、一緒に暖炉でマシュマロを焼きながら昔の話で盛り上がり、色々な黒歴史と言うべき過去をばらされた。
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旅路その3・ざらついた菓子の記憶

2019-05-15 19:39:36 | 旅人の記録
たかあきは厳冬のかつての故郷に辿り着きました。
名所は個人の邸宅、名物は焼き菓子だそうです。

 二度と戻る気の無かった故郷の我が家は家具も内装も殆どが変えられていて、その為に却って落ち着いた空間になっていた。いつもどぎつい色をした果実の砂糖漬けをちりばめた粉っぽいパウンドケーキを焼いていた母が亡くなったことを悲しめないのは、本当に僕の心が衝撃で麻痺しているせいなのだろうか。
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旅路その2・光堂

2019-05-14 19:11:48 | 旅人の記録
たかあきは初秋の僻地に辿り着きました。
名所は名刹、名物は焼き菓子だそうです。

 実際、辿り着くのも大変な程の僻地に何故ここまで豪華な黄金の伽藍があるのだろうと皆は不思議に思うらしいが、この地には昔、歴史に名を残すような大貴族が暮らしていたのだ。かつての栄華を彼方に置き去りにしたような田舎町で売られている土産物の一番人気は、生地に金箔を焼き込んだ菓子だそうだ。
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旅路その1・イシナシウサギの里

2019-05-13 19:17:55 | 旅人の記録
たかあきは初秋の地方都市に辿り着きました。
名所は公園広場、名物は肉料理だそうです。

 初秋の公園広場は収穫祭に訪れた人々で賑わっていた。かつてこの地で額に赤い石を持つ幻獣の番を繁殖させようとした魔導士がいたが、繁殖した幻獣の額に石は生じず、幻獣の子孫はそのままこの地方特産の肉料理や革細工の材料になったのだそうだ。ちなみに幸運のお守りだという前足を加工した細工物は若い娘に人気だ。
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第百景・桜稚児

2019-05-13 19:04:08 | 桜百景
たかあきは、朝の隣家と桜の花弁に関わるお話を語ってください。

 子供の頃は隣家の庭に桜樹が植えてあって、花の頃にはよく小さな女の子が花弁と主に舞い踊っていた。隣家の若夫婦の一人娘だった女の子は小学校の入学式で事故に遭って以来歳も取らず桜樹の側にいたが、若夫婦は全くそれに気付いておらず、やがて桜が切り倒されてしまうと女の子も何処かに消えた。
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第九十九景・かぜのかみさまのはなし

2019-05-12 12:20:21 | 桜百景
たかあきは、突風の哀しみと桜の髪飾りに関わるお話を語ってください。

 彼は突風しか操ることが出来なかったので、彼に対して微笑みかけてくる娘の髪を撫でようとしても付けた髪飾りを彼方に飛ばしてしまって哀しい顔をさせてしまうだけだと知っていた。その突風が国を守ると誰もが彼を崇めても、それ故に彼は常に孤独で決して誰とも触れ合うことが出来なかったのだ。
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第九十八景・薄青桜

2019-05-11 10:07:16 | 桜百景
たかあきは、春の異郷と桜の幹に関わるお話を語ってください。

 その世界の桜はごく薄い青色の花弁をしていたので、よもやと思って尋ねてみると、やはり樹皮を染色に使うと淡く輝くような青色になるという。ただ、その青い色は非常に退色しやすいので、仕立てられた衣は地元で黄昏祭と呼ばれる夕刻から深夜にかけて行われる初夏の祭でしか纏われることは無いそうだ。
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第九十七景・散る花

2019-05-09 22:57:38 | 桜百景
たかあきは、突風の異郷と桜の花に関わるお話を語ってください。

 昔住んでいた訳ありで格安という貸家に幽霊の類は出なかったが、代わりに出所不明の突風が訳の分からないものを運んできた。一番多かったのは真夏や真冬に吹き込んでくる桜の花弁だが、当然ながら貸家の近所には桜樹など存在せず、細かいことにこだわる人間には確かに耐えられない物件だったと思う。
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