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青色日誌

還暦を超え、子育てもひと段落。さて!

その方

2010年12月02日 | ビジネス
「その方」は、私が今の会社に入ったとき、
営業担当させて頂いた会社の技術屋の方だった。

担当したとはいえ、この会社には、
当社の様な、いわゆる同業者が3社も入っており、
記憶では5対3対2程度の割合で仕事を分配。
当社は3程度の売上でしかなかったかに覚える。
(当時私の前任担当者は5と言い張っていたが)

「その方」の当時の役職係長。
残念ながらシェア5の敵会社のお客様で
当社には全く見向きもしてくれず、
当然新参者の私には極めて厳しい応対であった。

この会社、戦後復興の建設需要期に創立。
その後の建設ラッシュ、ことさら公共事業に
力量を発揮され、大きく成長。
私が入社時は、今では考えられぬ仕事量であった。

お客様に対して甚だ失礼かも知れぬが
こういった成長背景も有ってか、
役所のOB、いわゆる天下りの方が非常に多く、
社長をはじめとして机の向きが違う方全て
当時は国・県・市のOBの方で占められていた。

そんな中、閉ざされた扉をこじ開けたく、
くどい程に「その方」に対して営業をした私。
親分肌を持たれた「その方」に、
どこか魅力を感じていたのは確かだった。

一年が経ったある日だった。
今では考えられるほど仕事があふれ出るその日
「その方」から声をかけていただいた。
5の会社が忙しくて出来ないので、これやってこい。
正しくそんな言われ方だったのは今も記憶に残るが
金額にして5千円ほどの仕事を頂いた。

飛び上がるほどとてつもなく嬉しかった。
決して間違いが無い様、検品徹底し納品した。

しかしこれも、ほんの一時の喜びにしか過ぎず、
挙句に5の会社の営業の奴に、
「その方」の緊急対応の礼まで言われる始末。
再び重い扉は完全に閉ざされてしまった。


その数ヶ月後、当社側のお客様◎さんが
ある案件を「その方」と一緒に担当する事となった。
こういう事は案外多く、その際には
お客様同士の「力関係」で我々業者が決まった。

残念ながらどう見ても明らかに◎さんが下で
「その方」の指示の下、5に決定されるかと
あきらめかけていたその時、
「◎の仕事だからこれをやってくれ」と、
その方から二度目の声がかかった。

再び扉が開いた。前より大きく開いた。

その仕事を必死になってやった。
絶対ミスは出来ない。納期遅延もありえない。
ある種、他の方の仕事を放り投げてでも
「その方」の仕事を優先して回した。

その甲斐あって、納品時に始めて私に対して
笑顔を見せてくれた。
若い女性の笑顔ならばとにかく、
厳つい「その方」の笑顔に喜ぶというのは、
営業マンではないと分らない快感かも知れぬ。


5の会社が当然のように反撃してきた。
暗黙の境界線を打ち破った私に対しての攻撃。
明らかにシェア3の当社の客に対して
汚いほどのサービス攻勢をかけてきた。

当時、全く音楽が出来なかった私がここに居た。
改めて思うに、こんな時にやってられる訳は無い。
ただ、亡きレアサウンズ創設者西川氏に、
きっとやれる時が来るから今は仕事をがんばれ!と
励まされたその言葉が今、蘇るのである。

その励ましが効いたのかどうかは分らぬが、
5の攻撃にも怯む事無く、逆に一気に
「その方」を自分の顧客にする事に成功していた。

実は一本気な「その方」、下請け業者である我々に対して、
いわゆる「二股発注」を断じてされない方だった。
なので、◎さんとのジョイント仕事を頂いた時こそ、
当社が逆転指名を得たその時でもあったのだった。


その後は10程年長の「その方」に可愛がられた。
明らかにそういう言葉が当てはまるかのように、
始めに感じた「親分肌」は正解で、彼の影響で、
明らかにそのシェアは変わった。大きく変わった。



しかしテレビドラマのようで恐縮だが、
平穏な状況と言うものは長続きはしない。
決して慢心していた訳では無いつもりだったが、
私の勘違いで、重大なミスを犯したのは、
それから1年も経ったころであったろうか。
激怒する「その方」の迫力は恐ろしいほど。
大ピンチであった。

先にも書いたが、中途半端が嫌いな「その方」は、
そのミスの罰として、再び扉を閉ざそうとした。
私は必死だった。本当に必死だった。
夜な夜な悩み、残念ながら立場上相談する上司が
全くいないと言っていい私は、気が付いたら
「その方」の住まう街に居たのであった。

就業後の深夜12時、メモした住所を握り締め、
何が出来る訳でもないのに出かけていた。
当然当時はナビも無く、携帯電話も無く。
結局住まいは分らず(分った所で何も出来ぬが)
深夜に公衆電話から電話する勇気も無く、
二十代の私は、正に途方に暮れたのであった。


「反省できたか」

それから何日か経ったある日「その方」から
声をかけていただいた。それはまるで
親が子を叱正した後に、なだめるかの様だった。
再び取引を頂ける様になったのは、
その誠意が伝わったのだと私は理解した。

「その方」から私は営業を教わった。


合計5年間、この会社の担当させて頂き、
無事卒業とばかり担当替えとなった。
営業経験者であればお分かりの通り、
こういう時には随分の寂しさが残る。
あれほどはじめは辛い思いだったのに。

「その方」からもねぎらいの言葉を頂いた。






約20年、我々の業界も「その方」の業界も
昔の面影は全くと言って良いほど無くなり
取引の額も驚くほど少なくなってしまった。

ただ当社の営業マンがその後もバトンを受け継ぎ、
紆余曲折はありながらもそのシェア争いは
一社廃業で、残り2社では当社ほぼ勝ち切り。
これも社員の頑張りのお陰と感謝している。

そして、今これを書いているのには訳がある話が
つい先日持ち上がったのであった。


「その方」社長就任の報!


役所OB天下り社長が継がれてきたその会社が、
大変革をしようと立上り先頭に立ったのが、
その親分肌である「その方」だったのである。

他人事ではなく「ぞくっ」と来るほど嬉しい報。
私は対外的に公表されたその当日である昨日、
一番の訪問者を狙いその会社に訪れた。

勿論、忙しいであろう事は充分承知。
でも、昔から「その方」の行動パターンまでも
知る私にとって、彼が外に出るのは9時半。
20年後の今、それが当っていようがいまいが
お構い無しにお祝いを持って9時15分に訪問したのだ。

当った!

挨拶まわりに未だ出ておられない!
「その人」に直接お祝いの挨拶が出来る!

取次ぎの顔見知りの総務の方に無理を言うと、
新社長「その方」も社長室に招き入れてくれた。
まもなく出かけるので時間が無いといいつつ、
新しい名刺を差し出しあの時の笑顔で迎え入れてくれた。

懐かしい思いは「その方」も同じだった様だ。
なんか涙が出る程だったのは自分でも以外。
「社長としては先輩なのだから色々教えてくれよ」とは
余りにも身に余る言葉。

ほんの数分の面談ではあったが、
私にとっては本当に充実した一時であった。



やはり人間、苦労は必ず報われるものである。
だからこれからも、苦労は買って出なければと
そんな思いにさせられたのであった。




9時半、「その方」は前社長と役員数名と
あいさつ回りへと出かけていかれた。


気温も気持ちも暖かな今年の師走のはじまりであった。
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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いい話ですね。 (すろうはんど)
2010-12-02 19:56:27
こんばんは。

あおやきさんは仕事も音楽も一生懸命ですよね。

本文を読んで、改めて、”熱意”、”一生懸命”等々、、、襟を正される想いがします。

自分は仕事の上では管理職とはいえ、会社の宮使いの身なんで、経営者の立場は到底、わからないですが、その立場での苦闘や感慨みたいなものが、熱い長文で伝わってきました。

少なくとも風潮としてわかるのは、昨今の経営者は、”社員”、"世間”、”、顧客”等”ステークホルダー”から認められないと、務まらない、ということ。

その方も天下りでなく、会社の先を見据えた、真の”実力者”としてプロモーションされたのでしょう。会社にとっての大変革でもあるし、一方では、最近の一般論的な、常識的な動きですよね。

改めて、仕事の上での人と人との繋がりの大切さを感じました。
返信する
すろうはんどさま (あおやき)
2010-12-03 09:02:01
少なくとも最後まで読んでくださった方が
ここに一人おられるだけで嬉しい本日。

ありがたいコメントに感謝しています。

最近、お前のブログは長ったらしくて
ワンパターンだで読ません、とよく言われますが、
今回の記事はきっとそんな方々には
酷評の記事だったかも知れないので
特にありがたく思ったりしています。

特段私は一生懸命と言うわけでは無いですが、
明らかに、ムキになるタイプではあります。

音楽では、
高い音をどのメンバーよりも出したい。とか、
持久力だけは負けたくない。とか

きっとそれは営業でも、実績が伴ったかどうかは別として、
負けたくないとムキになるみたいです。

社長と言う役割は仰るとおり、それだけの人々に
認められないと勤まらないというのは大原則ですが、
果たして私を含め、世の社長がどれだけそうなっているかは
はなはだ疑問なところは確かだと思います。

そう有るべき姿に少しでも近づけなくてはと思う私は、
仰られている通り、人との繋がりを大切にする事も
一つの近道なのかとも思っています。

なんて言いながら、結構いい加減なんですけどね!
返信する
Unknown (いんちきポール)
2010-12-07 14:19:09
いい話でした。

最近、なかなかお目にかかれないですが、
相変わらず、いい仕事されてますね。
返信する
いんちきポールさま (あおやき)
2010-12-08 08:39:41
いい仕事かどうか分りませんが、
幸い周りに恵まれている私です。

練習休み気味でごめんなさい。。。
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