ぼくは、クウタ。今から14年前に、この家にもらわれてきた。生まれた時のことはあまりおぼえていないけれど、さわられるのがいやになるほど、かわいがってもらったのはおぼえている。おかげて人間のことが大好きになって、姿を見るだけでしっぽをふってしまうんだ。これじゃ番犬になれないなんて、飼い主に思われているようで、ちょっとかたみがせまい。
ぼくがほえるのは、家の周りを散歩する犬の姿を見た時。同じ犬の仲間だと知ってもらいたいし、ぼくが強い犬であるっていうことを教えたいからね。
ほかには、救急車のサイレンや市のお知らせ放送を聞いた時。音が耳にばんばんひびいてきて、昔おおかみだった頃を思い出させるので、遠吠えをしてしまうんだ。先祖がえりというか、体の奥が熱くなって、おもいっきり野山をかけまわってみたいような気持ちになるみたい。
だから、ときには夜に、家をぬけ出して散歩に出かけるんだ。そんな時には、うまいぐあいに、くさりがはずれてくれるんだ。どこをどんなふうに歩くのかは、ヒミツ。でも、犬のいる家のそばを通るとほえられてしまうので、できるだけ畑や田圃道を歩くことにはしているんだけどね。朝になったら、飼い主のところにもどるようにしているよ。心配かけてはいけないし、なんといってもえさはもらえるし、屋根つきのぼく専用の家もあるしね。
ところが、このまえ この家がのっとられそうになる事件があったんだよ。去年からときどき、白い子ネコがやってきては、ぼくのえさを食べていくんだ。体はぼくより小さいんだけど、前足でひっかいたりするんで、見て見ぬふりをするんだ。全部は食べないで、少しはぼくの分を残しておいてくれと思いながらね。
その時にね、四本の足でも立っていられないほど、すごく強い風がふいてきたんだ。これは大変だと思って家の中に入ろうとしたら、なんとあっという間にぼくより先にネコが入ってしまったんだ。ひっかいたりされるのがいやだし、風にとばされるのもいやだし、家の周りを体をひくくしながら ウロウロウロウロ。少し風がおさまったところでネコが帰ってくれたので、なんとか家に入ることはできたんだ。
でも、これから心配なのは雨の日なんだ。というのも、そんな時にはぬれないように、飼い主が家の入口近くにえさをおいていってくれるんだ。そのえさをねらって、ネコがやってきたら、どうだろう。きっとネコも家の中に入ってくることになる。せまい家の中に、ぼくとネコがいっしょにいることになる。静かに食べて静かに帰ってくれるといいんだけど……。
でも、一匹より二匹の方が さびしくなくて いいのかな……?