愛読書綴りでも紹介しましたが、みをつくし料理帖(シリーズ第4巻)を読み、改めて、これまでにはない時代小説の新たな魅力を味わっています。主人公澪の料理人を目指しての生き方、主人公を支える周りの人々の温かい心遣い、それぞれの登場人物が背負っている人生の悲しさ・辛さ、客をもてなし喜んでもらえるための料理の工夫、店を維持するための苦労や苦心、そういったさまざまな要素がからみあいながら、魅力的な作品世界が展開します。そして、澪自身がいろんな試練を経ながら、料理人としても人間としても大きくすてきな女性として成長していく様子が描かれています。巻末には、作品の中に出てくる料理のレシピも載っており、思わず作って食べたくなります。(そのうち、実践したいと思っています)
このシリーズを読んで高田ファンとなり、他の作品も読んでみることにしました。『銀二貫』は、銀二貫で寒天問屋の主和助に10才以降の人生を買ってもらった松吉が主人公の物語です。10才から32才までの成長の過程で、商いの大切な考え方を学びながら、やがては寒天づくりや寒天をつなぎにした羊羹まで発案する主人公の成長を描いた作品です。寒天を使った料理を考案する嘉平とその娘真帆との出会いと悲しい別れ、そして再会が心を打ちます。松吉の成長を支え、温かく見守る店の主人の和助、番頭善次郎(後でそのよさが実感できます)、丁稚梅吉、寒天職人の半兵衛といった登場人物の優しさが心に浸みます。最後の場面では、心から拍手を贈りたいと思いました。この作品も、みをつくし料理帖も、主人公の自らの生き方に対する厳しさ、商いを通しての人と人との信頼関係の大切さ、お互いに助け合い支えあって生きることのすばらしさ等、今の時代にこそ必要とされるものを教えてくれる作品です。
『出世花』もこれまでの作品と同様、読んだ後は心が洗われたような感じになりました。縁の三昧聖としての生き方が、送り人として死とかかわる仕事だからなのかもしれません。現実の世界では死がゴールであるものの、それから浄土への世界の橋渡し役をする主人公の姿が心を打つからなのでしょう。正念の背負っているものの重さと悟りの境地、親子の愛情の深さにも、強く心が打たれます。
どの作品も、何度か感動のため涙ぐむ場面がありました。時代物ではありますが、今の時代で忘れられている人間としての優しさ・温かさ・深さ・広さが、澄み切った青い空のようにまっすぐに心に伝わってきます。
次に発刊される小説が、今から楽しみです。
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