独白

全くの独白

採血②

2016-12-10 20:12:13 | 日記
採血の上手下手は、熟達度よりはセンスや勘といった天性のものに依って決まるようである。若い名人も居るのでそう思うのである。私は糖尿病なので主にグリコヘモグロビンの数値を知る為に定期的に病院に行っている。それには血液検査が必須である。先日は名人が担当になったのでホッとしつつ腕を預けた。十年以上になるので顔見知りになり短い雑談位はする事もある。彼女はいつものようにゴム紐のような物を私の腕に巻きながら、親指に巻き付けられたガムテープを見て訳を問う。下にはバンドエイドの様な物を貼ってあるのだがちょっと濡れたりすると取れてしまうので、当初は指サックを始めとしていろいろと被せてみたがどれも今一で、ガムテープに落ち着いたのである。これは強力で風呂に入っても三日は取れない替りに取った後にこびりついた粘着剤がちょっとやそっとでは取れない。靴底のガムを取るように根気良くやるしかない。ガムテープという名は伊達ではない。しかもガムテープも万能ではない。買い物をしても辷って札は数え難く袋の口は開け辛い。箸もペンも使い難い事この上ない。無くなって知る親と金の恩、身体の一部も同様である。かてて加えて親指が治ったかと思えば中指、中指が治ったら又親指、それが漸く良くなった頃には中指の甲側という具合に、これで終わりと言う事が無くウンザリする。
私「寒くなるとどうしても皹割れするんですよね。水仕事もちょっとはするんだが今回は晴れた日に自転車に乗っている時に割れ始めたんですよ、どうした訳でしょうねえ。」「貴方は糖尿だから脂分を摂るのは控えてるんでしょう、その所為もあると思うよ」と医療関係者らしく云いながらいつもより無造作にプスリと刺す。「(ギャッ)」声なき声を出す私。細い管の中を走る血の勢いも普段より激しく、ちょっと気にしながら「昔から冬場には寒さを凌ぐ為に脂肪を付けるべしと云いますからね」でもそれは体内から温まる為にであって、皮膚に迄関係するとは思ってみた事も無かった。それは兎も角普段何気無く作業しているように見えて、こんな名人でも喋り乍らだと痛い目に遭わせてしまうのだから、実は随分集中しているのだと解って敬意を新たにし乍ら「ハンドクリームの効く奴は使ってるんですがねえ」すると「それより乳液が良いのよ。いろんな成分が入ってるんだから」と云いながら針を抜き、小さな絆創膏を張るために、綿を腕から離す時は様子を窺う様な、いつもよりちょっとゆっくりとした動作に見えた。今度は全く痛くなく血も既に止まってしまっているのは流石である。考えてみると、二、三本の容器に取るのであるが、取り換える時にも漏れたり噴き出たりしないのは不思議である。何気なく見える作業でもそこには素人の窺い知れぬ深淵があるようである。「へえ~、それは良い事を聞いた。使ってみます、有難うございました」「安いので良いのよ」
爾後四百円の物を買い求めてせっせと塗りたくっている。使い始めて十日ほど経つが今のところ割れそうで割れずに済んでいる。痛い目に遭っただけの事はあると云うものである。