迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

出無精の釈明。

2019-05-08 19:56:24 | 浮世見聞記



数十年前の学生時代、日本の傳統藝能に興味を抱き始めた頃に録り溜めてゐた猿楽のVHSテープを、久しぶりに引っ張り出す。


幸い、画質も音質もほとんど劣化していない。


そこに映ってゐるのは、シテ方、ワキ方、囃子方、地謡方、その総てが最高の布陣で演じられゐる舞台。


いまは亡き演者も、そこでは健在だ。


近日、能楽堂へ出かけるつもりだったが、その懐かしい映像を見ているうちにすっかり満腹になり、その予定をやめる。

さういふことではいけないのかもしれないが、せっかく時間とカネをかけて出かけても、この頃は見所(けんしょ)の環境もよろしくなかったりするので、つひ「やめよう」に気持ちが傾くのである。



開演時間を過ぎてからノコノコと入って来るヒト──アンタ時間わかってたよね?

演能中でもお口を閉じられないお友達連れのヒト──ここは茶の間ぢゃないんだよ。

派手に袋を鳴らして飴を舐めるヒト──見所では飲食禁止だよ。



まずは“静寂さ”を旨とする能楽堂には絶対に要らなこれらは、だうも出演猿楽師の誰かから謡やら仕舞を習ってゐる、いはゆる“素人弟子”であったりする。


稽古を通してナニを学んでゐるのやら──作品世界に嵌まり込んで観る性質(たち)の私などは、さういふアタマを使へない人種が現れると、大ひに嫌悪を覺へる。


「その猿楽師と、その流派や会派の程度を知りたくば、まずはお客を見よ」

は、当たってゐる。


結局、さうした俗塵が耳目に入るのを厭ふて、それに充てるはずだった時間と労力を、もっともっと他の予定に割り振るのである。





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