来る十五日の本番に向けて、初めて装束と面を付けて稽古する。
私の顔の熱が移ったのには非ず。
初めは装束も、「コイツなにする気やろ……?」と戸惑ひ、強張ってゐたが、やがて「ああ……」と飲み込んでくれたらしく、次第に体と動きに馴染んでくれた。
藝能は、かうした身に着けるものとの信頼関係を築くことも、肝要だ。
一通りの稽古を済ませて面をはずすと、面がほんのりと温かい。
私の顔の熱が移ったのには非ず。
面に吹き込まれた、“魂”の温かみなり。
さう、面は生き物である。
面を造ることを、
『面を打つ』
といふ。
それは、面打師が面に魂を“打ち込む”から、『面を打つ』といふのである。
手猿樂は、わたし一人では舞へない。
シテと、面と、装束と、扇などの持ち道具それぞれの“魂”が信頼し合って、初めてひとつの作品へと成立するのである。