迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

早朝謡ひ寶生。

2019-12-08 07:43:00 | 浮世見聞記

早朝のラジオ放送で、寶生流の「巻絹」を聴く。

かつて道を見失ひかけてゐた私に、改めて傳統藝能の道を示してくれた曲。


佐渡寶生の奏でる音色が、すっと心に染みこんでいったあの夜のことは、生涯忘れることはない。


それから紆余曲折があって、今日の私がある。


いつであったか、そのことを或る他流の猿楽師に話したところ、その唯我独尊な猿楽師は蔑意をにじませた苦い表情で、黙って私の顔を見てゐた。

その猿楽師は、いまも世に出てゐない。

ただ、親が名人とされてゐる猿楽師なので、黙っていてもその地盤を受け継ぎさえすれば、無難にその道で食べて行けるだらう。


しょせんは“二世”か……。


私はさっさと見切りをつけた。


もっとたくさんのものを見て、聞くために。


いつか私も、この曲のシテである巫女を舞ひたい。


だから今日も、歩く。

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