ロングセラーのひとつ 「とこちゃんはどこ」 という絵本の贈り物が届いた。子育ての時期に福音館書店にはお世話になった。懐かしくそれを手にした。松岡享子さく加古里子え初版は1970年だ。別の日ある人に勧められアメリカの絵本作家エリック・カールの 「パパ、お月さまとって」(偕成社) を購入した。日本での初版は1986年というからこれまで知らずにいたわけだ。コラージュ(貼り付け)の絵本ということである。それらの絵本は子守の時に一緒に楽しんでいる。
保育園に通う一歳9ヶ月の女の子を子守する。言葉らしくなった言葉を話すようになった。散歩から帰って玄関に入ると聞き取れないぐらいの声で 「ただいま」 と言っている。部屋に入って 「あったかいね」 と言う。大人びた言葉に驚く。そして推理した。保育園でもお散歩があるだろう。その時の保育士さんの言葉を思い出したのだろう。零歳からの集団保育は親子にとってありがたいことだと思う。
車が踏み切りにさしかかり遮断機が降りる。列車が轟音と共に通過する。遮断機が上がった瞬間に車内で幼子の口から 「はいどうぞ」 と思いがけない言葉が出た。その絶妙のタイミングに周囲がなごむ。「いらない」 と言う言葉は完全にマスターしたようだ。嫌いな食べ物とかお腹一杯と言う時に必要だ。「イヤだ」 「ダメ」 の代わりにきっぱりと 「ノー」 を使うところは父親直伝だろう。
母親と赤ちゃんがやって来た。ベビーキャリアーを持ち込む。それをじじの私が受け取る。泣きの形相で 「ノー」 と言う。赤ちゃんも泣いている。しばらくもめた後で 「はいどうぞ」 と赤ちゃんをのぞきこむ。小さい心にすでに葛藤が生じている。当然のことながら幼子にとって保護者を所有する欲はかなり強烈である。