昨年の年度代表馬エフフォーリアの2022年秋全休が発表されました。春の大阪杯、そして宝塚記念の負け方を見ると、しばらくは無理をせずに、エフフォーリアの『走りたい気持ち』が戻るまでユックリ休んでもらう方が良いと思っていたので、この判断は正しいと思います。
このように、一流の競走馬が、ある時から突然、馬が変わってしまったかのように走る意欲が減じてしまう現象が散見されるようになってきました。人間同様『燃え尽き症候群』と呼ばれることもあります。
こうした現象が散見される背景には、2つの事象があると思います。
①調教技術の進歩が著しく、ギリギリのカミソリのような尖った仕上げが可能となったことが、特に3歳春のクラシック候補の馬たちにとっては、成長期に当たるだけに、フィジカル面メンタル面の両面において、大きな負荷になっていること。
②3歳春のクラシックレースで活躍した馬たちが、秋のシーズンから、海外や古馬との激しいレースへの挑戦を積極的に強いられていること。
特に上記①の理由は、競馬そのものの仕組みに関係がありますので、なかなか解消するのが難しいハードルが存在します。まず、馬主が1億円も2億円も出して競走馬を購入するのは、ダービー馬のオーナー、オークス馬のオーナーを目指しているから。
2歳の秋頃にデビューして、すぐに勝ち上がれれば良いですが、どんな高額馬でも2着3着が続いて、やっと2月頃に勝ち上がりということは十分にあります。そこから、ダービーへの出走を目指すとなると、まず重賞レースで勝つか、あるいは2着で賞金を足して上でトライアルで3着以内に入ることが必須条件に。
そうなると、レース間隔が3週間、あるいは2週間と短くなることもシバシバ。しかも、結果を出すために、調教師は『ギリギリの仕上げ』を施します。その結果、晴れてクラシックホースになったり、あるいはダービーやオークス入着馬として、世代の代表的なスターホースへ成り上がっていけるという訳です。
ただし、問題はそのあと。そうやって無理を重ねた結果、3歳クラシックレースのあと、二度とレースに戻ってこれない馬たちも少なからず存在します。また、やっと復帰できても、そのまま抜け殻のように競馬場を去っていく馬も。3歳春のクラシックレースに出走するために、無理を重ねる事例は後を絶ちません。一方で、馬主から指令されれば、調教師もまず逆らえません。
次の②の理由は、春のクラシックで一流馬の仲間に入った若駒たちが『燃え尽き症候群』となるメインの理由です。これも調教技術の進歩によって、3歳馬が古馬と走る際に、3歳馬が優位になっていることが直近の傾向。JRAでは、昔ながらの1~3㎏の年齢ハンデによって、この有利不利の解消をしていたのですが、『競走馬を鍛える技術』の進歩によって馬の身体能力の早熟化が図られ、むしろ2㎏前後のハンデの効果が、3歳馬有利に働きだしていることが背景にあります。ちなみに、海外ではこの年齢ハンデが更に3㎏前後に広がります。
こうなると、3歳馬による古馬GⅠへの挑戦、そして海外GⅠへの挑戦が活発化しますし、チャンスが大なので、調教の仕上げもギリギリに施されます。結果として、3歳の有力馬は、若い段階で古馬の最強馬群との闘いを前倒しで強いられていきます。3歳春は同世代の闘いを勝ち抜き、秋は古馬との闘いや、海外GⅠ馬との闘いを強いられて、この段階で『燃え尽き症候群』の予備軍となるのです。
かつては、ここはもう少し、のんびりやっていました。3歳時は同世代の闘いで、4歳になってからが世代間、あるいは海外勢との闘いと。
『レモンは、ゆっくりと少しづつ絞らないといけない。絞り過ぎてはいけない』というのが、昔から英国で伝えられてきた、競走馬の育成に関する格言。これが、直近の日本では、守られていない気が致します。
エフフォーリア、サトノダイヤモンド、ハープスター・・。
綺羅星のような才能が『燃え尽き症候群』となり、苦しむ姿はもう二度と見たくはありません。
調教師の皆様、そして馬主の皆様、競走馬のメンタル面へのご配慮を、特に若駒のメンタル面へのご配慮を、切にお願いしたいと思います。