「焚き火とさびた観覧車」2011年晩秋に書いた旅雑文です。期間限定公開中。
友人の体験談に、「バイク旅のある日、夜遅く小さな町につき、宿もとれず、
その町外れの無人駅のベンチで寝て、朝、目がさめたらそこは墓場だった」というのがある。
僕には、霊感ってヤツはまったくないけど、
それでもこれまでに、「ここはなんだかヤバイかも・・・」とアヤシイ雰囲気の場所でキャンプし、
シュラフの中に入ってもざわざわした気配で、あまり眠れなかったコトが何度かあります。
そのひとつは、ある年の「年越し焚き火キャンプ」。
「話さない方がいいか・・・楽しそうだし・・・」
焚き火にあたりながら僕は、先程の廃墟探検のときにチラリ見えてしまった、
「観覧車の人影」のコトについては黙っていたほうが良いな、と思った。
その年の大晦日は、大雨のあとの強い風がブウブウと吹いていた。
予定していた海辺のキャンプサイトは、強風に天幕すらはれず予定を変更。
日が暮れた暗い山の中に、やみくもに車を走らせた僕らは、
ややあせりつつつも、テントを張れそうな川沿いの広場をようやく見つけた。
山の夜の闇は深く、まわりのようすはまったくわからない。
なんとかキャンプ地を確保でき、ほっとした僕らは、おのおのテントを張ったあと、火を起こした。
野外宴席のしたくをする5名の仲間とは、週末ごとに焚き火キャンプをしていた。
(いつもは飲み屋でうだうだとくだをまいていた僕らだったが、
いつの間にか野外で飲む焚き火キャンプにハマった。うーん、なにがきっかけだったんだろう。
週末になると僕らは、焚き火キャンプをするために、
車に、キャンプ道具、大量の酒、食べ物、マキを積みこみ、近くの川、山、海にくりだした)
手なれてるので支度は早い。「ほんじゃいってくるわ」2名の仲間が付近の様子をさぐりにいった。
暗闇の中であたりを見回す余裕が出来たとき、偵察に出ていた仲間がもどり報告が入った。
どうやら俺たちは、つぶれて廃墟となった遊園地の入り口あたりにいるらしい、と。うげげっ・・・。
「だがしかし、いくらブキミであろうと、もう設営は終わっちゃったもん。
モーレツにハラへっているし、早くビールのみたいし・・・もうここから動くのはイヤだ!」
皆の思いは同じだった、おまけにこちらは6人もいるのだ。
「なんだか知らんけど、なめんなよ!」のキブンで僕らは焚き火の宴に突入した。
飲んで、食べ、ギターの伴奏で歌い、気分良く酔っぱらい
調子にのった僕らは、捨てられ廃墟化した夜の遊園地の探検にでかけた。遊園地には、なぜか大仏のスガタも。
ビュービューと吹く風に、鉄音がカンカンと高く響く。
フラフラと風にゆれる錆びた観覧車は、なにか巨大な生き物のように見えて気味がわるい。
すると、少しはなれた淡い星明りのなかに、観覧車を見上げているいくつかの人影(のようなもの)が見えた。
そのなかの1人がこちらに顔をむけている。
「はっ」と凍りついたように身を固くした僕の背筋に悪寒がはしった。
一度目をふせ、次に視線をむけたときには、人影は見えなくなり、
ヒューゥー・・・鋭く研いだナイフのような冷たい風が、足元を吹きぬけていった。
他所をむいていた仲間には、その人影は見えなかったようだった。
コンクリートの建物の破れたガラスドアには、
「宇宙〇〇信仰教本部」と書かれた看板がナナメにひっかかっている。
「なんだこれ、気色わる~・・・とっとと帰ろうぜ!」
仲間の一人がそう言ったのをしおに、僕らは廃墟探検を終えて、早足で焚き火のあるテン場へもどった。
皆で再び焚き火をかこみ、しばらくは神妙な顔つきでブキミな探検の感想などを話すが、
カラダがぬくもり酔いがまわれば、またギターをならし、ニギヤカに歌いはじめた。
「あれはいったいなんだったんだろう・・・ビビった心が風に揺れる物影を見間ちがえたのかな?
それとも大晦日なので、オバケたちも遊園地にあつまり、ぱぁっとやっていたのだろうか?」
先ほどの全身が総毛だった感覚がまだ残っていた僕は、ふたたび無邪気にもりあがる仲間の様子をおとなしく見ていた。
「観覧車の人影」のコトについては話さずに。
ふとあおいだ頭上で風がビューッと鳴いた。夜空には無数の星が瞬いていた。
深夜、酒宴をおえた僕らは、それぞれ自分のテントにもどって寝た。
シュラフに潜りこんだ僕は、
風にのってきこえてくる笑いさんざめく人々(オバケ?)の笑い声に、まんじりともせず、その夜を過ごした。
世の中には、(正体や本当のことを)知らずにいたほうが気分よく過ごせるコトがけっこうありますよね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます