◆高宮紀子「Revolving basket of sixelements」(ケント紙・直径15cm・2002年)
◆えび結び
2002年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 25号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご11
「巻き重ねる」 高宮紀子
2002年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 25号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご11
「巻き重ねる」 高宮紀子
以前、静岡の友人が変わったものを持ってきてくれました。茶つみのびくを腰にしばる時に使うということで、長い1本の縄をえび結びでまとめたものです。解く時は、下を引っ張って、上の輪を引き抜けば、簡単に1本の縄に戻ります。名前が「えび結び」という以外、詳しいことはわかりませんが、ボーイスカウトや海で働く人の間では必須の結びのようです。珍しいので、一緒にもらった作り方を見てやってみましたが、なかなかきれいにいきませんでした。
えび結びの作り方は、最初に縄の端で8の字形の大きなループを一つ作ります。残りの縄を最初に作った8の字の真ん中に、同じ8の字形に巻いていきます。巻いた縄が上に重なってたまらないよう、きれいに外側に並べて巻きます。すると襟が重なったように見えます。えび結びは長い縄を絡まないようにまとめて、持ち運ぶためのすぐれた方法ですが、きれいに巻くためにはこつがいるようです。縄をしっかり引っ張って巻いてしまうと、縄が横に並ばないし、またゆるゆるに巻くと全体がまとまりません。力の入れ具合がむつかしく、縄の素材や太さが違うと、また試行錯誤の繰り返しとなります。
えび結びとは形も機能も違うのですが、リブタイプのかごを作るとき、似た操作で作る組織があります。手になる輪とかごの縁になる輪の接点に作る蜘蛛の巣状の組織がそれです。えび結びの8の字の核は真ん中に置いた縄ですから、廻る所は上下に2ヶ所ですが、リブタイプの蜘蛛の巣状の組織は、4ヶ所にかけながら作ります。ですから、できた組織は四角い形になります。これ自体はかごの本体を作る編みの部分ではなく、後で数本のリブ(かごの肋骨にあたる材)をひっかけて、それにかご本体の編みの部分を編みます。”蜘蛛の巣“はリブを受けとめ、編みと構造体をつなぐということができると思います。かごを作る技術の中には、編んだり組んだりする以外のいろいろな方法があるわけです。
写真の作品はケント紙で作った最近の作品です。以前、作っていたチョマの繊維を重ねた作品を作っている時、やりたいことがあって、それを紙におきかえてみたものです。えび結びからヒントを得たものではありませんが、ただ、原稿を書くのに当たり、関連する民具を探していた時、たまたま見かけたものです。あまり直接的な関連というのは無いのですが、なんとなく目にとまり、気になりました。
この作品は以前にご覧頂いた作品の続きですが、前作と同じように、厚いケント紙を半分に割いています。形ができるプロセスも以前のものと同じですが、4本で四角い形を組んで始めています。その後、単純に巻いて重ねながら組むことを繰りかえして層を作っています。
写真でご覧になるように、一部の構造は組みの組織と同じなのですが、それぞれの材は従来の組みとは違う動かし方をします。普通、平面的な組みの組織を作るときは、同じグループの材は同じ方向に進みます。それに対してこの作品の材は隣同士がそれぞれ反対の方向に動いています。だから、組むところでしっかりお互いの材を反対方向に引くことができます。組むというよりは、糸を玉に巻くような操作と同じですが、違うのは玉に巻く時、巻いた所がほどけないように移動しながら巻くのに対して、この作品では四角の角がストッパーになります。そういうわけで、巻き重ねていくと、どんどん角の所から材がずれて真ん中に集まっていきます。材のゆるみが出ないよう、ひっぱって作っているので、始終、材のテンションに気をつかいます。気をぬくと、その部分がゆるんでうまく重なりません。
四角形の組み方や本数もこの作品の大事な要素です。組み組織ができる一番少ない4本で組みますが、斜めに組んでいるのではなく、縦横に材を置いて組んでいます。斜めで組むと自分で出したい形になりませんでした。また材の本数を6本にしてやってみたのですが、あまりその必要はないように思いました。理由は簡単です。つまり両方とも予想できる形になり、変化が少なかったからでした。だから形を作るという上ではあまり自由はないのですが、でもそれについて不自由だとは思いません。今のところ、4本の組みの形が周りに層を増やすことで、どんどん形が変わっていくのを楽しんで作っている、という感じがしています。勿論、自分で作業しているのですが、自分の意思で作っているというより、“え~こんな形が出てきたのか”、という感動がありました。このことは今までの形の作り方とは少し違うもので、なんとなく有機体の形を避けたい私にとって、有機体ではない新鮮な形、そんな気がしています。