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「10周年を迎えるにあたって」 三宅哲雄

2011-10-23 15:27:59 | 三宅哲雄

2 ◆石垣勢津子

Photo ◆羽鳥創子

生活空間の選択 -どこで生きていきますか-  三宅哲雄 


東京テキスタイル研究所10周年を迎えるにあたって


1990620日発行のTEXTILE FORUM NO.13に掲載した記事を改めて下記します。 


 川島テキスタイル・スクールが京都に設立されてまもない1973年(昭和48年)の冬、世界に類のない学校にしたいのだが協力してくれないかと依頼され、京都洛北市原のスクールを訪れたのが私とテキスタイルとの関りの第一歩でした。


 当時、織物を学ぶには大学の染織科か私塾で学ぶしかなく、織物の技術習得には最低10年は必要であると一般に言われていました。このような社会風潮の中で、年齢、性別、国籍、学歴を問わず受講生を受入れ、わずか一ヶ月で織物の基礎を教える場として川島テキスタイル・スクールは発足し、以後一週間単位で自由受講の研究コース、一ヶ年の専門コース、十日間の基本コース、三日間の糸染コース、そして東京にカワシマ・テキスタイル工房が設立され、以後1981年(昭和56年)3月迄テキスタイル教育の主導的役割を果してきました。


 1981年(昭和56年)4月より川島テキスタイル・スクール東京工房は川島から分離独立し、名称を東京テキスタイル研究所と改め、本年10期目を迎えることになりました。この間、多くの困難と試練を受けてまいりましたが、教育の場を存続出来たのは講師の先生方やスタッフの方々そして種々の助言やご指導をいただいた方々のご協力の賜物と心より感謝申し上げます。


 「織機があり、糸があり、最低の技術を学べば布は織れる。」このことはテキスタイルに関る人々の増加につながりはしたが、布は織れるが、何を織るかわからない。多様な知識や技術は学んだが、私は何を創りたいのか……。教室では織ることは出来るが、自宅では…。このような話を4~5年前からではよく耳にします。


 当初目標の一つであった普及活動はある程度の役割を果したと思われますが、最大の目標としてきた「素材、技法、用途からの開放と自らに素直な表現」そのようなものづくりをする人々を育てることは、まだまだの感を持っております。


 本年3月に開催した奨励作家展で個展を開いた石垣勢津子は雲母の結晶表現で編組空間を見つけ、羽鳥創子は内存する繊維イメージをパステルで編み(描き)、土志田由紀はフェルトの世界をより魅力的なものにし、高垣和子は刺繍技術の拘束から開放された。


 個々の作家には種々努力しなければならない課題を抱えてはいるものの、作家として制作活動を続けていける確信を自ら得たことは作家自身はもとより教育に夢を描く私共にとって最も喜ばしいことでした。


  目黒区・碑文谷から世田谷区・松原に移転し、翌年のギャラリー開設に伴い織機などの設備や直接の教育空間は必要最低限となり、お世辞にも教育の場としてふさわしい環境とはいえない状況、全くと言っていい程、広報宣伝活動をしなくて、(出来なくてと言った


 ほうが正しいかもしれない〉受講生が集まるとは思ってもみませんでした。しかしながら、多様な人々が多様な想いで集い、そのエネルギーが先生に伝わり、又、先生の情熱が生徒を動かす。教えることより育むことに重点を置いた教育。言葉で教育のあり方を論ずる場合、常々耳にしますが実際に複数の先生が100人程の受講生に実践している教育機関が不勉強ながら日本にあると聞いていない。この困難な教育に当研究所の先生は真正面から取組み、その成果が一人一人の受講生の作品に、そして表情、態度に現れてきたのである。


 教育の場は開かれたものでありたいと思います。当研究所のギャラリーは教育の場でもあります。作品が作者の手を離れ展示された場合、作品は作者に何を語りかけるのか。作者は自分の思いがどれだけ表現されているか客観的に見つめることで、種々の問題が提起されます。


 今年のクラス展では複数の出品者は会期中も制作し続けました。日々、展示された作品が作者との対話で変化します。ものづくりに終わりはありません。作品が出来上がったと思った時がスタートだと思います。公募展に出品したり、一般のギャラリーでの個展やグループ展での「制作中」は自他共に許されません。だが、ものづくりを学ぶ場である当研究所では歓迎します。私共が受講生に求めているのは作品の完成度ではなく、自己の表現方法を自ら発見し、自ら創ることなのです。


 創作者にとって、ごく当り前なことが各種展覧会等で拝見させてもらう限り考えさせられます。幸い、本年7月初旬、工芸批評誌を季刊発行している「かたち社」企画で鍛金造形家、橋本真之氏をゲストに迎え2泊3日の合宿形態をとり、作家によるレクチャーと5人の質疑委員(白石 斉、田中秀穂、林辺正子、鄭 基成、古伏脇 司)による討論形式で創作の根底に迫り、参加者に内蔵される問題をえぐりだしながら、今日のものづくりの問題点を相互に明らかにしていき、今後の展望を切り開くことを目的とした「作家をとことん研究する会」が清里で開かれます。ジャンルを超え、現在一線で活躍する作家から学生迄幅広い人々が清里を熱くするでしょう。この企画は今回が第一回目で今後二回、三同と続くことを期待すると共に清里の熱気が日本の隅々いや世界迄、届くことを願ってやみません。



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