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「現代日本の工芸-伝統と前衛」展

2015-02-07 10:49:57 | ART&CRAFT FORUM 
1995年7月20日発行のART&CRAFT FORUM 創刊号に掲載した記事を改めて下記します。


Japanese Studio Craft
Tradition and the Avant-Garde

 1995年5月25日から9月3日まで、イギリスのビクトリア&アルバート美術館にて、Japanese Studio Craft:Tradition and the Avant-Garde「現代日本の工芸-伝統と前衛」の展覧会が聞かれている。ようやく日本の工芸について学ぼうという気運が生まれてきた西洋において、日本の現代工芸の全体像を出来る限り広範囲に紹介する今展は、画期的な企画と言えるであろう。展示作品は、ビクトリア&アルバート美術館(以下V&A美術館)東洋部門が収集してきたコレクション、ならびに日本国内の個人および美術館の所蔵品からの出品で成り立っている。A&C Forumでは展覧会の趣旨と概要、そしてその反響を追いかけてみたい。

展覧会の目的
 本展の企画者であるルパート・フォークナーの展覧会趣旨によると、展覧会の第一の目的は、それぞれの作家が持っている芸術的思考のおおまかな相違を明らかにしながら、現在の日本工芸を考察することにあるようだ。それらをざっと分類してみると、(1)毎年開催される日本伝統工芸展の出品作家など、重要無形文化財の認定をすでに受けているような著名な工芸家の創作活動(2)実験的な創作活動(3)日本クラフト・デザイン協会などの団体に所属し、デザインの斬新さ、新たな技法の探究、そして作品の実用性や求めやすい値段などに関心を傾けた作家の創作活動、となる。そして第2の目的は、現代日本工芸に見られるさまざまな制作過程を取り上げ、その多様性にスポットをあて幅広く紹介することにある。そのためにも、ビデオやスライドなどのAV機器を使用して制作のプロセスを紹介するほか、作家を招聘し、それぞれ2週間にわたり制作の実演を行うプログラムなども組まれている。

出品作品について
 作品は主として、過去20年間に制作されたものに限定されている。(V&Aの所蔵する日本の現代工芸コレクションの大部分は、過去10年間、特に80年代後半以降に収集されたものであり、1970年以前の作品はほとんど収集されていない。こういったV&Aのコレクションの内容が、この展覧会の性格に大きく影響している。)過去20年間、日本の経済力の隆盛に伴い、美術館の新設ラッシュがおこり、美術品の収集や展覧会の企画などの活動が急激に活発になった。ある意味では、今の日本工芸界の基礎が築かれたのがこの時期であるともいえる。
こういった観点から展覧会の展示を1970年代初頭から始めることは理にかなっている、とカタログに記されていた。出品者を以下に記しておく。

出品作家
■Traditional,Textile(伝統、染色)
志村ふくみ. 宗廣力三. 北村武資. 森口邦彦. 森口華弘. 鈴田滋人. 松原与七. 芹沢圭介. 古澤万千子. 屋宣元六

■Traditional, Ceramics(伝統.陶器)
◆Japanese Stoneware Traditions(日本の伝統的陶磁器)
伊藤赤水.吉田善彦.竹内公明.山本陶秀.若尾利貞.鈴木蔵.高内秀剛.15代楽吉左衛門

◆Chinese and Korean Ceramic Traditions(中国.朝鮮系の伝統的陶磁器)
清水卯一.三浦小平二.川瀬竹春.近藤豊.吉田善彦.竹中浩.島岡達三

◆Contemporary Decorative Ceramic Traditions (伝統に基づく創作陶磁器)
松井康成.田村耕一.近藤悠三.藤本能道.13代今泉今右衛門.長谷川塑人

■Traditional, Lacquerwork(伝統.漆)
松田権六.室瀬和美.田口善国.三好かがり.関野浩平.前史雄.音丸耕堂.太田儔.赤地友哉.小森邦衛.増村紀一郎

■Traditional, Metalwork(伝統.金工)
中川衛.増田三男.内藤四郎.大角幸枝.角谷征一.般若保.西大由.

■Traditional, Woodwork Basketry and Bamboowork (伝統.竹工)
川北浩一.中川清司.須田賢司.土岐千尋.村上明.5代早川尚古斎.2代田辺竹雲斎.生野祥雲斎

■Craft Design,Interiors Classical Minimalism
冨田潤.平松保城.大西長利.有岡良益

■Craft Design,Interiors Towards The Organic
榎本勝彦.増田尚紀.筒井修.松本ヒデオ.畠山耕治

■Craft Design,Tableware
冨田潤.山口光.武田武人.重森陽子.古本雅孝.吉川正道.大平和正.角偉三郎.佐藤肝郎.青峰重倫.山村慎哉.大館工芸社

■Craft Design,Boedyware
伊藤一廣.平松保城.中山あや

■Avant-Garde,Ceramics(前衛、陶)
鯉江良二.林康夫.柳原睦夫.山田光.宮永理吉.加守田章二.森野泰明.吉川正道.西村陽平.中村康平.中村錦平.井上雅之.星野暁.秋山陽.滝口和男.深見陶治.鈴木治.加藤清之.栗木達介.熊倉順吉

■Avant-Garde, Glass(前衛.ガラス)
横山尚人.竹内伝治.益田芳特.高橋禎彦.藤田喬平.生田丹代子.岩田ルリ

■Avant-Garde, Experimental Lacquerwork and Basketry(前衛.漆.バスケタリー)
鈴木雅也.栗本夏樹.角偉三郎.高橋節郎.関島寿子.関根正文.田辺洋太.古伏脇司

■Avant-Garde, Metalwork(前衛.金属)
原正樹.関源司

■Avant-Garde, Fibre Art(前衛.ファイバーアート)
小名木陽一.小林正和.吉村正郎.草間てつ雄.車季南.久保田繁雄.熊井恭子.戸矢崎満雄.福本繁樹.庄司達


[分類:(1)伝統工芸、前衛工芸と呼ばれる作品群+二ユークラフトの分野を、陶器/ガラス/漆/木工/竹工/染織/金工といった、素材別に分類。(2)ガラス/漆/木工/竹工の分野は便宜上、伝統から前衛の全域を一括。(3)陶磁/染織/金工の領域はより厳密に数分野に分割。
 作品の選び方は、様々な技法と素材に対するアプローチを広範囲に紹介するために、例えば伝統釣な染織なら、絞り/友禅/型染/絣などの技法に現代作家がいかに取り組んでいるかを示す作品が選ばれている、金工なら、蝋型鋳造/鍛造/鍛分鋳造などの技法が、表現上いかなる可能性を秘めているかを示す作品が選ばれている。一方伝統陶芸は、現代の陶芸家の創造の源泉となってきた歴史的に主流をなす作例が選ばれている。日本のみならず、中国および韓国の伝統も含まれ、日本の場合は、例えば信楽や備前の中世陶器から、美濃・京都の茶陶を経て、有田・九谷の装飾陶磁に至るまでが網羅されている]

安藤三春さん、外山恭子さんのお話
 6月下句にちょうどイギリスから帰って来られた三春堂ギャラリー画廊主である安藤三春さんにお話を伺うことが出来た。展示には大展示室が2室使われており(1部屋がかなり大きい)、大きく分けて、2番目の部屋を全室使い大きなファイバーワーク、1番目の部屋がそれ以外の展示にあてられていた。会場に入ると、人口に伝統的な染織の着物がズラリと展示されており、その周辺に比較的伝統よりの仕事が並べられている。その奥のブースの中に、クラフトデザインに分類されているものが、ショーケースの中にならんでおり、一番奥に、前衛と分類されている陶作品や、ガラスなどがむき出しで展示されていたそうである。安藤さんの感想によると、もちろん作家一人一人の作品を理解するには、1点か2点では作品数としては十分ではない。しかし、やはり日本では伝統工芸的なものと前衛的なものを同じ空間で見るような機会はあまりない。見慣れたものでも、異なる作品の持つ空間の接点から、個人的にはいろいろと新しい発見があった。例えば今まであまり集中して見る機会のなかった伝統的な仕事をしている竹工の作家の作品が非常に新鮮に感じられた、というふうに話していた。
 安藤さんが耳にした現地の話では、わりと伝統的なもの、例えば漆の片口とかの美しさを発見して帰る人が少なくないということだった。逆に前衛的な陶のオブジェに関しては、「何でこうするのか、よくわからない」と不可思議に思う人もいたようだ、と話していた。

 SAVOR VIVRE サボア・ヴィブル店主の外山恭子さんが、展覧会の感想と現地の様子を、当編集室への手紙のなかで記していたので、紹介したい。ロンドンの美術大学に通っている学生さんと話をする機会があり、現地での評判を聞いたところ、ファイバーワークの部屋は人気があったが、その他のものはいまひとつ、と感想を述べていたそうだ。ロンドンはテキスタイルは進んでいるけれども、ファイバーワークの作家はまだ少なく、日本のファイバーワークは興味を持って受け入れられている現状だそうだ。
 そして外山さんは感想として、すでに見たことがあるものがほとんどだったこともあり、特別な感慨はあまりなかった。制作中のビデオ録画の放映などに興味が集まり、やはり日本のものに対しては、デザイン的なものより、技術面に興味が集中されているように思えた、とのことである。

日本にとっての新鮮さ?現地では?
 日本の工芸を幅広く紹介しようという今展は、鋭い切りロを設定している展覧会とは性質が異なり、鑑賞者がアプローチしていく間口が広いので、様々な捉え方が可能であろう。だから見る人によって多様な反響が出てくる可能性がある(「漠然としていて、とりつくしまのない……」という言い方もあるだろうが……。)
(1)伝統工芸系(2)前衛系(3)クラフト系と、大きく3種に分類されてはいるが、一人の作家が幾つかの部門に出品されていたりと、日本で捉えられているかっちりとした住み分けの印象よりもかなりファジイである。よくよく考えてみるならば、オブジェと呼ばれるような造形的な作品をつくる一方で、茶碗だってつくる作家がいるのは普通のことだし、それはそれで今の複雑な日本の工芸の現状を如実に語っているとも言える。オーソドックスで、なおかつ偏見という手垢がついていない展覧会の見せ方が、セクト化した日本工芸界の認識のなかに浸っている我々には新鮮に感じられるのではないか、という気がするのだが…。一方現地での反応はまだ情報不足だが、上記に見られるように、意外な反応が聞けそうである。
(永峰美佳)



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