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「マタタビのかご」 高宮紀子

2017-05-10 09:45:47 | 高宮紀子
◆マタタビのかご(写真 1)

◆道具とマタタビの枝、材 (写真 2)

2004年4月10日発行のART&CRAFT FORUM 32号に掲載した記事を改めて下記します。

民具としてのかご・作品としてのかご 18 
 「マタタビのかご」 高宮紀子
 
会津若松から西へ入った、もうすぐ新潟県という所に大沼郡三島町があります。三島町には町営の生活工芸館があり、かご作りや木工などの工芸を教えていますが、今から6年前、東京テキスタイル研究所のかごのクラスで『ものづくりツアー・マタタビのかご作り』に参加したことがあります。11月でまだ雪が降らないと言われていたのですが、初雪がどんと降り、厳寒の小川の縁でのマタタビ採りをしたのがいい思い出です。

 マタタビは落葉ツル性植物なので、冬は葉が落ちて枝だけになります。その上、雪が積もっていたので場所がまったくわかりません。よく見ると雪の中から1本のまっすぐな枝が伸びているので、それを目当てに探しました。枝は一年を経ているものを採るのですが、慣れないために違う植物を採ったり、若すぎる材を採ったりで、なかなか素材集めもたいへんだったことを覚えています。
 
 その後、三島町へは工人祭りの時に訪ねた後、しばらく行かなかったのですが、今年の1月に『ものづくり体験ツアー』に参加する機会がありました。この体験ツアーは、毎年冬に、マタタビのかご、またはヒロロのバッグ作りということで生活工芸館が募集しています。今年の冬は、二泊三日のマタタビのそば笊作りでした。現地に午後集合し、マタタビの加工の方法を少しだけ、あるいはかごを作っている工房を訪れる、二日目に笊をしあげ、三日目は自分達で蕎麦をうって笊にのせるといった内容です。そば打ちも魅力ですが、私達、つまり編むことが好きな人間にとっては食べるよりは作る方ということで、他の編み組品の作り方を三日目に習うことにしました。

 旅館の女将から、今年は全然雪が少ないですよ、まだ全然ありませんと教えられ、よかったと思っていたのですが、やはりハプニングがありました。東京方面から三島町への交通機関は、三つあって、まず高速バスで会津若松まで行き、そこから只見線に乗る方法、電車だと東武で会津田島まで出て只見線、もしくはJR新幹線で郡山、磐越西線に乗り換えて会津若松まで行き、そこから只見線という方法です。生活工芸館の最寄り駅は只見線の会津西方駅ですが、只見線の本数が少ないため、どうしても東京からだと会津若松駅発が午後1時過ぎの電車で2時30分に着くルートしかありません。たいがいの人はこのスケジュールでやってきます。

 厳しい寒波がちょうど大陸から降りてきた時で、東北は雪嵐のニュースがしきりでした。高速バスは雪で遅延するからと思い、新幹線で郡山まで出ることにしました。せっかくだから、会津若松でおいしい昼ご飯でも食べようと思い、早めの新幹線に乗って郡山へ到着。さあこれから会津若松へとなるはずが、大雪のため磐越西線が運休という足止めをくらうことになりました。その後、大幅に遅れて発車した満員の電車にゆられて会津若松に着き、心配して迎えにきてくれた生活工芸館の北館さんの車で送ってもらいましたが、現地へついたのは夕方6時を過ぎていました。工芸館で予め加工したマタタビをもらい、そのまま旅館に戻って当日参加した方に教わりながら、材を組んで四角い底を作り二日目にそなえました。

 二日目は底の周りを編み、縁をつけて完成させます。今回作るのは小さな浅い笊ですが、四角く底を組んだ後、編み材で周りを編む時の角の所がむつかしくうまくいきません。編み材は平たい材といってもかまぼこのように表の面は曲面ですから、丸く円周を編み始める角の所の引き具合がむつかしいのです。うまくできると、四つの角が底側に出て接地するわけです。その後もぐるぐる周りを編んで少しずつ立ち上げますが、編み材どうしの間に隙間があいてなかなか思ったようにいきません。この二点が今回の関所だったようです。

 編み部分を終えたら縁を巻いて仕上げますが、以前習った方法とは違い、二重の縁を作る方法を教えてもらいました。この方法は今回笊を教えてくれた五十嵐文吾さんが考案したようです。展示会に行ってマタタビのかごを見た時に、何とかしてもっといいものができないかと考え、それまで一重だった縁を二つ作る方法を考えたそうです。写真1の右側が今回作った笊で、左は6年前に参加した時に作った笊です。二重の縁の作り方は、最初の縁材にタテ材を巻きつけ互いに組むように始末した後、別の太い縁材を最初の縁の外につけて、1本の材で巻きます。こうすると、小さな笊も一回り大きくなるし、縁が丈夫になることで、見栄えもよくなるわけです。また縁にはクマモヅルというツルを使いますが、このツルの茶色が見えてアクセントにもなっています。

 余った時間にマタタビの枝の加工方法を教えてもらいました。マタタビの枝は採ってきたらすぐに、外側の茶色の皮とその下の緑色の層をこそげ取ります。生活工芸館では、取ってきたマタタビの枝を束ねてシートをかけて外で保存していました。皮をこそげとると下から真っ白の木部が現れます。それを道具で3本~4本に割っていくのですが、この作業がむつかしく、マタタビの枝によっては途中で切れてしまいます。その後、中心のスポンジ質を削り取り、幅決めなどで薄さや幅をそろえるのですが、これもたいへんです。だいたい幅4mmぐらいの材を作るのですが、せっかくきれいに割ったものでも、均一な幅と薄さに削る時に材が切れたり、失敗したりで、最後までたどり着く材料はわずかしか残りません。写真1左の6年前に作った笊の材はほとんどの加工を自分でしたので、粗く太いおおらかな材になっているのがお分かりいただけると思います。前回は材を加工するのにほぼ一日かかりました。編むよりは、材の加工にかかる時間がともかく多いということです。

 マタタビの加工は竹の加工と似ています。編み方の技術も竹のかごと似ています。何故、竹ではなくマタタビを使うようになったかというのは、よくわかりません。一説には竹が無かったからという話がありますが、三島町には竹やぶがあります。あまりいい竹は育たないかもしれませんが。竹の加工と似ているのでおそらく道具も似たような物が多いと思いますが、マタタビの方が柔らかいので、扱いは楽だと思います。

 三島町ではいろいろな道具を作っていて、前回行った時も枝を3本や4本割りにする道具がありましたが、今回も工夫された道具を見ることが出来ました。写真2の左側にあるのがそれで一枚の鉄板にいろいろな大きさの四角や丸のきざみを入れたものです。四角い形のきざみは、幅出しで幅をそろえるために使います。そして丸いのは外側の皮をこそげとるために使います。写真2の左から二番目はマタタビの枝(茶色の外皮がついている)、割った材(中にスポンジ質が残っています。このスポンジ質を取り去ります。)そして右端の材が加工が完了した材です。横になっているのが、ヒロロです。

 三島町ではマタタビ、ヤマブドウ、ヒロロ、ワラ、ガマを使った編み組品を奥会津編組細工と呼び、いろいろな製品が販売されています。2003年にマタタビ、ヤマブドウ、ヒロロの各細工が伝統的工芸品に選ばれ、また町の活動として取り組んできた「桐の里 みしま工人卿」(手に職を持つ様々な工人達が活動し、その技術を他の人にも伝える活動など)が2003年度の毎日地方自治大賞の最優秀賞に選ばれています。

 6年前に行った時も感心しましたが、実際作っている人に会ってみると、作ることが生きがいに思えるほど、力が入っているというか、楽しんでいらっしゃるということがわかります。三島町のものづくりが盛んなのは、こういう生きがい感といった他に、今回習った五十嵐文吾さんのように、個人の工夫をどんどん取り入れている所にあるのではと思います。伝統的な技法をそのままというのもいいと思いますが、新しい工夫が取り入れられる、そういう展開もあるほうが伝統に活力を与えると思います。

 ヒロロという草を編んだバッグを例にとっても同じことがいえると思います。元来ヒロロでスカリという編み袋を作っていたのですが、技法をそのまま活かし、モワダやノカラムシの皮も入れて模様をだす方法を考え出し、現代の女性が持つおしゃれなバッグが作られています。値段は高いですが、耐久性があり一つきりの製品を持ちたいと思う都会の女性に人気が高いのです。
ヤマブドウのかごもどんどんおしゃれになって、元の山仕事の鉈入れとか、背負いかごの感じは失われましたが、新しい形も生まれ、まさに個人の技術によって工芸が生きていると感じがします。

 もう一つ、三島町のものづくりの盛んな理由は、町民向けのものづくりの講座です。私達が行った時もちょうど町民向けのかご作り教室と重なったので、その様子を垣間見ることができました。その日はマタタビ、ヤマブドウのかごをみなさんで習って作っているのですが、その場は同時に情報交換にもなっていました。講習は毎回あるのではないので、普段は家で作っているのですが、この日だけは工芸館にきて先輩の方法を見たり体験したりしています。町民は無料で参加することができるということ、りっぱな施設があることもすばらしいことですが、ものづくりが好きな人がこれほど多くいるとは、驚きです。
国から伝統的工芸品に指定されたと書きましたが、その指定を受けるのにはいろいろな条件があります。ざっというと、日常生活で使う物であること、手作りであること、100年以上の伝統があること、同じ材料が100年以上使われていること、産地を形成していることなどですが、どれも持続するのはたいへんなことだと思います。特に素材などは、毎年同じ質を確保するのはたいへんです。栽培できるものならいいのですが、自然に頼るということになると、環境の保護や、新しい場所を見つけたり、掃除をしたり切ったりと毎年手間がかかることと思います。

 ものづくりの上で、作り手どうしの健全な競争、つまり個人の工夫がどんどん取り入れられ、そして同じようなものを作らないものづくりが持続すれば、伝統がどんどん時代と一緒に流れ出し、魅力的な製品が生まれるような気がします。そのためには、技術を磨くだけでなく、技法の解釈を幅広いものにしていく必要があります。大きなお世話ですが、将来造形作品に挑戦する人が出てくることは望めないかしらと思いました。


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