犬越峠
バスストップから犬越峠(標高1070M)に向かう。
東海道自然歩道は、ハイカーに出会うことが多い。
「いい日に来ましたね。素晴らしい富士山が迎えてくれていますよ。」
挨拶を交わした下山者が峠の情報を知らせてくれた。
峠から見た富士山は、奥丹沢山塊の向こうに姿を見せ、
山頂は薄く雪をかぶっている,
山々を台石にした雄姿は、まさに日本の象徴富士山だ。
満々と水を蓄えた丹沢湖は音もなく静かである。
五十数年前に訪れた三保村、
牡丹鍋をご馳走してくれたあの婆ちゃんの顔が懐かしい。
昔アイスキャンデーの販売で使っていた大きな冷凍庫に
猪肉の大きな塊がドカーンと入っているのには驚いた。
この辺の家は皆同じ冷凍庫を持っていると言う。
捉えてきた獲物を近所で分けるらしい。
勝手に話して一人で大笑いしている陽気な婆ちゃんで、
日焼けして真っ黒なしわだらけの顔が懐かしい。
ダム記念館の職員に当時の地図を見せてもらいながらの説明で、
婆ちゃんの家のあったところはおよその見当はついた。
出島のようになっている所にある現在の三保小学校の下で、
中川と玄倉川の交わる近くで、つなぎ赤トンボが
棚田の水にピヨーンピヨーンと跳ねていた姿が
昨日のように脳裏に残されている。
一時間に一本のバスはかなりの待ち時間があったので歩くことにした。
出会ったバス停で少々の待ちならと思いながら歩いたが駄目一向に出会う気配がない。
あきらめかけていた時、折りよく通りかかったバスに、
ダメ元とばかり手を上げたら何故か止まってくれた。
気持ちのよい運転手さんで
「疲れたんでしょう」
と声を掛けてくれた。他の乗客もニコニコ笑っている。
おかげで気持ち良く車中を過ごし駅に着くことができた。
御殿場線「谷峨駅」は中川と鮎沢川の合流点で、
山の中腹にある。無人駅だが風情のある駅舎は風の通りがよく気持ちがいい駅だ。