2024/12/13 読売新聞オンライン
買い物客に廃食油を入れる容器を配布し、取り組みをPRする日本航空の社員ら(11月、大田区で)
スーパーに設置された廃食油の回収ボックス(11月、大田区で)
事業者と連携して、持続可能な航空燃料(SAF)の原料となる廃食油の回収に取り組む自治体が増えている。脱炭素だけでなく、家庭ごみの削減につなげる狙いがある。取り組みの成功の鍵は認知度の向上だ。
「捨てるはずの油で航空機を飛ばす取り組みです」
11月23日昼過ぎ、大田区のスーパー「グルメシティ糀谷店」の店頭。日本航空の社員らが買い物客に1リットルの専用容器を配り、取り組みをPRした。
11月23日昼過ぎ、大田区のスーパー「グルメシティ糀谷店」の店頭。日本航空の社員らが買い物客に1リットルの専用容器を配り、取り組みをPRした。
店舗にはこの日、回収ボックスも設置された。各家庭で廃食油を容器に入れ、店舗に持ってきてもらうという。容器を受け取った大田区南蒲田の会社員柴田圭久さん(29)は「凝固剤で固めてから捨てるのが手間だったので、引き取ってもらえるのはありがたい」と話した。
羽田空港を抱える区と日本航空、区内でスーパーを経営する5事業者は同21日、廃食油の回収に関する連携協定を締結した。区内5店舗にボックスを設置し、回収は日本航空が担う。鈴木晶雅区長は「環境先進都市を目指す区として取り組みを広げていきたい」と話す。
清瀬市も2月、石油元売り大手・エネオスなどと協定を結んだ。専用ボトルを市の窓口で市民に無料で貸し出し、市内の公共施設で回収している。足立区も6月、バイオ燃料製造会社と同様の取り組みを始めた。
全国油脂事業協同組合連合会によると、国内では年間、飲食店などの事業者から約40万トン、家庭から約10万トンの廃食油が出るとされる。事業者分は動物の飼料のほか、海外の製造施設でSAFなどにリサイクルされているが、家庭分のほとんどは可燃ごみとして捨てられている。
各自治体の取り組みには、捨てられる資源を活用し、脱炭素に貢献する狙いがある。可燃ごみの削減にもつながるため、清瀬市の担当者は「ダブルの効果が期待できる」と語る。
都外では、堺市で来年、国内にこれまでなかったSAFの大規模製造プラントが稼働する予定だ。航空会社や燃料会社には、廃食油の回収システムをいち早く確立し、ビジネスを有利に展開したい思惑もあり、今後、SAFの利用は進むとみられる。政府も2030年までに国内航空会社が使う燃料の1割をSAFに置き換える目標を掲げている。
ただ、十分な量の廃食油を回収するには、一般家庭の理解が欠かせない。
国土交通省が昨年、約1000人を対象に行ったアンケートでは、SAFを「知っている」と答えた人は13・6%にとどまった。最多の66・2%が「知らない」と答え、20・3%が「言葉だけは聞いたことがある」と回答した。
大田区の三須亮平・清掃事業課長は「区民が脱炭素に貢献する上で、生活に近いスーパーに回収ボックスの設置を進めていくことが大事だ。区民に利用してもらえるようPRしていきたい」と意気込みを語った。
SAF Sustainable Aviation Fuelの略。植物由来の廃食油や藻類などを原料とする。燃焼時にCO2を排出するが、原料の植物が光合成で吸収した分と相殺されるため、従来の航空燃料と比べて排出量を実質8割程度削減できるとされる。