5時半
「タラララン、ラララン・・・」
目覚まし時計が朝を告げる。
私はまぶたを閉じたまま布団から手だけを伸ばし、スイッチを押して音楽を止める。
冬の朝。
部屋はファンヒーターですでに暖まってはいるものの、太陽がまだ顔を出していない外は夜が開けきっておらず、空の色は薄ぼんやりとしている。
こんな朝はいつまでも布団にうずもれていたく、ついつい「あと5分」と目覚まし時計のスヌーズ機能を当てにしてまた寝入ってしまう。
けれども今朝は、思い切って眠い目をこすり布団を跳ね上げた。
今日はキム先輩との放送当番の日だ。
着替えをして窓を開ける。
深呼吸をすると、朝のひんやりとした空気が体をきりりとさせてくれる。
ハアーっと吐く息が白い。
「さぁ、勉強しよう。
今度のテストは、物理頑張らないと…。」
私は夜深しが苦手なので、勉強はいつも朝することにしている。
数学や社会、国語はまあまあなのだけれど、どうも理科が苦手。
特に物理。
でも赤点を取るわけにはいかないから、なんとかしなければいけない。
〈キム先輩に教えてもらえればいいんだけど、そんなことお願いする勇気はないし…。
そういえば、最近入部したカン・ジュンサン先輩は科学高校から来たって話だったわ。
数学がすごくできる人だって誰かが言ってたけど、科学高校なんだから、もちろん物理もできるわよね。
カン先輩…、素敵だけど、ちょっと近寄りがたい感じ…〉
「そんなこと考えてたってしょうがないわ。早く始めよう…」
一時間ほど勉強した後、私はいつもより少し早めに切り上げると食卓へ下りていった。
「おはようシニョン。
今日は早いのね。」
「お父さん、お母さん、おはようございます。
今日は放送当番だから、早めにいって準備しないといけないの。」
「あら、そう。
もうお弁当はできているからいつでもでかけられるわよ。」
「ありがとう。」
朝食を食べながらお母さんが私の顔をじっと見る。
「それにしても、今日はずいぶん機嫌がいいわね。
何か他にいいことがあるんじゃない?」
「そう?そんなふうに見える?
でも…それはお母さんにも、ひ・み・つ
私ももう高校生だもの、秘密の一つくらいはあってもいいでしょ。
別に悪いことをしているわけじゃないから心配しないで。
ごちそうさまでした。
行ってきます。」
家を出ると、バス停まで走った。
走らなくても間に合う時間だったけれど、なんだか体が勝手に動いてしまう。
〈早くバスが来ないかな。…〉
学校へ着くとカバンを持ったまま職員室へ行き鍵を借りた。
放送室のドアを開ける。
まだ暖房のついていない部屋は寒い。
はーっと息で手を温めながらカーテンを開け、暖房のスイッチを付ける。
機材を点検し、今日使うレコードを出すと準備OK。
〈よし、と。これでいいわよね。〉
鍵を取りドアの方へ振り向いたその時、キム・サンヒョク先輩がクォン・ヨングク先輩といっしょに放送室へ入ってきた。
「お…おはようございます。」
「あ、おはよう。早いね。
もう鍵を借りに来たというから誰かと思ったら、シニョンだったのか。
もう準備は終わったの?」
「はい、機材も一応チェックしました。大丈夫だと思います。」
「そう、ありがとう。
後は僕達がもう一度確認しておくよ。
来週の準備もあるし、鍵は僕が返しておくから。」
「はい。では、今日よろしくお願いします。失礼します。」
私はキム先輩に鍵を渡し一礼すると放送室を後にした。
〈あーびっくりした。
でも、ああやって、キム先輩は毎朝鍵を開けているんだものね。
来たって不思議はないんだわ。
ドアが開いてキム先輩の顔が見えたときは手が震えて鍵、落としそうだった。〉
シニョンが行ってしまうと、ヨングクは作業を始めたサンヒョクに近づき耳元でささやいた。
「おい、サンヒョク。あの子お前に惚れてるなぁ。
あの尊敬の眼差し…、ただ事じゃないぞ。気をつけろ。」
するとサンヒョクはヨングクのほうに向き直って
「はぁ?シニョンが?あの子はまじめでそんな浮ついた子じゃないよ。」
「まじめな人間は恋をしないのか?そんなことないだろ。
それに、人を好きになるという気持ちは純粋で神聖なものだ。
そうだろ?」
「それは、まあそうだが、僕とあの子は単なる先輩後輩だよ。
シニョンは先輩としての僕を立ててくれているだけさ。」
そう言うとサンヒョクは休めていた手をまた動かし始めた。
「いや、お前と俺を見る目は全然違う。
乙女にとって『尊敬』と『愛情』は同義語だからな。
むやみに親切にして勘違いさせたら罪だぞ。
だから気をつけろといったのさ。」
「僕は部長として後輩に指導しているだけさ。
それ以上でもそれ以下でもないよ。
それもだめだとなると…、どうすればいいの?
おまえ、しゃべってばかりいないでやれよ。」
サンヒョクは手を休ませずに言った。
「まーね、それがお前の部長としてのお役目だもんなぁ。仕方ないか。
気をつけたところで好きになるものはなるんだしね。
さ、さっさとやっちまおうぜ。授業が始まっちまう。」
慌てて作業を始めたヨングクをサンヒョクはチラッと見て、ふと苦笑いをした。
〈あのシニョンが?まさか。それより…〉
サンヒョクはユジンとジュンサンが気になっていた。
二人で自習をサボって以来、毎日罰として放課後の焼却場掃除をしている。
ユジンがサンヒョクによそよそしくなったというわけではないが、ユジンと自分との距離が少しづつ離れていっているような、ユジンと自分との間に目に見えない壁ができつつあるようなそんな気がしていた。
チャイムがなり午前の授業が終わった。
お弁当と放送原稿を持つと、私は急ぎ足で放送室へと向かった。
「失礼します。」
ドアを開けると思ったとおりすでにキム先輩が来ていて、一曲目のレコードをプレーヤーにセットしていた。
「やあ、こんにちは。気分はどう?
緊張しないで、リラックスしてやろうね。
じゃあ、最終確認するよ。
初めシニョンがここまで話して、曲紹介をして音楽が2曲入る。
その後僕に交代して、終わりまで。これでいいよね。」
「はい、よろしくお願いします。」
「そろそろ時間だね、始めようか。」
「皆さんこんにちは。
お昼の校内放送の時間です。
今日は、私、ウ・シニョンとキム・サンヒョクでお送りいたします。
日に日に寒さが増してきています。
風邪などひいていませんか?
もしかして風邪を引いてしまっていたとしても、あなたの心まで寒くはありませんよね。
あなたの胸には、あなたの心を暖かくしてくれる誰かがいてくれる、そうだと思うからです。
その人はあなたのご両親でしょうか。
それとも友人、あるいは想いを寄せる人でしょうか。
もしあなたが誰かに恋をしているとしたら、その想いはその人に届いているでしょうか。
その人もあなたのことを想っていてくれるのであれば、たとえ外は凍てつくような寒さであってもあなたの心はまるで春の野にいるように暖かなことでしょう。
でも、もしあなたの想いがあなただけのものだとしたら、それは悲しい片思いでしょうか。
私はそうは思いません。
確かに、その人と誰かが微笑みあっているのを見れば切ない思いに駆られるかもしれません。
「私に向かって微笑んでくれればいいのに。」と羨む気持ちにもなるでしょう。
それなら、その人を好きになる前の、その人に出会う前の自分に戻りたいですか?
そんなことはありませんよね。
その人を想うだけで胸が高鳴り、その人の笑顔を見ただけで心が温まる。
その人の姿をちらりと見ただけで一日中元気になってしまう。
そんなあなたは、その人を好きになる前よりずっときっと輝いて素敵な人になっているはずだからです。
たとえその思いが叶わなかったとしても、決して自分を貶(おとし)めないでください。
結果が出なかったとしてもそれまでの努力が無駄ではないように、あなたの恋はあなたの心を高め磨いてくれているはずだからです。
私も今恋をしています。
この想いを大切にしていきたいと思っています。
あなたも今の気持ちをどうぞ大切にしていってください。
では、ここで音楽をお届けいたします。
今日は合唱曲を2曲。
『グリーンスリーブス』『春に』です。
音楽をお送りしました。
ここからはキム・サンヒョクがお送りいたします。
これから冬という季節に春にまつわる曲をお届けするのはちょっと変だとお思いですか?
冬は雪が全てを白く覆ってとても美しい季節です。
しかし、同時に辛く厳しい季節でもあります。
木々もまるで死んだように葉を落とし、しんと静まり返っています。
一方春は、花々が咲き乱れ、暖かさが心まで華やいだ気分にさせてくれます。
希望溢れる季節です。
でも、そう感じることができるのも、厳しい寒さを乗り越えてきたからこそではないでしょうか。
今何かで苦労しているあなた。
辛い恋をしている君。
でも、その苦労はいつか必ず報われる時がくるのです。
冬は必ず春となるからです。
希望と命の息吹の溢れる春を思いながら、この冬も楽しく乗り切っていきましょう。
今日の担当は、私キム・サンヒョクとウ・シニョンでした。
それではまた来週。」
「お疲れ様!」
「お疲れ様でした。」
「さ、お昼ごはん食べよう。お腹すいただろう。
シニョンはいつも当番の時食べないでやってたの?」
「はい。緊張してしまってだめなんです。話すの苦手だから。…」
「そうなんだ。それなのになんで放送部に入ったの?」
「え、それは・・・」
まさかキム先輩がいるからとはいえないし、私は困って口ごもった。
「別に詮索しているわけじゃないから、無理に言わなくてもいいよ。
ただ、他にもしゃべるのが嫌いなくせに部にいる人間がいたからさ、どうしてなのかなと思って。
中学のときは、何の部活をしていたの?」
まさか、理由が違うにせよ、私と同じ様にカン・ジュンサン先輩が入部したのもキム先輩がいるからとは私は知る由もなかった。
「合唱部です。」
「あぁ、だから今日の曲、合唱曲なんだ。」
「はい、2曲とも私の大好きな曲です。」
「僕も別に話すのが好きでやってるわけではないからね。
どちらかというと作るのが好きかな。
自分のお気に入りの曲を皆に聴いてもらったりとかね。
今日のシニョンのように。
今日の放送も、聴いてくれた人の中でひとりでも元気になってくれたらいいよね。そういうのが僕のやりがいかな。
今日の内容は良かったと思うよ。
そろそろ年明けくらいから、一年生を中心にしたローテーションにしようか。
来年度は君達が部を引っ張ってゆくんだからね。
シニョン、部長になったらどう?」
「とんでもない!
私は自分のことで手一杯で、とても皆を引っ張ってゆくことなんてできません。
部長にはテソク君がいいと思います。
彼なら元気がいいし、皆がまとまると思います。」
「そうか、テソクね。
ちょっとおちゃらけたところがあって心配だけど、シニョンがそばでサポートしてくれればちょうどいいかな。
ところで、ちょっと立ち入ったことを聞くけど、シニョンはどうして自分の気持ちを相手の人に伝えないの?
シニョンのような子に想われていることを知れば相手も心が動くと思うんだけどな。」
「それは…、私、知っているんです。
“彼”には好きな人がいることを。
“彼”がその人を見つめる眼差しはとても優しいんです。
その人のすべてを包み込むようで、きっとその人がなにをしても許してしまうんじゃないかと思うような…。
それに、その人といるときはとても温かい笑顔をするんです。
そんな優しい眼差しや笑顔を壊してまで、自分のほうに彼の想いを向けたいとは思いません。」
「そう、シニョンは心が広いんだね。強いのかな。
僕だったら、自分の好きな人が他の人を見ているなんて耐えれないけどな。
自分のことを知らないのならともかく、知っているのに…。」
「そんなことありません。
私は臆病なだけなんです。勇気がないんです。
傷つくのが怖いから、見ているだけで精一杯なんです。」
「…なんか僕のほうが励まされちゃったみたいだね。
さ、五分前だ。
もう行かないと。
僕が鍵を閉めていくから、先に行っていいよ。
今日はありがとう。これからもよろしくね。」
そういうと、キム先輩は私に向かって右手を差し出した。
私は一瞬躊躇したが、左手を右手に添えて尊敬の意を表しながら、そっと先輩の手を握らせていただいた。
暖かくて、大きくて、優しい手だった。
いつまでも握っていたかった。
私はそっと手をはずすと一礼して放送室を出た。
私の胸には一足早く春が来た。
「タラララン、ラララン・・・」
目覚まし時計が朝を告げる。
私はまぶたを閉じたまま布団から手だけを伸ばし、スイッチを押して音楽を止める。
冬の朝。
部屋はファンヒーターですでに暖まってはいるものの、太陽がまだ顔を出していない外は夜が開けきっておらず、空の色は薄ぼんやりとしている。
こんな朝はいつまでも布団にうずもれていたく、ついつい「あと5分」と目覚まし時計のスヌーズ機能を当てにしてまた寝入ってしまう。
けれども今朝は、思い切って眠い目をこすり布団を跳ね上げた。
今日はキム先輩との放送当番の日だ。
着替えをして窓を開ける。
深呼吸をすると、朝のひんやりとした空気が体をきりりとさせてくれる。
ハアーっと吐く息が白い。
「さぁ、勉強しよう。
今度のテストは、物理頑張らないと…。」
私は夜深しが苦手なので、勉強はいつも朝することにしている。
数学や社会、国語はまあまあなのだけれど、どうも理科が苦手。
特に物理。
でも赤点を取るわけにはいかないから、なんとかしなければいけない。
〈キム先輩に教えてもらえればいいんだけど、そんなことお願いする勇気はないし…。
そういえば、最近入部したカン・ジュンサン先輩は科学高校から来たって話だったわ。
数学がすごくできる人だって誰かが言ってたけど、科学高校なんだから、もちろん物理もできるわよね。
カン先輩…、素敵だけど、ちょっと近寄りがたい感じ…〉
「そんなこと考えてたってしょうがないわ。早く始めよう…」
一時間ほど勉強した後、私はいつもより少し早めに切り上げると食卓へ下りていった。
「おはようシニョン。
今日は早いのね。」
「お父さん、お母さん、おはようございます。
今日は放送当番だから、早めにいって準備しないといけないの。」
「あら、そう。
もうお弁当はできているからいつでもでかけられるわよ。」
「ありがとう。」
朝食を食べながらお母さんが私の顔をじっと見る。
「それにしても、今日はずいぶん機嫌がいいわね。
何か他にいいことがあるんじゃない?」
「そう?そんなふうに見える?
でも…それはお母さんにも、ひ・み・つ
私ももう高校生だもの、秘密の一つくらいはあってもいいでしょ。
別に悪いことをしているわけじゃないから心配しないで。
ごちそうさまでした。
行ってきます。」
家を出ると、バス停まで走った。
走らなくても間に合う時間だったけれど、なんだか体が勝手に動いてしまう。
〈早くバスが来ないかな。…〉
学校へ着くとカバンを持ったまま職員室へ行き鍵を借りた。
放送室のドアを開ける。
まだ暖房のついていない部屋は寒い。
はーっと息で手を温めながらカーテンを開け、暖房のスイッチを付ける。
機材を点検し、今日使うレコードを出すと準備OK。
〈よし、と。これでいいわよね。〉
鍵を取りドアの方へ振り向いたその時、キム・サンヒョク先輩がクォン・ヨングク先輩といっしょに放送室へ入ってきた。
「お…おはようございます。」
「あ、おはよう。早いね。
もう鍵を借りに来たというから誰かと思ったら、シニョンだったのか。
もう準備は終わったの?」
「はい、機材も一応チェックしました。大丈夫だと思います。」
「そう、ありがとう。
後は僕達がもう一度確認しておくよ。
来週の準備もあるし、鍵は僕が返しておくから。」
「はい。では、今日よろしくお願いします。失礼します。」
私はキム先輩に鍵を渡し一礼すると放送室を後にした。
〈あーびっくりした。
でも、ああやって、キム先輩は毎朝鍵を開けているんだものね。
来たって不思議はないんだわ。
ドアが開いてキム先輩の顔が見えたときは手が震えて鍵、落としそうだった。〉
シニョンが行ってしまうと、ヨングクは作業を始めたサンヒョクに近づき耳元でささやいた。
「おい、サンヒョク。あの子お前に惚れてるなぁ。
あの尊敬の眼差し…、ただ事じゃないぞ。気をつけろ。」
するとサンヒョクはヨングクのほうに向き直って
「はぁ?シニョンが?あの子はまじめでそんな浮ついた子じゃないよ。」
「まじめな人間は恋をしないのか?そんなことないだろ。
それに、人を好きになるという気持ちは純粋で神聖なものだ。
そうだろ?」
「それは、まあそうだが、僕とあの子は単なる先輩後輩だよ。
シニョンは先輩としての僕を立ててくれているだけさ。」
そう言うとサンヒョクは休めていた手をまた動かし始めた。
「いや、お前と俺を見る目は全然違う。
乙女にとって『尊敬』と『愛情』は同義語だからな。
むやみに親切にして勘違いさせたら罪だぞ。
だから気をつけろといったのさ。」
「僕は部長として後輩に指導しているだけさ。
それ以上でもそれ以下でもないよ。
それもだめだとなると…、どうすればいいの?
おまえ、しゃべってばかりいないでやれよ。」
サンヒョクは手を休ませずに言った。
「まーね、それがお前の部長としてのお役目だもんなぁ。仕方ないか。
気をつけたところで好きになるものはなるんだしね。
さ、さっさとやっちまおうぜ。授業が始まっちまう。」
慌てて作業を始めたヨングクをサンヒョクはチラッと見て、ふと苦笑いをした。
〈あのシニョンが?まさか。それより…〉
サンヒョクはユジンとジュンサンが気になっていた。
二人で自習をサボって以来、毎日罰として放課後の焼却場掃除をしている。
ユジンがサンヒョクによそよそしくなったというわけではないが、ユジンと自分との距離が少しづつ離れていっているような、ユジンと自分との間に目に見えない壁ができつつあるようなそんな気がしていた。
チャイムがなり午前の授業が終わった。
お弁当と放送原稿を持つと、私は急ぎ足で放送室へと向かった。
「失礼します。」
ドアを開けると思ったとおりすでにキム先輩が来ていて、一曲目のレコードをプレーヤーにセットしていた。
「やあ、こんにちは。気分はどう?
緊張しないで、リラックスしてやろうね。
じゃあ、最終確認するよ。
初めシニョンがここまで話して、曲紹介をして音楽が2曲入る。
その後僕に交代して、終わりまで。これでいいよね。」
「はい、よろしくお願いします。」
「そろそろ時間だね、始めようか。」
「皆さんこんにちは。
お昼の校内放送の時間です。
今日は、私、ウ・シニョンとキム・サンヒョクでお送りいたします。
日に日に寒さが増してきています。
風邪などひいていませんか?
もしかして風邪を引いてしまっていたとしても、あなたの心まで寒くはありませんよね。
あなたの胸には、あなたの心を暖かくしてくれる誰かがいてくれる、そうだと思うからです。
その人はあなたのご両親でしょうか。
それとも友人、あるいは想いを寄せる人でしょうか。
もしあなたが誰かに恋をしているとしたら、その想いはその人に届いているでしょうか。
その人もあなたのことを想っていてくれるのであれば、たとえ外は凍てつくような寒さであってもあなたの心はまるで春の野にいるように暖かなことでしょう。
でも、もしあなたの想いがあなただけのものだとしたら、それは悲しい片思いでしょうか。
私はそうは思いません。
確かに、その人と誰かが微笑みあっているのを見れば切ない思いに駆られるかもしれません。
「私に向かって微笑んでくれればいいのに。」と羨む気持ちにもなるでしょう。
それなら、その人を好きになる前の、その人に出会う前の自分に戻りたいですか?
そんなことはありませんよね。
その人を想うだけで胸が高鳴り、その人の笑顔を見ただけで心が温まる。
その人の姿をちらりと見ただけで一日中元気になってしまう。
そんなあなたは、その人を好きになる前よりずっときっと輝いて素敵な人になっているはずだからです。
たとえその思いが叶わなかったとしても、決して自分を貶(おとし)めないでください。
結果が出なかったとしてもそれまでの努力が無駄ではないように、あなたの恋はあなたの心を高め磨いてくれているはずだからです。
私も今恋をしています。
この想いを大切にしていきたいと思っています。
あなたも今の気持ちをどうぞ大切にしていってください。
では、ここで音楽をお届けいたします。
今日は合唱曲を2曲。
『グリーンスリーブス』『春に』です。
音楽をお送りしました。
ここからはキム・サンヒョクがお送りいたします。
これから冬という季節に春にまつわる曲をお届けするのはちょっと変だとお思いですか?
冬は雪が全てを白く覆ってとても美しい季節です。
しかし、同時に辛く厳しい季節でもあります。
木々もまるで死んだように葉を落とし、しんと静まり返っています。
一方春は、花々が咲き乱れ、暖かさが心まで華やいだ気分にさせてくれます。
希望溢れる季節です。
でも、そう感じることができるのも、厳しい寒さを乗り越えてきたからこそではないでしょうか。
今何かで苦労しているあなた。
辛い恋をしている君。
でも、その苦労はいつか必ず報われる時がくるのです。
冬は必ず春となるからです。
希望と命の息吹の溢れる春を思いながら、この冬も楽しく乗り切っていきましょう。
今日の担当は、私キム・サンヒョクとウ・シニョンでした。
それではまた来週。」
「お疲れ様!」
「お疲れ様でした。」
「さ、お昼ごはん食べよう。お腹すいただろう。
シニョンはいつも当番の時食べないでやってたの?」
「はい。緊張してしまってだめなんです。話すの苦手だから。…」
「そうなんだ。それなのになんで放送部に入ったの?」
「え、それは・・・」
まさかキム先輩がいるからとはいえないし、私は困って口ごもった。
「別に詮索しているわけじゃないから、無理に言わなくてもいいよ。
ただ、他にもしゃべるのが嫌いなくせに部にいる人間がいたからさ、どうしてなのかなと思って。
中学のときは、何の部活をしていたの?」
まさか、理由が違うにせよ、私と同じ様にカン・ジュンサン先輩が入部したのもキム先輩がいるからとは私は知る由もなかった。
「合唱部です。」
「あぁ、だから今日の曲、合唱曲なんだ。」
「はい、2曲とも私の大好きな曲です。」
「僕も別に話すのが好きでやってるわけではないからね。
どちらかというと作るのが好きかな。
自分のお気に入りの曲を皆に聴いてもらったりとかね。
今日のシニョンのように。
今日の放送も、聴いてくれた人の中でひとりでも元気になってくれたらいいよね。そういうのが僕のやりがいかな。
今日の内容は良かったと思うよ。
そろそろ年明けくらいから、一年生を中心にしたローテーションにしようか。
来年度は君達が部を引っ張ってゆくんだからね。
シニョン、部長になったらどう?」
「とんでもない!
私は自分のことで手一杯で、とても皆を引っ張ってゆくことなんてできません。
部長にはテソク君がいいと思います。
彼なら元気がいいし、皆がまとまると思います。」
「そうか、テソクね。
ちょっとおちゃらけたところがあって心配だけど、シニョンがそばでサポートしてくれればちょうどいいかな。
ところで、ちょっと立ち入ったことを聞くけど、シニョンはどうして自分の気持ちを相手の人に伝えないの?
シニョンのような子に想われていることを知れば相手も心が動くと思うんだけどな。」
「それは…、私、知っているんです。
“彼”には好きな人がいることを。
“彼”がその人を見つめる眼差しはとても優しいんです。
その人のすべてを包み込むようで、きっとその人がなにをしても許してしまうんじゃないかと思うような…。
それに、その人といるときはとても温かい笑顔をするんです。
そんな優しい眼差しや笑顔を壊してまで、自分のほうに彼の想いを向けたいとは思いません。」
「そう、シニョンは心が広いんだね。強いのかな。
僕だったら、自分の好きな人が他の人を見ているなんて耐えれないけどな。
自分のことを知らないのならともかく、知っているのに…。」
「そんなことありません。
私は臆病なだけなんです。勇気がないんです。
傷つくのが怖いから、見ているだけで精一杯なんです。」
「…なんか僕のほうが励まされちゃったみたいだね。
さ、五分前だ。
もう行かないと。
僕が鍵を閉めていくから、先に行っていいよ。
今日はありがとう。これからもよろしくね。」
そういうと、キム先輩は私に向かって右手を差し出した。
私は一瞬躊躇したが、左手を右手に添えて尊敬の意を表しながら、そっと先輩の手を握らせていただいた。
暖かくて、大きくて、優しい手だった。
いつまでも握っていたかった。
私はそっと手をはずすと一礼して放送室を出た。
私の胸には一足早く春が来た。
書き込みありがとうございます。
私も今まで書いてきたときはユジンとジュンサンしかほとんど見えていませんでしたが、今回「お昼の校内放送」というお題をいただいて、昔を思い出して違う視点から書くことができました。
教室のすみいて、じみーで目立たない女の子だった私のことを見ていた人がいたことを知ったのもずっと大人になってからのことでしたが、そんなふうにシニョンのことを見ている人もきっといたでしょうし、もちろんサンヒョクのようにハンサムで優等生の男の子に憧れている女の子はきっとたくさんいたと思います。
でも、いくら素敵な人がいても一人の人を好きになればほかは見えなくなる。
それが普通なのでしょうね。(そうでない人もいるのかな?)
サンヒョクは…本当に ユジンしか見えていないのでしょうね…。
きっと 周りを見渡せば…素敵な恋が待っていたのではないかしら…?
日常の 多分あっただろう風景が やさしく感じられます!
私達も チュンサン達しか見えていないのですね…。
違う風景に出会えて ほのぼのとした気持ちです。
ありがとうございました!
コメントありがとうございます。
サンヒョクにはユジンしか目に入ってないんだと思います。
ヨングクの忠告(?)も効果なしなのでしょう。
それに、気付いたとしてももう遅いですしね。シニョンはとっくにサンヒョクしか見えていない、そう、サンヒョクと同じ状態ですから。
コメント、リンク、ありがとうございます。
私も青春時代はシニョンのように地味で目立たず片思いばかりでしたが、それも遠くから見つめているだけ。
近くに行けば舞い上がって話すこともできなかったですから、近くで一緒に部活動できるシニョンは私からすればとても羨ましいです。
私の願望がかなり入ったお話です。
コメントありがとうございます。
憧れの先輩サンヒョクと一緒に放送できる気弱なシニョンの想いを描きたくて長くなってしまいました。
今回の連作にお誘いただいて、本当にありがとうございました。
う~ん・・・。
誰かを好きになるのに理由はないですね。
大勢の中にいても好きな人はすぐ見つけられる。
何気なく笑った顔がいつまでも心に残る。
廊下ですれ違っただけなのに、その日一日が元気にすごせる。
苦手な事にもチャレンジできる。
恋は魔法のようですね。
ありがとうございます。
放送の内容も完璧なのですが、前後の情景描写がすばらしいと思います。さすが、大御所様!
シニョンの気持ちに全く気が付かない(?)サンヒョク…なんとなくかわいい感じ…親近感を持ちました。
ヨングク…他人のことはよくわかるんですね。だれでもそうなんでしょうか?
シニョン…とってもカワイイ後輩。サンヒョクの周りには、こんな女性がたくさん居たのでしょうね。
poppoさんはサンヒョクがお気に入り(?)ですものね。
誰にせよ、本職の脚本家の方のように主役を際立たせる敵役を書くことができないのが素人の悲しさですが、私はそれでよいと思っています。
誰でもいいところがあるのですから、そちらの方を見ていきたいです。
もう書くことがあるかどうか分かりませんが。(また言ってる。笑)
サンヒョクの良い部分が描かれていますね。
うれしくなりました。
シニョン…。
こういう女性はとても気になります。