シリアのバシャール・アル・アサドは議会選挙を実施する用意があるとロシアのウラジミル・プーチン大統領が発言したようだ。反アサド派も含む選挙だとし ているが、現在、シリア軍と戦っている戦闘員の大半は外国人で、選挙には参加できない。つまり、反政府軍がこの提案を受け入れるとは考え難く、アメリカ政 府も拒否するだろう。
シリアのアサド体制を倒すために軍事作戦を始めた結果、現在の建造物だけでなく遺跡も破壊され、多くの人びとが殺され、難民も膨らんでいる。そうした破 壊と殺戮の黒幕はアメリカの好戦派。そうしたグループのプランを作成している勢力に属している言われているのがブルッキングス研究所だ。
この研究所はAEI、ヘリテージ基金、ハドソン研究所、JINSAといった団体と同じように親イスラエル派。国連大使を経て安全保障問題担当大統領補佐 官に就任したスーザン・ライスの母親、ロイスはブルッキングス研究所の研究員だった。その縁でスーザンはマデリーン・オルブライト(ユーゴスラビアを軍事 侵攻したときの国務長官)と親しい。オルブライトの師はアフガニスタンで戦争を仕掛けたズビグネフ・ブレジンスキー。ロシアを支配、略奪するため、ウクラ イナを制圧すべきだとも主張してきた人物である。
今年6月にブルッキングス研究所のマイケル・オハンロンはシリアに緩衝地帯(飛行禁止地帯)を作り、国を「再構築」、つまり分解し、「穏健派」が支配するいくつかの自治区を作るべきだと主張している。(
ココや
ココ)
シリア政府がオハンロンのプランに賛成するとは思えないが、アメリカ、イギリス、サウジアラビア、トルコ、ヨルダンなどが支援するとオハンロンは想定し ている。こうした自治区を広げることでシリア政府は存在するが、国をコントロールできない状況を作り上げて政権を締め上げようというわけだ。
実際、すでに
イギリスの特殊部隊SASの隊員120名以上がシリアへ入り、IS(イラクとレバントのイスラム首長国。ISIS、ダーイシュなどとも表記)の服装を身につけ、彼らの旗を掲げて活動し ていると伝えられている。通信支援のために250人以上のイギリスの専門家が関与、アメリカも同じようなことをしていると見られている。アメリカがISを 壊滅させようとしていない現実から考えて、こうした特殊部隊は自治区を建設してアサド政権を揺さぶることが目的だろう。
本ブログでは何度も書いているように、シリアの反政府軍に「穏健派」は存在しない。
DIA(アメリカ軍の情報機関)は2012年8月に作成した文書の中で、シリアにおける反乱の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・カイダ系武装集団)で、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けているとしている。当時、アル・カイダ系武装集団の戦闘員は大半がサラフ主義者やムスリム同胞団だったようだ。リビアでもアメリカ、NATO諸国、湾岸産油国などは
アル・カイダ系の武装集団と手を組んでいたが、シリアでも構図は同じだということ。文書が作成されたときに
DIA局長だったマイケル・フリン中将は文書が本物だと認めた上で、そうした勢力をアメリカ政府が支援してきたのは政府の決定だと語っている。
分割統治は支配の常套手段で、西側支配層はイラクやリビアも分割しようとしている。シリアの周辺では1916年にイギリスとフランスが結んだ「サイク ス・ピコ協定」も分割が目的だった。フランスのフランソワ・ジョルジュ・ピコとイギリスのマーク・サイクスが中心的な役割を果たしたことからこの名前がつ いている。
この協定によると、ヨルダン、イラク南部、クウェートなどペルシャ湾西岸の石油地帯をイギリスが、フランスはトルコ東南部、イラク北部、シリア、レバノンをそれぞれ支配することになっていて、後に帝政ロシアも参加するが、協定の存在は秘密にされていた。
協定が結ばれた翌月にイギリスはオスマン帝国を分解するため、アラブ人の反乱を支援しはじめる。工作の中心的な役割を果たしたのはイギリス外務省のアラブ局で、そこにサイクスやトーマス・ローレンス、いわゆる「アラビアのロレンス」もいた。
ロレンスが接触、支援したアラブ人がフセイン・イブン・アリ。この人物にイギリスのエジプト駐在弁務官だったヘンリー・マクマホンが出した書簡の中で、 イギリスはアラブ人居住地の独立を支持すると約束している。これが「フセイン・マクマホン協定」。そのイブン・アリはライバルのイブン・サウドに追い出さ れ、1932年にサウジアラビアが作られる。
「サイクス・ピコ協定」が締結された翌年、1917年の11月にイギリスのアーサー・バルフォア外相がウォルター・ロスチャイルドに宛てに出した書簡の中で、「イギリス政府はパレスチナにユダヤ人の民族的郷土を設立することに賛成する」と約束している。
パレスチナに「ユダヤ人の国」を作ろうという運動を繰り広げたのがシオニストで、その人びとの信じる教義がシオニズム。エルサレムにある丘「シオン」へ戻ろうという意味からシオニズムと呼ばれるようになった。
近代シオニズムの始まりは1896年、セオドール・ヘルツルが『ユダヤ人国家』という本を出版したときだとされているが、その14年前にエドモンド・ ジェームズ・ド・ロスチャイルドはユダヤ教徒のパレスチナ入植に資金を提供、イギリス政府は1838年にエルサレムで領事館を建設している。
サイクス・ピコ協定はオスマン帝国を解体し、フランスとイギリスで利権を分かち合うことが目的だったが、現在、トルコのレジェップ・タイイップ・エルド アン大統領は新たなオスマン帝国を作ろうとしている。シオニストは旧約聖書に書かれた「約束の地」、つまりナイル川とユーフラテス川に挟まれた地域をイス ラエルの領土にしようという「大イスラエル」構想を持っている。
シリア乗っ取りに成功しても、どこかの時点で対立が生じることは不可避だが、その前にロシアがそうした事態を容認するとは思えず、アメリカの好戦派は危 険な道を歩もうとしていると言える。ただ、1991年の湾岸戦争以来、ネオコンはアメリカのいかなる軍事行動に対してもソ連/ロシアは動けないという前提 で動いている。「狂犬理論」を今でも信奉している可能性が高い。
ウクライナでロシア軍は動かなかったが、2014年4月にはアメリカ軍を震撼させる出来事があったと言われている。ロシア領へ近づいたイージス艦の「ド ナルド・クック」の近くをロシア軍の電子戦用機器だけを積んだスホイ-24が飛行、その際に船のレーダーなどのシステムが機能不全になり、仮想攻撃を受け たようだ。その直後、ドナルド・クックはルーマニアへ緊急寄港、それ以降、ロシア領の近くへアメリカの艦船は近づかなくなったという。
2006年にフォーリン・アフェアーズ誌(CFR/外交問題評議会が発行)で、
キール・リーバーとダリル・プレスはロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できると主張し ていた。その思い込みが事実に反することをドナルド・クックの出来事は示している。この経験からネオコンが何かを学べるかどうかは不明だ。事実ではなく妄 想を優先し、同じ間違いを繰り返す点でネオコンは日本人と似ている。アメリカの好戦派には「神の国」を信じ、自分たちは選ばれた人間だから特別だと考えて いる人たちがいるが、かつて日本人も自国を「神州」だと表現していた。