孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソーシャルメディアでの偽情報拡散 X(旧ツイッター)、ブラジルでサービス停止

2024-09-06 22:42:17 | インターネット SNS

(【8月31日 日経】 Xのオーナー、マスク氏(左)とサービス停止命令を出したブラジル最高裁のアレシャンドレ・ジモラエス判事)

【国家関与の偽情報拡散も】
ネット情報が人々の生活に深く浸透するなかで、偽情報などによる政治的利用も深刻な問題になっています。

国家が敵対国に対し、一定の目的で偽情報を拡散させるケースも。アメリカの場合は、中国・ロシアからの攻撃対象になっています。

*****中国のネット世論操作活動、米有権者標的に=SNS分析企業調査****
米大統領選投票日を11月5日に控え、中国が米国の有権者になりすましてソーシャルメディアを利用し、米政治家を中傷し分断をもたらすようなメッセージを流していることが分かった。ソーシャルメディア分析企業グラフィカが新調査を発表した。

「スパムフラージュ」と呼ばれる工作は、中国国家当局とつながりがある世論操作活動の一環。スパム(迷惑メッセージ)を拡散したり、世論誘導のために標的を絞った宣伝活動をネット上で展開したりしている。

専門家によると「スパムフラージュ」は少なくとも2017年から行われているが、こうした工作は選挙が近づくにつれてより活発になっている。50を超えるウェブサイトやソーシャルメディアプラットフォームで数千のアカウントを活用している。

グラフィカの調査チームを率いるジャック・スタッブズ氏は「米国を標的とした中国の世論操作活動が進化し、虚偽的な行為がより高度になっている」と指摘。スパムフラージュが米国の政治的な会話に潜入し、虚偽的行為による攻勢を一段と強めていると説明した。

具体例としては、米国の反戦活動家になりすまし、交流サイト(SNS)のXで複数のアカウントを使って、トランプ前大統領にオレンジ色の囚人服を着せて 「詐欺師」と称したり、バイデン大統領を「臆病者」と呼んだりするミームを作成したものがあるという。

スパムフラージュのメッセージは、民主党もしくは共和党のどちらか一方の政治的立場を支持するものというより、米国社会や政府への批判を高めることを狙っているとみられる。【9月4日 ロイター】
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****米司法当局、ロシアの情報工作を摘発 プーチン氏側近が関与か*****
米司法省は4日、ロシア政府が11月の米大統領選に干渉するための情報工作で使用していた32のドメイン(インターネット上の住所)を差し押さえたと発表した。

発表によると、プーチン露大統領の側近のキリエンコ大統領府副長官が工作を統括し、メディアを偽装して、ウクライナ侵攻などを巡ってロシア寄りに米世論を誘導しようとしていた。

司法省によると、露政府は遅くとも2022年以降、露企業に協力させて、「ドッペルゲンガー(分身)」と称される作戦を展開してきた。ワシントン・ポスト紙やCNN、FOXニュースなど米国の主要メディアに似せた偽サイトを作成。人工知能(AI)も活用して作成した偽の記事や映像を流して、世論の誘導を図った。

一例として、「ホワイトハウスの計算違い」という見出しの偽記事では「ウクライナへの支援継続は失敗だと米国の指導者が認識する時だ」と訴えていた。米国民を装ってネット交流サービス(SNS)のアカウントを作り、偽記事を紹介する投稿もしていた。

米当局が入手した「古き良き米国」と題した情報工作の内部文書は、米大統領選に向けて「ウクライナ侵攻への対処よりも米国内の問題解決に税金を使うべきだ」という世論を喚起することがロシアの利益になると説明。情報工作の対象として、接戦州の有権者、中南米系、ユダヤ系などを挙げ、「目的」の欄には共和党のトランプ前大統領の当選を目指すと示唆する記述もあった。

また、司法省は4日、身分を隠して米国のインフルエンサーと契約し、ネット番組を通してロシアに有利な情報を流布していたとして、露国営メディア「RT」のロシア人社員2人が外国エージェント登録法違反などの罪で連邦地裁に起訴されたことも明らかにした。

RT社員らは、100万人以上の登録者がいるユーチューバーと月40万ドル(約5700万円)などの条件で契約し、制作した動画の司会者に起用。2000件近い動画を公開し、ユーチューブだけでも延べ1600万人以上が視聴した。

今年3月にモスクワ郊外で起きた銃乱射事件については、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)ではなく、ウクライナが関与したとする「陰謀論」を流していた。

ガーランド米司法長官は「今回のドメイン差し押さえは、選挙干渉や民主主義を弱体化させる試みには、積極的に対抗していく姿勢を明確にするものだ」と強調した。

米大統領選を巡っては、米当局は16年と20年の選挙でロシアが介入したとみている。今回は、イランが民主・共和両党の陣営にハッキングを仕掛けた疑いも浮上している。【9月5日 毎日】
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「古き良き米国」と題した情報工作の内部文書・・・そんな露骨で、分かりやすいものが存在するというのもいささか不思議ですが・・・。

【SNSのX(旧ツイッター)、ブラジルでサービス停止 特異な存在、オーナーのマスク氏】
上記のような国家が関与する偽情報はごく一部で、大多数は不特定多数の個人がネットに垂れ流す偽情報でしょう。
SNSの運用にあたってはそうした偽情報や不当情報・危険情報の監視が求められていますが、どこで線を引くのか、どこまで徹底させるかは言論の自由との兼ね合いで難しいところもあります。

現在、一番問題になっているのか、SNSのX(旧ツイッター)と、そのオーナーであるイーロン・マスク氏。

ブラジルでは、ボルソナロ前大統領に有利な偽情報の拡散をめぐって、マスク氏とブラジル政府・司法の対立が激化、Xの全面停止に至っています。

****ブラジル最高裁判事とマスク氏の対立激化 スターリンク資産凍結****
ブラジル最高裁の判事と実業家イーロン・マスク氏の対立が激化している。マスク氏が率いる米宇宙開発企業スペースXが提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」は29日、ブラジル国内の資産が凍結されたと発表した。

きっかけはマスク氏が2022年に旧ツイッターを買収して改称したSNSの「X」だ。

ブラジル最高裁のアレシャンドレ・ジモラエス判事は28日、マスク氏が24時間以内にブラジルでの新たな法的代表者を指名しない限り、Xのサービスを停止すると警告した。

続いて翌29日にはスターリンクが、ジモラエス判事から「スターリンクの資産を凍結し、ブラジル国内での金融取引を禁止する」との命令を受けたと明らかにした。同社はX上で「法的に対処する」意向を示している。

ブラジル高等選挙裁判所(選挙管理委員会に相当)長官を兼任するジモラエス判事は、同国における偽情報撲滅の闘いを主導しており、その過程でマスク氏と対立してきた。

ジモラエス判事が過去に停止を命じたXアカウントの中には、2022年大統領選で選挙制度の信用失墜を狙った極右のジャイル・ボルソナロ前大統領の支持者のものが含まれていた。

同判事は4月、凍結したアカウントの一部をマスク氏が復活させたとして、マスク氏に対する捜査を命じた。一方、マスク氏側は、ジモラエス判事が言論の自由を抑圧していると非難している。

マスク氏はジモラエス判事が「検閲」に従わせるためにXの前法定代理人に逮捕をちらつかせたと主張し、今月、Xのブラジル事業を閉鎖した。ただし、ブラジルのユーザーは引き続き、Xにアクセスできている。

マスク氏はこのほかにも、公金を使ってボルソナロ前大統領とその側近に有利な偽情報の拡散を計画したとされ、ブラジルの別の司法捜査の対象にもなっている。【8月30日 AFP】AFPBB News
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****ブラジル最高裁がXのサービス停止命令 偽情報対策で マスク氏は反発****
ブラジルの最高裁判所がイーロン・マスク氏が運営するSNS=Xについて、偽情報対策のため国内でのサービス停止を命じました。

現地メディアによりますと、ブラジル最高裁は30日、旧ツイッター=Xについて国内でのサービス停止を命じ、電気通信庁へインターネットから遮断するよう通告しました。

グーグルやアップルには5日以内にアプリストアから削除するよう求め、使用した個人や企業には1日あたりおよそ130万円の罰金を科すとしています。

最高裁は偽情報対策として一部アカウントの凍結を求めていましたが、マスク氏は検閲だと反発し、現地事務所を閉鎖していました。

最高裁の判事は「Xはブラジルに無法地帯をもたらしている」などとしていますが、マスク氏は「真実を知られることを抑圧的な政権が恐れている」と反発しています。【8月31日 テレ朝news】
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****最高裁のX全面停止に反発高まる ブラジル、判事弾劾模索の動きも****
ブラジルで最高裁命令によりX(旧ツイッター)が8月31日から遮断されたことを受け、全面停止は「厳しすぎる」との反発の声が国内で高まっている。ルラ政権への批判が上がっているほか、命令を下した最高裁のデモラエス判事の弾劾を模索する動きも出ており、波紋が広がりそうだ。

「北朝鮮へようこそ」。ボルソナロ前大統領は停止命令を受け、Xが利用できない北朝鮮とブラジルを重ね、米IT大手メタの短文投稿サイト「スレッズ」上で、ルラ政権への批判を展開した。野党議員らは判事の弾劾のほか、国会での議論を求めるなど圧力を強めている。

命令の中には、規制を回避できるVPN(仮想専用線)などを使ってXを利用した個人に1日5万レアル(約130万円)の罰金を科すとの内容もある。同国の弁護士会は8月31日、市民への高額な罰金は憲法に抵触する可能性があるとして最高裁に再考するよう申し立てた。

ブラジルのX利用者は、スレッズやブルースカイなど他の交流サイト(SNS)に流れ始めた。【9月3日 共同】
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Xの場合、単に偽情報・ヘイトスピーチを垂れ流しているというだけでなく、オーナーであるマスク氏自信がそうした一方の政治的傾向の言動を強めており、自身の政治的思いを表現する場としてXを利用しているという特殊な側面があります。

****マスク氏、ナチス擁護論を拡散=「見る価値あり」、即削除****
米実業家イーロン・マスク氏は4日までに、自身がオーナーを務めるX(旧ツイッター)に、ナチス・ドイツ擁護者が出演したポッドキャスト番組を「見る価値がある」と投稿、拡散した。

多くの批判を集め、その後削除。「間違いだった。部分的に聞いただけで、全部ではなかった」と釈明した。同氏は昨年にも、反ユダヤ主義的な投稿に同調し、後に謝罪した。

問題となったのは、米FOXテレビの元看板司会者タッカー・カールソン氏のポッドキャスト。出演した自称歴史家のダリル・クーパー氏が、ナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を第2次世界大戦への準備不足から生じた事故かのように表現した。

カールソン氏は2日、クーパー氏を「米国で最も優秀で誠実な歴史家」とたたえ、番組をXに投稿。マスク氏は翌3日、これにコメントする形で拡散した。

カールソン氏による称賛に対し、ユダヤ系団体の名誉毀損(きそん)防止同盟は「ナチスに殺害されたユダヤ人600万人の記憶への侮辱」と批判した。【9月5日 時事】 
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マスク氏は最近はトランプ前大統領と意気投合し、トランプ氏勝利の場合は、財政のコストカッター、首切り人として存分に腕をふるう予定とか。

****トランプ氏、政府効率化に向けた委員会設置へ トップにイーロン・マスク氏を起用****
アメリカ共和党の大統領候補であるトランプ氏は、政府の効率化に向けた委員会を設置し、トップに実業家のイーロン・マスク氏を起用すると述べました。

「政府の効率化委員会を設置するつもりだ。イーロンは忙しくないので、トップを率いることに同意してくれた」(トランプ前大統領)

トランプ氏は5日、ニューヨークで講演し、大統領に返り咲いたら連邦政府の財政の効率化を目指す委員会を設置し、6カ月以内に無駄な政府支出を削減するための行動計画を策定する考えを示しました。また、委員会のトップには実業家のイーロン・マスク氏を起用することを明らかにしました。

マスク氏もSNSに「機会があれば、アメリカのために貢献できることを楽しみにしている。報酬も肩書も評価も必要ない」と投稿しました。【9月6日 ABEMA Times】
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Xに関してはブラジルだけでなく欧米諸国でも問題となっています。世論に対する大きな影響力を持つソーシャルメディアに対し各国は規制を強化する流れにあります。

****ブラジルに続く?...「X」即時停止命令は他国にも広がるのか EU高官は「禁止もあり得る」と警告***
<イーロン・マスクとブラジル当局の数カ月にわたる緊張状態の末、ブラジル全域で「禁止」されることになったX(旧ツイッター)。各国で規制が進むが、停止命令を出す国は出てくるのか──>
(中略)
「自由の国」アメリカではどうなるか?
一方、アメリカでは合衆国憲法修正第1条で言論の自由が強力に保護されている。
とはいえ、ソーシャルメディア運営企業だからといって、規制を完全に免れられるわけではない。

例えば、Xは2023年9月、ソーシャルメディア・プラットフォームに対するコンテンツモデレーション取り組みの公開を義務付けたカリフォルニア州法が、言論の自由を侵害するとして訴訟を起こしたが、同年12月に訴えを退けられた。

カリフォルニア州法は、相応の年間売上高があるソーシャルメディア運営企業に対し、コンテンツモデレーションへの取り組みを詳細に記した報告書を半期ごとに提出するよう義務付けている。

報告書には、好ましくない投稿数とそれらに講じた措置について、データを明記しなければならない。カリフォルニア州連邦地方裁判所判事ウィリアム・シャブは、Xが同法を凍結するよう求めた訴えを退け、次のように述べた。

「報告義務は、ソーシャルメディア運営企業にかなりのコンプライアンス負担を強いるように思われるが、合衆国憲法修正第1条の文脈においては、この報告義務が不当である、あるいは過度の負担になるとは考えられない」(中略)

EU高官は「X禁止もあり得る」と警告
欧州では、ソーシャルメディア・プラットフォームに対する規制が厳しさを増している。欧州連合(EU)は2022年11月、デジタルサービス法(DSA)を施行した。

この法律は、オンラインプラットフォームに対して、コンテンツモデレーションとユーザーの安全性について厳格なルールを定めている。

EU上級代表サンドロ・ゴジ(仏マクロン大統領率いる政党「再生」所属で欧州議会選区から選出)は8月、Xがデジタルサービス法を順守しなければ、欧州で禁止される可能性があると警告した。
コンプライアンス違反の場合は巨額の罰金が科され、欧州運営業者によるブロックもあり得ると、ゴジは述べている。

デジタルサービス法は、欧州のオンライン仲介サービス事業者すべてに適用されている。また、欧州で暮らす4億5000万人の10%以上にサービスを提供している、「非常に大規模なオンラインプラットフォーム(VLOP)」に対しては、いっそう厳格なルールが設定されている。

VLOPには具体的な義務が課されており、違法コンテンツの拡散や社会的危害などの全体的リスクを緩和しなければならない。(中略)

ブラジルにおけるXのサービス停止措置、EU高官からの警告、コンテンツモデレーションの取り組みについて公開を定めたカリフォルニア州法。これらを踏まえれば、各政府がソーシャルメディア・プラットフォームをいっそう厳しく規制する流れが強まっていることは明らかだ。

偽情報やヘイトスピーチ、そして、世論に対する大手テックの大きすぎる影響力に対する懸念から生まれたこのような変化は、まだ始まったばかりなのかもしれない。【9月3日 Newsweek】
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【犯罪利用監視を怠ったとして通信アプリ「テレグラム」CEO、フランスで逮捕】
偽情報というより、犯罪に利用されやすいということで問題になっているのが通信アプリ「テレグラム」ですが、創業者でロシア人のパベル・ドゥロフCEOが監視を怠った疑いがあるとしてフランスで逮捕されています。

****通信アプリ「テレグラム」CEO、パリで逮捕 犯罪利用を監視しなかった疑い 現地メディア報道***
通信アプリ「テレグラム」のCEOが24日、フランスの空港で逮捕されたと現地メディアが報じました。テレグラムが犯罪に利用されているにもかかわらず、監視を怠った疑いがあるということです。

現地メディアによりますと、通信アプリ「テレグラム」の創業者でロシア人のパベル・ドゥロフCEO(39)が24日、パリ郊外の空港で警察に逮捕されました。

テレグラムが麻薬密売などで利用されているにもかかわらず、必要な監視を怠った疑いがあるとして、正式な捜査に入る前の予備的捜査の一環で捜索令状が出されていました。

ドゥロフ氏はプライベートジェット機でアゼルバイジャンからの移動中だったということです。

テレグラムは2013年にドゥロフ氏が兄とともに立ち上げ、UAE=アラブ首長国連邦のドバイを拠点にしています。【8月25日 TBS NEWS DIG】
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500万ユーロ(約8億円)の保釈金で保釈されたドゥロフCEOは、「テレグラムは無法地帯の楽園だ」という見解は「全くの誤り」「毎日数百万件におよぶ有害な投稿やチャンネルを削除している」と強調し、“テレグラムユーザーが現在、世界で950万人に達しているとしながら「成長の痛みとして、犯罪者が悪用しやすくなる事態が起きた」との考えを示し、「だからこそ、この点での大幅な改善を個人的な目標にしている」と続けた。改善は「社内で」既に進行中で、詳細は今後公表されるとした。”【9月6日 AFP】

なお、強権支配国家では、政府への抵抗運動で活用されるSNSが目の敵にされるという側面もあります。
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「情報」戦略で問題を惹起する中国プロパガンダとトランプ大統領のつぶやき

2020-06-13 21:40:46 | インターネット SNS

(「暴力の賛美についてのTwitterルール違反」で非表示になったトランプ氏のツイート【5月29日 IT media NEWS】

【「天安門事件」に触れないという中国要求に応じた「ズーム」】
多くの世界市場を見据える企業にとって、今後さらに拡大が予想される中国という巨大市場を無視することができないのは言うまでもないところですが、政治体制が異なる中国での活動が(日本や欧米の基準からすると)多くの問題をはらんでいることも、これまた言うまでもないところです。

特に、考え方・規制が全く異なる「情報」を扱うIT企業やソーシャルメディアにとっては、非常に厄介な問題が伴います。

****米IT企業、中国政府対応に苦慮 巨大市場魅力も検閲懸念****
新型コロナウイルス感染拡大に伴うビデオ会議ブームで急成長した米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズが中国政府の要請に従い、人権活動家の利用を停止したことを11日に発表した。

ズームに限らず米IT企業は中国政府への対応に苦慮。14億人の巨大市場は魅力的な半面、インターネット上の検閲に懸念は根強い。対中協力姿勢は自由な企業イメージを損なう危険もある。
 
「われわれは間違えた」。在米活動家のアカウント停止を欧米メディアが報じると、ズームは対応の誤りを認めた。ニューヨーク・タイムズ紙は「米中両国で事業展開する企業の厄介な問題」と伝えた。【6月12日 共同】
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上記「ズーム」の件は、中国にとっても最も敏感な部分でもある「天安門事件」に関して生じたものです。

****ズーム、会議閉鎖とアカウント停止は「中国の要求に応じた」****
米ビデオ会議サービス「ズーム」は11日夜、中国の天安門事件に関するビデオ会議を閉鎖し参加していた米国や香港の人権活動家らのアカウントを停止したことについて、中国政府からの要求に応じた措置だったと明らかにした。
 
ズームの声明によると、天安門事件を追悼する4つのビデオ会議について「中国政府が、中国国内で違法とされている活動だと通告してきた。会議の閉鎖と主催アカウントの停止を要求された」という。
 
これらのビデオ会議には中国本土在住のユーザーも参加していたが、「特定の参加者を会議から除外したり、特定の国からの会議参加を阻止したり」する機能は現在ズームには備わっていないため、「ビデオ会議4つのうち3つを閉鎖し、それらに関与していた主催者アカウントを停止する決断に至った」と説明している。 【6月12日 AFP】
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“ズーム側は、中国政府の要求に応じたとしたうえで、「ズームは開かれた議論の促進を目指しているが、事業を行う国の法律を守る必要がある」などとコメントしている”【6月12日 FNNプライムオンライン】とのことですが、政治的立場からの情報管理を否定する欧米・日本の基準には著しく反する行為であり、中国の要請に従えば、今度は欧米からの「中国に屈して重要な価値観を損ねた」と厳しい批判にさらされることになります。

【おびただしい中国プロパガンダアカウント 削除してもスピードと量で圧倒】
「天安門事件」といった敏感な問題にかぎらず、中国と西側では「情報」の位置づけが異なります。
中国にあっては、「情報」は国家の政治的意図を反映したプロパガンダの一環です。

一方、「公正中立」を旨とする西側基準からすれば(現実問題として、そういうものがありうるのかは議論の余地が多々ありますが)、中国政府の意図を反映した「情報」(虚偽情報も含め)を意図的にまき散らすような行為は許されないということにもなります。

****米ツイッター、中国関与疑いの偽情報アカウント17万件削除****
米交流サイト大手ツイッターは12日、中国政府主導の偽情報拡散作戦と関連があるとみられるアカウント17万件超を削除したと発表した。これらのアカウントは香港の民主化運動を標的にしていたほか、米国の信用をおとしめようともしていたという。
 
中国をめぐっては、米ビデオ会議サービス「ズーム」が天安門事件に関するビデオ会議に参加していた米国や香港の人権活動家らのアカウントを停止したことについて、中国政府からの要求に応じた措置だったと明らかにしたばかり。
 
また、中国はニュースや情報へのアクセスを制限するため「万里のファイアウオール」と呼ばれるネット検閲システムを導入しており、ツイッターはユーチューブ、グーグル、フェイスブックなどと同様に中国では利用が禁止されている。
 
だが近年、中国の外交官や国営メディアは政府の主張を広めるため、これらのサービスをこぞって利用している。
 
専門家や一部の欧米政府は、中国政府が自らの主張や虚偽の情報を拡散するため、国が直接管理するか、つながりのあるアカウントを一見そうではないように偽りながら大量に展開しているのではないかとの懸念を示している。
 
ツイッターの発表によると、同社は「非常に積極的な中核」の役割を果たしていたアカウント2万3750件に加え、「拡散係」に当たるアカウント15万件超によって運用・拡大されていた「国家が関与する」ネットワークを解体。
 
また同社の分析によると、これらのアカウントは「主に中国語でツイートしており、中国共産党に都合の良い地政学的な話題を拡散する一方、香港の政治の動きについては虚偽の情報を拡散し続けていた」という。 【6月12日 AFP】
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しかし、中国の情報工作は、スピードと量で「圧倒」するものがあり、対応は困難なようです。

****中国のSNS情報工作、未熟だが「執拗さ」で圧倒 *****
中国政府が背後にいるとみられる欧米のソーシャルメディア上における情報工作は、手口は未熟だが極めて執拗(しつよう)であることが、新たな分析結果から分かった。時間ともに洗練される可能性があり、注意が必要だという。 
 
豪シンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が2万人以上のユーザーを分析した。大半は中国語によるもので、親中メッセージを展開していた。

ツイッターは11日、中国政府が運営する偽アカウントと判断した約17万4000件のアカウントを削除したと発表したが、ASPIが分析対象としたユーザーは、削除された一連のアカウントの中核をなしていた。 
 
ASPIが公表した分析によると、すでに新規のアカウントや別の目的にすり替えたアカウントがツイッターやフェイスブック上に存在しており、黒人男性の殺害事件を発端とする米国内の抗議デモなどに問題に乗じて、これまでと同じく中国寄りのメッセージを拡散させている。 
 
ASPIのリサーチャー、エリーズ・トーマス氏は、中国のツイッター上の情報工作は、2016年の米大統領選に干渉したロシアの「洗練度に比べると足元にも及ばない」レベルだと指摘する。むしろ、大量のスパム攻撃でネット上の議論を圧倒するようなやり方だという。 
 
だが、中国は2019年9月以降、複数のアカウントが削除されても「驚くほど執拗に続けている」とし、「今後改善する可能性があり、注視する必要がある」と話す。(中略)
 
ASPIによると、ツイッターが大規模なアカウントの削除に乗り出しても、中国の工作員は時には数日以内で、新たなアカウントを立ち上げるか、従来のアカウントを別の目的にすり替えるなどして、空白を埋めているもようだ。

ツイッターは今年1-3月に偽アカウントを一掃しているが、すでに似たようなアカウントが出現している。 
 
6月に米国内で警察の残虐行為や人種差別に対する抗議デモが拡大すると、米国の人権に対する「二重基準」を批判する中国政府系とみられる投稿が増えた。米国は二重基準だとの批判は、中国外務省も繰り返し唱えている。 
 
他には「非現実的な幻想をすぐに捨て、米国側との関係を断ち切れ」、「過ちを犯す前に再考しろ」といったツイッター投稿もあり、民主化で米国に支援を求める香港市民をけん制しているとみられるものもあった。 【6月13日 WSJ】
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なお、ツイッターが中国政府系のアカウントを削除したことに対し、中国外務省の華春瑩報道官は12日、削除されるべきなのは、中国を組織だって非難中傷するアカウントだと主張。「中国は偽情報の最大の犠牲者だ」と反論しています。

****ツイッターは中国中傷するアカウント閉鎖すべき=中国外務省****
中国外務省の華春瑩報道官は12日の定例会見で、中国は偽情報の最大の被害者だと主張、米ツイッター<TWTR.N>が偽情報対策に取り組むのなら中国を中傷するアカウントを閉鎖すべきだと述べた。

華報道官は、ソーシャルメディアなどの多くのプラットフォーム上で中国に関する虚偽の情報が多く出回っており、中国側の客観的視点に立った意見が求められていると述べた。【6月12日 ロイター】
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【トランプ大統領のつぶやきを垂れ流して謝罪に追い込まれたフェイスブック】
情報操作・偽情報の問題は中国のような政治体制の国に限った話ではありません。
中国を激しく非難するアメリカでも、その政治トップが怪しげ、あるいは偏った情報をまき散らしているという問題があります。

ミネアポリスで起きた白人警官による黒人暴行死事件に関して、トランプ大統領のツイートに「暴力賛美」の警告をつけたツイッターと大統領のバトルは周知のところですが、このときフェイスブックは特段の対応を取ることなく、その姿勢に対し従業員からも厳しい批判が出ていました。

****投稿規制強化、米分断に揺れる フェイスブックCEO「謝罪」 SNS「公正中立」に限界 ****
白人警官による黒人暴行死事件への大規模な抗議デモに揺れる米国で、SNS(交流サイト)が表現の自由と安全や安心の間で揺れている。

米フェイスブックが投稿に対する制限を強める方針を5日に示し、運営各社の足並みがそろってきた。ただ、自由な発言を求めるトランプ米大統領らが反発するのは必至で、米社会の分断と軌を一にして各社の苦悩も深まっている。

「自分の先週の決断が多くの仲間を怒らせ、失望させ、傷つけたか分かっている」。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は5日、社内SNSを通じて1400語近い長文のメッセージを発信した。このなかで国家による武力行使などに関する投稿の制限を見直す考えを示した。

ザッカーバーグ氏が実質的な謝罪に追い込まれたのは、トランプ氏の1週間ほど前の投稿を黙認したためだ。「略奪が始まれば銃撃も始まる」。黒人男性の暴行死事件に抗議するデモを武力で抑えつけるととれる内容を放置し、社内外で批判が高まった。

1日にはストライキが起き、複数の社員が辞職している注意を促す注記を加えることも検討すると盛り込んだ。

同様の取り組みでは米ツイッターが先行し、若年層の人気が高い画像・写真共有アプリ「スナップチャット」を運営する米スナップも3日、トランプ氏の投稿の表示を減らす方針を示している。

SNSの運営企業は公正中立を掲げ、利用者の投稿を制限することに慎重な姿勢をとってきた。今回の動きにより、直前まで「当社が真実の仲裁人になるのは適切ではない」と公言していたザッカーバーグ氏が率いるフェイスブックを含め、各社が制限を強める姿勢を鮮明にする。だが、先行きは見通しにくい。

「過激なエバン・シュピーゲルCEOは極左の暴動の動画を拡散し、利用者に米国を破壊させようとしている」。スナップがトランプ氏の投稿の拡散を制限する方針を打ち出すと、同氏の選挙陣営は強い調子で非難した。

本人もツイッターが自分の投稿に注記を付けると激怒し、表現の自由を盾にSNS運営企業への保護を弱める大統領令に署名した。

トランプ氏のめざす法改正が思惑通りに進むかは不透明だが、公正中立の姿勢を維持しきれなくなったSNSの運営企業の先に広がるのはいばら道だ。

そもそも注記を付ける行為が思想や信条を反映しているととられる可能性が高く、社会の分断が深まるなか反発を招きやすくなっている。判断を独立した第三者委員会に委ねる動きもあるが、効果は未知数だ。

11月の大統領選まで5カ月を切り、政治に巻き込まれやすくなっているのも悩みだ。特にフェイスブックでは前回の大統領選で個人情報の不適切な利用や外国政府の介入といった問題が噴出し、対応に追われた経緯がある。

ザッカーバーグ氏は5日のメッセージで選挙対策に自信を示す一方、こう漏らした。「取り組みを進める中でやるべきことがさらに見つかるはずだ」【6月7日 日経】
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【投稿などへの監視強化 どういう基準で?】
フザッカーバーグCEOの謝罪でもフェイスブックへの反トランプ側からの不満は収まっていないようで、バイデン氏が投稿などへの監視強化を求める書簡を公表しています。

****バイデン氏陣営、投稿への監視強化をFBに要求…「トランプ氏の言うことを何でも許容」****
米大統領選で民主党候補となることが固まったジョー・バイデン前副大統領の陣営は11日、米フェイスブック(FB)に対し、「公正な選挙を確保するため」として投稿などへの監視強化を求める書簡を公表した。
 
書簡でバイデン陣営は「FBは、ドナルド・トランプ(大統領)が言うことを何でも許容し続けている」と指摘し、「選挙への参加方法についてウソをつくことなどを禁止する明確なルールが必要だ」と規定の見直しを求めた。
 
トランプ氏は5月、郵便投票について「詐欺だ」などとツイッターやFBに投稿した。11月の大統領選挙で西部カリフォルニア州が郵便投票を認めていることを念頭に置いているとみられている。ツイッターは警告を表示したが、FBは対応をとっていない。
 
FBは、運営会社によるSNS上の監視活動に慎重な姿勢をとっている。FBは11日に声明を出し、「選挙で選出された国民の代表がルールを設定し、それに従う。賛同できない内容であっても、政治的言論は保護する」との考えを示した。【6月12日 読売】
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ただ、「監視」には基準が必要で、どういう立場で「監視」するのか・・・そのこと自体が一定の政治的立場を示すものともなって、反対意見を認めないことになる懸念も。

明確なフェイクはともかく、表現の自由とのかねあいで、なかなか微妙な問題です。

トランプ大統領のように、あることないことまき散らすような存在があると、こうした厄介な問題が表面化します。

 

 

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イスラエル、17日総選挙 問われる対イラン・ヒズボラ及びパレスチナ強硬路線と宗教政党影響力

2019-09-13 22:06:16 | インターネット SNS

(【91日 朝日】)

 

【再選戦略から中国、北朝鮮、イランに対して対話姿勢を前面に出し始めたトランプ大統領】

中国、北朝鮮、イランに対してこれまで強硬な姿勢を見せてきたトランプ大統領ですが、ここにきて取引・会談で合意形成を求めるような動きが目立ちます。

 

“トランプ氏、対中関税を2週間延期 「善意のしるし」とツイート”【912日 AFP】

“トランプ大統領「中国との貿易交渉 暫定合意の検討ありうる」”【913日 NHK】

 

これに呼応して中国側も

“中国、米国産大豆を購入 通商協議控え歩み寄りの兆し鮮明に”【913日 ロイター】

 

おそらく背景には、米中貿易戦争で国内景気が悪化しては、自身の再選も消えてしまうとの危機感があるのでしょう。

 

****トランプ氏支持率、景気不安で失速=貿易戦争で物価高騰に懸念―米世論調査****

米紙ワシントン・ポスト(電子版)は10日、トランプ大統領の支持率が38%で、7月公表の前回調査から6ポイント低下したとする世論調査結果を掲載した。

 

不支持は56%。米中貿易戦争が過熱する中、景気の先行きに対する不安から、政権がよりどころとする経済政策への不信感が高まっている。

 

経済政策への支持率は前回調査比で5ポイント低下し46%。前回調査では移民対策、銃規制、気候変動など政策分野別の支持率のうち、経済政策だけが5割を超えたが、今回は不支持が47%で支持を上回った。(後略)【911日 時事】 

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また、再選に向けて“目に見える成果”を出したいという思いもあるでしょう。

 

北朝鮮関連では、「われわれは短距離ミサイルを決して制限していない」と飛翔体発射を問題視せず、

“トランプ氏、非核化協議に前向き=北朝鮮、9月下旬再開の用意”【910日 時事】

“トランプ大統領 北朝鮮 キム委員長との年内会談に意欲示す”【913日 NHK】

 

イランについては

“解放されたイランのタンカーがシリアに 「シリアに石油売らない」の約束反故か”【99日 毎日】

“イスラエル「イランに秘密核兵器施設」 明確証拠示さず”【910日 朝日】

といった、これまでなら緊張関係が更に悪化しかねない問題が表面化するなかで、

 

“トランプ氏、対イラン制裁緩和に含み 「取引期待している」”【912日 AFP】と関係改善に向けた姿勢を強めています。

 

また、イラン側が首脳会談の可能性を否定しても、“トランプ氏「イランは会談を望んでいる」 国連総会での実現模索か”【913日 AFP】と、イラン側対応を問題視していない様子。(経済的に苦境にあるイラン側、特にロウハニ大統領が何らかのアメリカとの関係改善を求めているのは事実でしょう。あとは最高指導者ハメネイ師がどの時点で許すかどうかですが)

 

トランプ大統領が中国、北朝鮮、イラン問題で示す対話・取引を求める姿勢は、10日の強硬派ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の解任にも通じるものでしょう。

対話・取引を求めるうえでは、強硬論に固執するボルトン氏は邪魔な存在でしかありません。

 

【一方、再選戦略から対イラン・パレスチナ強硬姿勢をアピールするイスラエル・ネタニヤフ首相】

上記のように、融和的な姿勢に転じたかのようにも見えるトランプ大統領に対し、イラン問題で依然として強硬な姿勢を見せているのがイスラエルのネタニヤフ首相。

 

イランと密接な関係にあるヒズボラとの間で一触即発の緊張を生んでいます。

 

****対イラン代理戦争も辞さないネタニヤフの危険な火遊び****

<総選挙を前に最大の脅威であるイランへの攻勢を強化。しかし裏目に出れば再選を逃すだけでは済みそうにない>

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17日に総選挙を控えるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、イランへの攻勢を強めている。

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1日にはレバノンとの国境地帯で、イスラエル軍とヒズボラ(イランの支援を受けるシーア派武装組織)が交戦。両者が戦火を交えたのは20067月以来だ。アナリストたちは、戦闘が全面戦争に発展する危険性を警告している。

事の発端は824日にイスラエルがシリア国内を空爆し、ヒズボラの司令官2人が死亡したことだ。ヒズボラはこれに対し、報復を宣言していた。

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1日、ヒズボラはイスラエル北部に対戦車ミサイルを発射。これに対し、イスラエルはレバノン南部にあるヒズボラの拠点を砲撃した。

ネタニヤフは一連の攻撃について、代理勢力を介したイランのあらゆる挑発に応戦する姿勢を示すためだとしている。イスラエルはヒズボラがイランから技術提供を受けて、精密誘導ミサイルを生産しようとしていることに懸念を募らせている。

だが、別の見方もある。観測筋は、ネタニヤフが自らの汚職疑惑から国民の注意をそらすために、一連の攻撃に踏み切った可能性もあるとみている。

アメリカの当局者たちは、これを危険なゲームだと指摘する。紛争の拡大はネタニヤフ再選の可能性を狭めかねないばかりか、中東に駐留する米軍を危険にさらす可能性がある。折しもドナルド・トランプ米大統領は、イランのハサン・ロウハニ大統領との関係改善を模索中だ。

「一連の攻撃にリスクがないと考えるのはばかげている」と、民主・共和の両政権で中東問題顧問を務めたデニス・ロスは言う。「砲弾が誤った標的に当たれば、事態は制御不能になる」(中略)

新たな戦争を回避したいネタニヤフも、ヒズボラとの直接対立は避けてきた。しかし総選挙を数週間後に控えた824日、ネタニヤフはヒズボラとの暗黙の了解を破った。

全面対決と紙一重の戦略
(中略)米政府当局者によると、マイク・ポンペオ国務長官はネタニヤフとレバノンのサード・ハリリ首相に自制を求めた。

 

だがネタニヤフはイスラエル軍がシリアを攻撃したと発表して事態を悪化させたと、歴代国務長官の中東顧問を務めたアーロン・デービッド・ミラーは言う。

「安全保障を売りものにするネタニヤフのイメージは確かに強化されるだろう」と、ミラーは言う。「しかし再選のためのイメージ戦略は、ヒズボラとの全面対決と紙一重だ。ヒズボラの攻撃でイスラエル人の死者が出た場合、ネタニヤフは責任を問われる。そして、ヒズボラとの戦いをエスカレートさせる」

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25日の3度目の攻撃はイラク国内を標的にし、在イラク米軍にも影響を与えた。無人機がシリアとの国境近くのイラク国内で輸送隊を攻撃し、親イラン派民兵組織「人民動員隊」の指揮官などが死亡した。

米軍に矛先が向かう恐れ
かつてネタニヤフは、イスラエルを攻撃するために領土の使用を許可した全ての国に苦しみを与えると警告した。「誰かがなんじを殺すために立ち上がったら、先にその人物を殺せ」と、彼はユダヤ教聖典の有名な一節を引用してツイートした。(中略)

さらに状況を複雑にしているのは、トランプ政権の相反する対応だ。まずポンペオは「イラン革命防衛隊による脅威から自らを守るイスラエルの権利」を支持すると述べた。

だがその後、米国防総省はイラク民兵によるイラク駐留米軍への攻撃を懸念したようで、輸送隊への攻撃についてアメリカの関与を完全に否定する声明を発表した。

「われわれはイラクの主権を支持し、イラクで暴力を扇動する外部の行為者によるあらゆる潜在的な行動に対して繰り返し声を上げてきた」と、国防総省のジョナサン・ホフマン報道官は言う。「米軍はイラク政府の招きに応じて活動しており、現地のあらゆる法律と指示に従う」

ミラーによれば、現在の状況を非常に危険にしているのは、イスラエルの作戦がアメリカの支配する空域で行われたことだ。「国防総省があれだけ慌てた理由は明らかだ。親イラン派民兵の反撃の矛先が駐イラク米軍に向かうことを恐れている」

それでもネタニヤフは、再選のために危険を顧みずにさらなる攻撃を仕掛けるのか。

「ネタニヤフは総選挙までに安全保障に関わる事件があれば、最終的に自分が有利になると考えているようだ」と、中東ニュースサイトのコラムニスト、マザル・ムアレムは言う。「だから、イスラエルを戦争に巻き込むような行動を取りかねない」

危険なゲームに、しばらく終わりは見えそうにない。【911日 Newsweek
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ネタニヤフ首相の言動は、上記の総選挙対策としての強硬姿勢という側面のほか、周辺国への攻撃を通じてイランの脅威を訴え、トランプ大統領のイランとの対話を求める動きをけん制する狙いもあると指摘されています。

 

もっとも、アメリカ国内には、ネタニヤフ首相の“火遊び”でアメリカが戦争に巻き込まれることを警戒する思いがあることは上記のとおり。

 

ネタニヤフ首相は総選挙対策として、対イラン・ヒズボラ強硬姿勢だけでなく、パレスチナ問題でも支持基盤の右派層に向けて強硬姿勢をアピールしています。

 

****ヨルダン渓谷「併合する」=選挙控え右派にアピール―イスラエル首相****

イスラエルのネタニヤフ首相は10日、パレスチナが将来の国家の一部とみなす占領地ヨルダン川西岸の東部に位置するヨルダン渓谷について、自身の続投を前提に併合する意向を示した。17日の総選挙を控え、右派の有権者にアピールする狙いがある。

 

首相はテレビ演説で「新政権発足後、イスラエルの主権下に置く」と表明した。首相は、政権樹立に失敗した4月の総選挙の直前にも西岸各地のユダヤ人入植地を併合すると訴えていた。

 

同渓谷はヨルダンに隣接し、西岸全体の面積の約30%を占める。イスラエルは以前から「国境防衛」を名目に渓谷を永続的に支配する姿勢を示している。【911日 時事】 

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こうした動きは、従来の考えでは、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」案を支持する国際社会の反発を招く“禁じ手”ですが、イスラエル総選挙後に発表される予定のトランプ大統領の「世紀の取引」でどのように位置づけられているのかは知りません。

 

【接戦が予想されるイスラエル再選挙】

いずれにしても、ネタニヤフ首相が対イラン・ヒズボラ、対パレスチナでしきりに強硬姿勢をアピールしているのは、それだけ総選挙の行方が微妙な情勢にあるからでもあります。

 

結果次第では、自身の汚職疑惑で訴追を受ける事態にも。

 

****ネタニヤフ首相、続投へ多難 再選挙、支持基盤が分裂****

9月17日投開票のイスラエルの総選挙(定数120)で、ネタニヤフ首相が厳しい戦いを強いられている。4月の総選挙後に組閣に失敗し再選挙となったが、さらなる混戦が予想される。政策的な争点に乏しく、焦点は汚職疑惑を抱えたネタニヤフ氏の続投の是非に絞られている。

 

4月の総選挙では、35議席を得たネタニヤフ氏率いる与党リクードが勝利を宣言したが、その後の連立工作に失敗して組閣できず、同国初の再選挙になった。

 

ネタニヤフ氏が苦戦する理由の一つは、支持基盤である右派勢力の分裂だ。

 

ユダヤ教超正統派の徴兵免除をめぐり、連立入りを拒んだ極右政党「イスラエル我が家」(5議席)がネタニヤフ氏への不支持を表明し、野党との選挙協力に動いている。与党は他の右派勢力で連立政権を目指すが、過半数の議席を得られる見通しは立っていない。

 

一方、ガンツ元参謀総長が率いる野党「青と白」(35議席)をはじめとする中道・左派勢力も、過半数には届かないとみられている。野党内にはネタニヤフ氏を排除した与党との「大連立」を提案する声もある。

 

これに対し、与党は所属候補にネタニヤフ氏への支持を誓約させるなど、神経をとがらせている。

 

ネタニヤフ政権は中東和平をめぐり、トランプ米大統領との太いパイプを生かし、強硬な政策を続けてきた。政権交代が実現すれば、イスラエルの対米関係やパレスチナ政策が変化する可能性もある。報道各社の世論調査では与野党の競り合いが続いている。

 

与党、訴追阻止も

(中略)検察は2月、大手通信企業の経営上の便宜を図った見返りに、同社が運営するニュースサイトに自身に好意的な報道を求めたなどとして収賄や背任などの罪でネタニヤフ氏を起訴する方針を決めた。10月には本人の言い分を聞き取る司法手続きを始め、その後に正式起訴をする予定だ。

 

総選挙でネタニヤフ氏の続投が決まれば、与党はネタニヤフ氏の訴追を阻む動きに出るとの見方が強い。実際、5月には与党が、国会が反対すれば起訴できないように法改正をする動きをみせている。(後略)【829日 朝日】

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【再選挙で問われるユダヤ教超正統派を代表する宗教政党の影響力】

ネタニヤフ首相が組閣に失敗して再選挙に追い込まれたのは、本来同首相の強硬姿勢を支持する立場にある世俗的な極右政党「イスラエル我が家」が、ユダヤ教超正統派の徴兵免除をめぐり宗教政党と対立したためですが、このユダヤ教超正統をめぐるイスラエル社会の反応も興味深いところです。

 

****ユダヤ教のルール、強制に反発 イスラエル****

17日に総選挙を控えるイスラエルで、ユダヤ教に基づく制度の是非が焦点になっている。宗教的な結婚しか認めず、週末は交通機関が止まる。そんな伝統をどこまで維持するべきなのか。

 

 ■離婚、決定権は男性側のみ 借金肩代わりで合意

「神は信じています。でもこんなルールはあまりに古くさい」

テルアビブ近郊に住むマリーさん(38)は、暴力を振るう夫と離婚するのに5年間、苦しんだ。原因はユダヤ教に支配された制度だ。離婚の決定権は男性側にしかない。

 

マリーさんが結婚したのは2010年。夫は2歳下の弁護士だった。結婚生活が始まると、アルコール依存の夫に日々暴力を振るわれた。1年半後、マリーさんは離婚を決意した。

 

苦悩の始まりはここから。離婚に妻の同意は必須ではないのに、夫の同意は絶対条件とされる。でも夫は同意してくれない。裁判所も夫に同意を求めたが強制はできない。

 

このままでは新たな相手との間に子ができても嫡出(ちゃくしゅつ)子扱いされない。「私を苦しめるため彼は離婚に同意しなかった」。マリーさんは夫の借金約200万円を肩代わりするのを条件に、やっと合意を取り付けた。「もう二度と、この国で正式な結婚はしない。自分の人生は自分で選ぶ権利があるべきです」

 

イスラエの家族法はユダヤ教を色濃く反映する。宗教指導者のもとでの結婚しか認められず、離婚も宗教裁判所が管轄する。そこで国内での結婚を避ける動きもある。(中略)国外で結婚するカップルは毎年約1割を占め、事実婚を選ぶ人も珍しくない。

 

マリーさんの離婚を支援したバルイラン大学ラクマンセンターのルース・ハルペリンカダリ教授(家族法)は「ユダヤの伝統を守ることが個人の権利の侵害につながっている。特に家族法は男性が女性を管理する考えが根強く、国際機関から批判も受けている」と話す。

 

 ■安息日、公共交通ストップ 60%「動かすべきだ」

イスラエルの制度にはユダヤ教のルールが随所に組み込まれている。金曜日の午後から土曜日にかけては安息日で公共交通機関が止まる。ユダヤ人が無許可で仕事をすることは禁止。多くの商店も閉じる。

 

国民の間では反発が強い。イスラエル民主主義研究所が8月に発表した調査結果によると、安息日に公共交通機関を動かすべきだと考えるユダヤ人は60%。非宗教的な結婚を認めるべきだと考える人も59%だ。ユダヤ人のうち自らを「非宗教的」と捉える人は4割に上ると言われている。

 

一方、ユダヤ教の伝統を愚直に守るのが「超正統派」の人々。黒い帽子に黒いスーツ、あごひげに長いもみあげといった格好で知られる。独自の教育システムが認められ、男性は初等教育を終えるとユダヤ教の勉強に専念。国民の義務である兵役は免除される。人口の1割強で、影響力は無視できない。

 

宗教の強制に反対する活動を続けるNGO「ビー・フリー・イスラエル」のシャケッド・ハッソン氏は「超正統派が伝統を守るのはいいが、それを全員に強制するのは間違いだ。多様な形で宗教と付き合う考え方が最近は広がりつつある」と話す。

 

 イスラエル、17日に総選挙 政権の連立相手は宗教政党

イスラエル政界では、超正統派を代表する宗教政党が強い影響力を持つ。ネタニヤフ政権にとって欠かせない連立相手の地位を維持してきたからだ。

 

総選挙は比例代表制のため少数政党が乱立する。単独過半数の議席を得る政党はなく、ネタニヤフ首相は「右派+宗教政党」の連立政権を原則としてきた。二つある宗教政党は前回選挙で国会の120議席のうち合わせて16を獲得。政権を支える代わりに宗教政策を維持させる戦略に成功している。

 

ただ今回の総選挙はネタニヤフ氏自身が汚職疑惑で苦戦し、敗れれば宗教政党も今の地位を失いかねない。

 

野党は非宗教的な政府への転換を訴える。極右政党「イスラエル我が家」のリーベルマン党首は「宗教の押しつけには反対だ」と明言。最大野党の中道「青と白」も「リベラルな政府を目指す」として非宗教志向の有権者の取り込みを図る。

 

宗教政党の一つ「ユダヤ教連合」のイツハク・ピンドロス議員は「確かに今回、宗教政党は危機にある」と苦境を認めつつ、「ユダヤ国家としての伝統を守るのが最優先だ」と強調する。「70年前の初代内閣にいて、今も同じ政策を持ち続けているのは我々だけだ。宗教派が結束して勝てると信じている」【913日 朝日】

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17日の総選挙結果が、イラン・パレスチナ問題という観点からも、また、ユダヤ教超正統派をめぐる問題でも、注目されます。

 

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ネット上に氾濫する「フェイク情報」規制と「表現の自由」の難しいバランス

2019-07-11 21:59:19 | インターネット SNS

(カイロのタハリール広場で、「ムバラク政権打倒」の気勢を上げる市民たち=2011年2月、越田省吾撮影【7月3日 GLOBE+】 「アラブの春」においてはSNSが大きな役割を担ったとされています。)

 

【「テロ対策」を大義名分とするSNS規制の流れ】

現代社会においてソーシャルメディアが圧倒的な存在感をもって多くの人々の生活・思考・行動に影響を与えていることは今更の話で、その結果、ソーシャルメディアに氾濫するフェイク、悪意に満ちたヘイト、情報操作を意図した国家・特定のグループによる陰謀的な情報など、深刻な問題が表面化しているのも、これまた今更の話です。

 

 

既存のメディアによる「報道」には公正さ・正確さが要求されるのに対し、ソーシャルメディアの情報は「表現の自由」と「市民参加」の実現という観点から、多くの制約の枠外にあります。その結果、冒頭で述べたような深刻な問題を引き起こすところともなっています。

“政治的分断を深め、ヘイトを拡散することに役立っている”とも指摘されるソーシャルメディアですが、「表現の自由」や「市民参加」という面を考えると、その規制は難しい問題をはらんでいます。

 

そうしたなかで、“テロリストに悪用されるのを防ぐ”という観点からの規制が急速に広まっています。

 

****テロのSNS悪用阻止へ=官民が国際会議、宣言採択―仏****

ニュージーランド(NZ)のクライストチャーチで起きた銃乱射テロから2カ月となる15日、インターネット交流サイト(SNS)がテロリストに悪用されるのを防ぐ取り組みを検討する国際会議がパリで開かれた。

 

各国首脳や大手IT企業トップらが「クライストチャーチ宣言」を採択し、テロを助長する危険思想や暴力的な投稿の拡散防止へ向けた官民協力を確認した。

 

会議はフランスのマクロン大統領とNZのアーダーン首相が共同議長を務めた。アーダーン氏は声明で「クライストチャーチのような悲劇を起こさないための具体的な措置を講じた」と強調。

 

マクロン氏は「自由で開かれたインターネット環境を構築しなければならないが、われわれの価値観と市民も守られるべきだ」と主張した。

 

宣言で各国政府は、テロや暴力的な過激主義に立ち向かい、適切な法整備に努める方針を確認。IT企業側は、テロリストや過激主義者の投稿とネット上での拡散を阻止し、危険な投稿の「即時かつ永久的な削除」を約束した。ただ、法的拘束力はない。

 

宣言は英国やカナダ、欧州連合(EU)欧州委員会など10の国・機関のほか、フェイスブック(FB)やグーグル、アマゾンをはじめとする大手IT企業が採択。会議に出席しなかった日本やスペインなども支持を表明した。一方、中国や米国は加わっていない。【5月16日 時事】

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上記のような流れを受けて、SNSなどのネット上の「フェイク情報」に国家が罰則をもって厳しく取り締まる傾向が進んでおり、そのひとつ、シンガポールの規制が注目を集めました。

 

ただ、いったい何を持って誰が「フェイク」と判断するのか? “テロ対策”を大義名分にして政権側にとって都合の悪い情報は「フェイク」とされ、言論弾圧に利用されるのではないか? との警戒・不安もあります。

 

****フェイク情報に厳罰、波紋 シンガポール、禁錮刑科す新法****

フェイクニュース」をネットで発信・拡散し、削除しない人や組織に厳罰を科す新法がシンガポールで成立した。同種の動きは他国でも広がっており、政治権力による言論抑圧につながりかねないとの批判が出ている。

 

 ■「閣僚が判断」に批判

シンガポールで成立したのは、「オンラインの虚偽情報・情報操作防止法」。「全部または一部が虚偽、もしくは誤解を招く情報」を発信した人や組織に政府が削除や訂正を要求でき、要求に応じなければ個人でも禁錮刑や罰金刑を科される。虚偽かどうか判断する権限は閣僚に与えられる。

 

国会で野党は「民主主義を守るためでなく、絶対的な力を行使したい政府のための法律だ」と反論したが、与党などの賛成多数で5月8日、可決した。

 

東南アジアのニュースを報じるネットメディア「ニューナラティフ」のピンジュン・サム氏(39)は「政府の気に入らない情報は何でもフェイクニュースとみなされかねない」と指摘する。(中略)

  

「フェイク」とされる情報やニュースへの規制は、表現の自由を重んじる欧州でも始まっている。選挙で候補者に関するウソの情報が広がったことなどが背景にある。

 

ドイツで昨年から本格運用が始まったフェイクニュース規制法では、苦情を受けたSNSの運営会社が、内容の違法性を判断したうえで投稿を一定期間内で削除することが義務づけられた。

 

フランスでも昨秋、選挙の際の虚偽報道を防ぐための法律が成立。ロシアでは今年3月、不正確な情報を拡散した個人や法人に罰金を科す新法ができた。

 

 ■市民の検証「支援を」

米国ではトランプ大統領が、自身に批判的な新聞やテレビ局を「フェイクニュース」と非難。日本でも菅義偉官房長官が記者会見での東京新聞記者による質問を「正確な事実に基づかない」と批判した。

 

「最悪のシナリオは、公的権力がフェイク情報対策を口実に、言論統制に乗り出すこと」。日本新聞労働組合連合(新聞労連)の南彰・中央執行委員長は、こう懸念する。

 

南氏は、ファクトチェックはメディアが担うべきで、「権力が介入する余地をなくしていく必要がある」と考えている。新聞労連としてもネット上の流言、政治家の発言などの真偽を確かめる記事を書く記者への支援を検討したいという。

 

元NHK記者で、NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ」副理事長の立岩陽一郎氏も「情報の真偽を判断するのは政府ではなく、主権者である国民、市民でなくてはならない」と指摘する。(後略)【6月8日 朝日】

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【「表現の自由」という“きれいごと”より国家の利益という“本音”重視へ】

シンガポールは、もともと政府監視が厳しい国家ですから、このような恣意的運用の恐れもある「フェイク情報」規制が出てきたことは、それほど驚くことでもありません。

 

驚くべきは、こうしたシンガポールの対応に「言論の自由」を普遍的価値観としてきた欧米諸国からほとんど批判がなかったことでしょう。

 

それだけ、ネットの情報への対応についても、また、基本的価値観と現実的利害に関する政治の姿勢という面でも、世界は大きくかわりつつあるようです。

 

****世界で進むSNS規制 いま何が起きているのか、専門家に聞いた****

いま世界では、テロ防止や犯罪抑止という理由で、政府がSNS規制の法律をつくったり、また規制に向けた議論が起きたりという例が相次いでいます。

 

この先、どんな未来が待ち受けているのか。「個人の自由やプライバシー」と「政府による監視」の関係をどう考えればいいのか。中東諸国はじめ諸外国のネットコントロール事情に詳しい山本達也・清泉女子大学教授に話を聞きました。

 

――フェイスブックなどのSNSが一般に普及して10年ほどになります。世界各地でいま、SNSを含むネット空間に対する政府のコントロールが目立ちますが、過渡期なのでしょうか。

 

2008年ごろからツイッター、フェイスブック、ユーチューブなどのソーシャルメディアが世界的に普及し、非民主主義国の一部では政府と国民との力関係が逆転する現象が起きました。

 

フェイスブックがアラビア語にも対応するようになり、エジプトでSNSを駆使した若者たちによる反政権運動が08年に起こります。それが11年の『アラブの春』の原動力となり、アラブ各地での民主化運動へとつながっていきました。

 

インターネットが登場したころ、ネットが普及していけば、人々が世界に向かって言いたいことを主張でき、政治は悪いことができなくなり、社会がよくなるのではないか。そんなバラ色の未来を描いていたような気がします。ひょっとしたら我々は過度な希望をもちすぎたのかもしれません。 

 

――ネットというツールを得て我々の暮らしは劇的に変わりましたが、社会はそれほど良くなっていない、と。

 

国際的な共同調査である『世界価値観調査』のデータを分析すると、興味深い結果が出ました。『アラブの春』後、エジプトではすべての世代において、非民主的であっても強いリーダーを持つことが好ましい、ととらえる人が大きく増えました。

 

隣国のリビアやシリアのようになるくらいなら、非民主的な大統領でも強いリーダーの方がまし、という考えなのでしょう。

 

エジプトでは最近、ネット活動家の投獄や反体制運動の非合法化、昨年8月の『反サイバー犯罪法』成立などネット規制が強化されています。(中略)

 

SNSというツールを手にして社会の変革を起こした体験があるにもかかわらず、国民はそれを自らの意思で手放そうとし、想像していた社会とは違った方向に進んでいるのです。 

 

――2013年に米国家安全保障局(NSA)による個人情報の大量収集の事実を、エドワード・スノーデンが内部告発し、民主主義国でも自由でオープンなネット空間が確保されていたわけではなかったことが判明します。

 

それまでネットと政権の距離を巡る考え方は、非常にシンプルな構図でした。政権にとって不都合な情報をアクセス及び発信できないよう規制したい非民主主義国と、ネット空間は自由でオープンな社会インフラであるべきだという先進民主主義国です。最近はそれほど単純ではなくなってきています

 

今年4月にスリランカでテロが発生した直後、同国政府はSNSを遮断しましたが、欧米メディアなどでテロ対策のためのネット規制に賛否の声がありました。欧米で規制に賛成する声もあったことは、時代の変化を象徴しています。

 

テロリストによる衝撃的な映像がSNSを介して拡散していき、テロリスト自ら動かなくても勝手に恐怖感を植えつけていく。リクルートも容易になります。それに加担するのはよくないということでしょう。

 

どの国でも本来、政府の本音は政権批判や不都合な事実は封じ込めたい。テロ対策という大義名分ができたことで正当化され、堂々と規制ができるようになってきています。 

 

■ネット規制のハードル下がった

――国家が民主的、非民主的問わず、世界は規制を許容し、国民もある程度、望んでいるということですか。

 

ネット空間の自由度はエジプトに限らず、世界的に後退傾向にあります。昨年ニュージーランドで起きたモスク銃乱射事件では犯行の様子がフェイスブックで中継され、NZでも規制の議論が進んでいます。

 

こうした二次被害の恐れが、プライバシーを最大限確保したい、自由や表現も守りたいという先進民主主義国の原理的な価値を上回るようになり、社会が規制を許容する方向に動いているのです。

 

そのような社会では監視や通信傍受、規制をする側の政府の方が、国民よりも圧倒的に有利な立場になっていきます。イギリス政府も今年4月、ネット上のテロに関する情報拡散の制限などを提言する白書を出しました。

 

――民衆が規制を許容する背景には、テロ以外の要因もあるのではないでしょうか。

 

一種のSNS疲れもあると思います。より長く、より頻繁にアクセスさせて中毒的にする工夫を凝らして企業が利益を追求していることに、人々が嫌悪感を抱き、距離をおこうとしているのです。(中略)

 

■「きれいごと」よりも「本音」

――シンガポールでは5月、「偽ニュース防止法」が成立しました。政府が偽ニュースと判断すれば、SNS投稿やフェイスブックメッセンジャーなどの会話内容なども対象に、偽情報発信者やオンラインプラットフォーマーを罰することができ内容です。

 

街中に監視カメラがたくさん設置されていて、もともと政府の監視が強いシンガポールで、このような法律ができたことに違和感はありません。むしろ驚いたのは国際社会から批判がほとんどでなかったことです。

 

一昔前にそんな法案を通そうとしたら米国をはじめ、国際世論が黙っていなかった。隔世の感があります。

 

きれいごとや理想を掲げられることが大人の国家であるという暗黙のルールが、アメリカ第一主義を掲げるトランプ政権の誕生とともに消え、本音は包み隠さず、国益を最大に打ち出すことへのためらいがなくなったのだと思います。【7月3日 GLOBE+】

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【進むIT企業による「自主規制」 仏では企業に義務付け、「表現の自由の(規制の)民営化」とも】

国家規制という介入を避ける意味合いからも、SNS側による「自主規制」的な動きも広まっています。

 

****ユーチューブ、「憎悪表現」「至上主義」動画を禁止へ****

米IT大手グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」は5日、人種などに基づく差別を助長・賛美したり、十分に立証されている暴力的な事件を否定したりする動画を禁止すると発表した。

 

暴力的な事件には、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)や2012年に米コネティカット州のサンディフック小学校で起きた銃乱射事件などが含まれる。

 

憎悪表現や暴力を含むコンテンツをめぐってより厳格な規制を求める声が高まる中、IT大手各社はこうした投稿を削除する措置を相次いで発表している。(後略)【6月6日 AFP】

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****トランプ支持者のネットフォーラムを隔離、暴力推奨し規定に違反****

ソーシャルニュースサイトのレディットは26日、ドナルド・トランプ米大統領の支持者らが集まる人気フォーラムを「隔離」したと明らかにした。ユーザーらが暴力を扇動するなど、規定違反を繰り返したためだとしている。

 

レディットによると、問題とされたのは「ドナルド」と名付けられたフォーラム(サブレディット)。「規定違反行為が繰り返され」、そのたびに暴力を推奨、扇動する投稿を削除しなければならなかったため、対応をとったとしている。直近では、オレゴン州の警官や公人に対する暴力を推奨する書き込みがあったという。(中略)

 

 一方、これに先立ちトランプ氏は同日、米経済ニュースチャンネルFOXビジネスとのインタビューで、ツイッターが自身の投稿を検閲し、国民へのメッセージ発信を困難にしていると非難した。(後略)【6月27日 AFP】

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****特定宗教ヘイト、削除へ ツイッター方針、禁止対象を拡大****

ツイッターは9日、ヘイトスピーチ対策強化の一環で、「特定の宗教グループ」を非人間的に扱うツイートは、今後削除していく方針を明らかにした。これまでは「特定の個人」の人間性を否定する内容を規約違反としてきたが、「集団」に対象を広げる。まずは「宗教グループ」を対象とし、今後、「性別」や「人種」、「国籍」などにも広げていく考えだ。(後略)【7月10日 朝日】

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****偽医療情報の拡散防ぐ、FBとユーチューブが投稿のランク付けアルゴリズムを修正****

米紙ウォールストリート・ジャーナルが2日、誤解を招く恐れのあるがんの代替療法の情報が交流サイト最大手のフェイスブックと動画投稿サイトのユーチューブに氾濫していると報じたことを受け、フェイスブックとユーチューブは同日、そうした情報の拡散を防ぐ対策を取っていると明らかにした。

 

フェイスブックは、「誇張した、またはセンセーショナルな健康関連の主張」と、そのような主張に基づいて商品を売ろうとするアカウントを減らすため、投稿のランク付けのアルゴリズムを修正したと明らかにした。ユーチューブも独自に同様の対応策を取っていると述べた。(後略)【7月3日 AFP】

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多くのユーザーは検索情報の上位にランクされる情報しか通常目にしませんから、どのような情報がユーザーの目に触れやすい形で提供されるかというアルゴリズムは非常に影響が大きく、かつ、ブラックボックスです。

 

****ネットの暗部に視聴者誘導、ユーチューブの落とし穴****

陰謀説や特定の主義主張に偏った意見が「おすすめ」に現れる

 

動画共有サイト「ユーチューブ」は新しいテレビだ。ユーザーは15億人を超え、そこで視聴を薦められる動画は、世界中で人々の考え方に影響を与える。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が調査を実施したところ、より中立性の高いコンテンツが強調されるように変更したとのユーチューブの説明にもかかわらず、「おすすめ」動画の多くは賛否の分かれるテーマや誤解を招きやすいもの、あるいは虚偽の内容だった。(後略)【2018 年 2 月 9 日 WSJ】

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一方、国家が主導して、IT企業に「自主管理」させる取り組みを進めるのが、先述の「クライストチャーチ宣言」を主導したフランス・マクロン大統領です。

 

****仏でヘイト投稿規制法成立へ 企業に罰則つき削除義務****

グーグルなどのIT企業に、ネット上で憎しみや差別をあおる投稿の削除を義務づける法案を賛成多数で可決した。上院第1党の野党共和党もおおむね賛成で、9月にも成立する見通しだ。

 

削除すべき投稿の判断を企業に委ね、怠れば処罰するしくみで、表現の自由を脅かす懸念も出ている。

 

ヘイト投稿規制法案では、FB、ユーチューブといったIT企業がフランスで提供するサービスで、明らかに違法なコンテンツがあった場合、閲覧者の通報から24時間以内に削除するよう義務づける。

 

通報は投稿で傷つけられる当事者でなくても可能で、メッセージだけでなく動画や写真も対象だ。

 

企業の違反には最大125万ユーロ(約1億5千万円)の罰金が科される。通報しやすいよう、専用のクリックボタンを画面に表示させるなどの工夫も事業者に義務づける。(後略)【7月10日 朝日】

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Bの幹部が今回の法案について「表現の自由の(規制の)民営化のようなものだ」と懸念している”【同上】とも。

 

「表現の自由」を担保しながら、悪意の「フェイク情報」がネット上に氾濫する現状をどのように改善するのか・・・難しい問題です。

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