孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新興国で拡大するデジタル通貨 中米エルサルバドルはビットコインを法定通貨に その“裏事情”

2021-10-12 23:38:31 | 経済・通貨
(ビットコインが法定通貨になったエルサルバドル【8月10日 BUSINESS INSIDER】)

【各国で導入される中央銀行デジタル通貨】
****デジタル通貨も「周回遅れ」の日本 今さら「新一万円札」の時代錯誤****
途上国が中央銀行デジタル通貨(CBDC)を開発、発行する動きが急展開している。

ナイジェリア中央銀行が十月一日からデジタル通貨の試験運用を始めたほか、ガーナ、モロッコ、ブータンなども発行に向け動いている。中米のエルサルバドルはCBDCではないが、仮想通貨のビットコインを法定通貨に採用した。

主要国では中国がCBDCの実用化の先頭を走り、研究段階にとどまる先進国を引き離し、新たな国際送金、決済の枠組みで途上国に強い影響を与えつつある。

こうした潮流に対して、日本は新一万円札紙幣の印刷を開始するなどデジタル化への逆走、暴走で世界を唖然とさせている。
 
ナイジェリアは通貨「ナイラ」のデジタル版となるCBDCの「eナイラ」の運用を開始。スマートフォンのアプリにeナイラをチャージして店舗での支払い、スマホ問での送金、振り込みなどに使う計画。

リアル通貨との併用になるため、「中央銀行の通貨管理や金融政策に変わりはない」とナイジェリア政府は表明しているが、新規の紙幣の発行は抑制すると関係者はみている。
 
ナイジェリアがCBDCの導入に動いた理由は大きく三つある。
第一に、国民のうち銀行口座(モバイル口座含む)を保有する人の比率が約四〇%にとどまり、金融サービスを利用できない国民が過半である一方、銀行が店舗、ATM網を整備する投資負担に耐えられないためだ。
 
第二に、スマホ・携帯は人口千人あたり九百十台と高い普及率に達しており、スマホを使った送金、支払いアプリの利用が広がっていること。

第三に、海外で働くナイジェリア入からの本国送金が年間百七十二億ドル(一八年)と外貨収入の柱となっており、送金手数料の引き下げが国民にとって重要な課題となっているためだ。

「金融包摂」という視点
「電気料金のお支払いはエアテル・マネーで」アフリカ南東部の小国、マラウイの首都リロングウェの目抜き通りの看板や雑誌でみかける広告だ。

エアテルはインドに本拠を置く携帯電話会社で、契約者数は世界第六位。インド、バングラデシュ、スリランカなど南アジアにとどまらず、アフリカ十五力国に進出しているが、収益源は通話・データ使用料だけではなく、モバイル決済の「エアテル・マネー」の手数料。

アフリカの大半の国では銀行やコンビニでの振り込みが難しく、庶民はエアテルの店舗や取扱店で事前に一定金額をスマホ・アプリにチャージし、公共料金や買い物の支払いを行う。

アフリカでは二〇〇七年にケニアの「M-PESA(エムペサ)」がモバイル・マネーを開始、各地に広がった。今やモバイル・マネーが最も普及した決済インフラとなっている。
 
日本はSuicaなど交通系ICカード、PayPayなどQRコード決済、d払いなど携帯電話会社の一括請求型など一見、多様なモバイル・マネーが普及しているようにみえるが、交通機関、Eコマース、コンビニなど店舗支払いなど得意分野がバラバラに分かれており、すべての支払い需要に応えられるモバイル・マネーは存在していない。
 
さらに日本は、現金が最大の決済手段という世界でも特異な状況にある。紙幣を印刷、硬貨を鋳造し、輸送・保管・警備・流通・回収するためのコストは概算で年間二兆円を超える。
 
人口が二億人を超えるナイジェリアが同じように国内で必要とする紙幣などを用意するコストは国内総生産(GDP)の四~五%との見方がある。また、ナイジェリアの国土一千平方キロメートルあたりの銀行店舗数は五店舗、ATM台数は二十台と両方ともに日本の二十分の一しかない。

ナイジェリアや同水準の途上国がこれからリアルの紙幣、硬貨をベースにした金融インフラを構築することは、コスト的に不可能といってよい。そのために各国がCBDCに急激に傾斜しているわけだ。

もうひとつ見逃せないのはSDGsで主要なテーマの一つとなっている「金融包摂」である。
零細な農民、手工業者、小売業者などが仕入れや商品売り上げの決済をするにはモバイル決済が最も便利である一方、モバイル決済で受け取ったモバイル・マネーは法定通貨ではないため、二次利用できる範囲は限られる。

顧客からモバイル・マネーで支払いを受けても、従業員への給与や税金の支払いには使えない。海外送金も困難だ。CBDCであれば無限に二次利用を重ねていくことができる。「CBDCは途上国経済の救世王」との見方が世界に広がっている。
 
エルサルバドルが今年九月、ビットコインを法定通貨にした理由はやや異なる。
ビットコインは世界で広く取引されるが、支払いに利用できる商品・サービスや場所は限られている。世界でいち早くビットコインを法定通貨にすれば、ビットコインを使ったエルサルバドルの不動産、株式への投資、商品の購入が活性化することへの期待からだ。

仮想通貨とCBDCはブロックチェーン技術を使万点では共通性があるが、中国は仮想通貨が自由な資金移転につながるとみて、九月二十四日、禁止措置を発表した。(後略)【「選択」10月号】
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日本の中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する取り組みについては以下のようにも。

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これまで、「発行の予定はない」としていた日本においては、2020年7月発表の「骨太の方針」の中でCBDCについてふれ、「日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」としています。

それを受けて、直後の同月20日には、日本銀行内に「デジタル通貨グループ」が設置されました。【三井住友カードHP】
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中央銀行デジタル通貨(CBDC)もビットコインなどの仮装通貨もデジタル通貨ではありますが、国家管理の面では正反対の性格も。

****仮想通貨とは何か?****
仮想通貨とは、国家に依存せずに流通する、非中央集権的な通貨です。日本円にしろ米ドルにしろ、国家の中央銀行が発行する通貨は、その価値を国家が保証しています。つまり、国のお墨付きがあるというわけです。

それゆえに、経済が安定していて信頼のある国家の通貨は国際市場でも高値になりますし、反対に経済が不安定な国家の通貨は、価値が低かったりします。
しかし、仮想通貨は、基本的にあらゆる国家や組織の管理を受けない通貨であり、需要と供給のバランスによって、その価値が決まります。【同上】
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“仮想通貨は、基本的にあらゆる国家や組織の管理を受けない通貨”ということで、マイニングが世界でも最も多く行われていた中国では禁止となっています。

こうしたデジタル通貨の流通拡大にIMFは懸念を示していますが、その対象は主にビットコインのような仮装通貨でしょうか。

下記記事で「クリプト化」という耳慣れない言葉が出てきますが、日本で「仮装通貨」と呼ばれるものは、一般的には「クリプトカレンシー」と称され、クリプトは「暗号」の意味です。

“地域経済の「クリプト化」”・・・エルサルバドルで懸念されているような、国家・中央銀行の監視・管理がなされず、証拠を残さず不正なマネーのやり取りが可能になるような事態をさしているのでしょうか・・・。

****新興国でのデジタル通貨台頭、金融安定脅かす恐れ=IMF****
 国際通貨基金(IMF)は1日、新興市場国におけるデジタル通貨の台頭が地域経済の「クリプト化(クリプトイゼーション)」を招き、為替・資本規制を弱体化させ、金融安定を脅かす恐れがあるとの認識を示した。

中米エルサルバドルでは9月、暗号資産(仮想通貨)ビットコインが法定通貨となったほか、ベトナムやインド、パキスタンなどでも利用が急速に拡大している。

IMFは、不健全なマクロ経済政策や中銀に対する低い信認、非効率な決済システムなどが、新興国におけるドル化(ダラーライゼーション)を加速させ、デジタル通貨普及の要因にもなっていると指摘。

「ドル化は、中銀による効果的な金融政策運営を妨げ、銀行や企業、家計のバランスシートにおける通貨のミスマッチを通じ金融安定リスクにつながる」と警鐘を鳴らした。

さらに、デジタル資産が脱税を助長する可能性があり、「クリプト化」が財政政策に脅威をもたらす恐れもあるとの認識を示した。【10月2日 ロイター】
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【エルサルバドルがビットコインを法定通貨にした理由】
中米エルサルバドルがビットコインを法定通貨にした背景には、マイニングのアドバンテージと米ドル依存から脱却があると指摘されています。

****存在感増す仮想通貨 エルサルバドルは法定通貨、中国はサービス禁止…その未来は?****
仮想通貨(暗号資産)に国家権力が「関与」する事例が相次いでいる。中央アメリカのエルサルバドルが世界で初めて仮想通貨のビットコインを法定通貨に採用することを決定したかと思えば、中国の中央銀行が仮想通貨の関連サービスを全面的に禁止すると発表した。

両国の対応はまるで正反対だが、いったい仮想通貨の世界で今、何が起きているのか。今後の見通しも含めて解説する。

仮想通貨とはインターネット上で送金や決済ができる電子データで、法定通貨の円やドルなどと交換できる。
法定通貨のように中央銀行が発行、管理するのではなく、仮想通貨は「ブロックチェーン」という技術を使って、送金や決済に関わる複数のコンピューターで管理し、偽造を防ぐ仕組みだ。

国家による「裏付け」がなく、価格が乱高下することもある仮想通貨の賛否が割れる中、エルサルバドルは9月8日、仮想通貨の一つであるビットコインを法定通貨に加えた。元々の法定通貨であるアメリカ・ドルと並び、2通貨体制となった。

ビットコインを法定通貨にする「旗振り役」だったブケレ大統領は「利便性が向上し、経済的メリットがある」と強調する。

国民の7割が銀行口座を保有しておらず、まともな金融サービスを受けることができていない。
一方で、海外から同国への送金額は、国内総生産(GDP)の2割に達するほど大きな割合を占める。背景には、多数の国民がアメリカで出稼ぎし、本国の家族らに送金している実態があり、送金コストが安い仮想通貨を利用すれば国民のメリットが大きいし、送金額が増えて経済が活性化する可能性もあるというわけだ。

ただ、この政策には国民からの反発も大きい。世論調査では国民の3分の4以上がビットコインの法定通貨採用に懐疑的という結果で、多くの国民は引き続き米ドルを使用することが予想されている。

このように、世間一般のエルサルバドルに対する評価は「危ない実験をしている新興国」、だろう。
仮想通貨は価格が1日で10%上下、1年間では数倍にも数分の1にもなることがある。それを国家の法定通貨にしようとしているのだから無理はない。

実際、正式に法定通貨となった9月8日、ビットコインの価格は17%も下落した。これは投資家がブケレ大統領の政策について、その実効性と持続性に疑念を持っており、エルサルバドルがビットコインの値動きに振り回された挙句、結局は法定通貨から外すという未来を予想しているのだろう。(中略)

国民からは多くの反発があり、国の信用力も右肩下がり、今のところ福音はないように思える。しかし同国には仮想通貨を法定通貨とする真の狙いは二つある、と筆者は考える。

一つは、自国での「マイニング(採掘)」である。マイニングとはコンピューターの計算によって仮想通貨を新規発行することである。

前述のように、エルサルバドルはこれまでアメリカ・ドルを法定通貨としてきた。それまでは独自通貨コロンがあったが、価格が不安定なため2001年にドルに切り替えたのだ。

外貨を法定通貨とした国にとって、通貨の発行は「かなうことのない夢」であったろう。だが、仮想通貨であればマイニングによって発行が可能となる。外貨を購入するのではなく、マイニングによって仮想通貨を「生産」し、国家資産として積み上げ、財政を安定化することもできる。ブケレ大統領はそう考えているのではないだろうか。

実際、エルサルバドルはマイニングによって有利な条件を持っている。マイニングは膨大なコンピューターによる計算が必要で、そのためにはコンピューターを稼働させる電力が必要だ。エルサルバドルには23の火山があり、地熱発電によって電力は潤沢だ。実際、ブケレ大統領は国営の地熱発電会社にマイニングの計画を立てるよう要請している。

もう一つの狙いは、アメリカ・ドル依存からの脱却だと、筆者は推測する。アメリカ・ドルだけが法定通貨の場合、通貨に関する全ての権限はアメリカのコントロール下に置かれ、同国の政治や経済の影響を大きく受けることになる。

アメリカとの関係が悪化した場合、そもそもアメリカ・ドルを使用できなくなる可能性もある。通貨を「使わせてもらっている」以上は無言の主従関係にあるといっても過言ではなく、貿易や国交で対等に交渉できるわけがない。
米ドル以外の法定通貨を持てばその「呪縛」から解放される可能性がある。(後略)【10月1日 GLOBE+】
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前政権がアメリカに保有していた資産が凍結されたアフガニスタンでも、タリバンはアメリカの影響を排除するために仮想通貨を法定通貨に採用するのではないかとの臆測が広がっているそうです。【上記記事より】

イスラム原理主義のタリバンと仮想通貨・・・なかなかシュールな組み合わせです。

【もっと生臭い“裏事情”も】
話をエルサルバドルに戻すと、ビットコイン導入の背景としては、もっと生臭い“裏事情”も。

****国民猛反対でもエルサルバドルが「ビットコイン」を法定通貨にした裏事情***
今年9月、世界で初めてビットコインを法定通貨として正式に採用し話題となったエルサルバドル共和国。しかしその裏には、権力者たちの良からぬ思惑も存在しているようです。

今回の無料メルマガ『出たっきり邦人【中南米・アフリカ編】』ではエルサルバドルの首都サンサルバドル在住の日本人著者・ピンクパールさんが、同国がビットコインを国として認める真の目的を暴露しています。

当国・エルサルバドルのニュースが世界中を一瞬ですが騒がせました。なんと、バクチの対象で実体のない暗号通貨であるビットコインを国の公式通貨として認めたのです。しかも、指定のアプリをインストールして登録すると、30ドル分を進呈するというのです。

はっきりいって、大義名分なんか嘘っぱちです。

一応、銀行口座を持てない国民の、アメリカからの送金を受け取る窓口として、手数料が爆安のビットコインを使えるようになんてアナウンスしています。しかしですね、これを発表した途端に、ビットコインは17%も下落したのですよ。

価値の変動幅が定まってないうえに、実体のない暗号通貨を国として認めると、今後はマネーロンダリング(以下、マネロンと表記)が追えなくなるということです。

これまで、過去の大統領や国の機関のトップは、退任後に、軒並み国のカネの横領で裁判にかけられています。ビットコイン使うと、これが証拠も残さずに横領やり放題、ってことになるのですよ。

国は国民に30ドルという餌を最初に撒き、指定のアプリを使わせて、個人番号(日本のマイナンバーに相当)により出入金を把握できます。これで、アメリカからの送金を丸裸に出来るって寸法です。

ただ、ビットコインを扱う業者や口座は世界中に存在します。これを現政府高官の連中が使って横領したカネをマネロンしたら…、そう、退任後に摘発される可能性が限りなくゼロになるのです。これこそが暗号通貨・ビットコインを国として認める目的なのですよ。(後略)(『出たっきり邦人【中南米・アフリカ編】』より一部抜粋)【10月7日 ピンクパール氏 MAG2NEWS】
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ありそうな話ですが・・・どうでしょうか?
いずれにしても、ビットコインは極めてハイリスクな投資商品というイメージ。それを法定通貨に・・・というのは難しい面がありそうです。
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中国の石炭・電力不足、原油・天然ガス価格上昇などの背景に「脱炭素」からの供給抑制による需給ギャップ

2021-10-11 23:03:29 | 経済・通貨
(【8月12日 エコノミストOnline】)

【石炭不足による電力不足】
現在、天然ガス、石炭、原油などの価格高騰で世界経済に大きな影響が及びつつありますが、その一つの事例がインド北部における電力不足、背景には発電所が使う石炭の不足があります。

****インド北部州、石炭不足で停電頻発 電力供給巡る政府説明と矛盾****
インドの北部州では、石炭不足のためにたびたび停電が起こり、電力危機が深刻化していることが政府データの分析と住民への取材で分かった。十分な電力供給能力があるとしたインド政府の説明との矛盾が浮き彫りになっている。

インドは、同じく石炭不足に伴う電力危機に見舞われている中国に次いで、世界で2番目に石炭消費が多い。

連邦政府系の送電網運営会社POSOCOのデータによると、インドの電力の約70%を供給している石炭火力発電所135カ所のうち半数以上で燃料在庫が3日分を割り込んでいる。インドの電力省はコメント要請に応じていない。(中略)

インド鉱業連盟(FIMI)は7日、石炭不足により、工場閉鎖や雇用喪失の恐れがあると警鐘を鳴らした。【10月11日 ロイター】
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****インドも電力不足の恐れ 需要急増****
(中略)インドの電源構成の70%近くを石炭が占めている。原料の石炭の約4分の3は国内で採掘されている。
国内向け石炭の大半を生産する国営インド石炭公社は、供給を確保するため「戦時体制」を敷いているとしている。
 
アジア第3位の経済規模のインドでは、新型コロナウイルス流行後の経済再開により電力需要が急増している。また、先のモンスーンによる大雨で鉱山が浸水し、石炭輸送が中断されたたため、石炭価格は高騰した。
 
石炭価格は国際的に高騰しており、輸入も難しい状況だ。【10月6日 AFP】
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上記記事の表題に“インドも”とあるのは、石炭不足で停電の事態に陥っている中国東北部や天然ガス価格高騰で事態が逼迫している欧州同様に・・・との意。

その中国では・・・

****中国東北部で電力不足深刻、当局が石炭増産要請も価格高騰****
「中国のラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれる東北3省の中で最大規模の遼寧省が11日、電力不足が悪化するとし、上から2番目に高い第2級電力不足警報を出した。過去2週間で5回目となる。(中略)

同省は東北3省のうちで、最も経済規模が大きく、電力消費量も最大で9月中旬から広範な地域で電力不足に見舞われている。

現地では午前6時から節電命令が出されている。同省では9月最後の3日間も第2級警報が発令され、数十万世帯が停電し、工場も操業停止を強いられた。

電力不足の背景には、石炭の不足と価格高騰があるが、アナリストは今冬の石炭生産が不足し、第4・四半期は電力消費を約12%削減する必要があると指摘している。

中国当局は先週、二大石炭生産地域の山西省と内モンゴル自治区に対し、生産の拡大と、遼寧省を含む東北地域の発電所への供給を優先するよう指示した。INGは、当局が供給不足の緩和に乗り出していると指摘した。

しかし、山西省では8日時点で約60の炭鉱が閉鎖され、大雨の影響で鉄道路線の寸断も起きている。

11日の原料炭先物は中心限月が過去最高値を更新、コークス先物も6週間ぶりの高値を更新した。
シティのアナリストは8日付のノートで「石炭火力発電所の70%超が赤字」と指摘した。(中略)

国家発展改革委員会(発改委)は11日、電力会社に石炭の備蓄拡大を呼び掛けていると述べた。【10月11日 ロイター】
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石炭増産に関しては“中国内モンゴル自治区、72炭鉱に即時増産を指示 年1億トン増産へ”【10月8日 ロイター】とも。

石炭不足の背景には、中国では炭鉱事故が相次ぎ当局が安全強化を図ったことで自国内の石炭増産が進まないこと、(中国の需要増大で)海外の石炭価格も高騰し入手が困難になっていることなどが指摘されており、影響は長期化するとの予測も。

****中国の石炭買い占めで世界的な資源争奪が激化―米華字メディア****
2021年10月3日、米華字メディア・多維新聞は、電力危機に陥っている中国の影響で国際的な石炭価格が高騰し、世界的な資源の奪い合いが激化していると報じた。

記事は、米ブルームバーグの1日付報道として、世界最大の燃料炭市場で、アジア市場価格の基準とされるオーストラリア・ニューキャッスルの上質燃料炭価格が1トン当たり203ドル20セントと、これまの最高値だった2008年7月の記録を塗り替えたと紹介。天然ガス価格が上昇している欧州では、石炭も需要の加熱に伴って価格が高騰する可能性があることを伝えた。

そして、燃料炭価格が項としている背景として、石炭のサプライチェーン問題があると説明。中国では炭鉱での事故が相次ぎ当局が安全強化を図ったことで自国内の石炭増産が進まないことに加えて、豪雨や新型コロナなどの問題に伴ってオーストラリア、コロンビア、南アフリカなどの国から中国への石炭輸出が滞っていると紹介した。

記事はまた、中国中央テレビ(CCTV)が先日「中国各地で発生している電力制限は主に、全国的な石炭不足、石炭コストと電力基準価格の著しい逆ざや状態、連絡線の送電能力低下などの影響を受けたものである。現在中国国内の燃料炭、原料炭の生産能力が明らかに縮小しており、加えてモンゴルからの供給を始めとする石炭輸入量が減少しており、経済回復に伴う電力ニーズとのアンマッチが起きている」と説明する評論を発表し、中国自身も石炭供給不足と電力不足を認めていることを伝えた。【10月5日 レコードチャイナ】
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****中国の電力不足はまだ序章?「さらに広範囲で深刻な電力不足が起こる」と専門家―米華字メディア****
2021年10月4日、米華字メディア・多維新聞は、石炭の供給不足により中国各地で発生している電力供給制限について、中国の専門家が向こう5年間は同様の状況が頻発する可能性があると指摘したことを報じた。

記事は、中国各地の電力供給制限の原因が石炭の供給不足にあると伝えた上で、華北電力大学経済管理学院の袁家海(ユエン・ジアハイ)教授が「2016〜20年末までに、中国の石炭生産能力は年間10億トン以上減少した。減少前は年間50億トン程度生産されていたのが、減少後は37.5億トン程度になった。

また、生産量が多い内モンゴル自治区では昨年より石炭生産に関連する汚職スキャンダルが取り沙汰されていること、石炭採掘に対する安全管理や環境保護の強化も石炭生産減少の要因になっている」と語ったことを紹介。

一方で、石炭需要は17年以降再び増加傾向にあり、年間40億トン前後になっていると伝えた。

また、特に電力供給状況が厳しいとされる東北地域でも石炭生産の減少が顕著になっているとし、16年に1.13億トンあった東北三省(黒竜江、遼寧、吉林)の原料炭生産量が20年には0.93億トンにまで減ったことを紹介するとともに、石炭の輸入価格が高騰し、モンゴルやオーストラリアといった大口の輸入相手からの石炭輸入量も減少しているとした。

中国社会科学院財経戦略研究院の馮永晟(フォン・ヨンチョン)副研究員は「再生可能エネルギーによる発電は随時性、波動性、間欠性という特性を持っているため、『カーボンピークアウト』『カーボンニュートラル』という目標達成に向けて電力システムへの新エネルギー利用率を高めるに伴い、電力の需給ギャップの可能性が増えていくことになる。21〜25年の第14次5カ年計画期間中は、より大きな範囲で、より深刻な電力不足が頻発することが見込まれる」と予測したという。【10月5日 レコードチャイナ】
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【世界各地及び各エネルギーの間の連動】
上記のような石炭不足は、「脱炭素」を目指す中国政府の方針による供給抑制と依然として大きい需要の間のギャップが顕在化したと理解できます。

****中国で大停電、「脱炭素」の動きがもたらすエネルギー危機****
深刻な資金難に陥っている不動産開発大手の中国恒大集団の経営危機で大きく揺れる中国経済だが、「深刻な電力不足」という次なる危機が発生しつつある。
 
中国政府が環境対策として石炭を主燃料とする火力発電所の抑制に動いたことが主な要因で、全国の約3分の2の地域で電力供給の制限が実施される異常事態となっている。

全産業、市民生活に及び始めた電力不足の影響
中国政府は、二酸化炭素の排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロにする目標を掲げている。この目標達成に向け、今年のエネルギー強度(GDP1単位当たりのエネルギー消費量)を前年に比べて3%削減する目標を設定した。

だが、今年(2021年)前半に目標を達成したのは30の省や地域のうち10省・地域にとどまった。このため目標未達の地方政府は最近、二酸化炭素排出量削減措置を強化した。電源構成で約7割の比率を占める石炭火力発電所が次々と操業停止に追い込まれたことから、深刻な電力不足が生じてしまったのだ。
 
特に影響が大きいのは鉄鋼・アルミニウム・セメント産業だ。生産抑制措置が採られ、アルミニウムの生産能力の7%、セメントの生産能力の29%に影響が出ている。韓国ポスコのステンレス鋼生産工場も一時生産中止を余儀なくされている。
 
電力不足の影響は全産業に及び始めている。米アップルや米テスラ向け部品を生産している工場が操業を停止した。自動車や家電を生産する日系企業にも影響が出始めている。
 
東北部の黒竜江省や、吉林省、遼寧省では工場だけでなく、市民生活にも影響が及んでいる。信号灯が消えて大渋滞となり、至るところで停電や断水が起きている。
 
地域別に見てみると、広東省が最も深刻だ。同省では今年初め頃から電力不足となっていたが、最近、省内各市は計画的な操業停止を各企業に通達した。多くの工場は週4日の操業停止、場合によっては週5日の停止を命じられているという。
 
中国政府は9月26日、冬場にエネルギーの十分な供給を確保するため、石炭・天然ガス開発企業に生産の拡大を要請したが、来年2月の北京冬季五輪に向けた「青空」確保の対策を緩めるわけにはいかない。早期に電力不足が解消する目途は立っていないと言わざるを得ない。
 
政府の環境対策に加え、石炭価格の上昇による火力発電所の稼働率低下も電力不足の原因となっている。中国政府は昨年10月、豪州産石炭を外交上の理由で輸入停止としたが、代替輸入先が見つからず、このことが輸入石炭価格の上昇を招く結果となった。

中国の石炭在庫量は今後2週間で底を突くとの憶測も出ている。国際的にも石炭価格が1年前に比べ3割以上も上がっており、欧州では13年ぶりの高値となっている。天然ガス価格が高騰したことから、相対的に価格が安い石炭への需要が急増したのである。(後略)【10月1日 藤 和彦氏 JBpress】
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アジアの天然ガス需要が増せば価格が上昇し、欧州市場でも上昇する。
欧州での天然ガス価格高騰によって、石炭への代替需要が増大し、石炭価格が上昇する。
石炭価格が上昇すれば、中国では海外からの石炭調達が難しくなり電力が不足する。
天然ガス・石炭価格の上昇は原油価格にも波及する。

という形で、世界各地及び各エネルギーの間では互いに影響が波及しあう関係がります。

【「脱炭素」による化石燃料供給抑制と旺盛な需要の間のギャップ】
総じて化石燃料に関しては、「脱炭素」の流れで化石燃料産出・投資が抑制されている一方で、コロナ禍からの回復で需要は依然として大きいという需給ギャップが存在します。

原油価格も高騰しています。

****原油先物が上昇、エネルギー需要増で WTI80ドル超え****
11日の原油先物は上昇。新型コロナウイルス禍からの景気回復を受けて燃料需要が高まっていることを受けた。

0212GMT(日本時間午前11時12分)時点で、北海ブレント原油先物は0.81ドル(1%)高の1バレル=83.20ドル。先週は約4%値を上げた。

米WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は1.15ドル(1.5%)高の1バレル=80.50ドル。2014年終盤以来の高値。先週は4.6%値を上げた。

ただ、米国の在庫が再び積み上がる中、今後は軟化も予想される。

キャピタル・エコノミクスのチーフコモディティーエコノミスト、キャロライン・ベイン氏はノートで「今四半期の原油価格が大幅に上値を伸ばすのは難しいとみており、来年に徐々に下落すると依然として予測している」と指摘した。(後略)【10月11日 ロイター】
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上記記事では、“今後は軟化も予想される”との見立てですが、“この上、中東地域での地政学リスクが上昇することになれば、原油価格の100ドル超えの可能性は格段に高まる。1リットル当たり150円台で推移している日本国内のガソリン価格が200円を超える事態になるかもしれない。
 
石炭や天然ガスに続き原油まで高騰するような事態になれば、2度の石油危機が起こった1970年代のように世界経済は、物価圧力が高い中で景気回復が減速する、いわゆるスタグフレーションに陥ってしまうのではないだろうか。”【前出 藤 和彦氏 JBpress】といった懸念も。

これまでだと、一定に原油価格が上昇するとアメリカでのシェールオイル産出が増大し、結果、価格上昇は抑制されるという需給バランスがあったのですが、昨今の「脱炭素」の流れで、アメリカでの生産拡大が抑制され、結果、価格が上がり続けるということいにもなっています。

****戻らない米国のシェール生産 原油価格は100ドル超え視野=岩間剛一****
(中略)新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開といった需給の引き締まりという要因に加え、何よりこれまで原油価格の上値を抑えてきた米国のシェールオイル生産が活発化しないことも一段高を招いている。
 
(中略)米国のシェールオイル生産が本格化して以降の動きを振り返ると、WTIが1バレル=50ドルを超えるとシェールオイル生産が増加し、国際石油需給が緩和して原油価格の上値を抑えるというサイクルが繰り返されてきた。
米国のシェールオイルの開発コストは、条件が良い鉱区の場合は1バレル=30ドル程度であり、50ドルを超えれば生産企業に利益が出るためである。

気候変動対策の強化
しかし、米国の原油生産量は19年11月に日量1286万バレルと史上最高に達した後、コロナ感染拡大による原油価格の暴落もあり、今年2月には日量977万バレルまで減少した。(中略)

米国のシェールオイル生産企業が新規油田の開発に慎重なのは、借入金の返済など財務の健全化を優先し、新規投資を抑制していることが要因に挙げられる。これまで原油価格上昇時は、利益よりも量を追い求め、借入金を増加させてきたシェールオイル生産企業だが、現在は増加した現金収入を内部に留保し、自己資本比率の引き上げを図っている。
 
その背景には、今年1月に発足したバイデン新政権の気候変動対策の強化がある。バイデン大統領は就任後、温室効果ガス排出削減を目指す大統領令に署名し、政府保有地における新規のシェールオイル開発を規制するなどした。

生産企業には長期的には新規油田が不良資産となる懸念が高まっており、大手から中堅・中小に至るまで開発投資を抑制している。
 
金融機関や投資家も、原油価格上昇による収入増加を、新規油田開発ではなく財務の健全化や株主還元に充てるよう圧力を強めている。

また、米石油メジャーのエクソンモービルは今年5月の株主総会で、アクティビスト(物言う株主)が提案した脱炭素派の取締役3人の選任を余儀なくされるなど、生産企業にとって気候変動問題が大きな逆風となっている。(後略)【8月12日 岩間剛一氏・和光大学経済経営学部教授 エコノミストOnline】
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新型コロナで世界の労働者の8割に打撃 2億人が失業も ベーシックインカムを導入する国も

2020-04-12 22:31:04 | 経済・通貨

(日本の有効求人倍率と完全失業率の推移【4月1日 朝日】 21年は一気に2本の線がクロスする可能性が濃厚です)

【着飾って「ごみ出し」】
最近目にした面白い記事。

****世界各地で外出制限、着飾れる唯一の機会は…ごみ出し!****
新型コロナウイルス対策による都市封鎖で、一日中家に居てうんざり…そんな世界各地で他者の気分を明るくしようと、写真を撮って共有し始めたものがある。それは特別に着飾っての「ごみ出し」の様子だ。
 
オーストラリア・シドニー在住のDJ、ビクトリア・アンソニーさんは「家でドレスアップするなんて本当にどうかしていると思うけど、この封鎖の間に正気を保つにはこれしかない。おしゃれしてごみ箱をがらがら外に出すと、ハッピーな気分が戻ってくる」と話した。
 
アンソニーさんはインスタグラムに、カクテルドレスを着た自身の写真に「#」というハッシュタグを添えて投稿した。(中略)
 
「たくさんの人の気分を明るくする」ことができてうれしいと語った(流行の火付け役の)アスキューさんの元には、落ち込んだり新型ウイルスにおびえたりしていたというユーザーらから、アスキューさんのページを見て笑顔になれたというメッセージが届いているという。 【4月10日 AFP】
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目を吊り上げて、あるいは不安に怯えて「自粛、自粛」ばかりでは息が詰まります。
カクテルドレスに着飾ってゴミ出し・・・そんな心の余裕がいいですね。

【2億人近くが失業する可能性への対策なしには感染予防も成立しない】
しかし現実世界に目をやると、そうも言っていられない厳しい現実も。

****「われわれは働きたい」=ブラジルで隔離反対デモ―新型コロナ****
ブラジル最大都市サンパウロの中心街パウリスタ通りで11日夜、新型コロナウイルス対策としてサンパウロ州政府により実施されている隔離措置に反対するデモが行われた。参加者らは、通りを車でふさぎ、「ドリア知事は辞めろ、われわれを働かせろ」とシュプレヒコールを上げた。
 
参加者らは通信アプリや口コミでデモを知ったといい、主催者によると、車1000台とオートバイ2000台、トラック200台が加わった。

国旗を振って隔離措置解除を訴えた教師チコ・ペンチアドさん(53)は「このままでは経済は2、3カ月で崩壊する。効果と犠牲をはかりに掛けると、こんな措置は見合わない。隔離は高齢者だけでいい」と語った。
 
新型コロナの感染者2万人以上、死者が1000人を超えているブラジルではサンパウロをはじめ、ほとんどの州で商業活動などが停止。市民は外出自粛を求められている。経済への打撃は深刻化しており、国内企業の99%を占める零細・小企業の3割は1カ月で事業閉鎖に追い込まれるとの調査がある。
 
世論調査では8割が隔離措置を支持しているが、ボルソナロ大統領は「雇用が破壊され、人々は餓死する」などと主張し、隔離に反対する態度を変えていない。

大統領に反発する市民は毎日午後8時半になると、自宅の窓から突き出した鍋をけたたましく打ち鳴らし、抗議の意思を示している。【4月12日 時事】
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ちょっと“変わった” ボルソナロ大統領と外出制限措置を強める州政府の対立、厳しい制限が暴動・略奪にもつながりかねない国情などについては、3月26日ブログ“ブラジル 州政府の外出禁止措置に反対するボルソナロ大統領 国情を考えると配慮すべき点も”でも取り上げました。

ブラジルに限らず、「働かないと生きていけない」という貧困層が存在することも事実であり、「自宅にとどまって」と規制を強める政府はそうした人々への配慮も不可欠です。

そうでないと、「可能性の小さいコロナ感染での死」か「確実なコロナ失業での飢え」かの選択になってしまいます。
「働かないと生きていけない」者には、自宅にとどまり危機をやり過ごすような「贅沢」は許されない現実も。

東京都が休業要請の対象になったインターネットカフェで寝泊まりをしていた人など、新型コロナウイルスの影響で居場所を失った人にホテルなど一時的な宿泊場所を提供するようですが、そういった配慮も必要でしょう。

新型コロナ対策で大量の失業者が発生する事態はもはや避けられない様相ともなっています。

****新型ウイルス、世界の労働者の8割に打撃 2億人が失業も****
新型コロナウイルスの影響で、世界中の33億人の労働者の81%が、職場の全面的または一部閉鎖に直面している。
日常生活における様々な制限により、多くの企業は閉鎖を余儀なくされ、労働者は解雇、あるいは一時的な解雇に見舞われている。

国連の国際労働機関(ILO)(中略)のガイ・ライダー事務局長は、「先進国でも発展途上国でも、労働者や企業が破壊的状況に直面している。(中略)我々は、迅速かつ断固たる行動を共に取らなければならない。適切な緊急措置が、生き残りと崩壊を分けるだろう」と述べた。

2億人近くが失業する可能性も
新型ウイルスのアウトブレイクにより、2020年の第2四半期中に、世界中の労働時間の6.7%が消滅するとみられる。これは、1億9500万人のフルタイム労働者が職を失うことに相当する。

最も被害が大きいのは、労働時間が8.1%(フルタイム労働者500万人分に相当)減少するアラブ諸国と予測されている。

ILOは、第2次世界大戦以来の「最も深刻な危機」としている。

ILOは、2020年中に、世界の失業者数が最終的に増加するかどうかは、2つの要因に大きく左右されるだろうと付け加えている。
その2つの要因は次の通り。

・世界経済が下半期にどれだけ早く回復するか
・政策措置がどれだけ効果的に労働需要を押し上げるか

今年末の世界の失業者数が、ILOの当初予測の2500万人を大幅に上回る危険性が高い。

宿泊サービスや製造業に大打撃
経済の異なる分野が、突然の仕事の落ち込みにより様々な打撃を受けている。
移動が最小限に抑えられ、社会生活が中断されていることから、宿泊業や飲食業はもちろんのこと、製造業や卸売・小売業者、不動産業が最も影響を受けている。

これらの分野では、世界の労働人口の38%近くにあたる、12億5000万人が雇用されている。
失業リスクが最も高い労働者は北米と欧州に集中

リスクの高い仕事に就いている人の割合は、世界各国でかなり異なっている。
北米では労働者の43.2%が、欧州と中央アジアでは42.1%が、リスクの高い分野で働いている。

これらの地域に比べ、アフリカやアラブ諸国、アジア太平洋地域では、非正規労働者の数がはるかに多く、労働力の大半を占める。

非正規労働者は、特にインドやナイジェリア、ブラジルなどの国で、経済において重要な役割を果たしている一方で、正規労働者に付与される社会保障などが受けられない。

ILOのライダー事務局長は、「これは、75年以上にわたる国際協調における最大の試練だ。一国が失敗すれば、私たち全員が失敗することになる。私たちは国際社会のあらゆる分野や、とりわけ最も弱い立場にある人々、あるいは自分自身を守れない人々を助ける解決策を見つけなければならない」と述べた。【4月8日 BBC】
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****世界の貧困層、新型コロナで約5億人増の可能性=オックスファム****
国際非政府組織オックスファムは9日に公表した報告書で、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、1日1.90ドル以下で生活する貧困層が約5億人増えるとの見方を示した。

オックスファムは、新型コロナの感染拡大を受けて明らかになりつつある経済への打撃は、2008年の世界金融危機時よりも深刻だと指摘した。

世界銀行が設定する貧困ラインを採用し所得が20%減少するという最も深刻なシナリオを想定した場合、1日1.90ドル以下で生活する極めて貧しい人は4億3400万人増え、9億2200万人に増加する見通し。5.50ドル以下で生活する人は5億4800万人増え、40億人近くに達するという。

女性は、雇用に関する権利がほとんどないなどの理由から、男性よりも貧困に陥るリスクが高いという。

オックスファムは「豊かな国は今回の危機で、自国の経済を下支えするため数兆ドルという規模の資金を活用できることを示している」と指摘したうえで「発展途上国が健康や経済への打撃に対応できない限り、危機は続き、豊かな国と貧しい国、全ての国がより大きな打撃を受ける」と強調した。【4月9日 ロイター】
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自国だけ混乱からのがれようとしても、貧しい国が多い世界全体の混乱が収まらないかぎり、大きく制約を受けます。

国家レベルの「協調」が必要とされていますが、各国は自国の対応に追われ、まだその気運は高まっていないのも現実です。

【大富豪の寄付 国家レベルの「ベーシック・インカム」】
個人レベルでは、以下のような話も。

****ツイッターCEO、1100億円を新型コロナ対策に拠出 総資産の28%****
米ツイッターの共同創業者で最高経営責任者のジャック・ドーシー氏は7日、新型コロナウイルス対策として、総資産の約28%に相当する10億ドル(約1100億円)を自身の慈善基金を通じて拠出すると発表した。
 
ドーシー氏は一連のツイートで、共同創業したデジタル決済サービス「スクエア」の所有株を、自身の有限責任会社「スタート・スモール」に譲渡すると表明。
 
ドーシー氏は、「なぜ今か? ニーズは緊急度を増している。生きているうちに(支援の)影響を目にしたい」と投稿。自身の行動が他の人々を感化することを期待しており、「人生は短い。だから、人々を助けるためにきょうできることは全部しよう」と呼び掛けた。
 
他のIT起業家らも、それぞれの金額で支援を表明している。
 
米アマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスCEOは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に伴い、食料支援として1億ドル(約110億円)の寄付を表明。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏の慈善団体「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」を通じて、研究支援として2500万ドル(約27億円)超を提供した。 【4月8日 AFP】AFPBB News
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国家レベルの国内対策として注目されるのは、「ベーシック・インカム(最低所得保障制度)」制度導入の動きです。

****スペインで「ベーシック・インカム」導入、経済大臣が宣言****
新型コロナウイルスの感染者数が世界2位に達したスペインは、経済の立て直しに向け、可能な限り迅速に「ユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障制度)」制度を導入することを決定した。

4月5日、経済大臣のナディア・カルビニョが発表した新たなスキームは、終了期限を設けずに導入されることになる。カルビニョは現地メディアの取材に対し、感染拡大の脅威が去った後も、ユニバーサル・ベーシック・インカム制度は継続すると述べた。

予算規模などの詳細は未定というが、政府は既に導入に向けた調整を進めている。感染拡大による経済的ダメージからの復興に向け、スペインのペドロ・サンチェス首相は3月17日、2000億ユーロ(約24兆円)の支援策を発表していた。

支援策には1000億ユーロの政府による信用保証のほか、企業に対する無制限の流動性供給などが含まれていたが、ユニバーサル・ベーシック・インカムでこれを補完する狙いがあるとみられる。

スペインではロックダウンの開始から3週間で90万人が失業し、3月の失業者数は過去最大を記録していた。

カルビニョ経済大臣は現地メディアLa Sextaの取材に「ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入に向けた手続きは、非常に煩雑なものになるが、我々のチームは決意をもって取り組んでおり、可能な限り迅速に導入する」と述べた。

スペインにおける新型コロナウイルスの感染者数は13万人を突破し、死者は1万2600人を超え、欧州ではイタリアに次ぐ規模の被害を受けている。ただし、全土にわたるロックダウンを4月26日まで延長することを決めたスペインでの死者は、イタリアやフランスと並んで減少傾向にあり、わずかな希望の光が見えつつある。【4月8日 Forbes】
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下記記事によれば、上記スペインの対応は、全国民ではなく低所得層を対象としたもののようです。

新型コロナに感染したボリス・ジョンソン英首相も、一時的措置ではあるものの、全国民に最低限の所得を保障する「ベーシック・インカム(BI)」を検討する考えを示しています。

****コロナ危機により、ついにベーシック・インカムが実現する可能性****
<各国で何度も議題に上がりながら、机上の空論のイメージを拭えなかった「最低所得保障」だが、真剣に導入を検討する国が現れ始めた>

ボリス・ジョンソン英首相が、全国民に最低限の所得を保障する「ベーシック・インカム(BI)」を検討する考えを示したことが話題となっている。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一時的な措置ではあるが、主要国がこの制度について本格的に議論するのはおそらく初めてだろう。

スペインも低所得者に限定した形だが、コロナ対策の一環として、最低限の所得を保証する制度について検討を開始している。

BIは経済的に豊かな欧州の小国を中心に以前から議論されており、2016年にはスイスが導入について国民投票を行ったこともある(結果は否決)。フィンランドでは17年から2年間の実証実験を行っており、オランダでも同様の実験が行われた。

BIでは最低限の所得が常に保障されるので、経済危機などで多くの人が一時的に仕事を失っても、安心して当面の生活を続けることができる。新しいビジネスにもチャレンジしやすくなるので、推進論者はBIを導入しても経済に悪影響を与えないと主張している。

一方で、労働者の就労意欲がなくなり、経済が低迷することを危惧する声も根強い。フィンランドの実験では、BI実施前後で就労状況に大きな変化はなかったので、限定された範囲内であれば、就労意欲の低下はそれほど心配しなくてもよいのかもしれない。だが何といっても最大の懸念材料は財源だろう。

財政目標棚上げの可能性
フィンランドのケースでは1人当たり月額560ユーロ(約6万7000円)を配るというものだったが、仮に日本において全成人(20歳以上)に月額7万円を配ると仮定すると、毎年88兆円もの財源が必要となる。

日本政府の一般会計予算は約100兆円しかないので、今のままでは到底不可能だが、一方で、日本は一般会計とは別に、年金に約52兆円、医療に43兆円、介護に10兆円、合計105兆円の社会保障関連支出を行っている(一部、一般会計と重複)。

年金受給者にBIを支給しなければBIの給付金額は58兆円に減らすことができ、BIの給付を月5万円にするとさらに41兆円まで下がる。それでも医療制度を自助努力型に変えるなど、根本的な歳出見直しを実施しない限り日本での導入は難しいと思われる。

ジョンソン首相が言及したのは一時的な措置なので、金融危機や今回の感染症のような事態が発生したときだけこの制度を発動する形にすれば、国によっては財政との両立が可能かもしれない。

もっともアメリカは今回のコロナ対策として、現金給付を含む2兆ドル(約220兆円)規模の経済対策を検討しているし、イギリスも休業者に賃金の8割を2500ポンド(約32万5000円)を上限に支給するプランを発表した。日本政府も金額は小さいが、現金給付を実施する予定である。

これまでBIに対しては、机上の空論というイメージも強かったが、非常時における期間限定の措置ということになると話は変わってくる。やり方によっては、いわゆる従来型BIと現金給付の違いは限りなく縮小するので、BIの定義そのものについても再検討が必要かもしれない。

筆者自身は金利上昇という日本にとって最悪の事態を回避するためにも、長期的な財政目標の維持が不可欠との立場だが、最近では消費減税を求める声が大きくなっており、財政目標が一時、棚上げされる可能性も高まってきた。大幅な財政拡大が国民の総意として許容されるのであれば、BIの導入についても一気に道筋が開けてくるだろう。【4月9日 Newsweek】
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もちろん問題も多々ある「ベーシック・インカム」でしょうが、マスク2枚で揉めている国では、「ベーシック・インカム」の議論など遠い世界の話ですね。

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決定的なキャッシュレス加速の流れ 将来を見据える「リブラ」や中国デジタル通貨

2019-11-04 22:04:29 | 経済・通貨

(スウェーデンは公衆トイレの券売機もキャッシュレス=ストックホルム、星野眞三雄撮影【113日 GLOBE+】)


【「私の18歳の娘は現金を使ったことがない」】

今日の話は通貨。主にキャッシュレスの話とリブラのようなデジタル通貨の話。

 

正直に言えば、私はこのような話が殆ど理解できていません。チンプンカンプンです。

普段、ポケットにお金をむき出しで突っ込んで持ち歩いており、「スマホ決裁なんてものより、現金で払った方が手っ取り早いんじゃない?」なんて考えている“化石”のような人間ですので。

 

しかし、世の中の“おカネ”が急速に変化しており、今後その流れは間違いなく加速すると思われますので、自分の頭の中を整理するために、あえて“よくわからない”通貨の話を取り上げてみました。

 

キャッシュレスの件は、よく中国が話題になります。私も中国旅行でその様子のごく一部を垣間見たこともあります。

 

キャッシュレスが進んでいるのは、中国だけでなく、先進国でも途上国でも同様で、日本が著しく出遅れているのかも。その日本もこれから急速にキャッシュレス化するのでしょう。

 

****現金が消えていく国スウェーデン 実は世界で初めて銀行券をつくった国だった****

ストックホルム市内のショッピングモール。有料の公衆トイレに入ろうとして券売機を見たら、10クローナ(約110円)を現金で払うための投入口が見あたらない。よく見ると、「カード・オンリー(カード支払いのみ)」の文字。こんな「緊急事態」でもカード払いだけで問題がないほど、スウェーデンではキャッシュレス化が進んでいる。

 

コーヒーショップに入っても、カードリーダーの横に「キャッシュフリー(現金お断り)」のプレート。近くのパン屋も、市場の花屋も、路面のホットドッグ屋も支払いはカードかスマホのアプリだけ。(中略)

 

■現金は2025年に消える?

スウェーデンのキャッシュレス化を加速させたのが、2012年にサービスが始まったスウィッシュだ。大手銀行が共同開発した。電話番号と銀行口座をリンクさせ、相手の電話番号だけで銀行口座に送金できる。手数料は無料だ。

 

利用者は710万人と人口の7割ほど。いまでは現金流通額がGDP(国内総生産)比で1%程度と、日本の約20%、欧米諸国の10%前後に比べて格段に低い。

 

使う側だけでなく、店側にもキャッシュレスの利点は大きいという。現金がなければ、レジを設置したり、現金を数えたりするコストを減らせる。現金を盗まれるリスクもない。中央銀行のリクスバンクの調査では、商店の5割が「25年には現金が使えなくなる」と回答した。

 

大手銀行SEBでスウィッシュを担当するローレンス・ウェスターラン(60)は「予想をはるかに超えてキャッシュレス化が進んだ。私の18歳の娘は現金を使ったことがない。現金を手にしたことがない娘に、お金の大切さを伝えるのは工夫が必要だ」と苦笑いしていた。(後略)【113日 GLOBE+】

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現金を手にしたことがない世代が育ちつつあるという事実は、ちょっと衝撃的です。

 

キャッシュレスの取引が一番威力を発揮するのは海外出稼ぎ労働者の送金、そのため途上国でも急速にキャッシュレスが進行しています。

 

****銀行送金さようなら 出稼ぎ労働者支える「アリペイ経済圏」が急拡大中****

香港島中心部にある中環(セントラル)駅周辺の道路は、数千人のフィリピン人で埋め尽くされていた。(中略)その中の一人で香港滞在歴4年のピラルダ・アパタス(43)とカフェで話をしていると、アパタスのスマートフォンにメッセージが届いた。eウォレットとしてダウンロードした香港の電子決済アプリ「TNG」に、50香港ドル(約700円)が振り込まれた知らせだ。「

 

貸したお金を友達が返してきた。仲のいい友達とは、最近はよくアプリを使って、お金の貸し借りをしている」。アパタスは、当たり前のように説明した。

 

こうしたアプリを、香港にいる約144千人(2018年政府統計)のフィリピン人労働者の多くが使い始めたのは3年ほど前、香港で最初にTNGeウォレットとして認可されてからだ。

 

利用する最大の理由は、母国の家族への送金がとても楽になったこと。銀行口座を持っていない人が多いため、以前は毎月の給料日に休みをとって送金のセンターに現金を持参。長い行列に並んで手続きをしていた。

 

今は自宅近くのコンビニで現金をアプリに入金し、スマホで操作するだけで簡単に、しかも瞬時にフィリピンの家族に送金できるようになった。

 

フェイスブックが打ち出したデジタル通貨「リブラ」構想。世界をお金でつなぐという、その狙いの一部は、すでに実現しつつある。

 

代表例が、中国のIT大手アリババの電子決済アプリ「アリペイ」だ。買い物に使うQRコード決済の草分けで、世界の利用者は10億人以上とされる。そのアリペイが目をつけたのが、国際労働機関(ILO)の統計(17年)で、世界に約16400万人いるとされる出稼ぎ労働者たち。ほとんどが母国へ仕送りをしている。

 

その送金手段としてもアリペイは着実に影響力を強めており、韓国やインドネシア、タイ、インドなどアジアを中心に地元のスマホアプリと提携。「アリペイ経済圏」を急速に拡大している。

 

アパタスも最近では母国への送金にアリペイ使うことが増えた。TNGなど複数のアプリをスマホに入れているが、送金手数料が無料なのはアリペイだけ。(中略)

 

アリペイの提携会社の一つが、利用者が2500万人にのぼるフィリピン最大手のスマホアプリ「Gキャッシュ」だ。幹部のネイ・ビリャセニョール(32)は「アリペイのネットワークを生かし、世界中に散らばるフィリピン人労働者が母国に手数料を無料で送金できる仕組みができた」と胸を張る。Gキャッシュは同時に、世界に約230万人いるフィリピン人出稼ぎ労働者の分布データなどの情報共有を通じて、アリペイの事業拡大戦略に貢献している。(後略)【11月4日 GLOBE+】

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手数料無料で送金できる見返りとして、個人情報がどのように利用されるのか・・・気になるところではありますが。

 

アフリカでも・・・・

2014年のはじめに、ケニアで爆発的に普及したMペサ(携帯電話を使ったモバイル決済・送金サービス)を見に行ったのですが、銀行も金融機関もないのに携帯ショップだけはあるんですよ。

 

たとえば、出稼ぎに出た息子さんがお金をチャージして、その家族が携帯ショップに行って自分の息子の携帯番号と暗証番号をショートメールで送ると現金が手に入るわけです。ここでは銀行はなくても携帯電話だけで何でもできるんだと知って、衝撃を受けました。”【930日 loftwork

 

いろんな問題はありますが、今後キャッシュレスが加速するのは間違いないでしょう。

“今、キャッシュレスが進んでいますが、ある意味当然だし、世界共通の流れです。ミャンマーにいる人でも日本にいる人でも、それを使ったら便利かどうかというという観点は同じ。便利だと思った瞬間、人は使うようになります。”【同上】

 

【将来は中国デジタル通貨対「GAFA」リブラか?】

このようなキャッシュレスのお流れと相性がいいのがデジタル通貨。

 

*****キャッシュレス化を推進する日本政府の黒い思惑。仮想通貨リブラと銀行の全面戦争が始まる****

(中略)

支払い手段としての仮想通貨

では、仮想通貨が庶民の夢とともについえてしまったのかといえば、そうではない。

実は仮想通貨は、投機のブームが終わってこそ、その本来の機能が注目されているのだ。それは、デジタルな支払い手段としての機能である。

 

これは仮想通貨の相場が極端に変動した状態では成り立たない。投機のブームが終わり、相場が安定したいま、仮想通貨の支払い手段としての潜在能力が改めて注目されている。

 

特にそれには2つの理由がある。

ひとつは、いま日本でも進んでいる各国のキャッシュレス化の動きである。そして次は、ドルに代わる新しい国際決済通貨を求める動きである。

 

なぜ日本をはじめ各国政府はキャッシュレス化を推進するのか?

日本でもそうだが、いま中国を始め各国ではキャッシュレス化の動きが加速している。日本でもスマホ決済によるキャッシュレス化を政府が促進している。

 

しかしながら、なぜキャッシュレス化を政府が推進しているのか、その理由がきちんと説明されたことはあまりない。

 

もちろんそこにはさまざまな理由があるが、先進国で多い理由のひとつは、既存の銀行を守るためである。(中略)

 

どの先進国もそうだが、資本主義は成長の限界にきている。そのため各国の中央銀行は、成長を維持する必要から金利をとことん下げ、市場に資金を供給している。そして多くの国では、マイナス金利も当たり前の状況になってしまった。

 

理論上これは、借りた額よりも返済額が小さくなるということだ。もちろん、金利が利益の源泉である銀行としてはたまったものではない。マイナス金利下では、銀行経営は成り立たなくなってしまう。

 

すべては銀行を救うため

そこでスイスやデンマークなどのヨーロッパ諸国の銀行は、預金口座に金利を付けるのではなく、逆に「口座管理費」として預金者から手数料を徴収するようになった。そうしないと、マイナス金利下では銀行経営は難しい。

 

一方、預金者としてはこれはたまったものではない。口座を開設すると、手数料を支払わなければならないのだ。

その結果、口座を閉鎖して現金を引き出し、自宅で保管する預金者が増えた。(中略)

 

銀行にとってこれは危機的な事態である。マイナス金利と口座閉鎖で破綻する銀行も出てきてもおかしくない。

そうした銀行の救済策として政府が打ち出したのが、キャッシュレス化の方向性であった。

 

まず、高額紙幣の流通を禁止する。そして、モノやサービスを買うと、銀行口座の預金から自動的に引き落とされるキャッシュレスな支払い手段を強力に推進し、現金の流通を不要化する。

 

すると、国民は引き落としの必要性から現金を銀行口座に保管しなければならないので、口座の解約はできなくなる。これで銀行は破綻の危機から救われる。

 

このような状況がキャッシュレス化の背景にあるとすれば、日本のキャッシュレス化の動きも、銀行を救うために預金者から口座管理手数料を徴収する準備だと見ることもできる。注意しなければならない。

 

銀行がビットコインを飲み込む日

こうした状況で、ビットコインのような仮想通貨の相場が安定し、支払い手段として使用できるようになればどうなるだろうか?

 

独自のウォレットで管理され、銀行の口座を一切介さない分散型の仮想通貨は銀行にとれは脅威となる。

しかし、キャッシュレス化が一般化した状況なら、政府が主導して銀行口座とウォレットを強制的に合体させ、銀行が管理するウォレットを通して仮想通貨を使うシステムも検討されるようになるはずだ。

 

仮想通貨が投機の対象にしか過ぎなかったときにはこのようなことは考えられなかったが、仮想通貨の支払い手段としての可能性が高まると、銀行による仮想通貨吸収という方向も考えられるだろう。

 

ドル覇権はもう終わった

仮想通貨の投機ブームが終息し、支払い手段としての機能がクローズアップされる第2の点が、ドルに代わる新しい国際決済通貨を求める動きである。

 

周知のように、いまはドルが国際決済のための基軸通貨として使われている。この状況は、国際金融体制の若干の変更はあったものの、戦後75年間変わっていない。

 

しかし、特に、2001年の同時多発テロから始まる度重なる戦争や、リーマン・ショックのような金融危機の発生でアメリカの覇権は次第に失墜し、それとともにドルに対する信任も低下した。(中略)

 

さらに、ドルを国際決済通貨として好まない傾向はトランプ政権になってから加速している。通常の米政権とは異なり、アメリカの国益を最優先する一国主義を主張するトランプ政権は、選挙目的で国内景気を浮揚させるために、基本的に政府から自立していなければならないFRBに強烈な圧力をかけ、利下げを断行させている。

 

これにともなってドルの価値も大きく変動する。これは諸外国にとってはたまったものではない。トランプ政権の国内政治の都合で利子率が変動し、ドルの価値が影響を受けるのである。

 

アメリカのこうした政治的影響を受けない安定した国際決済通貨への要望が自然に高まっても不思議ではない。

 

国際決済手段としての仮想通貨

事実、すでに中央銀行の関係者からドルに代わる決済通貨を要望する発言が出てくるようになった。(中略)

823日、米連銀(FRB)と各国の中央銀行との定例年次会合「ジャクソンホール会議」が開催された。その席

 

「リブラ」の出現

長くなったが、これが現在の状況だ。キャッシュレス化へと向かう各国の国内状況も、新しい決済通貨を望む国際的な状況も、安定した決済手段になり得るデジタル通貨の可能性を志向している。

 

そこにおもむろに登場したのが、フェイスブックが計画している仮想通貨「リブラ(Libra)」なのである。(中略)

 

「リブラ」はこうした相場の大きな変動を防ぐため、価値を実物資産にリンクしている。それは、ドルや円、そして人民元やユーロなどの代表的な通貨とともに、金などの希少金属である。これはIMFが政府に与え、実質的に政府間のやり取りでは通貨として機能する「SDR(特別引き出し権)」に似たコンセプトである。(中略)

 

25億のアカウント

そして、「リブラ」を他の仮想通貨から際立たせているのは、フェイスブックのアカウントの多さである。現在で25億アカウントだ。

 

この状況で使い勝手のよい「リブラ」が本格的に導入されると、他の仮想通貨の送金手段や、送金サービスが駆逐される可能性が高い。仮想通貨による送金・支払い手段としては、「リブラ」がシェアを独占することは間違いない。

 

そのような圧倒的なシェア率を持つ「リブラ」であれば、個人のみならず企業間の決済方法としても使用できる可能性がある。つまり「リブラ」は、国際貿易の決済手段として使えるということだ。(中略)

 

銀行と中央銀行との戦い

(中略)しかし「リブラ」は、既存の銀行ならびに中央銀行から見ると大変な脅威である。銀行を一切介さない「リブラ」が一般的な支払い手段になるようなことでもあれば、人々は銀行を使わなくなる。銀行口座は不要になる。これは銀行にとっては死活問題である。

 

また、ドルに代わる安定した国際決済通貨を求める動きを見せている中央銀行にとっても、「フェイスブック」といういち民間企業が発行元になる「リブラ」は脅威であることは間違いない。

 

中央銀行のコントロールの及ばない国際決済通貨が使われるのだ。そうなると、おおげさな表現だが、世界経済に対する中央銀行の影響力とコントロールは大幅に縮小する。

 

このような状況を回避するためには、主要国の中央銀行、ないしは「IMF」のような国際機関が発行するデジタル通貨が、国際決済通貨として導入する動きも強い。フランス財務省はドイツとともに「リブラ」の導入をブロックする姿勢を明確にしている。

 

対照的に、中国の中央銀行である「中国人民銀行」は、独自なデジタル通貨の開発に着手していると発表した。このデジタル通貨は「フェイスブック」の「リブラ」に対抗したものになる。

 

「中国人民銀行」によると、「もしリブラが国際取引等の決済シーンで既存の法定通貨のように利用されることになると、これまでの金融政策や各国の財政的な安定、さらには国際的な金融システム全体に多大なる影響を与えることになる」との懸念を示し、開発中のデジタル通貨はこの懸念を払拭することが目的だとした。

 

まさにこれは、「リブラ」を凌駕する国際決済通貨を発行するのは中国であるという宣言である。

 

しかし、これで勝負が決まったわけではない。「IMF」などの国際機関や他の主要国も、国際決済通貨としての使用を目標にしたデジタル通貨を出してくる可能性が大きい。そうした状況に、「リブラ」はどのように対応するのだろうか? 戦いは始まったばかりである。行方に目が離せない。【101日 MONEY VOICE

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先のG20 では、各国政府がリブラに否定的な対応で一致したことは周知のところです。

 

20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は18日、2日間の討議を終え閉幕した。フェイスブック(FB)が計画する暗号資産(仮想通貨)「リブラ」に規制を課すことで一致し、マネーロンダリング(資金洗浄)への悪用防止や利用者保護などに関する「深刻なリスクに適切に対処」した上で発行すべきだとする合意文書を発表した。”【1019日 共同】

 

ザッカーバーグCEOは、アメリカ議会の公聴会で、規制当局から承認を得られるまで発行しないと証言し、構想の実現を事実上、先送りする考えを示しました。国際通貨ドルの“特権”を揺るがすようなデジタル通貨をアメリカは容易には認めないでしょうが。

 

ただ、これで流れが止まるものでもなく、リブラや、それに代わるものが今後も次々に現れるのではないでしょうか。そこに“便利さ”“使い勝手の良さ”があれば、各国政府が押しとどめるのは難しいかも。

 

また、中国のように独自の観点から、国家が管理するデジタル通貨導入に踏み出す動きも。

 

****中国、デジタル通貨導入へ 国民の消費動向の監視強化か****

米フェイスブックの暗号資産(仮想通貨)「リブラ」が物議を醸す中、中国政府は独自のデジタル通貨を導入する計画を進めている。アナリストらによると、この通貨は、政府や中央銀行が国民の消費の動きを監視できるものになるとみられている。(後略)【111日 AFP

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中国のデジタル通貨は国内だけでなく、一帯一路に乗って世界に広がる可能性も。ザッカーバーグCEOもそのあたりの危険性を米議会に訴えています。

世界の覇権をめぐる争いの構図はやはり「中国対GAFA」でしょうか。

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