(アメリカがイラク・バビル県に建設・供与した女性のためのコンピュータセンター
“flickr”より By lakerae )
連日いろんな情報が報道されるイラク情勢について、最近の報道を少し整理しました。
①先ずはイラク議会・政府の動き。
8月26日、対立を続けるシーア派、スンニ派、クルド人勢力の指導者らは、対立解消に向けて長時間にわたる協議を行いました。
大統領府によれば、出席者らは、旧支配政党バース党員の公職復帰制限の緩和、地方選挙の実施、治安部隊に対する支援で合意したそうです。
米政府も、このイラク主要各派・民族指導者らによる合意を歓迎しています。
しかし、マリキ政権から離脱したスンニ派有力会派「イラクの調和」は、すべての要求が満たされるまで、同会派はマリキ政権に復帰しないとの姿勢を明らかにしています。【8月28日 AFP】
9月4日、イラク国民議会が約1か月の夏休みを終え、審議を再開しました。
ブッシュ政権による米議会でのイラク情勢報告の期限を15日に控え、マリキ政権は米側が求める旧バース党員の公職復帰や石油収入の公平配分などに関する重要法案の成立を目指しますが、思惑通りにいくかどうかは予断を許さない状況です。
議員の間にも「法案に対する見解の相違は大きい」など悲観的な声が強いそうです。【9月4日 読売】
それにしても、この状態で1ヶ月の夏休み(当初はもっと長期を予定していたとも聞きます)をしっかりとるイラク議会というのは・・・・。
アメリカの政府監査院は4日、イラク情勢に関する報告書を議会に提出し、その中でイラク政府を「機能不全」と厳しい評価を下したそうです。【9月5日 AFP】
②次にイラク武装勢力の動向
シーア派の強硬派指導者サドル師の半年間の活動停止命令を受け(8月30日の当ブログ参照)、民兵組織マフディ軍の兵士はバグダッドのサドルシティから姿を消したそうです。【31日 AFP】
イラク駐留米軍は1日の声明で、この活動停止命令を「勇気付けられる」として歓迎しています。
声明は「サドル師の命令が守られた場合、多国籍軍とイラク治安部隊がアルカイダ系武装勢力掃討に集中することが可能になると期待できる」と指摘。
また、イラク政府も政治・経済問題の解決に焦点を合わせることができるようになるとの見通しを示しています。【9月1日 時事】
また、対立するイスラム教シーア派とスンニ派勢力の代表による秘密会合が31日、フィンランドで開かれました。
同国のアハティサーリ前大統領が代表を務める非政府組織(NGO)が仲介したもの。【9月1日 共同】
こうした融和・和解を模索する動きも出ているようです。
ただ、この31日の秘密会議の結果等に関する続報は見ていません。
③イギリスの動向
英軍は治安維持を担当する南部4県のうちバスラ県を除く3県でイラク側に治安権限移譲を済ませており、2日には約500人の部隊が拠点としていたバスラ中心部の宮殿から撤収し、同市郊外の空港にある英軍基地に移動を始めました。
今回の撤収は近く予想されるバスラ県の権限移譲と、さらなる駐留部隊削減をにらんだ動きとみられています。
ブラウン英首相は4日、「市内から移動したが、今後もイラクに対する責任を果たし続ける」と述べ、英軍早期撤退説を否定しています。【4日 時事】
基本的にはブラウン政権は、前政権の対米追随的な協調路線を修正していくようです。
そんななかで、イラク侵攻当事の英陸軍司令官が侵攻以降の米国のイラク政策を厳しく非難したと英国の新聞が1日報じました。
英紙報道によると、イラク侵攻時英陸軍の司令官だったマイク・ジャクソン将軍は、米軍の侵攻後のイラク政策について「知性の面で破綻している」とした上で、当時のラムズフェルド米国防長官を「現在のイラク情勢に最も責任を負うべき一人」と名指ししたそうです。
さらに、米国の世界的テロへの取り組み方を、国の再建や外交をないがしろにして軍事力に重きを置きすぎており不適切だと指摘しています。【9月2日 AFP】
更に、サンデー・ミラー紙は2日、イラク立て直しの計画に携わったTim Cross元少将も、「致命的な欠陥」があるとして米国の政策を非難したと報じました。
Cross元少将は、イラクが混乱状態に陥る可能性があるとしてラムズフェルド前米国防長官に懸念を表明していたが、警告は「無視」もしくは「却下」されたということです。【9月3日 AFP】
なお、英BBC放送が3日夜公表した世論調査結果によると、イラク駐留英軍部隊がイラク戦争に「敗北しつつある」と考える英国民が3分の2以上に上り、イラク情勢への悲観論が広がっていることが浮き彫りになっています。
このほか、「勝利は不可能」と断じた割合は半数を超える52%。33%が「英軍の存在はイラクの治安を悪化させている」、42%が「できる限り早期に撤退すべきだ」と答えたそうです。【9月4日 時事】
④アメリカは・・・
ブッシュ米大統領とライス国務長官、ゲーツ国防長官の3人が3日、予告なしにイラクを訪問しました。
ブッシュ政権は、イラク駐留米軍を増派した成否について今月中旬に最終報告の議会提出期限を控えており、同時訪問で、イラク政府との緊密な協力姿勢をアピールする狙いがあるとみられています。【9月3日 共同】
ブッシュ大統領は、米軍の増派でイラク治安改善の成果が出ていると位置付けた上で、駐留米軍の縮小も念頭に置いていることを明らかにしました。
議会多数派の民主党がこの秋、イラク駐留米軍の早期撤退実現へ新たな政治攻勢を掛ける見通しの中、大統領は今年前半からの部隊増派戦略が成功しているとの実績を声高に唱え、部分撤退に含みを残す態度に軸足を移しつつあるとのことです。【9月4日 時事】
“増派で成果が出ており、部分撤退も可能になりつつある・・・”というのもいささか苦しい見解です。
なんだかベトナム戦争末期の“名誉ある撤退”を取り繕おうとするアメリカを思い出させます。
たしかに①②のような和解への動きも国内に出ていますが、アメリカの成果というより、やるだけやって“これじゃお互い身がもたない・・・、アメリカもいなくなるし・・・”というところでは。
ベトナムはアメリカ撤退のあと北による統一という結論を出しました。
イラクもアメリカが手をひけば、真剣に自分達の国をどうするか考えざるを得なくなるのでは。
⑤その他の国々は
イランのアフマディネジャド大統領は8月28日の記者会見で、イラク情勢に関連し、「もうすぐ、中東地域に大きな政治的空白ができる。我々はその空白を埋める用意がある」と述べ、米軍が撤退した場合のイラクへの影響力拡大に強い意欲を示したそうです。【8月29日 読売】
まあ、あまり引っ掻き回さないでほしいものです。
フランスは、クシュネル外相が仏閣僚としてイラク戦争後初めてイラクを訪問しました。
この訪問で、フランスのイラク介入姿勢を鮮明にしたと伝えられています。
フランスのシモノー報道官は「イラク派兵の意図はないが、警察か治安部隊を支援する形で何かできないか考えている」と表明。
「(シラク前政権が決めた)米軍その他の外国部隊は08年までに撤退すべきだ」との立場に変わりはないとした上で、「国連の枠組みでイラクの経済分野で貢献できるよう欧州レベルで行動すべきだ」とも述べたそうです。
シラク前仏政権は03年の米国主導のイラク戦争に反対しましたが、今春就任したサルコジ政権は親米路線を強調する形で米国への側面支援を模索しているとのこと。【9月25日 毎日】
フランスはアフガニスタンでも、ミラージュ戦闘機6機を新たにアフガニスタン南部のカンダハルに投入することを明らかにし、親米・積極関与の方向に動き出しています。【8月31日 時事】
国内・国外でアメリカ撤退をにらんだ動きが始まっているようにも見えます。