(“タミフル”で遊ぶインドネシアのRenzo Ginting、8歳。 彼の家族7人が3週間のうちに相次いでH5N1型の鳥インフルエンザで亡くなりました。ヒトからヒトへの感染が考えられる初めてのケースです。 “flickr”より By Jchung1115 )
私が暮す島は日中はまだ夏ですが、それでも病院に“インフルエンザ予防注射予約”の張り紙が見られる季節になりました。
最近あまり見聞きすることが少なくなった“鳥インフルエンザ”は、アジアを中心に相変わらず発生し続けています。
インドネシアで13日、新たに12歳の男児が鳥インフルエンザで死亡したことが確認され、同国の鳥インフルエンザによる死者は88人となりました。【10月13日 AFP】
世界では201人目の死者です。
国立感染症研究所・感染症情報センター(IDSC)の集計が下記アドレスにあります。
http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/case200700/case071012.html
これを見ると、若干上記AFPも数字との誤差がありますが、上記事例を除いてこれまでの世界での死者が202名、そのうちインドネシアが圧倒的に多く87名となっています。
特に、ここ2,3年のインドネシアでの増加が顕著です。
インドネシア料理と言って最初に思い浮かべるのが“サテ・アヤム”(インドネシア風焼き鳥)です。
そのようなことで、ニワトリを身近に飼うことが多いあたりが背景にあるのでしょうか?
これまでの死者が2桁になっているのは、ベトナム44名、タイ17名、中国16名、エジプト15名です。
ベトナムは鳥インフルエンザが報告された03年~05年には多かったのですが、その後は終息していました。ただ、今年に入ってまた4名の死者が報告されています。
ちなみに、ベトナム語でニワトリを“ガー”といいますが、ベトナム料理をながめると、“コム・ガー”(鶏飯+鶏肉ロースト)“ミエン・ガー”(鶏肉入り春雨スープ)など鶏料理が並びます。
タイも最近は終息しています。
中国は家禽の飼育数が150億羽近くもあり、世界の五分の一を占めている国です。
全く根拠のない邪推ですが、報告は氷山の一角ではないか・・・という気もします。
アジア以外で唯一多いのがエジプトですが、特に最近増加しています。
従来のベトナム・タイからインドネシア・エジプトに発生分布の中心が移っています。
なお、エジプト料理の代表のひとつがハト料理。
ニワトリもよく食べます(豚を食べませんから)。
鳥インフルエンザは感染対象となる動物(宿主)がヒトではなくトリであるため、一般的にはヒトに感染する能力は低く、また感染してもヒトからヒトへの伝染は起こりにくいと考えられています。
しかし大量のウイルスとの接触や、宿主の体質などによってヒトに感染するケースもあり、実際上記のような犠牲者が出ています。
懸念されるのは、このようなヒトへの感染を繰り返す過程でインフルエンザウイルスに変異が起こり、ヒトを宿主とする新型インフルエンザが発生する危険性が考えられる点です。
ヒト新型インフルエンザの発生は、これまで大体15-20年の周期で起きているそうで、最後の新型インフルエンザ発生が1977年のソ連風邪です。
(大地震と同じで、“周期”はおおまかな目安です。)
世界保健機構(WHO)は、いまアジアを中心に流行している鳥インフルエンザがいつ新型ヒトインフルエンザになって世界的な大流行を起こしてもおかしくないと警告しています。
そうなった場合、最大で5億人(!)が死亡すると試算されている。
新型ヒトインフルエンザに対するワクチンは、実際ウイルスが発生してからつくることになるので、初期被害は避けられないようです。
ただ、ある程度想定して準備は進めているようですが。
現在インフルエンザウイルスを抑えるのに効果がある治療薬は、商品名でタミフルとリレンザ。
タミフルはどういう訳か日本での使用量が圧倒的に多く、今年1月頃には“異常行動”で随分話題になった薬です。
ただ、特効薬としてはこれしかなく、各国とも新型ヒトインフルエンザに備えて備蓄を行っているようです。
なにせ、“最大で5億人”です。
しかも、どこからかミサイルが飛んでくるリスクよりはるかに確実、恐らく“近い将来間違いなく”襲ってくるリスクです。
今年1月に国立感染症研究所の研究グループがまとめ発表したものに、「東京在住の1人の日本人が東南アジアで新型インフルエンザにかかって帰国すると、最悪の場合10日後には1都4県に感染が広がり感染者数が12万人に達する」との試算結果もあります。
しかし、“5億人”とは言っても、その被害は相当に地域的にかたよるのでないでしょうか。
衛生環境、治療・予防体制等において優れた日本を含めいわゆる先進国では、被害はある程度の範囲に抑えられるのでは。
一方、そういった面で劣後するいわゆる途上国に結局被害は集中するのではないでしょうか。
すべての病気は抵抗力が問題になります。
栄養状態の悪いスラムや難民キャンプなどで被害が拡大することも想像されます。
治療薬・予防ワクチンと言っても、万事カネ次第なのは現在のエイズ治療薬の状態を見てもあきらかです。
もっともインフルエンザの場合、途上国の状況を改善しないと“感染拡大”という形で自分達の国に影響が及ぶことから、先進国の“協力”体制はいち早く確立するかも・・・。
日本では全く関心がありませんが、アジア各国で今年流行した感染症に“デング熱”がります。
今年7月段階で「WHOは、今年はアジア各地でデング熱が再び猛威を奮う可能性があると警告。1500人近くの死者が出た1998年と同程度の犠牲者が出る可能性があると予想している」と報じられていました。
デング熱は蚊によって媒介される熱性疾患で、東南アジア、インド、中米、南太平洋などに広く分布しています。
有効な治療薬、予防ワクチンはありません。
対症療法と“蚊に刺されないこと”だけです。
(私は2,3年前までは、熱で天狗のように顔が赤くなるから“天狗熱”・・・と思い込んでいました。)
7月段階で、インドネシアだけですでに1000人以上、タイでは18人が死亡しており、6月までに昨年1年間の合計を上回る状態にありました。【7月24日 AFP】
アジアの大半の地域で例年より早く雨期が訪れており、デング熱の流行はこれが原因ではないかと見られています。
その後、「マレーシアで75人が死亡、シンガポールでは昨年にくらべ倍増、カンボジアではすでに昨年1年間の犠牲者を上回る」【9月2日 時事】、「フィリピン保健省はデング熱警報を発令。283人が死亡」【10月4日 時事】などの報道がなされています。
しかし、デング熱以上に世界中で犠牲者が毎年出ている感染症がマラリアです。
マラリアによる死者は毎年100~150万人(ウィキペディア)とも、270万人(7月24日AFP)とも言われています。
この被害実態のアバウトさが、被害国・被害を受けている人々おかれた状態を物語っています。
百万単位の犠牲者・・・国際的に大問題となるジェノサイド2,3個分の被害です。
もし、この1%でも欧米・日本で発生すれば社会はパニックになりますが、恐らく治療・予防体制は急速に進むでしょう。
欧米・日本などには殆ど関係ない、そして研究してもカネにならないこの古典的疾患は、毎年百万人単位の悲劇を繰り返しながら放置されています。
(デング熱関連の写真にあった“蚊” デング熱を実際媒介する種かどうかはわかりません。 “flickr”より By lacoliveira )