孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ASEAN  憲章草案はできたが・・・

2007-10-23 14:48:56 | 国際情勢

(“ASEAN GIRLS”と題したこの写真 どの女性がどの国かわかりますか? 私もよくわかりません。 特に右端の女性が? 正解を知りたいところですが・・・
“flickr”より By moon130482 )

東南アジア諸国連合(ASEAN)は22日までに、最高規範となるASEAN憲章最終草案をまとめました。
7月末にマニラで開いた外相会議で設置に合意した加盟国の人権問題を扱う協議組織の創設が盛り込まれましたが、組織の構成や権限、さらに憲章違反があった国に制裁を科すかについては、11月にシンガポールで開催予定の首脳会議での政治判断に委ねられました。【10月22日 毎日】

人権問題を扱う協議組織、制裁規定は、反政府デモを武力鎮圧したミャンマー軍事政権への独自制裁を念頭においたものですが、今回草案は“政策・方針決定の際の全会一致や内政不干渉の原則を維持”【10月22日 共同】とも伝えられています。
もし最終的にもそういうことであれば、域内の人権違反国への制裁は事実上不可能でしょう。

7月の外相会議前の調整段階では、人権協議組織に積極的なフィリピン、インドネシア、タイ、マレーシアに、これに消極的なミャンマー、ベトナムがカンボジア、ラオスも取り込んで対立、憲章へ規定できるかも危ぶまれていました。

ASEANは今年8月24日にはマニラで経済相会議を開き、2015年までに経済統合を達成するための計画案を承認しました。
計画案は11月にシンガポールで開催される首脳会談で採択される見通し。
中国やインドなど、急成長を進めるアジアの大国に対抗する狙いとのこと。【8月25日 AFP】

今回の草案作成に見られる“まとまりのなさ”を考えると、経済統合と言ってもその実現には幾つもの疑問符がつきます。
域内の各国の事情は多様です。
ラオスは1党独裁、ベトナムも事実上1党独裁の社会主義国ですし、カンボジアは立憲君主制ですがかつてはクメール・ルージュにも属していたフン・セン政権、ブルネイは実質的には絶対君主制、ミャンマーは問題を起こしている軍政、タイも現在は軍政。
これだけ政治体制が異なれば、人権についての考え方も多様でしょう。
大体、殆どの国が国内に少数民族問題を抱えており、他国の人権問題を云々する状態にもないように見えます。

しかも、宗教的にはインドシナの仏教国に対し、マレーシア、インドネシア、ブルネイがイスラム、フィリピンはカトリック。
なかなかまとまらないでしょうね・・・。

ただ、共通点が多ければ関係がうまく行くか?と言えば決してそんなことはないようです。
隣接するマレーシアとインドネシア、お互いマレー人を中心としたイスラム国家で一応“議会制民主主義”の国です。
言語もかなり共通しており、お互い大体何を話しているかわかるそうです。

それだけ共通点の多い国ですが、経済的にはマレーシアが先行しており、インドネシアからマレーシアへの出稼ぎ・移民労働が多く行われています。
そしてインドネシアでは“マレーシア国内で働くインドネシア移民労働者に対する不当な取り扱い”への強い不満・批判があり、今年9月にはユドヨノ・インドネシア大統領が、不当な取調べでインドネシア人空手コーチに暴行を加えたと、マレーシア警察に対し謝罪を要求した事件も報じられています。

マレーシアへ渡ったインドネシアからの正規移民は60万人
予測では、同数の不法移民がいるといわれているそうです。
正規移民の27パーセントはメイドで、彼女達に対する虐待がインドネシア側の怒りを大きくしています。

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空手コーチ事件の数日前にも、24歳のメイドが雇い主の虐待で死亡した。また、過去3か月に、虐待を逃れようとしたメイドが高層マンションの窓からぶら下がっているところを消防隊に救助される事件が2件も起こっている。移民労働者の権利擁護団体「テナガニタ」のイレーネ・フェルナンデス氏によると、5月だけでインドネシア大使館に逃げ込んだ移民労働者は150-200人に上るという。
インドネシア大学のアデ・アルマンド氏は、「マレー人はインドネシア人を民族的に低く見ている。これは、インドネシア人が彼らの国でメイドや肉体労働者として働いていることに起因している」と語る。【9月4日 IPS】
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近親憎悪というのはどこの国にもあるもので、別に他国を引き合いにださなくても身の回りで経験することでもあります。
共通点があろうが、なかろうが、良好な関係を維持するということは難しいものです。
要は意識の問題です。

ASEANの件に戻ると、現状では“経済的な繋がりを深める”以上のものを期待するのは難しいように思えます。
更に言えば、各国がグローバル化した世界経済に直面するなかで、地域的な繋がりになんの意味があるの、本当に必要なのか・・・再検討も必要かも。

一時期、マレーシアの国産車「プロトン」がもてはやされましたが、最近は外国車との価格競争のなかで売り上げが低迷、外資への身売りも検討されているとか。
一方、保護すべき国産車をもたないタイは市場を開放し、外国メーカーの生産拠点「アジアのデトロイト」へ成長しているとか。【7月29日 南日本】

最近、ASEAN地域を牽引するようなリーダーもいなくなったような気がします。
フィリピン、インドネシアは開発独裁のマルコス、スハルトを追いやって以来、経済的にはむしろ低迷するような状態。
タイの成長をリードしたタクシンも軍政に追われ、独自の政策を実行したマレーシアのマハティールも引退。

こうしたASEANに対し、ヨーロッパの統合は紆余曲折を経ながらも随分進んでいるようです。

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欧州連合(EU・27カ国)は18日の首脳会議で、今後、長期にわたるEUの運営方針を定めた「改革条約」を正式採択した。
交渉では、ポーランドなどが最後まで自国の利害を主張、白熱した議論が続いたが、最終的に同国などの主張をほぼ受け入れる形で、妥結した。
各国は12月の署名後、09年の発効を目指して議会手続きや国民投票による条約の批准に入る。
ただし、英など反EU感情の強い国で批准が難航する可能性があり、条約成立までには、まだ紆余(うよ)曲折がありそうだ。
欧州憲法が05年、仏などの国民投票で否決されたため、同条約はその重要部分を抜き出し、成立を目指していた。
◇EU条約骨子◇
 一、EUに大統領(任期2年半)と「外相」相当の外交上級代表を創設
 一、欧州委員会の委員数(現27)を削減
 一、欧州議会の議席数を785から750に削減
 一、賛成が加盟国の55%以上、賛成国の人口総数がEU人口の65%以上の場合、可決する「二十多数決方式」を17年以降完全実施
 一、少数反対国の求めでEU決定を一定期間、棚上げできる
 一、各国議会にEU法案の拒否権を付与
 一、EUと各国の権限配分の明確化。国家安全保障などは各国の権限
 一、1国が攻撃された場合、各国が援助する共同防衛規定を新設
【10月19日 毎日】
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異論の多かったポーランドについては、先日の選挙で民族主義的色彩のつよかったカチンスキ政権側が敗退したことで、EUにとっては話がすすみやすくなったようです。

批准については、欧州憲法の失敗に懲りて国民投票ではなく議会での批准を目指す国が多い中で、イギリスでは保守党キャメロン党首が国民投票実施を要求しており、労働党ブラウン政権は対応に苦慮しているようです。【10月21日 産経】

アジアとは歴史的・文化的背景が異なるとは言え、通貨を統合し、更に大統領・外相を設けて統合を進める欧州には正直なところ驚くばかりです。
“自分たちの利益を将来的に守るためにはこの途しかない”という深い洞察と強い信念に基づくものでしょうが。


コメント
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