孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  経済成長と貧困

2007-10-31 15:23:36 | 世相

(写真はインドの大都会ムンバイ(旧ボンベイ)のスラム “flickr”より By Dey
2年半ほど前に南インドを旅行して最後にムンバイに立ち寄りました。このとき1万円弱の両替詐欺にあったのですが、その直後のやりきれない気持ちでタクシーから眺めた道路わきのスラムは“凄まじい”ものでした。アジアの他の国でも貧しい人の生活は目にしますが、どこか南国特有の雰囲気にその悲惨さが薄められている部分があります。しかしインドでは、すべてを焼き尽くすような日差し、道路からの埃と騒音・・・「どうしたらこんな環境で生きていくことができるのだろうか?」その剥き出しの貧困に言葉を失い、自分の詐欺事件の被害も「そのくらいは・・・」と思えてきた思い出があります。) 

インドが中国と並んで経済的に急成長しているのは周知のところで、29日にも米誌フォーチュンが主催する会議でインドのシン首相は、「インド経済は今後長期間にわたって9―10%の持続可能な成長が見込まれる」と述べたそうです。【10月29日 ロイター】
またインドはIT産業、IT教育を国策として推進している国としても知られています。
IT学校やITトレーニングセンターはインド国内に数千あると言われ、今日世界で最も多くのITエンジニアを生み出す国だそうです。

この結果、インドでは産業構造が大きく変容しています。
90年にはGDPに占める割合が、農業31%、製造業28%、サービス業41%でしたが、2005年には農業18%、製造業27%、サービス業54%となっています。
(インドチャンネル http://www.indochannel.jp/economy/potential/03.html )
IT関連のサービス業が拡大していること、「世界の工場」中国と違い製造業割合が変化していないことが特徴的です。

このようなインドの経済成長、IT社会を物語るニュース、トピックスは星の数ほどあります。
ムンバイで42インチの高解像度液晶テレビに225カラット、2250粒のダイヤモンドが花柄模様であしらわれた世界一高価なテレビ(約1750万円)が公開されたとか、マドゥライのインド有数のヒンドゥー寺院ではインターネットで祈祷を申し込みカード決済する“eプージャー”が行われているとか・・・。

経済的だけでなく政治的プレゼンスも高まっており、以前取り上げたように、アメリカも原子力政策でインドを“特別扱い”せざるを得ないまでになっています。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/e/03c30b1553d5e25925818ab0b89fe472  (8月19日)
(もっとも、この問題はインド国内の左派政党の抵抗で頓挫しているようですが。)

しかし、インドがカースト制や女性の権利という重大な社会問題を抱え、多くの国民が今なお貧困から抜け出せずにいるということも事実です。
そのことを物語るニュース・トピックスも、これまた星の数ほどあります。

結婚持参金“ダウリー”の問題、寡婦殉死の“サティー”の問題など、女性の地位・権利については少し当ブログでも触れたことがあります。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/e/2ef2cfae553fd6371d3e8e9b0bec2fe1  (7月21日)

貧困について言えば、この国の4人にひとりは今なお1日1ドル以下の生活を強いられています。
生産性の劣る農業についてみると、先述のように農業の金額的シェアは低下していますが、農村人口はなお7割を超え、就業者に占める農業従事者は6割とか。

ややもすると途上国の人達について、「貧しくてもあまりそのことを気にせずに、それなりに気楽に暮らしているのでは・・・」といった漠然としたイメージを感じることが多くあります。
しかし、インドでは借金苦による農民の自殺が絶えず98~03年の6年間で農民の自殺者は10万人(自殺者全体の16%)を超える状況で、深刻な社会問題になっていると言われています。
(自殺者全体の数だけから言えば、日本も年間3万人以上の自殺者がいますので、人口比など考えると日本社会にも相当の問題がありそうです。)

*****インド貧困層、600キロのデモ行進でニューデリー入り*****
【10月29日 AFP】
1か月にわたって行われた貧困層による数千人規模のデモ行進は28日、ニューデリーに到着した。貧しい農民、土地を持たない労働者、先住民らが参加し、インド経済の急成長に取り残された貧困層の窮状を訴えた。
男性、女性、子どもを含むデモの参加者は緑と白の国旗を振り、自由の象徴である身分制度カーストの下層出身であった故ビームラーオ・ラームジー・アンベードカルの肖像を掲げながら、内陸部から列をなして行進した。

デモ参加者らの要求は、土地と水の権利。農村部を産業地区に変え、9%以上の経済成長を維持するため海外からの投資を促したい政府の狙いとは相反する。

インド独立の父、故マハトマ・ガンジーの誕生日である10月2日、約2万5000人規模のデモ参加者らはグワリオルの中心都市から600キロメートルにわたる大行進を開始し、奇跡的な経済成長の無意味さを訴えた。
デモの主催者は「インド国民の40%は土地を持たず、23%は極めて貧しい状態にある」と指摘する。「このような状況のせいでインド600地区のうち172地区で毛沢東主義派による暴動が発生し、100の地域で農民らが自殺する結果を招いた。このような地区における改革の成果はどこにあるのか?」と問いかけたいという。

今回のデモ行進は、政府に対し、富裕層や権力者にたやすく所有権を奪われてしまう現行法に変わり、借地、譲渡証書、借地使用権などに関する確固たる法律の導入を求めるのがねらい
先祖代々守ってきた土地に証明書がないことや汚職が原因で、森林地帯の先住民などを含む多くの人々が土地を失っている。
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記事のなかにある毛沢東主義派については、「インド東部ジャルカンド州で10月26日夜から27日にかけて、30-40人の武装した毛沢東主義派ゲリラがサッカーの試合を見に来ていた約150人の住民に対して自動小銃を乱射し、少なくとも17人が死亡した。犠牲者の中には元同州首相の子息も含まれているという。」【10月27日 時事】というニュースがありました。

貧困と社会的差別、更に横行する不正という状態では、毛沢東主義派のような活動が行われるのも当然のようにも思えます。
それにしても、“驚異的経済成長・IT先進国”のイメージと“左翼ゲリラが自動小銃を乱射”という事件のイメージの落差には驚きます。

社会の抱える闇の部分を伝えるものとしては「インド東部ビハール州の村デルプルワで9月13日、窃盗を働いたとされる男たち十数人が群衆の袋だたきに遭い、10人が死亡、1人が重体となる事件があった。犯罪がまん延するビハール州では、警察と司法への不信もあって、民間人による窃盗犯らに対する過激なリンチが横行し、問題化している。同州内では10日にもオートバイを盗んだ男3人が目玉をえぐられる事件があったほか、8月末には装飾品を盗んだ男がオートバイの後部に縄でつながれて引き回される様子がテレビで放送され、全国に衝撃を与えた。」【9月14日 読売】といったニュースもありました。

膨大な貧困人口を抱えるインドが現状を抜け出すためには、カーストや女性問題といった根本的な社会問題があるだけに、単なる経済成長だけでは対応しきれない難しい問題があるように思えます。
政府も、例えば、一部国立大学については貧困層の特別入学枠を従来の22.5%から49.5%に引き上げる等の対策はとっているようですが、カーストのような社会に染込んだものを変えることはできるのでしょうか?(“変えたい”という意思が国民にどれだけあるのかが先ず問題でしょう。)


コメント
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