孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  一部地域で女性投票中止、野党勝利が向かう先は?

2008-02-20 15:04:26 | 世相
パキスタンの総選挙は以前から報じられていたように、与党の惨敗、野党勝利という結果になりました。
昨夜段階の選管発表によると、定数342議席のうち比例70議席と候補者死亡などにより後日補欠選挙が行われる4選挙区を除く268選挙区について257議席が確定、主要政党では、人民党86議席▽シャリフ派67議席▽クアイディアザム派38議席--となっています。

女性(60議席)・非イスラム教徒(10議席)に割り当てられる70議席は一般議席獲得数に応じて配分されます。、この結果、第1党となった人民党も単独過半数の172議席には届きませんので、今後は連立工作が焦点となります。
心配されていた選挙の不正操作、あるいはイスラム過激派による選挙妨害については、目だったものはなかったようです。

今回選挙に関する個人的感想をいくつか列挙すると
・ ブット元首相暗殺による同情票が予想された人民党ですが、“地すべり的勝利”とまでは行かなかったようです。
・ そのブット元首相の影にかくれた存在ですが、シャリフ元首相は現地ではブット元首相以上に国民の支持があると言われていました。人民党に迫る選挙結果はさすがにその強い支持をうかがわせます。

・ シャリフ元首相帰国時に協力関係を示したイスラム原理主義政党「統一行動評議会」(MMA)。今回の選挙では改選前の56議席を激減させ、政党としての存続の危機に直面することが確実になったようです。多発した過激派による自爆テロに対する国民の反発であり、パキスタン社会が理解不能な社会ではないと少し安心しました。

今後の連立については、すでにシャリフ元首相が19日記者会見し、選挙で第1党が確実となった人民党に対し、電話で連携を呼び掛けたことを明らかにしています。
元首相は「独裁者とはおさらばだ」と述べ、ムシャラフ大統領との連携の可能性を否定したそうです。

人民党のザルダリ共同総裁も、シャリフ派など諸政党と議会・内閣で大連立を組む「国民政府」を樹立したいとの考えを明らかにしています。
シャリフ元首相はこの国民政府構想に賛意を示した上で、「ムシャラフは国民に求められれば辞任すると言った。国民の意思は既に示された」と事実上の退陣要求を突き付けています。
(大統領報道官は即座に拒否していますが。) 
なお、反ムシャラフ勢力が下院の3分の2を超えた場合は憲法の規定で大統領弾劾決議が可能になり、大統領は失職しますが、今回、人民党とシャリフ派でこの3分の2をクリアするのかどうかはよくわかりません。

ムシャラフ大統領は、人民党とシャリフ派の連立阻止に動くと報じられています。
ムシャラフ大統領の働きかけで、人民党と敗北した与党の連携が模索されるという報道もありますが、勢いを失ったムシャラフ大統領、与党にその力があるでしょうか?
変な言い様ではありますが、大きな不正操作もなく(与党に有利な不公正な選挙活動は多々みられたようですが)野党有利の選挙を進めたあたり、ムシャラフ大統領はもはや政権にあまり執着しないような、“燃え尽きたのかな・・・”という感もあります。
特に、ブット元首相暗殺のあたりから、“淡々としたもの”を感じますが・・・。

いずれにしても、今後ムシャラフ大統領の求心力は低下し、現野党を軸に政治が動いていくことになるのでしょうが、人民党の中心にいるザルダリ氏というのはどうでしょうか?
ブット元首相の旦那ですが、かつて“ミスター10%”と呼ばれたように賄賂まみれの噂しか聞きません。
シャリフ氏が首相になって逮捕され服役したわけですが、その両者の今後の関係は?

ブット元首相というカリスマを失った人民党に対し、シャリフ元首相(イスラム教徒連盟シャリフ派)の存在感が大きくなるようにも思えます。
イスラム主義政党とも近い関係を保っていましたが、元来イスラム主義的な人物で首相在任中には、イスラム法を絶対的規範に法体系を見直す憲法改正案を国会に提出したこともあるそうです。
また、98年にはアメリカの制止を振り切って初の核実験にも踏み切った人物でもあります。
国民的人気は高い政治家ですが、今後国内のイスラム過激勢力にどのように対処していくのでしょうか。

今回の選挙で一番印象的だったのは次の記事です。
****パキスタン総選挙、一部地域で女性の投票中止*****
【2月18日 AFP】下院選と州議会選挙の投票が行われたパキスタンで18日、アフガニスタン国境に近い北西部の部族地域の長老たちが女性は投票すべきでないと決めたことから、同地域に設けられた女性用投票所の一部で受け付けが中止された。現地警察や自治体当局が明らかにした。
市長によると、北西辺境州の長老たちは、「自分たちの文化に反する行為」だとして女性の投票中止を決めたという。この決定について市長は「彼らの伝統であって、われわれにはどうすることもできない」と話した。
******************************

日本的価値観からすれば、参政権は基本的人権の重要な要素であり、それを“長老”が剥奪し、市長が“どうすることできない”というのは、どうにも受け入れ難いところです。
これが、パキスタン、特にトライバルエリアと呼ばれる一帯の実情であり、政治を困難にしているところでもあります。
アメリカから、“アルカイダが潜み、テロの温床となっている”と非難されても中央政府が手が出せない・・・そんな社会でもあります。

強権的に社会をコントロールしてきたムシャラフ大統領が失脚して、あるいは、影響力をなくして、どのようにこのパキスタン社会を導くのか?
イスラム過激勢力の力が拡大するのか、低下するのか?
核保有国でもあり、アフガン戦略の要でもあるパキスタンの今後の動向が注目されます。

しかし、ザルダリ氏を逮捕したのがシャリフ元首相、シャリフ元首相が解任しようとしたのがムシャラフ陸軍参謀長、そのムシャラフに逆に追放されたシャリフ元首相が今また政局の中心に・・・因果はめぐる世界です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする