孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  のしかかるイラク・アフガンの重圧、変革への希望

2008-02-25 14:47:24 | 世相
アフガニスタンへの欧州各国の増派が進まず、業を煮やした感のカナダは2011年の撤退を表明、そんななかでアメリカでは先月15日に発表された海兵隊3200人増派(2200人がISAF指揮下で南部に展開、1000人がアフガン治安部隊の訓練業務)に向けて特訓中とのことです。

雪解けとともにタリバンの攻撃が増加すると予測されるため、その前に派遣される予定。
タリバンは戦略や地形の利用の仕方で、イラクの武装勢力とは大きく異なるとか。
海兵隊所属偵察部隊大尉:「イラクでは敵は簡易爆発物(IED)を多用し、戦闘員は隠れていた。一方、アフガニスタンのタリバンは近付いて銃撃するので銃撃戦になるだろう。イラクではあまりなかったことだ」
それに併せた調整・訓練が行われています。

また、軍事訓練に加え隊員は、現地で話されているパシュトゥー語とダリー語の研修も受けます。
ある若い隊員:「語学の授業では『これからあなたの家を捜索します』などの表現を学ぶ」【2月24日 AFP】
緊迫した場面でうまく通じるといいのですが。

この増派でアメリカのアフガニスタン駐留が2万9200人になります。
イラクが16万人、昨年増派した3万人を7月までに撤退させ13万人規模へ縮小。
その後年末までには10万人規模まで更に縮小の予定でしたが、今月11日、ゲーツ長官は「アルカイダ系武装勢力の暴力は劇的に減っているものの、イラク情勢は依然として不安定」と語り、13万人以下への縮小を一時停止する意向をあきらかにしています。

イラクに執念を燃やすブッシュ大統領と、13万もの大部隊の長期イラク派遣は絶対に放置できないとする軍のトップの間で、ゲーツ長官は板ばさみになっているとの報道も。【2月20日 IPS】

イラクではトルコがPKK掃討の地上軍越境攻撃を開始。
規模はトルコのTV放送は1万人規模と報じていますが、イラク政府報道官は千人未満の限定的作戦としています。
いずれにせよ、雪解け後の本格的作戦に向けてますますトルコの圧力は強まると思われますが、クルド自治区側の反応いかんではイラク情勢は大荒れになります。
コソボ独立もクルド人の意識に影響を与えるのでは。
そんな事態になると、アメリカの撤退計画もそれどころではないことになります。

唯一、アメリカにとって追い風になったのは、シーア派のサドル師が22日、配下の民兵組織マハディ軍の活動停止を更に半年延長すると発表したことでしょうか。
サドル氏の意向はわかりませんが、水面下でアメリカの強力な働きかけがあったのでは・・・。
アメリカとしては、多少の政治的・経済的取引をしてでもマハディ軍にはおとなしくしていてもらいたいところでしょうから。(全くの邪推ですが。)

アメリカのイラク・アフガニスタンにおける軍事行動に賛成するか、反対するかといった議論とは別に、「アメリカもよくここまでやるよな・・・」という感じがします。
十数万人規模の軍隊を派遣して、日々多くの犠牲者を出して・・・よくこれで国内が維持できるものだと感心してしまいます。
財政的負担ひとつとっても莫大なものがあるでしょう。

アメリカ社会は大丈夫なのでしょうか?・・・多分、大丈夫ではないのでは。
日本でもそうですが、市場重視の社会で所得格差が拡大し、貧困層が増加する・・・そんな傾向はアメリカでも著しいと思われます。
更に、サブプライムローン問題も低所得層の生活を圧迫します。
恐らく、莫大な軍事費の何分の一かでもこうした問題への対策に投じれば事態はまた違ってくるのでしょうが。

社会にはそんな不満が強まっているのではないでしょうか。
そんな不満が、大統領選挙で“変革”を掲げるオバマ候補と共鳴して、大きなうねりになりつつあるのではないかと思ったりします。

開戦当初からイラク戦争に反対していたオバマ候補(当時はまだ一介のイリノイ州議会議員でしたが)には、従来のワシントン政治とは違うものを期待させるところがあります。
(以前のブログでも触れたように、追い込まれたヒラリーには同情を感じますが・・・)
20002年10月2日のオバマ氏の演説。
http://www.barackobama.com/2002/10/02/remarks_of_illinois_state_sen.php

**************
私はすべての戦争に反対しているのではない。
今日ここにいる皆さんを見ていると、愛国者や愛国心に満ちあふれていることがわかる。
私が反対しているのは「Dumb War / 馬鹿げた戦争」だ。
急いた戦争。しっかりした理由のない、感情に支配された道義に沿わず、政治的な理由での戦争に反対なのだ。

はっきりさせておこう。私はサダム・フセインの幻覚に惑わされているのではない。
彼は非道な人間だ。残酷な人間だ。自らの権力を守るために、自分の民を虐殺する人間だ。
しかし、サダムが米国に対して、直接切迫した脅威ではないことも知っている。
国際社会の協力があれば、彼を抑制することが出来る。他の独裁者たちが辿ったように。歴史のゴミ箱の中に落ちて行くまで。

もし対イラク戦が成功しても、無期限の米国による占領が要求される。無制限の出費と無制限の影響。
明確な理論的根拠と国際協力のないイラク攻略は中東の火に油を注ぐだけなのはわかっている。
良い事態を招くのではなく、悪を鼓舞し、アラブ世界を興奮させ、アル・カイダの武力を増強させるだけだ。

私はすべての戦争に反対しているのではない。馬鹿げた戦争に反対しているのだ。
ブッシュ大統領、闘いたいのなら、ビン・ラディンとアル・カイダを攻撃しよう。
ブッシュ大統領、闘いたいのなら、エクソンやモービルの利益に貢献するためではないエネルギー政策で、我々が中東の石油から乳離れするために闘おう。
それらの闘いが我々には必要なのだ。それらの闘いになら、我々は心から望んで参加する。
無知や偏狭との闘い。荒廃や強欲との闘い、貧困や絶望との闘い。

戦争から生じるものは恐怖だ。犠牲は測り知れない。
人生には何度もこんな時がある。我々の自由を守るために立ち上がらなければならない時が。戦争という代価を払わなければならない時が。
しかし決してしてはならない、やめようではないか。盲目的に地獄への道を進むことは。
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思わず全文を引用しましたが、なかなか引き込まれるスピーチです。
魅力的ですが、非常に特徴的でもあります。
イラク戦争を「Dumb War / 馬鹿げた戦争」と断じる一方で、“Let’s finish the fight with Bin Laden and al-Qaeda.”(かたをつけようじゃないか)とアフガンについては攻撃的な姿勢です。

昨年オバマ候補は、アフガンのタリバン勢力の温床となっているパキスタン・トライバルエリアについて、アメリカ“単独主義”の攻撃を主張し、「そんなことをしたら、反米運動を燃え立たせ、せっかくアメリカの立場でなんとか乗り切ろうとしているムシャラフの足を引っ張り、ひいては核保有のイスラム反米国家をつくりかねない」といった趣旨の揶揄・批判をヒラリー等世間から浴びました。

しかし、ここにきて、アメリカに協力的だったブット元首相を失い、ムシャラフ大統領は辞任のカウントダウン状態。
3月9日に予定されているチョードリー元最高裁長官が停職を命じられた1周年の大規模デモがXデーとか、あるいは“数日中”とか。
人民党とシャリフ派の連立はどうみても無理やりくっついた感じ。
人民党にリーダーはなく、シャリフ元首相はイスラム武装勢力掃討の即時停止を主張。
アメリカにとって、“もはや遠慮なく行動できる”環境になりつつあるとも言えて、案外現実味を帯びてきたのかも。

コメント (1)
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