(昨年11月、ムシャラフ大統領の退陣を求める抗議デモ まだブット元首相が存命時のPPPによるデモではないでしょうか。このときはムシャラフ大統領によって故ブット元首相は軟禁下におかれました。 あれからまだ1年にもなりませんが、情勢は大きく変わりました。 “flickr”より By groundreporter
http://www.flickr.com/photos/16901703@N06/2003269186/)
【ムシャラフ大統領辞任?】
“約9年間の在任中、国家を政情不安と経済混乱に陥れた”として弾劾手続きが始まっているパキスタンのムシャラフ大統領が辞任する意思を固めているとの報道がありました。
****パキスタン大統領、弾劾回避し辞任へ=FT****
パキスタンのムシャラフ大統領は弾劾を回避して辞任する見込み。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版が14日、政府筋と大統領側近の話として伝えた。
匿名の政府高官が同紙に語ったところによると、大統領と連立与党の間で合意が成立した。同高官は「大統領は弾劾されず、いかなる容疑でも訴追されることはない。パキスタンにとどまる」と語った。
FT紙によれば、ムシャラフ大統領はイスラマバードに所有する農場へ引退し、辞職後は起訴されないよう要求した。政府高官は同紙に、軍部も大統領の要求を受け入れるよう求めていると述べた。【8月15日 ロイター】
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【狭まる包囲網】
ムシャラフ大統領については、これまでもたびたび辞任は不可避“とか辞任のうわさ”は報じられてきました。
今回の報道も、今のところ他紙の報道はなく真偽のほどはよくわかりませんが、まことしやかな連立与党との取引合意の内容などが伝えられるあたりは、いよいよ追い詰められてきたのかな・・・という感じがします。
政権与党のパキスタン人民党(PPP)のザルダリ共同総裁とイスラム教徒連盟ナワズ・シャリフ派のシャリフ元首相がムシャラフ大統領の弾劾手続きを開始すると発表したのが7日。
両党は反ムシャラフを掲げ2月の総選挙で躍進し、PPPのギラニ氏を首相とする連立政権を樹立しましたが、5月には、先の大統領選挙無効に直結する前最高裁長官の復職をめぐる立場の違いから、シャリフ派閣僚9人全員が辞任して連立から離脱。(閣外協力は持続)
これまでPPPはムシャラフ大統領の追い落としはあまり急がない対応をとっていましたが、食料品価格やガソリン高騰に対する国民の不満が高まり、また、ギラニ政権が進めたアフガニスタン国境沿いの武装勢力との対話路線も破綻、そうした状況で、PPPは国民の不満をそらし政策の行き詰まりを打開する狙いもあって、大統領追い落としに積極的なシャリフ派(シャリフ元首相はムシャラフ氏ら軍部のクーデターで政権を追われた経緯があります。)と共同して大統領弾劾に乗り出したとみられています。
弾劾決議には上下院の合同集会で3分の2以上の賛成が必要です。
下院(定数342)では、今年2月の総選挙で大勝した両党など反大統領派が253議席を占めますが、上院(定数100)では大統領派が48議席を保持しているため、弾劾の実現は微妙と見られています。
ムシャラフ大統領側はこれまで「弾劾の動きとは闘う」と表明しており、対抗策として議会の解散や非常事態宣言の可能性も取り沙汰されていました。
下院では11日大統領の弾劾手続きに向けた協議が始まり、また、パキスタン最大のパンジャブ州の州議会で同日大統領は人民の信頼を失っており、退陣するか弾劾されるべき“との決議案が可決されたことから、ムシャラフ大統領への辞任圧力がさらに強まっています。
国会には月内に弾劾案が提出される予定です。
最近公の場での発言が殆どないムシャラフ大統領は14日、独立記念日の演説を行いました。
自身の弾劾問題には触れず、「国内経済を軌道に乗せ、テロと戦うには、政治の安定が必要だ。政治の安定が実現できなければ、適切な対応はできない」と述べています。
パキスタン金融市場では、政局の先行き不透明感を嫌気して、パキスタンルピーが最安値を更新。株価も2年ぶりの安値近辺で推移しているそうです。
【テロとの戦いの要】
上記のようなムシャラフ包囲網が狭まるなかでの、冒頭のロイターの辞任記事ですが、どうでしょうか?
ムシャラフ大統領の去就が注目されるのは、アメリカが進める“テロとの戦い”にあってパキスタンが要の地位を占めているからです。
アフガニスタンのタリバン勢力、また、アルカイダ勢力はパキスタン北西部国境隣接地域のトライバルエリアを根拠地にしていると常々指摘されており、アメリカにとってパキスタンの協力はアフガニスタン情勢、更にはイランを含めたこの地域の安定化とって重要なポイントになっています。
最近は、これまで比較的落ち着いていたインドとのカシミール問題も騒がしくなってきています。
【ISIとイスラム過激派】
かつてタリバン成立、そのタリバンによるアフガニスタン支配をパキスタンの軍情報機関である三軍統合情報部(ISI)が推し進めたと言われていますが、最近のイスラム過激派によるアフガニスタンのカイザル大統領暗殺未遂事件(4月)、カブールのインド大使館前の自爆テロ(7月)、インド国内連続爆弾テロ(7月)といった事件には、いつもISIとの関連がうわさされます。
パキスタン関連のニュースを見聞きしていて、このISIとイスラム過激派との関係がよく理解できません。
ISIは軍中枢にあり、ムシャラフ大統領などの軍事政権の権力基盤でもあります。
昨年までISI局長はキアニ中将で、彼はタリバーン、アルカーイダとパキスタンの戦いの最前線に立ち、政治面でムシャラフ大統領を補佐してきた人物で、ISI局長を辞して大将に昇進し、ムシャラフ陸軍参謀長辞任後の新参謀長を任されたほどムシャラフ大統領の信任の厚い人物です。
(もっとも、ムシャラフ大統領が追い詰められるにつれて、キアニ参謀長の忠誠がこれまで同様続くのか?という点については多くの人が注目しているところですが)
後任のISI局長には、やはりムシャラフ腹心のタジ中将が就任しています。
そのISIとイスラム過激派との関連がいつも指摘されている一方で、軍・警察がいつもイスラム過激派のテロの対象となっています。
先日12日もパキスタン北西部ペシャワルで、物資を積んで空軍基地からペシャワルに向かっていた空軍のバスが橋を渡った際に爆発が起き、少なくとも13人が死亡、15人が負傷しています。
アメリカと共同してテロとの戦いを進める軍事政権の中心にあるISIがイスラム過激派とつながり、そのイスラム過激派の攻撃の標的に軍そのものがなっている・・・私が軍関係者なら、そしてISIとイスラム過激派のつながりが本当にあるなら、ISI本部に砲弾を撃ち込むところですが・・・どうもこのあたりの関係が理解できません。
いずれにせよ、ムシャラフ大統領の辞任がいつ報じられてもおかしくない情勢ですが、ここからの粘り腰があるのでしょうか?