孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  イスラエル軍の白リン弾使用  強硬作戦はハマスを利しただけでは?

2009-01-22 21:11:39 | 国際情勢

(ガザ市街地上空に白く尾を引く白リン弾 “flickr”より By illuminating9_11
http://www.flickr.com/photos/illuminating9_11/3172722402/)

【イスラエルの“過剰”な攻撃】
イスラエルは17日夜、1200人以上の死者を出したガザでの一方的停戦を発表し、20日のオバマ新大統領就任に併せてガザからの撤退を行いました。

今回のガザでの戦闘は、執拗なハマス側のロケット弾攻撃が直接の契機となったということはありますが、イスラエル側の攻撃も“過剰”の批判がなされるものでした。

イスラエル軍の地上作戦開始翌日の4日朝には、イスラエル歩兵部隊が周辺に暮らすパレスチナ人の一族110人に対し、安全確保のためとして建築中の倉庫に移るよう指示、その24時間後にその建物に攻撃が行われ30人が死亡しました。
イスラエル軍報道官は9日、「特定の建物に誘導した事実はない」と否定しています。
ピレイ国連人権高等弁務官は「戦争犯罪の構成要素がある」と述べ、ジュネーブの人権委員会特別会合で、イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃が国際人道法に抵触する可能性があり、独立調査が必要だと訴えました。

6日には、ガザ北部ジャバリヤ難民キャンプで国連が運営する学校付近をイスラエル軍が砲撃し、約40人の死者が出ました。
(イスラエル国防省は“誤射”を認め、“ロケット弾を発射したハマス戦闘員に、イスラエル軍が3発の迫撃砲弾を発射。2発は標的に当たったが、1発が約30メートル外れて着弾し、学校付近にいた民間人に被害を与えた”と説明しています。)

イスラエルの人権団体ベツェレムは、13日ガザ南部で白旗を掲げて自宅から避難しようとした50歳の女性ら複数の住民が、イスラエル軍の銃撃を受け、死亡したとする報告書を発表しました。
イスラエル軍は、「イスラム原理主義組織ハマスは住民を盾にして攻撃を続けている」と述べ、ハマスに責任があると主張しています。

【白リン弾問題】
いったん“戦闘”状態になってしまえば、こうした“人道上の問題”も、戦場での常識になってしまいます。
ここ数日問題にされているのは、イスラエル軍による“白リン弾”使用についてです。

白リン弾は国際条約で明示的に禁止された兵器ではなく、化学兵器ともみなされておらず、煙幕を張ったり、敵兵を潜伏場所からいぶり出したりするのに用いられるそうです。
しかし、消火困難で、皮膚に触れると骨を溶かすほど激しく燃焼し続けて“骨まで焼き尽くす”深刻な被害をもたらすため、故意に市街地に投下するなどの使用方法によっては「民間人を焼夷兵器の攻撃目標」とすることを禁じた特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)第3議定書に違反するとの考えもあります。

イスラエル軍は06年夏の第2次レバノン戦争での白リン弾使用を認めています。
米軍も04年11月にイラク西部のファルージャ攻撃で白リン弾を使用、多数の市民に被害が出ました。
イスラエル、米国ともCCW第3議定書を批准していません。

イスラエル軍は当初「白リン弾は使用していない。使用した兵器の種類については答えられない」【1月11日 毎日】と否定していましたが、イスラエル有力紙のハアレツ紙によると、“イスラエル軍の内部調査で、白リンを主成分とする砲弾計200発が使われたことが分かった。うち180発はパレスチナ側の戦闘員が占拠した農地に向けて使われたが、残り20発はガザ北部ベイトラヒヤの市街地で使われたという。”【1月22日 朝日】とのことです。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)ガザ本部事務所のジョン・ギング所長も、15日のUNRWA現地本部への攻撃にも白リン弾が使われたとして、「イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの双方に戦争犯罪を犯した多くの疑惑がある」と指摘、独立した調査官による徹底した捜査を行うよう求めています。
15日の白リン弾攻撃で大きな火災が発生し、倉庫内にあった人道支援物資すべてを失い、物資輸送用トラックの補修部品や消耗品の備蓄もすべて焼失したとのことです。

白リン弾が非人道的云々の議論には釈然としない部分が(というより問題の本質でしょうが)あります。
つまり、核兵器や白リン弾が非人道的だとして、では通常の銃や爆弾ならいいのか・・・という点です。
ただ、どっちも大差ないじゃないかとすべてを認める考えには組することはできませんし、全ての殺人の道具は認めないと言ってしまっては、あまりにも現実から遊離します。
ですから、釈然としないままどこかで線を引かざるを得ないところです。

【ハマスの政治基盤を強化】
今回のイスラエルの強硬な作戦の評価については、下記の記事のようなところではないでしょうか。

****イスラエル ガザ無差別攻撃、逆効果 排除戦略空振り ハマスに利****
イスラエルのオルメルト首相は軍事作戦が当初の目標以上の成果を上げたと強調したものの、イスラム原理主義組織ハマスがいずれ、戦闘員補充などで戦力を回復するのは間違いないとみられ、ハマスのガザ支配を崩そうというイスラエルの狙いは今回も空振りに終わった。
 ≪成果を強調≫
イスラエル側は「一方的停戦」に踏み切った理由として、(1)ガザ地区とエジプトを結ぶ多数のトンネルを通じて行われているとされる武器輸出阻止について米政府と合意し、初めて「了解覚書」を取り交わした(2)イスラエル領にロケット弾を発射するハマスの軍事力に深刻な打撃を与えた-などの成果を強調する。
だが、エジプトは頭越しに結ばれた「武器密輸阻止」というイスラエルと米国の合意に反発。そもそもエジプト政府は、国内の反政府団体である穏健イスラム原理主義組織、ムスリム同胞団と強い関係をもつハマスを警戒しており、エジプト治安機関が裏でハマスへの武器密輸を黙認しているとは考えにくいこともあり、米・イスラエル合意が今後どういう枠組みを取り得るのか、その実効性は不透明だ。

一方、今回の攻撃でガザの人道状況は過去最悪となった。国際社会はいち早く、ガザ復興支援に向けた協議に動き始めたが、ここにもジレンマは潜んでいる。
 ≪ファタハ主導の虚構≫
パレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハと自治政府の主導権を争ったハマスが2007年6月にガザ地区を武力制圧した後、イスラエルと米国は経済封鎖を通じてハマスを締め上げることで民心の離反を図ろうとし、欧州連合(EU)や日本なども、それに乗った。イスラエル承認を拒む“ハマス自治政府”を崩壊させ、ヨルダン川西岸に辛うじて力を残すファタハに再びガザの主導権を握らせたいとの思惑からだった。
だが、今回のイスラエルの無差別な大攻撃は住民のハマスからの離反を促すどころか、強烈なイスラエルへの怨嗟(えんさ)の念がハマスへの不満などかき消してしまい、むしろイスラエルに“断固たる姿勢”をとれないファタハの基盤はさらに浸食された。

ハマスが一時的に戦闘力を低下させたとしても、そのガザ支配が揺らぐ気配はなく、国際社会の復興支援が「ファタハのガザ統治復活」を暗黙の前提とするならば、それは“虚構”であることが明らかだ。国際社会がかけ声だけでなくガザ復興に取り組むことになれば、ガザを支配するハマスにどう対応するのかという難問を避けて通ることはできなくなるだろう。
イスラエルの今回の攻撃は、国際世論から「戦争犯罪ではないか」(国連機関や国際赤十字)という厳しい声が出た。イスラエルの「やり過ぎ」は、政治的には、ハマスを利したといえるだろう。【1月19日 産経】
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一番の問題は、パレスチナ住民のイスラエルへの怨嗟・憎しみを増幅させ、結果的に穏健派ファタハの地盤であったヨルダン川西岸地区でもハマス支持を拡大したことです。
イスラエルとの共存を認めないハマスが前面に出る限りパレスチナ和平は困難ですが、今回作戦は一時的な軍事的ダメージと引き換えに、ハマスに“大義”を与え、その政治的基盤を逆に強めるだけだったのではと懸念されます。

アッバス・パレスチナ自治政府議長は19日、アラブ連盟首脳会議で、ハマスに対してファタハとの連立政府の樹立を呼びかけました。連立政府樹立後に、議長選挙と評議会選挙を同時に実施するとしています。
しかし、ハマスはアッバス氏の議長の任期は1月8日に切れており、もはや議長として認めないと主張しています。
ハマスの最高幹部ハレド・メシャル氏は21日、シリアの首都ダマスカスでテレビ演説し、イスラエル軍がガザ撤退を完了したことについて、「(イスラエルへの)抵抗運動が勝利した」と述べたそうです。

今後、ハマスを和平合意の枠組みに取り込んでいくことが、更に必要になったように思われますが、非常に困難な道でもあります。



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