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(ミャンマー軍事政権への抗議行動に参加するミャンマー難民 メルボルンにて
“flickr”より By Rusty Stewart
http://www.flickr.com/photos/rustystewart/1466367016/)
【ボートピープル】
アフガニスタン、パキスタン、イラクなどからの難民“ボートピープル”が次々とオーストラリアに押し寄せており、前政権の政策を転向して難民に対して寛容な政策をとっているラッド政権に対する批判がオーストラリア国内で高まっているそうです。
****豪政権悩ます難民船 政策転換後、次々と****
アジアや中東の紛争地などを逃れてきた難民を乗せた船が、オーストラリア海域に相次いで押し寄せている。労働党のラッド政権が昨夏、保守系の前政権の厳しい難民政策を転換して以降、続々と来航しており、野党側が責任を追及するなど政治問題化しつつある。(中略)
難民船は今年1月以降だけで計8隻が豪海域内に入るなど急増。ラッド政権が難民政策を緩和した昨年9月以降、計15隻の難民船が見つかり、この8カ月間に豪州上陸を目指したボートピープルは500人余にのぼるとされる。
難民は治安悪化の著しいイラクやアフガン、内戦が続くスリランカなどから逃げてきた人々が多い。
難民船の「出港地」であるインドネシアの島々を取材した地元テレビは、アジアや中東から大勢の難民が集まり、大半が密航あっせん業者に大金を払って不法入国の機会をうかがっている、と報じた。
世界的な金融危機で貧困層が新天地を目指すケースもあるという。
ハワード前政権は、ボートピープルを近隣国のナウルやパプアニューギニアに設置した収容所に送り、難民認定審査を行うなどの厳しい政策をとっていた。だが、ラッド首相は選挙戦で他国に置いていた収容所の閉鎖を公約。昨年2月に、公約を実現した。その後、難民申請者を他国の収容所に隔離する政策も廃止を決めた。
一方、野党陣営はラッド政権による見直しが難民船急増につながったとして、「政府の難民政策は緩い。違法な難民たちを思いとどまらせるためにも強化すべきだ」(野党自由党党首)と非難するなど攻勢を強めている。
多くの移民や難民を受け入れてきた豪州では難民問題に敏感なだけに、ラッド政権は対応に苦慮。
インドネシアのユドヨノ大統領に難民船の取り締まり強化を求める一方で、国内向けには「最近のアフガン情勢や金融危機などが難民急増につながっている」(ラッド氏)と説明しているが、難民船がこのまま急増すれば政権基盤にも響きかねない、との見方も出ている。【4月28日 朝日】
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このニュースを聞いて、地理的に遠く離れたアフガニスタン周辺国からどうやって“ボートピープル”がオーストラリアにたどり着くのか不思議に思ったのですが、密航斡旋業者が介在して、インドネシアやシンガポール・マレーシアなどを中継地として、オーストラリアに送り込んでいるようです。
“インドネシア国家警察によると、今年新たに確認されたアフガン、パキスタン、イラクからの難民は約200人。北スラウェシ州やスマトラ島のランプン州のほか、ジャカルタ沖の小島や西ジャワ州ボゴールなど首都近郊での発見も増えている。当局者は「これほどの数は(米国のアフガン攻撃があった)01年以来」と話す。
難民のルートはシンガポール、マレーシア経由などさまざまだが、目的地はいずれも豪州。今月17日にバンテン州で見つかったアフガン人68人は、密航あっせん業者によってリゾート地のコテージにかくまわれ、「豪州行きの順番」を待っていたという。”【4月25日 毎日】
【移民の国】
不法入国難民とはまた異なりますが、海外移民という観点からすると、もともとオーストラリアは移民国家で、国民約2100万人の4人に1人が海外生まれという国です。
近年でも、経済が好調で労働力が不足する時期には積極的に移民を受け入れてきました。
しかし、どこの国でもそうですが、移民増加は社会に受け入れられない移民による治安悪化を招き、また景気が悪化すると国内労働者の雇用を奪っていると敵視されることになります。
オーストラリアに在住したことがあるイギリス人の知人が「昔のオーストラリアはよかった。移民が増えてひどい社会になった。」と嘆いていたことを思い出します。
ここで言う“移民”は、通常“非白人”を念頭に置いていると思われます。
移民増加を抑えるため、保守党前政権(ハワード首相)は市民権テストを導入しました。
****オーストラリアが市民権テスト導入、国歌の歌い出しなど問う****
オーストラリアは1日、市民権の取得を希望する人に同国の歴史や文化に関するテストを課し、国民としてふさわしいかどうかを評価する市民権テストを開始した。
保守派のハワード首相は、新たに国籍を取得する人が「メイトシップ(仲間意識)」といった同国の幅広い価値観に確実にコミットするようにするため、テストが必要としている。
国内では2005年、シドニーのビーチでイスラム系の若者らと非イスラム系の若者らが衝突する暴動事件が起きており、「オーストラリアの価値観」推進の一環として、テストの導入などが決まった。
テストは、国歌の歌い出し部分を問うものなど全20問で、コンピューター上で行われ、12問以上正解で合格。オーストラリアは移民国家で、国民約2100万人の4人に1人が海外生まれ。1日には30人以上がこのテストを受ける予定。
同様のテストはカナダや米国、英国でも行われているが、オーストラリア国内では難民や移民グループから批判の声が上がっていた。【07年10月1日 ロイター】
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この時期は、同様の措置が移民増加に悩む欧州各国でも導入された時期です。
オーストラリア政府は「移民排斥が目的ではない」と説明していましたが、移民団体は「英語が苦手な移民を締め出すものだ」と批判していました。
その後、移民・難民に寛容なラッド現政権に変わった訳ですが、今現在“市民権テスト”がどうなっているのかは知りません。
【衝突する利害】
かつての“白豪主義”で知られるオーストラリアに限らず、移民・難民問題は“今自分達が手にしているものを、よそ者のために失いたくない”という本音が表面化する難しい問題です。
特に、人種的な問題が絡むだけに厄介です。
先住民への謝罪では国民的共感を得たラッド政権ですが、すでに奪いつくしてもはや社会的影響力を失っている先住民とは異なり、増加する移民・難民問題は直接に自分の生活・権益に関わってきます。
そうした本音は当然理解できますし、国家はまずもって現在の自国民の権利を保護するためにあるというのもわかります。
ただ、それだけでいいのか・・・という気もします。
“自分達さえよければ・・・”というのも、寂しい感じがあります。
どこかでうまく折り合いをつける、冷静な判断・理性が求められます。