孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  12日の大統領選挙と核開発問題

2009-06-07 11:51:29 | 国際情勢

(テヘランの西に位置する都市ガズヴィン 5月6日 アフマディネジャド大統領の地方巡回を迎えて、街頭でポスターを手にする“若き支持者” “flickr”より By kamshots
http://www.flickr.com/photos/kamshots/3564356990/)

【保守派現職に対抗する改革派元首相】
今月12日に行われるイラン大統領選挙は、核開発問題や中東・アフガニスタンでの対応、更には、もうひとつの火種である北朝鮮とイランの関係など、今後の国際関係に大きな影響を持つものとして注目されています。

当初475人が立候補届けを行いましたが、イラン独特の制度である監督者評議会(しばしば護憲評議会とも訳されます)による資格審査の結果、保守派のアフマディネジャド大統領(52)、レザイ元革命防衛隊司令官(54)、改革派のキャルビ元国会議長(71)、ムサビ元首相(67)が最終候補となって選挙戦を戦っています。
6月12日の投票で有効投票の過半数を得る候補が出なかった場合、19日に上位2候補による決選投票が行われることになっています。

現職の保守派アフマディネジャド大統領(52)は就任以来地方各州を2巡して、「バラマキ」とも批判されるインフラ整備や生活困窮者対策への膨大な資金を投じてきました。
この「バラマキ」によって、一定に地方低所得層を中心に強い支持を維持しています。
更に、最高指導者ハメネイ師の支持も得る形で、アフマディネジャド大統領が優勢な情勢と見られています。

対抗馬としては改革派のムサビ元首相があげられています。
ムサビ元首相はイスラム革命(79年)後の81~89年に首相を務め、イラン・イラク戦争時の戦時経済を乗り切った実績があります。また、改革派の重鎮ハタミ前大統領の支持を得ています。
今回の選挙では、25%とも言われる高インフレが続く「経済問題」が最大の争点になっており、ムサビ元首相は現政権の経済政策を批判し、過去の実績を強調することで、保守層にもくすぶる大統領批判票まで幅広く獲得したいところです。

なお、ムサビ元首相は「イスラム革命原理を重視する改革派」を任じており、一部地元メディアはムサビ氏をアフマディネジャド氏と共に「原理派」と呼び、カルビ氏と一線を画しているとか。【5月22日 毎日】
今回、改革派からはキャルビ元国会議長も出馬しており、“分裂選挙”がどのように影響するかも注目されています。

【初のテレビ討論】
イランは“原理主義”“宗教支配”のイメージが強くありますが、世襲制・秘密主義の北朝鮮とは違って、その選挙戦は意外なほどに“民主的”とも言えます。
4人の候補者が2人ずつ総当たりで、テレビ討論が行われているそうです。

****革命後初、テレビで激論対決 イラン大統領選*****
12日投票のイラン大統領選で、再選を狙う保守派のアフマディネジャド大統領(52)と改革派の有力対抗馬、ムサビ元首相(67)の直接討論が3日、国営放送で中継された。候補者同士のテレビ討論は、79年のイスラム革命以来初めて。交互に発言する形式で進行するにつれて議論は過熱し、激しいやりとりが見られた。
イランは言論の自由が制限され、宗教指導者ら支配層が体制・政府への批判に敏感なため、直接討論の放送は画期的。大統領府によると、テレビ討論はアフマディネジャド氏自身が提案した。討論は2日から7日まで、4人の候補者が2人ずつ総当たりで行われる。

ムサビ氏は討論で、アフマディネジャド氏のホロコースト(ユダヤ人集団虐殺)否定発言などが「国の信用を傷つけた」と指摘。アフマディネジャド氏は、ムサビ氏を支持するハタミ師、ラフサンジャニ師の2人の元大統領の政権で「汚職が広がった」として、改革派批判を展開した。
アフマディネジャド氏は、言論弾圧が強まった責任を問われると、自分を批判した記事の見出しを列挙した冊子を持ち出し、「私は批判に寛容だ」と訴えた。用意周到さが目立つ一方、汚職批判で特定の人物を名指しし、ムサビ氏の妻まで批判。こうしたやり方が、国民の反発を招く可能性もある。一方、ムサビ氏はアフマディネジャド氏の弱点である経済政策の誤りに時間を割かず、迫力に欠けた。
イランは民放がなく、地方では衛星放送も普及していないため、国営テレビの放送内容は選挙結果に大きく影響すると言われる。【6月4日 朝日】
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党首討論に出たがらない党首がいたりする日本よりも実質的な討論が行われているかも・・・とも感じます。

【「原子力エネルギー利用はすべての国の権利」】
イランの核開発を最重視するイスラエルは、軍事的対応も辞さない姿勢をとっています。
その核開発については、保守強硬派のアフマディネジャド大統領を含む4人の候補は全員、「核開発継続」で一致しています。
イラン国内では反体制派を含め、「平和目的の原子力エネルギー利用はすべての国の権利である」として、核開発継続は国民的合意となっています。

ムサビ元首相は4月6日の記者会見で、イランの核開発について「イランが加盟するNPT(核拡散防止条約)が認める法的権利だ」「平和目的であり、イランも強く反対している核兵器拡散の問題と厳密に区別すべきだ。国際社会の平和を脅かすものではない」と強調しています。
また、ムサビ氏は「イランの核技術に関する権利が、対米関係修復の犠牲となって、損なわれてはならない」と述べ、核開発問題と対米関係の問題は切り離すべきだと主張しています。【4月7日 毎日より】

ただ、強硬一辺倒の姿勢を貫くアフマディネジャド大統領に対し、3人の対立候補は柔軟姿勢の必要性を主張、その隔たりも明らかになっています。

****イラン大統領選:強硬か柔軟か 核開発継続めぐり論戦*****
大統領は先の会見で「核問題は終わった(決着済み)」と改めて強調。最有力対抗馬の改革派のムサビ元首相も「核開発はエネルギー生産が目的。(米欧などと)交渉の用意はあるが、妥協の余地はない」と繰り返す。
だが、ムサビ氏ら3候補は現政権に対し「核政策を含む強硬な対外姿勢がイランを孤立させた」と批判、国際社会との協調を図りつつ核開発を継続すべきだと主張する。

一方、大統領は、ムサビ氏を支持するハタミ前大統領の現職当時の核政策について「核問題が国際原子力機関(IAEA)から国連安保理に付託されることをレッドライン(越えてはならない一線)と位置付け、(付託回避のため)圧力に屈服した」と批判。「ウラン濃縮の停止(04年)は国家の威信を損ねた」として、「レッドライン(の基準)は国益に基づくべきだった」と反撃した。
05年発足のアフマディネジャド政権は、ウラン濃縮を再開。核問題は安保理に付託され、3回の対イラン制裁決議が採択されたが、大統領は「ウラン濃縮を断固継続したことで我々は核エネルギー保有国になった」と成果を誇った。

こうした応酬を巡り、最高評議会の戦略研究センター所長で、ハタミ政権で核交渉の責任者を務めたローハニ氏は「核開発は国家の長期計画であり、計画はムサビ首相時代(81~89年)に着手、ラフサンジャニ、ハタミ両政権も重要な役割を担った。ウラン濃縮停止は最高指導者ハメネイ師も承認した」と明かした。その上で、大統領を名指しして「核問題を選挙や政治ゲームの道具に使うべきでない」と非難している。 【6月6日 毎日】
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【“核兵器”開発進展への懸念】
イランの核開発が平和利用なのかについては、国際的には疑念を持たれています。

****米大統領、イランのミサイルに懸念=固体燃料使用、著しい技術進展****
ギブズ米大統領報道官は20日の記者会見で、イランのミサイル発射実験を受け、「オバマ大統領はイランのミサイル・核兵器開発を懸念しており、これらの計画はイランの安全保障を強化せず弱体化させると確信している」と述べた。
ゲーツ国防長官は同日、下院歳出委員会の公聴会で、「イランがミサイル発射実験に成功したことを示す情報を得ている」と指摘。ミサイルの能力について「射程は2000キロ程度ではないか」との見解を示した。
ホワイトハウスのゲリー・セイモア調整官(軍縮・大量破壊兵器担当)は、イランは北朝鮮の技術に基づく液体燃料をミサイルに使用してきたが、今回の実験では独自に開発したとみられる固体燃料システムを利用したと指摘。イランのミサイル技術は、著しい進展を遂げていると述べた。【5月21日 時事】 
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****イラン、3年以内に核兵器開発=ミサイル改良も懸念-米統参議長*****
マレン米統合参謀本部議長は24日、ABCテレビの番組で、イランが核兵器を開発する時期について、今後「1~3年と信じている」と述べ、外交によって阻止する時間は限られているとの見解を示した。
オバマ大統領は今月、ネタニヤフ・イスラエル首相との会談で、イランとの直接対話の進展を年末までに見極める姿勢を示している。
マレン議長は「イランの戦略目標は核兵器保有だ」と指摘。同国が先週、ミサイルの発射実験を成功させたことにも触れ、「イランはミサイルを改良し続けており、彼らが目標を達成すれば、中東だけでなく世界を著しく不安定にする」と、核弾頭搭載ミサイルの開発に強い懸念を示した。【5月25日 時事】
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記事にもあるように、オバマ大統領はイランとの直接対話の進展を年末までに見極める姿勢を示しています。
12日のイラン大統領選挙で誰がイラン大統領になるのか、アフマディネジャド大統領が勝ったにしても、その勢力バランスがどうなるのか・・・そのあたりが今後のアメリカとの交渉に強く影響します。

コメント
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