(グルジアの首都トビリシ 4月に行われたサーカシビリ大統領の辞任を求める反政府集会で、ヒマワリの種を売る老女 “flickr”より By gipajournos
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【グルジア:国際監視団の活動停止】
次々に紛争・政変が起こるなかで、国際的関心が薄れたのか最近あまりニュースを見ないグルジアですが、よく似た記事が二つありました。
ひとつは国連監視団の活動がロシアの反対で終了することになったというもの。
****ロシア拒否権で活動終了へ=国連グルジア監視団-安保理*****
国連安保理は15日、グルジア政府軍とアブハジア独立勢力の停戦監視に当たる国連監視団の任期延長を定めた決議案の採決を行った。採決ではロシアが拒否権を行使。同案は廃案になった。これにより監視団は同日、任期切れを迎え、活動終了に向け作業に入ることになった。
決議案は米欧が提出。2週間の任期延長を定めており、米欧はこの間にグルジアでの国連の役割見直しについてロシアと合意したい意向だった。しかし、アブハジアの独立を承認しているロシアは、グルジアの領土の一体性をうたった既存決議を「想起する」との表現に反発。中国など4カ国も棄権に回った。
監視団は1993年に設置された。【6月16日 時事】
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もうひとつは、やはり停戦監視団に関するもので、これまたやはりロシアの反対で活動ができなくなるというもの。
最初に見たとき、同じニュースかとも錯覚しそうになりましたが、こちらは全欧安保協力機構(OSCE)の停戦監視団の話でした。
****グルジア:停戦監視団、撤退へ…任期延長に露外相が反対*****
今月末に任期切れとなる全欧安保協力機構(OSCE)のグルジア停戦監視団について、ロシアのラブロフ外相は23日、ウィーンでのOSCE会合で記者会見し、「交渉に応じるためには、関係国が南オセチアとアブハジアの中立な地位を認めることが必要だ」と語り、任期延長に反対する立場を明らかにした。
このため、OSCEのグルジア監視団は任期を延長できず、撤退は避けられない情勢となった。
この問題では、シンクタンク「国際危機グループ」(本部ブリュッセル)が22日、「南オセチアとアブハジアの軍事境界ゾーンから安全保障の枠組みが消えると、再び武力衝突がぼっ発しかねない」と警告した。
OSCE監視団は昨夏のグルジア紛争後に増派されたが、ロシアは、監視団が南オセチアとアブハジアに立ち入ることは認められないなどとして、監視団の任期延長に反対していた。【6月23日 毎日】
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いずれも、ロシアの反対でグルジアでの国際監視活動ができなくなるというもので、ロシアによる実力行使が既成事実となっていく状況です。
昨年10月、駐留ロシア軍が撤退した南オセチア・アブハジア周辺の「緩衝地帯」では、非武装の欧州連合(EU)監視団がロシア軍に変わって展開していますが、こちらはまだ活動を続けています。
【NATO軍事演習とクーデター未遂事件】
先月6日から1ヶ月間、グルジアでは北大西洋条約機構(NATO)の軍事演習が行われましたが、ロシア側は、メドベージェフ大統領が「露骨な挑発だ」と怒りをあらわにし、緊張が高まる場面もありました。
このNATO軍事演習直前には、ロシアが関与したクーデター未遂事件があったとグルジア側は発表しています。
****グルジアでクーデター未遂か、内務省「大統領の暗殺計画も」*****
グルジア内務省は5日、ロシアが支援するクーデター計画の立案者らが、ミハイル・サーカシビリ大統領の暗殺を計画していたと述べた。
グルジア内務省のShota Utiashvili報道官は、AFPに対し「反乱の立案者らは、大統領暗殺を計画していた」と語った。
ダビド・シハルリゼ国防相は、ルスタビ2テレビに対し、首都トビリシ近郊の軍基地の部隊が、グルジアで今週行われる北大西洋条約機構(NATO)の軍事演習を前に「反乱」を起こしたと述べ、反乱の目的は、「NATO軍事演習を妨害し、政府当局の軍事力を転覆させることだ」と語った。
Utiashvili報道官によると、内務省が「武装蜂起」の計画を察知したという。「計画はロシアが準備した。最低でもNATO軍事演習を妨害し、最大ではグルジアで大規模な軍の反乱を起こす計画だった」
また、軍兵士1人を拘束したと述べ、「反乱部隊がロシアと直接連絡を取り、ロシアから直接指令を受け、ロシアから金銭を受け取っていたという情報を入手している」と語った。【5月5日 AFP】
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当然、ロシアはこれを認めておらず、露外務省の高官は「内政問題の責任をロシアに転嫁しようとする試みだ」などとサーカシビリ大統領を非難しています。
グルジア国内では、4月にサーカシビリ大統領の辞任を求める、主要野党による6万人を超える大規模な反政府集会が首都トビリシで開かれました。
ロシア侵攻当時の反ロシア感情の高まりで一時強まっていた大統領の求心力は、今では政権存続が危ぶまれるほどに弱まってきています。
辞任要求の高まりの背景には、大統領への権力集中への批判のほか、ロシアとの軍事衝突を回避できなかった責任を追及する声があると言われています。【4月9日 時事より】
グルジア経済はロシア侵攻とその後の世界経済危機によって大きなダメージを受けていますが、サーカシビリ政権の民営化政策に乗じ、すでに紛争前からロシアに近い資本の流入が活発化しており、「グルジア経済の3~4割をロシアが握る」(在グルジア専門家)とも言われています。【3月30日 産経】
こうしたなかで、サーカシビリ大統領の求心力低下を見計らって、ロシア側も影響力強化の好機と考えていることと思われます。
先のクーデター未遂事件も、苦しくなったサーカシビリ政権による「内政問題の責任をロシアに転嫁しようとする試み」なのか、ロシア側のなんらかの関与があったのか・・・藪の中です。
【“独立国”南オセチア 与党勝利】
“独立”を手にした南オセチアとアブハジアですが、戦闘もなく、14年冬季五輪の開催地ソチに近いという好条件に恵まれているアブハジアに対し、南オセチアは戦闘によるダメージが大きく、また、北のロシアと結ぶ命綱は渓谷沿いの細い一本道だけという厳しい状況にあります。
ただ、南オセチアでも今のところは“独立”を歓迎する方向は変わっていないようで、5月31日に行われた南オセチアの議会選挙では、ロシアの支援を受けたココイティ大統領の与党「統一」が約46%の得票率で勝利しました。
「統一」以外に議席を獲得した「国民党」「共産党」も親大統領勢力で、ココイティ大統領は31日、「選挙で我々は誇りある独立国であることを証明した」と表明しています。
なお、ロシアが派遣した「選挙監視団」も1日、「国際基準に合致した自由で開かれた選挙だった」と結果を追認する声明を発表したとか。【6月1日 毎日】
【北カフカス 治安悪化】
大筋、ロシアの思惑に沿って事態は推移しているようですが、グルジアや南オセチア・アブハジアに隣接するロシア南部の北カフカス地方の状況には、穏やかでないものもあります。
ひと頃の「火薬庫」チェチェンは、強権支配体制を敷くカディロフ大統領のもとで収まっていますが、その分、周辺地域で要人暗殺などの治安悪化が進んでいます。
****北カフカス地方:相次ぐ要人暗殺 ロシアの治安強化も不調****
ロシア南部の北カフカス地方で治安・司法当局幹部の暗殺が相次いでいる。同地方は2度にわたるチェチェン紛争を引き起こした「火薬庫」で、メドベージェフ大統領が現地を緊急視察するなど安定化に取り組んでいるが、治安悪化を防ぐ有効策は見つかっていない。
ダゲスタン共和国の首都マハチカラで5日、マゴメドタギロフ共和国内相が射殺された。その後も警官らの暗殺が続いている。イングーシ共和国の主要都市ナズランでは10日、共和国最高裁のガスゲレエバ副長官が狙撃され死亡した。副長官が04年に起きたチェチェン武装勢力による襲撃事件を捜査していたことから襲われた模様だ。
メドベージェフ大統領は9日、内相が暗殺されたダゲスタンを急きょ訪問。北カフカス地方で今年、112人のテロリストを殺害したと指摘し、「テロせん滅に向けた活動を継続する」と訴えたが、その直後にイングーシで暗殺事件が起き、政権内に衝撃が広がった。
北カフカスでは今年に入って民間人含め100人以上が殺害されている。テロが頻発する背景には、経済発展が進まず、汚職がまん延するうえ、民族主義者やイスラム教過激勢力が存在するためとみられている。政府は昨秋、治安強化のためイングーシ共和国の大統領を交代させたが、成果を上げていない。
一方、チェチェン共和国では4月、99年から敷かれていた「対テロ作戦体制」が解除され、表面的な安定が強調されているが、共和国のカディロフ大統領が強権体制を敷いていることに懸念の声が上がる。ロイター通信は、ダゲスタンやイングーシが安定化しない理由について、連邦政府がカディロフ氏のような強権者の出現を警戒し、両共和国の指導部に十分な権限を与えていないため、と分析している。【6月12日 毎日】
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ロシアはチェチェンに関しては“領土保全”を前面に掲げて独立を認めず武力行使しましたが、グルジアに属する南オセチア自治州とアブハジア自治共和国には独立を認めました。
この二重基準が将来、ロシア人とは異なる宗教や文化、言語を有する北カフカス地方の住民の不満をより強める可能性があるとの指摘もあります。【08年10月30日 産経】
南オセチアとアブハジアをロシアに吸収してしまえば、一応形の上では矛盾は収まるのでしょうが、国際的には新たな火種になります。
ダブル・スタンダードの矛盾は別にロシアだけの話ではなく、どこの国でも見られる話ではあります。