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(正確なところはわかりませんが、クルド自治政府議長バルザニ氏の支援集会の様子でしょうか。後方ポスターの大きな顔写真はバルザニ議長です。 中央で片手を挙げているのがバルザニ本人のようです。
下方の馬のロゴは「刷新と再構築」を主張している与党連合のものです。
“flickr”より By kurdistan كوردستان
http://www.flickr.com/photos/kurdistan4all/3735947323/)
【クルド自治政府と中央集権化を強めるマリキ首相】
イラクでは6月末で駐留米軍の戦闘部隊が都市部から撤退しましたが、マリキ首相のもとで国内治安が維持できるのか不安を抱えています。
揺さぶりをかけるアルカイダ勢力によるテロの頻発、政権主流をなすシーア派とスンニ派の対立再燃、シーア派内部の確執、イランの影響、そして北部のクルド自治区との対立・・・・問題は山積していますが、政権運営に自信を深め、強引な政治手法も目立つようになっているとも言われるマリキ首相がどのように対応していくのかが懸念されています。
その大きな問題のひとつであるクルド自治区では25日、自治政府議長と議会の選挙が行われました。
クルド自治政府・議会は、産油都市キルクークの自治区への編入や油田の開発・収益の配分などを巡ってイラク中央政府と対立を続けていますが、中央集権化を強めるマリキ首相のもとで、協調体制がとれるのかが課題となっています。
もし、問題がこじれてクルド側が独立志向を強めることになると、イラク国内のアラブ対クルドという対立・紛争にとどまらず、多くのクルド人が居住し、その対応に苦慮しているトルコやイランへも飛び火して、中東全体が一気に不安定化することにもなります。
それだけに、アメリカも、この問題への慎重な対応をマリキ首相、クルド双方に要請しているようですが・・・
****イラク:クルド議長、再選濃厚 政府と対立続く*****
イラク北部のクルド自治区で25日、自治政府議長と議会(定数111)の選挙が行われた。中央政府と対立する現職議長や議会主流派が有利と見られ、領土や油田、政治権限などの対立課題について、選挙の結果、自治区と中央政府が歩み寄ることは期待できそうにない。中央集権化を志向するマリキ首相は、民族・宗派間対立や治安維持への取り組みで米国とも緊張関係にあり、クルド側と米国との間で難しいかじ取りを強いられる局面が続くことになりそうだ。
現地からの報道によると、クルド自治政府議長選ではマスード・バルザニ議長(62)の再選が確実視されている。議会選でも、議席の約7割を占めるクルド民主党(KDP)とクルド愛国同盟(PUK)の2大政党の優位は「変わらない」(クルド人ジャーナリスト、イブラヒム・シャリーフ氏)との見方が目立つ。開票作業はバグダッドで行われるため、結果確定には数日かかる見通しだ。
クルド自治政府・議会は、産油都市キルクークの帰属や油田の開発・収益の配分、権限区分などを巡って、中央政府と衝突を続けている。6月末には議会がキルクークなどをクルド側に編入する憲法案を可決。バルザニ氏は「妥協はしない」と明言している。訪米中のマリキ首相は23日、クルド自治区との対立は「最も危険な問題の一つ」と深刻視していることを認めた。
イラクで多数派を占めるイスラム教シーア派のマリキ首相に対し、オバマ政権は今月初旬にイラクに派遣したバイデン副大統領らを通じて、クルド側やスンニ派との政治的和解を進めるよう圧力をかけている。しかし、イラク政府幹部は「外部からの介入だ」として、強く反発した。
オバマ米大統領は22日、マリキ首相との会談後、「イラクの安定と成功には、すべての民族、宗派の居場所が必要だ」と述べ、改めて和解を促した。(後略)【7月25日 毎日】
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記事にある“6月末には議会がキルクークなどをクルド側に編入する憲法案を可決”という問題については、マレン米統合参謀本部議長がキルクークを電撃訪問し地元政治家らと会談して鎮静化をはかっています。
新憲法案は住民投票を経て発効しますが、25日に予定されていた投票は延期されています。
イラク憲法はキルクークの取り扱いについて、フセイン前政権が進めた住民のアラブ化政策以前の状態への復帰と人口調査を行ったうえ、住民投票で帰属を決めると定めています。
期限は07年末でしたが未だ実施されておらず、国連の仲介で協議が続いている最中に今回自治議会の決定が行われました。【7月14日 毎日より】
【既成政党の権力独占に挑む「ゴラン」】
クルドにおいては、長くクルド民主党(KDP)とクルド愛国同盟(PUK)の二大政党が支配的な地位を維持しています。
KDPは、自治政府議長再選が確実視されているマスード・バルザニ議長が率いており、彼の甥は自治政府首相、息子は情報機関を仕切る立場にあります。
一方、PUK議長は現イラク大統領のジャラル・タラバニ氏で、その息子は自治政府の駐米代表、甥は防諜部門のトップにあります。
両党はこれまで激しい内部抗争を続け多くの犠牲者を出しており、フセイン政権時代には、イランと結ぶPUKに対抗して、KDPは宿敵フセイン政権と手を結ぶ・・・といったねじれた関係を見せるまでに対立していました。
しかし、クルド独立という“大義”を共通すること、そして何より現実的支配体制の維持という点で利害を共通することから、現在は両者で上記のように権力を分け合う関係になっています。
今回選挙にあっても、両者は「クルディスタニ・リスト」という合同候補者リストをつくって選挙にのぞんでいます。
この連携は4年前の選挙でもとられ、野党に圧勝しています。
両党の権力・石油利権の独占に対して、今回選挙では改革派政党「ゴラン」が戦いを挑んでいます。
“ゴラン”とはクルド語で“変化”の意味だそうで、クルド版オバマをイメージしています。
アメリカ国内では医療保険改革問題で支持率を下げているオバマ大統領ですが、彼のキャラクターと彼の唱えた“change”のスローガンは、これまで現実政治の壁に参加を阻まれてきた世界中の多くの人々の心を捉えるものがあったようです。
「ゴラン」党首は元PUK政治家で地元のメディア王でもあるムスタファ氏です。
既成二大政党の権力独占、住民サービスの不備に愛想をつかしてPUKを離反したそうで、「反汚職、公共サービス・インフラの整備」を掲げています。【7月8日号 Newsweek日本語版】
まあ、メディア王が選挙に乗り出すというのは他の国でもあることで、実際どれだけ既成政党と違うのかは定かではありませんが、既成二大政党の同盟が過半数を占めることが予想されているなかで、どこまで国民の支持を集められるか注目されます。
投票用紙を一度自治区の首府アルビルに運んだあと、公正を期してバグダッドで公式な開票が行われるため、最終結果が出るまでには数日かかる見通しとのことです。