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(昨年12月10日 フィリピンのスーパースター・ボクシング世界チャンピオンのManny Pacquiaoから、チャンピオンベルトのレプリカを贈られ、にこやかな表情のアロヨ大統領(左)。 そんなに権力にしがみつくような人にも見えませんが・・・
“flickr”より By MICHAEL REY BANIQUET
http://www.flickr.com/photos/michaelbaniquet/3100209776/)
フィリピンのミンダナオ島での反政府勢力との戦闘、および、アロヨ大統領の求心力低下というフィリピン政治事情については、3月29日ブログ「フィリピン 戦闘が続くミンダナオ島 求心力を失うアロヨ大統領」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090329)で取り上げたところですが、今日はその後の状況についてです。
【ミンダナオ島で停戦】
ミンダナオ島では、イスラム教徒の自治拡大を要求する反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とアロヨ政権の和平交渉が昨年8月に決裂、その後散発的に交戦が続いていました。
政府軍とMILFの戦闘による混乱に伴い、これまで地域の治安を担っていた地元有力者や警察などの力が低下し、リドと呼ばれる一族同士の抗争や、イスラム勢力同士の争いも多発して、避難民が増加。6月時点で、政府発表によると、避難民は3月以降約4万人増え、24万人を超える状況となっていました。【6月2日 毎日より】
7月に入ってからも、「ミンダナオ島のコタバト市中心部の教会近くで5日朝、爆弾が爆発し、少なくとも5人が死亡、約45人が負傷した。」「スルー州ホロ島で7日、教会近くに仕掛けられた爆弾が爆発、少なくとも市民2人が死亡、学生ら20人以上が負傷した。」といった記事が見られました。
前者についてはMILFとの関連、後者については同じくイスラム原理主義過激派、アブサヤフとの関連が報じられています。
ここにきて、ようやくMILFとの即時停戦が23日発表されました。
****フィリピン:MILFと即時停戦を発表****
フィリピン政府は23日、南部ミンダナオ島で続くイスラム反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」に対する戦闘を、即時停戦すると発表した。
大統領府のエルミタ官房長官は、「MILFとの和平交渉再開に向け環境を整えるため」とした。また、MILF側が和平交渉再開の条件としている、指名手配中の3人のMILF司令官の追跡の中止について、エルミタ氏は継続するとしている。
MILFの和平交渉団長のイクバル氏は毎日新聞の電話取材に対し、「停戦宣言は歓迎するが、交渉再開時期は現段階では分からない。重要なのは、実際に実行されるかどうかで、3司令官の問題など課題がある」と話した。
政府側とMILFの和平交渉が昨年8月、決裂して以降、国軍とMILFの一部部隊の戦闘が発生。国軍によると双方で約350人が死亡、現在も25万人以上が避難民となっている。 【7月23日 毎日】
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今回停戦については、27日に任期中最後の施政方針演説を行い、30日には訪米してオバマ大統領と会談する予定のアロヨ大統領が、“成果”をアピールするために行った一時的措置で、帰国後、政府軍側が再び挑発行為を繰り返すのではないかと懸念する声もある・・・との報道もあります。【7月25日 毎日】
そのアロヨ大統領については、3月29日ブログでは“政権が絡む汚職疑惑などで大統領の支持率は低迷、「もはや政権末期」、1986年にマルコス独裁政権が倒れてから「最も不人気な大統領」とも言われています。”と記載しましたが、そのあたりは今も変わっていないようです。
【アロヨ包囲網】
10年5月の大統領選で任期(6年)が切れるアロヨ大統領ですが、憲法改正によって議院内閣制を導入し、首相として権力を維持しようとしているとも言われています。
こうした見方に対し、改憲に反対するカトリック教会や、反アロヨグループなどが反発を強めています。
****フィリピン:改憲巡り政局混乱、教会も加わり政権批判展開*****
フィリピンではキリスト教徒が国民の9割を占め、教会の動向が政治に大きな影響力を持っている。(憲法改正を発議する議会の設置を求める)決議案の可決後、キリスト教団体が、真っ先に他の市民団体と共闘して反改憲運動を展開することを発表。国民に大きな影響力を持つカトリック司教協議会や、アキノ元大統領に近いさまざまな団体も相次いで賛同した。また、現職官僚が「政治的混乱を招き、経済に悪影響を与える」と発言するなど、改憲の動きに批判が集中している。
マルコス独裁政権を86年に「ピープルパワー」で倒した陰の立役者の国軍周辺でも、同調する動きがみられる。クーデターを企てたとして06年に身柄拘束されたリム准将が、拘置先から、国軍兵士に運動への参加を呼びかけた。また、元国軍参謀総長のビアゾン上院議員も、現役兵士が運動に参加する可能性を明らかにした。国軍のスポークスマンは8日、「集会に参加した兵士は除隊にする」と、強い姿勢で臨むことを表明したが逆に、軍内部に動揺が広がっていることを示した、との見方も出ている。
アロヨ氏は憲法改正で、大統領制から議会制へ移行させ、首相として権力の座に居座ることをもくろんでいるとされる。8日に公表された民間機関の調査ではアロヨ氏の支持率は26%で、歴代大統領で最低を更新中。アロヨ氏周辺では、汚職疑惑が何度となく持ち上がっており、地元メディアの間では「アロヨ氏は退任後、汚職容疑で逮捕されることを恐れているため、権力の座に執着している」との見方が定説となっている。(後略)【6月9日 毎日】
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6月10日には、マニラ首都圏マカティ市など全国主要都市で10日夜、憲法改正に反対する集会が開かれました。事実上の反アロヨ大統領の集会で、マカティ市では2万人以上が参加しています。
この憲法改正・首相としての居座りに対する批判は今も続いており、アメリカでもワシントン・タイムズが社説で「マルコス独裁政権の手法と似ている」と酷評しています。
****フィリピン:強まる反アロヨ 「改憲で大統領再選」推測*****
フィリピンで憲法改正に反対するグループが連合体を結成し、反アロヨ大統領の動きを強めている。来年5月で任期が切れ、再選が禁じられているアロヨ氏は、改憲で議院内閣制を導入し、首相として権力を維持しようとしていると言われる。今月末のオバマ米大統領との会談を前に、米紙ワシントン・タイムズが社説で「マルコス独裁政権の手法と似ている」と酷評するなど、改憲の動きは国外にも波紋を広げている。
アロヨ氏は27日に行った、任期中最後の施政方針演説で「私は任期の延長を求めたことはない」と発言した。しかし、反アロヨグループは「与党が多数を占める下院に担がれる形を演出してアロヨ氏が改憲を進め、権力の座にしがみつくシナリオを描いている」と指摘する。演説で明確に改憲を否定しなかったことが、不信感を増幅させている。実際、下院では改憲に向けた工作が進んでいる。
反アロヨグループは施政方針演説の当日、約60団体が結集し、1万人規模の決起集会を開催した。大統領選の不正疑惑をきっかけに05年、抗議の辞任をした元閣僚グループやキリスト教系団体、労働団体などからなる連合体を形成し、「高潔」な大統領候補を絞り込んで強力な選挙運動を進める計画だ。
一方、30日にアロヨ氏とオバマ大統領の会談が予定されている米国では、26日付ワシントン・タイムズの社説が、「オバマ 殺菌剤」との見出しで、アロヨ政権が抱える汚職や人権問題などを取り上げ、改憲で延命策を図ろうとしていると指摘した。「ホワイトハウスへの招待は、彼女の問題の多い政治を認めるだけだ」と評し、アロヨ包囲網は国内外で広がりつつある。(後略)【7月28日 毎日】
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アロヨ大統領がそこまでして権力に固執する事情については、「汚職にまみれており、権力を失った途端に逮捕されるのを恐れているからだ。彼女には権力が必要で、権力が彼女に金を与え、権力と金が周囲の人々を従わせている。」(憲法改正に反対する連合体結成の仕掛け人の一人で、アロヨ大統領の下で01年から05年まで社会福祉開発相を務めたコラソン・ソリマン氏(56)の発言)・・・とも言われています。【7月28日 毎日】
ところで、このアロヨ包囲網にはアキノ元大統領に近いグループも参加していますが、そのアキノ元大統領については、結腸がん闘病中で、「神が母に、どれくらい時間を残しているか分からない」(四女で女優のクリス・アキノさん)という状況だそうです。