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(ラクイラ・サミットで各国首脳の移動に使われた電動カート “flickr”より By Downing Street
http://www.flickr.com/photos/downingstreet/3703728041/)
【消えた数値目標】
7月に行われた主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)において、先進国G8は、産業革命による工業化以前の水準から世界全体の平均気温の上昇が「2度」を超えないようにすべきとの認識を共有。温室効果ガス排出削減については、2050年までに「世界全体」で少なくとも「50%」削減するという昨年の洞爺湖サミットの合意を再確認したうえで、「先進国全体が80%以上削減する」との新たな長期目標を明記しました。
新興国が「世界全体の温室効果ガスを50年までに50%削減」という長期目標で合意することを促すため、まず先進国がより厳しい「80%」の削減目標を掲げた形でした。
こうしたG8の合意には、オバマ米政権の積極姿勢が強く影響したと言われています。
しかし、「50年半減」で合意すれば新興国も一定量の削減が必要となるため、新興国の反発は強く、主要8カ国に中国やインドなど新興国を加えた17カ国による主要経済国フォーラム(MEF)においては、「セ氏2度を超えないようにすべきだ」との認識で一致したものの、前日にG8で合意した「世界全体で2050年までに半減」という数値目標は盛り込まれませんでした。
今回の首脳レベルでも先進国と新興国の対立の溝は埋められなかったことで(ウイグル問題で胡錦濤国家主席が緊急帰国してしまい、説得の機会がなかったということはありましたが)、年末に予定されている京都議定書に定めのない13年以降の温暖化対策の枠組みを決める「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」での全面合意が危ぶまれる状況になっています。
なお、「気温上昇2度以内」の達成には、20年までの先進国全体の排出量を90年比で25~40%減とする必要があると言われています。
日本は05年比で15%減(90年比8%減)を公表しており、合意した「気温上昇2度以内」の達成との整合性が取れていません。
地球の気温は、すでに約0.8度上昇しており、氷河の溶解、万年雪や永久凍土層の縮小などが懸念されています。これに加えて、気温を0.6度上昇させるだけの温暖化ガスがすでに放出されており、現在検討されている削減目標では「気温上昇2度以内」は実現できないという報告もあります。【6月15日 AFP】
【各国の取組み】
会議のあとも、ヨーロッパを中心に、温暖化対策強化や具体策のニュースがしばしば報じられています。
****英国:低炭素発電、20年までに40%目標…温暖化対策*****
英政府は15日、地球温暖化対策のため、英国の総発電量に占める原子力や風力など低炭素エネルギー発電の割合を2020年までに40%まで引き上げることなどを柱とした温室効果ガス排出削減策を公表した。
英政府は既に20年までに1990年比で同ガスの排出を34%減、50年までに同80%減とする目標を表明しており、今回の公表で、同目標を達成するための具体策が示された。波力発電や潮力発電に最大で6000万ポンド(約92億円)、海上での風力発電に1億2000万ポンドを投入し、再生可能エネルギーの割合を15%まで高める。
低炭素エネルギーへの転換によって、電気料金が20年までに約6%上昇するが、エネルギー・気候変動相のエドワード・ミリバンド氏は「われわれの計画はビジネスチャンスをもたらす」と述べた。【7月16日 毎日】
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****電気自動車、市民の足に=来年末から4000台貸し出し-パリ*****
レンタル自転車「ベリブ」の成功で知られるパリ市のドラノエ市長(社会党)は25日までに、同市一帯を網羅する電気自動車貸出制度「オートリブ」(仮称)を来年末をめどに始める方針を決めた。公共交通の幅を広げるとともに、排ガスをまき散らすマイカーの利用を抑えて地球温暖化防止にも一役買うのが狙い。
パリ市によれば、同市と周辺の計22市町村に1400カ所の発着ステーションを設置。入札で運営業者を選んだ上で、計4000台の電気自動車を配備する。 【7月25日 時事】
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****スウェーデン:環境相「温室ガス30%削減目指す」*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)議長国スウェーデンのカールグレン環境相は25日、2020年までの温室効果ガス排出量の削減目標(1990年比)を従来の「20%」から「30%」に引き上げることを目指す考えを示した。EUはこれまで、「EU単独でも20%削減し、国際合意ができれば30%削減する」との立場をとってきた。カールグレン環境相は30%目標について「EU加盟国の広範な支持を得られている」と説明し、「20%から30%への引き上げを今後、他国から適切な(削減目標の)提案を引き出すてこに使っていきたい」と述べた。【7月27日 毎日】
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****オーストラリア:再生可能エネルギーへ 転換進める******
オーストラリアの連邦議会上院は20日、2020年までに電力源の20%を風力、太陽光などの再生可能なエネルギーに転換することを義務付ける法案を可決した。
豪州は世界有数の石炭産出国で、現在、電力の約8割は環境負荷の高い石炭火力に依存、再生可能エネルギーの利用は5%前後とみられる。【8月20日 毎日】
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****ドイツ政府、「20年までにEV100万台」を閣議決定*****
2009年08月20日 14:03 発信地:ベルリン/ドイツ
ドイツ政府は19日、2020年までに国内に電気自動車100万台を普及させる「国家電気自動車計画」を閣議決定した。30年までに500万台に増やし、50年までには国内を走行する車のほぼすべてを電気自動車にする、との未来図を描いている。
バッテリーや充電システムなどの研究分野に補助金を出すことによって、BMWやフォルクスワーゲンといった国内自動車メーカーの開発を促進し、先行するアジアの各自動車メーカーを追撃する計画だ。
ウォルフガング・ティーフェンゼー運輸・建設相は、「日本車のハイブリッド技術は確かに強い。しかし、欧米とアジアの巨大市場はまだ開かれている」と述べ、自信を示した。【8月20日 AFP】
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【欧米の思惑】
こうしたヨーロッパ各国や積極姿勢に転じたアメリカ・オバマ政権の思惑については、温室効果ガスの排出量取引やエネルギー安全保障に関する戦略が背景にあるとも報じられています。
****サミット 温暖化対策 国民に痛み…不透明な日本の戦略*****
温暖化対策をめぐって、国際交渉がたえず難航するのは、理想の裏に各国の思惑があるからにほかならない。欧州勢は、温室効果ガスの削減について、野心的な数値目標を掲げるが、その背景には、先行する排出量取引市場を活性化させたい思惑があるからだ。
一方、米国は温暖化対策をエネルギー安全保障につなげようという姿勢が明確だ。6月26日に米下院で可決された地球温暖化対策法案は、その名も「米クリーンエネルギー安全保障法案」。オバマ大統領は、風力や海洋エネルギーを活用した沖合での大規模発電事業などの促進に意欲的で、国をあげて環境技術分野を強化し、この分野で世界の主導権を確立する狙いが鮮明だ。中東の政情に左右されやすい原油への依存度を引き下げることにもつながる。欧米には、国際的な合意により、自国のビジョンを推し進めようという明確な発想がうかがえる。
日本も経済財政運営の指針となる「骨太の方針2009」で「低炭素革命」を掲げ、太陽光発電の普及やエコカーの需要喚起などを挙げている。だが、利害が交錯する国際関係の中で、日本が大幅な温室効果ガス排出削減を受け入れる戦略的狙いは、必ずしも明確にはなっていない。(中略)
温室効果ガス排出削減は、日本が得意とする省エネ商品の市場拡大を後押しするが、中期目標の実現でさえ1世帯当たり年間7万6000円の負担になるとの試算がある。今回の主要国の排出削減の数値目標は、国民生活にさらに痛みを強いることになりかねない。
痛みを伴う温室効果ガス削減をいかにして国の成長につなげるのか。その戦略を明確にできないと、数値目標に引きずられ、目標の達成そのものが目的化してしまう無意味な隘路に入ることになる。【7月10日 産経】
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【ハイブリッド車に太陽電池】
日本には温暖化対策に関連した技術や受け入れ可能性はあります。
交通関連の環境団体「ドイツ交通クラブ(VCD)」が19日までに発表した2009年度の乗用車の環境番付で、トヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」が首位となるなど上位10車種のうち、7車種を日本車が占めています。【8月20日 共同】
ドイツ「緑の党」のキュナスト党首も20日、地元紙の取材に、ドイツ人は日本製のエコカー(環境対応車)を買うべきだ・・・と語ったとか。【8月21日 AFP】
太陽光発電協会が発表した太陽電池の出荷統計(発電能力ベース)によると、09年度第1四半期(4~6月)の国内出荷は3年半ぶりに過去最高を更新。国内出荷の9割以上が住宅用で、今年に入って国や自治体が住宅向け太陽光発電の設置補助を相次いで導入、設置負担が軽減されたことが住宅向け需要を拡大させたとのこと。【8月20日 毎日】
あとは、こうした技術・動向を国家的戦略にまとめて大きな波とし、国内・国外に発信していく政治力でしょうが、スタートした総選挙でもそうした声はあまり聞こえてこないようです。