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(警護された投票所を訪れた女性 アフガニスタン・カンダハル タリバンの拠点でもある南部カンダハルでは投票所近くにロケット弾も打ち込まれ、投票率は全国平均を大きく下回る10%前後ではないかとの推測もあります。
南部カンダハル州・ヘルマンド州はカルザイ大統領の地盤でもあり、この地域の投票率低下は選挙結果にも影響するのでは・・・との見方もあるようです。
“flickr”より By Canada in Afghanistan / Canada en Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/camafghanistancam/3840606924/)
20日に投票が行われた01年のタリバン政権崩壊後でカルザイ政権が発足して以降、初の「アフガニスタン人の手による選挙」となったアフガニスタン大統領選の投票が、世界が注目する中、20日に行われました。
【「わたしたちにとって、とても幸福な状況」】
投票所は全国約2万9000カ所に設けられ、登録有権者数は約1700万人。うち約4割が女性とみられています。
今回の選挙の女性候補者の数は、大統領候補が41人(最終的には32人に減少)中2人、副大統領候補が82人中8人、地方議会の議員候補3196人中では全体の10%を超える328人が出馬しています。
学校に通う少女たちが襲撃を受けるような風土のなかで、これらの女性候補者のなかには、タリバン側からの殺しの脅迫を受けている候補もいます。
それでも、ある女性は「母たちの世代とわたしの世代は大きく違う。選挙権をもてることはとてもうれしい。選挙に参加して、自分の国の将来に意見を述べたいし、国に最も利益をもたらす候補を選びたい」「わたしたちにとって、とても幸福な状況。わたしたちが、政治に参加できるのよ」と語っています。【8月18日 AFP】
もちろん、女性を取り巻く現実は厳しく、多くの女性がこうした政治的自覚を持っている訳でもないでしょうが、治安悪化、汚職の蔓延など多くの問題を抱えるアフガニスタンにあって、タリバン政権時代と異なり、女性が政治参加の機会を与えられている点においては評価できるように思われます。
【政府より「タリバン法廷」を信頼】
民心の離反を招いているアフガニスタンに蔓延する汚職については、裁判所・司法の場にも見られます。
****岐路に立つアフガン:09大統領選/上 未熟な国造り、腐敗招く*****
「同じイスラム法廷なのに、政府の裁判所には誰も来ない」
旧支配勢力タリバンの影響力がじわじわと広がりを見せるアフガニスタンのカブール州東部サロウディ地区。元判事のスレイマン地区長(35)は、人けのない裁判所前でため息をついた。
アフガニスタンの裁判はイスラム法(シャリア)に基づく。しかし、国の裁判所を避け、タリバンが運営する「法廷」を頼る人々が急増している。理由は司法の腐敗だ。
「裁判で必要な証拠書類の作成を巡り、行政や警察などがわいろを求める。判事がイスラム法の知識に乏しかったり、有利な判決を条件に金品を要求する。一方、タリバン法廷では提訴後すぐにタリバン指導部内の司法委員会が協議し、一両日中に判決が出る」
2年前、若手判事仲間と腐敗追放運動を始めたが、スレイマン氏は「有力判事らにつぶされた」と証言する。
タリバンが州土をほぼ掌握した中部ガズニ州ギラン地区。強盗に遭い、警察に出した被害届を放置された商店主ザヘルさん(32)は、タリバン法廷に訴えた。「タリバンがすぐに犯人グループを逮捕し、顔にタールを塗って市中を引き回した。その後、強盗事件はなくなった」。地区にある国の裁判所は半年前から、仕事がないため判事が来なくなり、閉鎖されたままだ。
ただザヘルさんは「裁判所が機能していればタリバン法廷には行かなかった」と言う。厳罰主義が恐怖政治へと発展した旧タリバン政権の再来を恐れるからだ。
こうした構造的な腐敗は、米軍の攻撃でタリバン政権が崩壊した後の02年に始まった国際支援のあり方に根差しているとの指摘がある。当時、計画相として援助受け入れの実務に携わり、今回の大統領選に立候補しているバシャルドスト氏(44)はこう振り返る。「洪水のような復興資金は、拠出国側も使途をほとんどチェックせず、政府関係者らの不正使用を野放しにした。権限を持つ者が不法行為に罪悪を感じない風潮が広がった」
オバマ米大統領は、カルザイ政権の「汚職体質」を指弾する。しかし、「構造的な背景を指摘しない個人批判は、問題の本質にふたをしているように見える」とバシャルドスト氏は手厳しい。【8月18日 毎日】
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社会にはびこる不正にたいする厳罰主義と、それによる治安改善は、かつて軍閥が割拠する社会にあってタリバンが民心をとらえ、急速に勢力を拡大して、政権獲得に至ったときの事情と同様です。
【タリバンとの共存を模索】
タリバンとの戦闘が続き、治安改善が進まないなか、今回選挙において多くの有力候補は「タリバンとの対話」を掲げています。
****岐路に立つアフガン:09大統領選/下 有力候補「タリバンと対話」掲げ*****
◇現実見据え、共存模索
「生活苦はタリバン政権時代と変わらない。しかし、治安の悪化がひどすぎる」
アフガニスタンの首都カブール。地方から出稼ぎに来たものの戦争の影響で仕事を失い、コテサンギン地区の求職所に集まっていた約1000人の男たちが政府非難を始めた。
国際支援で復興が進むカブールでさえ、市民の8割は日雇い労働で生計を立てる。正規雇用のできる企業は少なく、国の経済を支えるのは麻薬密売などの犯罪組織だ。食料や生活物資の多くを輸入に頼るアフガンでは、隣国パキスタンでの掃討作戦が招いた物価高騰のあおりも受ける。
タリバンが勢力を広げる中部マイダンワルダック州から来たサヒーさん(35)が「タリバンが変わるのならば歓迎する」と言うと、無言でうなずく沈黙の賛同が広がった。変わるとは、恐怖支配をやめることを指す。
大統領選の有力候補者は「タリバンとの対話」を掲げる。カルザイ大統領は「再選されればタリバン指導者と本格対話を始める」と明言。政府の構造的汚職を追及するバシャルドスト候補も「各地を回ると、いかに国民が対話を求めているかが分かる」と語る。
何世紀にもわたり外国の侵略を排除してきたアフガンの人々は、超大国の米国でさえタリバンに「勝てない」ことを納得して見ている。対話への期待は、いずれ去っていく外国人と違い、タリバンとの共存を模索せざるをえない現実を見据え始めたからだ。(後略)【8月20日 毎日】
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【戦争が続く国で行われた選挙としては「成功」】
選挙戦は現職の現職カルザイ大統領をアブドラ元外相が追い上げる構図で行われました。
数日で大勢が判明する見通しで、最終結果は9月17日に発表されますが、過半数を得票する候補者がいなければ、上位2人の決選投票になります。
今回投票に関して、ワルダク国防相は、全土で計135件の襲撃があり市民や警官など26人が死亡したと発表。
このほか、タリバン側も少なくとも24人が死亡しています。
選挙管理委員会幹部は、タリバンの選挙妨害により全国約800カ所の投票所が開設できず、投票率は40~50%で前回04年の約70%を大幅に下回るとの見通しを示しています。
タリバンとの戦火が続くアフガニスタンの現状、タリバンによる選挙妨害を考えると、“この程度”の犠牲者・トラブルですんだことに、国連や国際監視団のメンバーは、戦争が続く国で行われた選挙としては「成功」だと一定の評価を与えています。
オバマ米大統領も20日出演したラジオ番組で、「タリバンによる妨害の試みにもかかわらず、選挙は成功しているようだ」と語り、武装勢力との戦闘が激しいアフガン東部、南部に投入された増派米軍が「圧力をかけている」と成果を強調しています。
バシャルドスト候補は、再投票防止のため投票した有権者の指先につけるインクが洗い落とせたと「不正選挙」を主張していますが【8月21日 毎日】、選挙をアメリカなどによる「策略」と主張するタリバンは、投票を禁じるビラを配布したり、票を投じたことを証明するインクがついた指を切り落とすと“警告”するなどして有権者の恐怖感をあおっていました。この脅迫にはリアルな怖さを感じます。
そうしたタリバンの脅威のもとでの40~50%の投票率は、非常に高い数字にも思えます。
日本国内の選挙でも、その程度の投票率しかない場合も散見します。そのことは、日本の民主主義の危機のようにも思えますが、その話はまた別の機会に。
【混迷の兆し】
今回選挙については、すでに投票前から、不正選挙への批判がカルザイ陣営以外の候補から主張されています。
投票終了後、アブドラ元外相陣営の担当者は「少なくとも3州で、大規模な不正があった」と主張、デモも辞さない構えを示しています。バシャルドスト候補(元計画相)は、投票後、「これは選挙じゃない。コメディーだ」と述べ、選挙戦の正当性を認めない考えを表明しています。
選挙後、さっそくカルザイ、アブドラ両陣営が、自分達が勝利したと勝手な主張を始めています。
選挙管理委員会幹部は、いずれの主張にも「一切コメントしない」としていますが、選挙結果をめぐって早くも混迷の兆しが見え始めています。
カルザイ大統領が過半数を抑えたという結果になった場合、イラン大統領選挙と同じように、アブドラ候補などが「不正選挙」を訴えて街頭行動にでる事態も考えられます。
ただ、イランと異なりアフガニスタンの場合、タリバンとの戦闘を抱えており、内政が混乱する余裕などどこにもありません。
女性の権利を守る社会を育て、腐敗・不正を正して民心の離反を防ぎ、タリバンとの対話でタリバン側にも恐怖政治からの変化を促す・・・そうしたことのためには、どこにも選挙結果で混乱している余裕はないはずです。