孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

第2次世界大戦70周年  強まるロシアと旧ソ連圏・東欧諸国の確執

2009-09-02 21:47:17 | 国際情勢

(カチンと同様の虐殺が行われたウクライナ・ハリコフ “flickr”より By Stuck in Customs
http://www.flickr.com/photos/stuckincustoms/514004067/)

【「和解の旅」】
70年前の1939年9月1日、ヒトラーのナチス・ドイツがポーランドに侵攻しました。
ドイツ戦艦は同日、宣戦布告なしにポーランドのグダニスク港(独名:ダンチヒ)を攻撃。
ナチス・ドイツ軍は国境線を突破し、ポーランド領内に武力侵攻。
9月3日には、ポーランドの軍事同盟国だった英仏がドイツに宣戦布告して戦火が拡大します。
ソ連軍は9月17日、ポーランド東部に侵攻、その数週間後にはフィンランドにも侵攻し、1940年にはエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国を併合しています。
世界史的には、この「ポーランド侵攻」を第2次世界大戦の開戦とみなしています。

その第2次大戦開戦70周年となる9月1日、開戦の地であるポーランド・グダニスク郊外で記念式典が開催されました。
****第2次世界大戦70周年、ポーランドで記念式典****
ナチス・ドイツ軍がポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が始まって70周年となる1日、同国北部のグダニスク郊外で記念式典が開かれ、ロシアのプーチン首相やドイツのメルケル首相らも参加、悲劇を繰り返さないことを誓い合った。
ドイツとソ連は39年8月に独ソ不可侵条約を結び、秘密議定書でポーランド分割を計画。9月1日のドイツの侵攻に続き、同17日にはソ連もポーランドに侵攻、同国では今も反ロシア感情が根強い。ロシア首脳のポーランド訪問は05年以降途絶えていた。今回のプーチン首相の訪問が「和解の旅」になるかが注目されている。【9月1日 朝日】
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【歴史認識の違いが産む軋轢】
この70周年を迎えて、ヒトラーと密約を結びポーランドに侵攻し、バルト三国を併合したソ連、及び独裁者スターリンの歴史的評価をめぐり、ロシアと旧ソ連圏・東欧諸国が認識の違いを明らかにしています。
旧共産諸国は「ソ連とナチス・ドイツは同じ“占領者”」と主張。
これに対し、ソ連は2700万人の国民を失ってまで欧州をナチスの支配から解放したと自認するロシア側は「歴史の歪曲を許さない」と反発しています。

****第二次大戦70年:旧共産圏「ソ連はナチスと同じ」*****
全欧安保協力機構(OSCE)は先月3日にリトアニアで開いた議会で、1939年に独ソ不可侵条約が結ばれた8月23日を、ナチスとスターリン主義による犠牲者を追悼する日と定める決議を採択した。条約締結70年に合わせ、バルト3国などソ連支配を受けた旧共産諸国が決議を主導した。
リトアニアのクビリウス首相は今月23日、「我々にとってスターリン主義とヒトラーの犯罪は同じだった」と発言した。

こうした評価について、ロシア側は「ナチス・ドイツと反ヒトラー連合の中心国だったソ連を同一視しようとする試みは、大戦で犠牲となったロシア国民への侮辱だ」と反発。上下両院は先月、OSCEの決議を批判する声明を採択した。
ロシアのメドベージェフ大統領は5月、バルト3国や東欧などでの歴史の再評価の動きを調査し、対抗策を検討する「歴史捏造(ねつぞう)対策委員会」を設置し、各国の動きをけん制している。【8月29日 毎日】
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一方、ロシアでは最近、ソ連が第二次大戦に参戦した経緯にスポットを当て、これを正当化する動きが相次いでいるとも。

*****第二次大戦70年:「ポーランドに開戦責任」露TVに反発******
ロシアの国営テレビは今月中旬、ドイツとソ連の不可侵条約締結70年にちなみ「秘密議定書の秘密」と題した特別ドキュメンタリー番組を放映。内容は、ポーランドが同条約締結の数年前にナチス・ドイツとの間で軍事協力などに関する秘密協定を結んでいたことを指摘し、具体的な根拠を示さないまま開戦責任がポーランドにあるとの印象を与えるものだった。
これらは不可侵条約の秘密議定書に基づき独ソがポーランドなどを分割占領した史実に反しており、侵略された側のポーランドのメディアはこぞって批判を展開。ロシアでは6月にも同様の趣旨のテレビ番組が放映され、モスクワのポーランド大使館が「歴史の改ざんだ」と抗議したが、ロシア外務省は「テレビ局の番組内容にまで介入できない」と無視した経緯がある。
ポーランドのトゥスク首相は25日、「他国のメディア報道にコメントする立場にない」と語りながらも、「誰が被害者か明らかだ。過去の事実に背を向け未来の関係を築くことはできない」と不快感をあらわにした。

開戦直後の39年10月、ポーランド東部で2万人以上のポーランド人が行方不明となり、翌年、虐殺された「カチンの森事件」も両国間の大きな懸念だ。旧ソ連は90年になってソ連軍による虐殺だったと公式に認めた。しかしロシアは、ポーランド侵攻はナチスに対する防衛という立場から「戦争責任はない」との主張は変えていない。02年に大統領として訪れて以来、2度目の来訪となるプーチン首相が、どんな発言をするかも注目される。【8月29日 毎日】
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【「背中を刺された」】
記事にある「カチンの森事件」については、70年前の9月17日、ソ連がポーランドに侵攻した日にちなんで、07年9月17日、ポーランドのカチンスキ大統領が大統領就任後始めてロシアを訪問して「カチンの森」を訪れ、犠牲者を追悼しています。
日頃から反ロシア姿勢の強いカチンスキ大統領ですが、このときは「われわれは(過去の)記憶の中でのみ生きるわけではない。バランスが大事だ」と、対露関係改善を模索していることを示唆する発言もしています。
ただ、初訪ロでありながら、プーチン大統領との会談も行わず、虐殺の地を訪問先としたことにロシアでは、ポーランド国内向けのパフォーマンスとの見方が多かったとか。実際、殆ど“あてつけ”のようにも思えます。

ポーランドのカチンスキ大統領は70周年を前に「われわれはナチスと戦っている最中に背中を刺された」とソ連のポーランド侵攻を非難。トゥスク首相も「先の大戦の正直な記憶なしに世界の安全は保障されない」と、スターリンの戦争責任に言及しています。【9月2日 産経】

【「未来に向け問題を解決すべきだ】】
ロシアと旧ソ連圏・東欧諸国の間の反目・確執が強まるなかで、プーチン首相が今回ポーランド訪問に踏み切ったことについて、ロシアの政治評論家は「歴史問題をこじらせ、ポーランドや欧州との関係を悪化させたくない、という姿勢を示した」(1日付露ベドモスチ紙)と分析しているそうです。
プーチン首相は共同記者会見で「ロシアとポーランドの間には検証を要する歴史問題が存在するが、両国はそれを乗り越え、未来に向け問題を解決すべきだ」と語っています。【9月2日 産経】

この未来志向の発言だけなら特段の問題もなさそうですが、プーチン首相は寄稿論文で「独ソ不可侵条約は仕方なかった」とし、旧ソ連圏・東欧諸国の最近の“歴史を修正する試み”を批判しています。

****独ソ不可侵条約「仕方なかった」 プーチン首相が寄稿*****
ロシアのプーチン首相は31日、第2次世界大戦開戦70周年行事に向けてポーランドのガゼータ・ブイボルチャ紙に論文を寄稿し、39年のモロトフ・リッベントロップ協定(独ソ不可侵条約)が大戦の唯一の引き金になったとする指摘に対し、「歴史の歪曲(わいきょく)」だと反論した。
プーチン氏は、独ソ不可侵条約の前年に英仏がすでにドイツと融和政策をとったために、反ファシズムの共同戦線を張る望みがなくなったと主張。当時ノモンハン事件で日本軍との戦線も抱えていたソ連としては、ドイツとの不可侵条約はやむを得なかったとしている。
そのうえで「現在の政治状況の必要性から歴史を修正する試みがある」として、旧ソ連バルト3国や東欧諸国など反ロ感情が強い国々がロシア批判のために歴史を利用しようとしていることを示唆し、反論した。一方で、独ソ不可侵条約の「不道徳性」についてはロシアも認識しているともしている。【9月2日 朝日】
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各国それぞれの立場はありますが、秘密議定書でポーランド分割を計画していた独ソ不可侵条約を「仕方なかった」と言われてもポーランドも納得はしないでしょう。

【「第二次大戦の結果を見直す試み」】
なお、こうした第2次大戦に関する“歴史認識”の問題は、日本の北方領土問題にも影響します。

****ロシア:歴史捏造対策委 日本の領土返還要求をけん制******
ロシア大統領直属の機関として設置された「歴史捏造(ねつぞう)対策委員会」の初会合が28日、モスクワのクレムリンで開かれた。委員長のナルイシキン大統領府長官は、歴史の捏造はロシアへの「政治的、金銭的、領土的要求」が目的だと述べ、名指しは避けながらも、北方領土返還を求める日本の対応をけん制した。
ロシア側は最近、北方領土を「わが国固有の領土」と明記した改正北方領土問題解決促進特別措置法の成立などに強く反発。日本の北方四島返還要求は第二次大戦の結果を見直す試みだとの主張を強めている。委員会で今後、日本側への対抗策が検討される可能性もある。
ナルイシキン長官は「第二次大戦の歴史の修正は、大戦により生じた地政学的結果の見直しを狙っている」と指摘。歴史教育の強化が必要だと述べた。【8月29日 毎日】
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現実的問題としては、北方領土に関する何らかの“見直し”は、ロシアにとって、欧州における“第二次大戦の結果を見直す”動きに発展しかねない問題で、なかなか動きがとれない問題であることは昔から指摘されてところです。
それにしても、“歴史認識”がデリケートで譲りがたい問題となっているのは、日本を含む東アジアだけではないようです。

コメント
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